もしかして俺(私)たち入れ替わってるストラトス 作:キサラギ職員
気晴らしだからクオリティは多少はね
俺が書くぜという人は遠慮なくパクってどうぞ
「おお……すごい………今日もたいようはきれいだなぁ」
「そんなことを言ってる場合か、一夏ァ!」
織斑一夏は窓から外を見ながら現実逃避に入っていた。こけて頭をぶつけ合ったら精神が入れ替わっていましたなどということを認めるわけにはいかないのである。織斑一夏、科学を信じるどこにでもいる多感な(これには疑問符がついてくるが)少年である。
一方で箒(外側は一夏である)は、自分に起こったことを理解したくないのか、四つんばいになり頭を地面に叩きつけていた。
「くっ! 何が一体全体どうなっているのだ! 頭が痛いということはこれは……現実か!? ば、ばばばばば馬鹿なそんなことが起こるはずがない! 私が一夏で一夏が私だと!?」
一方一夏も再起動を果たしていた。自分の手を背景にかざしてみる。爪の一本まで手入れの行き届いた手はしかし、木刀や竹刀を握ることでできる豆や擦り傷が見られた。腕を見る。無駄のない、つややかな肌だった。そして視線を――下にやると、二つの山が視界の下半分にあることがわかった。
「どこをみているっ!!」
箒が大声を上げると、自分の体をまじまじと観察している一夏に掴みかかった。といっても、掴みかかるべき服がないので、肩に手を置くことしかできないが。
「これは夢だから何やってもかまわないだろ」
「夢じゃないぞ、いいか何度でも言ってやる。夢じゃない」
「なん……だと……」
一夏はどこか飄々としていてよく言えば達観悪く言えば老人染みた精神を持っているが、さすがに目の前の現実が受け入れがたいのか、挙動不審な態度を取っていた。
一夏は、おもむろに立ち上がろうとした。そして、かろうじて肩にかかっていたタオルがはらりと落ちてしまい、ついに全裸になった。
照明を反射し光輪を宿す黒髪が、腰と腹に一房かかっていた。無駄のない引き締まった肉体から、ぽつりと水が滴る。人を狂わせる色気を放つ腰周りは、女性として完成しつつあることを感じさせるだろう。
「この馬鹿者が! よくぞ……! い、いや、私の体なんだぞ! 隠せ!」
慌てて箒が飛び掛ると、タオルを拾って体に巻きつけようとする。
「へ? ちょっ、んっ、くすぐったいだろ!」
「いいから! 動くなばか者!」
つかみ掛かられて一夏はくすぐったそうに身をよじった。何とか拙い手つきでタオルを巻きつけようとする箒に対し、抵抗を試みるも、あっさりと力負けする。
タオルではなく普通の服を着せればよいではないか。というごくごく自然な理屈は動揺している箒には通用せず、一夏も思いつかなかったのだった。
などと乳繰り合っている場面を、半開きになったドアの隙間からご近所さんである女子生徒たちが出歯亀していた。
ほぼ全裸の箒を、一夏があれこれまさぐっている。控えめに言ってもただならぬ関係であるようにしか見えない。
「着ればいいんだろ着れば! だから触るなって。くすぐったいだろ」
「わ、わたしの体なんだぞ!」
「んなこと言ったら俺の体を使ってるじゃないか!」
「男の体なんてたいしたことがないだろう!」
「お、言ったな。教えてやろうか、男の体のあれこれについて」
「貴様はいつからそんな変態趣味に走るようになったんだ!」
「箒が言ったんじゃないか! へっくちゅ!」
うう、と一夏が体を擦る。濡れたまま下手したら一時間は気を失っていたのだ、体が冷えて当然のことである。
「わあ一夏君だいたーん」
「不順異性交遊はイケナイと思います!」
「ここから先は十八禁だぜってやつだねわかるよ!」
ドアから中を覗いていた女性陣が興奮の余り口走ってしまい、箒がぎろりとにらみを利かせながら首を回した。かつかつと歩み寄っていくと、全員を押し出して鍵をかける。念入りに覗き穴の外を確認すると、振り返った。
一夏が箒の体を使いくしゃみをする。
「くちゅん! 寒いからシャワー浴びてきていいか?」
「いいわけないだろ私の体だぞ!」
「んなこと言ってもなあ……どうすればいいんだ俺は」
さすがの一夏も全裸であることが恥ずかしくなってきたのか、タオル一枚はしっかり巻いていたものの、濡れ鼠であることにはかわりない。
「わかった。シャワーはなし。タオルで体を拭いて、着替えればいいんだな」
「だから、そういう破廉恥なことはできないと言っている! させないぞ!」
「シャワーもだめ着替えもだめ、俺はどうすりゃいいんだよ……」
