もしかして俺(私)たち入れ替わってるストラトス   作:キサラギ職員

1 / 2
ほわわんとして嫁力の高い箒ちゃんと目つきの鋭い一夏くんの組み合わせハヤレ


入れ替わり!

「そういうわけで、政府特命もあって……」

 

 織斑一夏はよく話を聞いておけばよかったなと後に後悔することになる。一夏は、いつまでもいつまでも耳打ちの姿勢を崩そうともしない山田の声にくすぐったさを感じて、思わずのけぞりながら言った。

 

「あの、山田先生耳に息がかかってくすぐったいんですが……」

 

 結局解放されたのは女性陣に散々遊ばれたあとのことだった。世界で唯一の男性操縦者として女性ばかりの学園に踏み込むということは、同性のいない環境で暮らすということだ。初日の授業を終えて部活動アリーナ整備室開発部その他もろもろを見て回ろうと考えるほど余裕などあるはずがなく、千冬と山田が退室していくのを皮切りにさっさと退散してきたのだ。

 1025号室。鍵を差し込んで入ろうとする。

 

「あれ? 開いてるじゃんか」

 

 鍵が開いていた。無用心だなと思うが、まあ、どうせ自分しか使わない部屋で荷物も運び込んでいないくらいである。盗むものなどあるはずが無い。というよりも疲れきっていて考える余裕がなかったのだ。一夏は荷物を床に落とすと、部屋に鎮座している大きいベッドに倒れこんだ。

 物音に気がついたのか、奥から声が返ってきた。

 

「誰かいるのか?」

 

 ひたひたと、水気のある足音がフローリングの床を進んできた。一夏があわてて上体を起こしたのとほぼ同時に、ルームメイトになる“女の子”が姿を現したのだった。タオル一枚をギリシャの彫像かくやまとった、瑞々しい若さを全身で主張する美しい少女だった。後頭部で武士のように結わいていた鴉の濡れ羽色の長い髪は無防備に垂らされ、先端からはかすかに水が滴り落ちていた。

 三百六十度どこからどう見ても幼馴染の篠ノ之箒だった。

 一秒未満の思考だったが、相手側がこちらを認識するには遅すぎるくらいで、はとが豆鉄砲でも食らったような顔つきで、箒が爆発した。

 

「い、いち、いちか……?」

 

 箒の顔色が筆舌し難い速度で喜怒哀楽の百面相を作りながら、りんご色に色づいた。

 

「お、おう……」

 

 一夏も“棒切れ”かなにかのような人間ではない。人並みに女性を意識だってするのだ、たわわに実った双壁が、持ち主が体を隠そうとしてタオル越しに体を抱きしめた結果、あふれんばかりに強調されてしまえばあからさまに目線をそらさざるをえない。

 

「な、な、なぜ、お前がここにいる……?」

 

 壊れたロボットのような口調で箒が尋ねてくると、一夏は正直に答えた。

 

「いや、俺もこの部屋なんだけど」

 

 箒の動きは迅速であった。風のように壁に立てかけてあった木刀を取ると、上段打突を狙った構えですり足を使い肉薄を開始した。実に数秒とかからなかっただろう。これが剣道場であれば一本取れていたところだが、ここはフローリング。しかも、自身から滴った水で濡れており、摩擦係数は驚異的な数値を示していた。

 仰け反る一夏。とっさにベッドから降りて、部屋の外に逃げようとして、おいてあった自分の鞄に躓きこける。慌てて体を起こそうと腰を抜かした姿勢になった。

 

「一夏、覚悟ぉぉあっ、あああああっ!?」

「ちょ、おま殿中でござる―――!?」

 

 箒が、盛大にこけた。ずるりと足がずれて、木刀が飛んでいく。はらりとバスタオルの結び目が取れる。

 

 そして、そのまま、一夏というベッドに飛び込んだ。

 がつんという衝撃と共に、二人は仲良く気を失ってしまったのだった。

 

 

 

---------------

 

 

 

 目覚めは衝撃的だった。

 

「ン………ん、ん、ぅあ」

 

 タオル一枚を引っ掛けただけの少女が、自分の体が完全に冷え切ってしまっていることに気がつきながら、瞼を開いた。なにやら逞しいものの上に寝転んでいるようだった。

 ここはどこ、わたしはだれ……。

 “少女”は、額がずきんずきんとハンマーかなにかで殴りつけられたように痛いがために、患部をさすりながら発音した。

 

「俺は織斑一夏。趣味はサボテンのって……あ、あれ?」

 

 声が妙に甲高かった。凛々しく透き通った声が困惑気味に自分の名前を呼んでいるではないか。おかしい。何か、おかしい。少女はさらに気がついた。自分が抱きしめているのは、あろうことか自分の顔をした人間であることに。

 

(おお、俺の顔があるぞ。こんな顔なのか、そりゃ自分の目で自分の顔をってぇえええええええ!?)

 

「ばばばばばばばばばばば!?」

 

 驚天動地。心臓を殴りつけられたような絶叫を上げて少女が上半身を反らした。

 続いて、“少年”が目を覚ます。

 

「やまかしいぞ一夏……いち……か? あれ? この声はいちかの……? 貴様私の体に抱きつい……なんて破廉恥……な?」

 

 二人は暫し抱き合ったまま(入ってるよねこれって格好で)沈黙し、ややあって叫び声をあげた。

 

「もしかして俺(私)たち、入れ替わってる……!!!!!!」




次回、一夏、箒から女の子作法を習うの巻き
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。