八方塞がりの状況に、一夏が投げやりな言葉を吐く。
すると箒が混乱の余り目をぐるんぐるんさせながら大声を上げた。
「私が全部やるから一夏お前は動くな!」
「ちょ、んっ……ふふふ、ふふくすぐったい! 箒頼むからもうちょいガバってやってくれよ。ぐっと。俺の体だとこんくらいくすぐったくもなんともないんだが、箒ってあれか、敏感肌? 化粧水使うといいぞ。千冬姉おすすめのやつがあるんだが」
「………」
「箒……箒さん?」
「………足を開くな」
「……は、はい」
「次口を開いてみろ。この体で電車に飛び込む。むしろお前を殺して私も死ぬ」
「おい馬鹿やめろ」
などということもあり、ようやく一夏はまともな服を着ることができるようになったのだった。といってもごく平均的なパジャマを着ることができたというだけで、ある。
一夏はベッドの上に膝を抱えて座っていた。時折、腰周りの締め付けを指で直している。
(締め付けるんだな……女性ものの下着って。足の間になんもないってなかなか新鮮な感覚が……)
「一夏貴様またおかしなことを考えていただろう!!」
「お、おう! 今日の晩飯は何にしようかと思ってだな。定食は和風がいいなってだな」
「……」
「スイマセン」
無言の圧力を投げてくる箒に、一夏はカチカチの謝罪を返すしかなかった。
「なあ、箒。こんなことになったのって何かの陰謀かなにかじゃないのか? だっておかしいだろ入れ替わりなんて漫画じゃあるまいし」
「そんなこと―――」
その時箒の脳裏に一人の天才もとい天災の姿がよぎる。
はろろーん! 元気かなほーきちゃん! えーお姉さんの仕業じゃないよ人聞きが悪いなあぷんぷん☆
私が二人を入れ替わらせるなんてことすると思うの? 違うよ! 信じて!(うるうる)
「―――ないが」
箒、あからさまに顔を反らす。おぞましい記憶は脳から消去すべきなのだ。
ちょっと待って! それはおかしいよ! あ、まって消さないで! まっ
ぷちっ。
箒、顔を一夏のほうに戻す。
「何の間だよ……」
「とにかく! もう一度試してみるべきだ!」
「なにを?」
「頭をぶつければ戻るかもしれない」
「マジか………」
一夏の顔が引きつった。なぜか痣にはなっていないが、転んで頭をぶつけてきた瞬間のことはよく覚えている。とても痛かったこともだ。頭と頭をぶつけて戻る理論が正しいとしても、痛いことは嫌に決まっている。一夏は注射は痛いから嫌だとはっきり言うタイプだった。
しかし、このまま箒の体で生活するのも御免だった。いとしい自分の体で生活したかったのだ。
二人はベッドの上で向き合った。薄ピンク色のパジャマを着込んで、胡坐をかいている一夏。対するは学生服のままの箒である。中身が入れ替わっているので、二人の体の表記と精神の表記は一致しない。
箒がおずおずと一夏の肩を掴む。
(私は……客観的に見るとこんな容姿をしているのか。すごくドキドキするな。こ、これはもしかして一夏が私に……だからドキドキするのか!? そうなのか、一夏!?)
「あのー箒さん箒さん」
「な、名前で呼ぶな」
「篠ノ之さん」
「………」
一夏はなぜか不機嫌になった箒に対し、女って生き物はわかんねぇななどと失礼なことを考えながら、自分の顔を見つめていた。
まるで口付けでもするかのような距離感。二人はタイミングを合わせようとする。
「いちにのさんでゴツン! でいこう」
「お、おう………なんか怖いな」
「い、いいからやるぞ! いち! に!」
「いち!? いち!」
「にだばか者! に!」
「に!」
「さん!!」
タイミングは見事に合わず、半ば強引に箒が頭をぶつけにいった。ガッという小気味いい音と共に、二人の頭が衝突する。
「いたたたた! 俺ってこんな石頭だったのか……」
脳細胞が死んでしまうじゃないかなどと考える一夏と、
「ぐぅぅ……戻って! ……ないか……」
頭を押さえながらがっくりとうな垂れる箒がいた。
「戻らない、か………わかった一夏」
「なんだよ?」
涙を浮かべて頭を抱えていた一夏が、箒の言葉に面を上げた。
「明日以降もこのまま生活するならば……私の体について色々と教える必要がある」
「おう。え?」
「いいから聞け! 私だってこんなことしたくはないが、その体の維持管理をするのは他ならぬ一夏なのだぞっ! だから! だから……」
顔を真っ赤にした箒(外見は一夏)が、言葉を繋げた。
「レクチャーしてやる。私について」
一夏は、これは長い夜になりそうだとごくりと唾を飲んだ。