これは一匹の黒猫による恩返しの物語。

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(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!
我が家に子猫が来たよ! 記念!


黒猫の恩返し

 □<アルター王国・ニッサ辺境伯領>

 

 

 

 

 

 ――店前に一匹の黒猫が居た。

 

 

 

 そこは<アルター王国>の辺境である<ニッサ辺境伯領>の中でも更に辺境。

 村のすぐ傍にはレジェンダリアの森が生え伸びている。

 ……俗に言う、『田舎』の村。

 特に何の特徴があるわけでもない。

 強いて言えばレジェンダリアと仲が良く、少ない数のマジックアイテムが偶に流れてくる程度。

 

 そんな辺境の村で黒猫を見つけたのは、村で『薬屋』を営む【薬師】のオルトと言う男の店前だった。

 

 

 「なんだ、黒猫? ……もしかしてモンスターか!?」

 

 

 【薬師】であるオルトが真っ先に警戒したのは、その黒猫がモンスターであるかどうか。

 この村はレジェンダリアの森に面している。

 村には『自警団』も居り、レジェンダリアから買い付けた【魔避けの結界】も張られている。

 しかし、それでも極稀に結界や人の目を潜り抜け、村に忍び込むモンスターも居ないわけではない。

  

 

 (……モンスターだったら)

 

 

 オルトはそのことを想像して背中に冷たい汗を流した。

 それもそのはず。

 オルト自身は戦う術を一切として持っていないのだから。

 

 ――【薬師】と【薬剤師(ファーマシスト)】で埋められたジョブ。

 

 ――合計レベル『100』。

 

 それがオルトのジョブであり、彼の才能の限界だったからだ。

 ただでさえ少ないジョブ制限を生産職で埋めてしまっている彼のステータスは一般人とほぼ変わらない。

 モンスターと出くわしてしまえば無傷では済まないだろう。

 オルトはその最悪の想定に怯える足をゆっくり、ゆっくりと後退させ……

 

 

 『NYAAAaaaa……』

 

 

 黒猫が発したその弱弱しい声に自然と足を止めていた。

 

 

 『NYAAaaaaaa~』

 

 「……もしかしてお前、何処か怪我でもしているのか?」

 

 

 だてにこの数十年かん村で『薬屋』をやってきたわけではない。

 鳴き声だけで黒猫が弱っていることを。

 黒猫が自分に対して脅威ではないことを悟っていた。

 

 

 「そう言えば……ここ最近地震がおおかったしなぁ。ギデオンでもテロが起きるほどだ、森から出てきたモンスターにでもやられたのかも」

 

 

 有り得ない話ではない。

 先の『第一次騎鋼戦争』で負けてからアルター王国も少し物騒になってきている。

 【大賢者】の戦死。

 【天騎士】率いた近衛兵団の壊滅。

 今ではどんなこともあり得ない……ということは無いのだから。

 そして……

 

 

 「……よし」

 

 

 次にオルトがとった行動は黒猫の保護だった。

 幸いか不幸か……店には客はおらず、常に閑古鳥が鳴いている状態だ。

 元々<アルター王国>には【司祭】が居る。

 小さな村にも最低一人以上は駐在している以上、『感染病』でも蔓延しない限り【薬師】に出番はないのだから。

 だからこそだろう、オルトは動いた。

 

 オルトが心優しい青年だったからか。

 もしくはその小さな姿に庇護欲でもそそられたのか。

 あるいは一端の【薬師】としての意地か。

 

 答えはそれら全てだろう。

 

 

 「お前……俺の()に来るか?」

 

 

 その小さな黒猫を自身の家に向かい入れたのだから。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 あの日、黒猫――仮名“クロ”を保護してから既に数週間が経っていた。

 そして保護したクロはあの日からずっと店先に居座っている。

 オルトは店のカウンターに腰かけながら、その小さな黒い猫背をボォーと眺める。

 そして……小さく苦笑した。

 「どうかしたのか?」とでも言いたげに此方を振り返るクロ。

 そんなクロに「なんでもないよ」と首をふる。

 

 そんなオルトが思い出していたのは出会った日の事。

 『保護』――と言う名目ばかりの『餌付け』を行った出来事の記憶である。

 

 

 ――【飢餓】と【脱水】

 

 ――そして【熱中症】

 

 

 それがクロの弱っていた原因だったのだから笑ってしまう。

 そしてそれが分かるまでアレコレ薬を処方した自分にもだ。

 万策尽きて諦め半分で出したご飯。

 するとそれに飛びつくように食べ始めたのだからびっくり仰天――驚かされたものだ。

 それ以降は見ての通り。

 

 

 ――常に店先で眠り続ける。

 

 ――そして目を離した隙に消えては現れる。

 

 

 不思議な黒猫も居たものだ。

 しかし……ここ数週間で大きく変わったモノもある。

 それは……

 

 

 「「オルトのおっちゃん! きた()!!」」

 

 「おっちゃんじゃない。俺はまだ二十代だ」

 

 

 看板猫……と言うのだろうか?

 クロを見たさ目当てに来た村人がここ数週間で少しづつ増えてきた。

 大抵来るのはこう言った小さな子供たち。

 元気な子供たちは店に入ると同時に眠るクロをペタペタと触る。

 オルトはそんな様子に苦笑しながら子供たちへと言葉をかけた。

 

 

 「そんなに撫でるとクロが嫌がるだろ。……それにお使いの方も忘れないうちに言ってくれ」

 

 「あ、そうだな。おばあちゃんが確か……腰痛に効く塗り薬を二週間分まとめて欲しいってさ!」

 

 

 クロを触りにくる客が増えたと同時に、商品をかう客も増えた。

 売り上げは順調に右肩上がり。

 まさにクロは『招き猫』だ。

 

 

 「……なんだか貰ってばかりなきがするな」

 

 

 ゴリゴリと薬を調剤しながらそんな思考に耽る。

 オルト自身がしたことと言えば、ただご飯を上げただけ。

 それに比べてこの恩返しは大きすぎる。

 真面目で……心優しい青年はそう考え――

 

 (――そういえば【熱中症】になってたな)

 

 クロの掛かっていた状態異常について思い出した。

 

 

 ――なんで【熱中症】なんかに掛かるんだ?

 

 

 その疑問は一瞬、彼の手を止め……すぐに自分なりの答えを導き出した。

 

 (クロは黒猫。――黒い毛皮だから普通よりも光を吸収してしまうのかもしれないな)

 

 仮にここに動物に詳しい【獣医】。

 もしくはモンスターに詳しい【従魔師】が居たら、すぐに彼の考えを訂正できただろうが残念ながらそんな人物ここには居ない。

 そして……

 

 (……あっ)

 

 今度こそ動きを止め、何かを思いついたかのように手を鳴らした。

 

 

 「確か蔵に【光耐性】のマジックアイテムが埋まっていた気がするなぁ。……うん、これをクロに上げよう」

 

 

 【光耐性】で果たして【熱中症】を軽減できるのか?

 という疑問は残るがオルトはそのことに気が付きもしない。

 子供たちが家へと帰ると早速、蔵へと足を運び、目当てのアイテムを見つけ出す。

 

 

 

 

 【遮光のイヤリング】

 三日月の形を模したイヤリング

 

 装備スキル:

 【光耐性】Lv.2

 

 装備制限:アクセサリー枠【1】

 

 

 

 

 

 「うん、これなら問題ないな」

 

 

 オルトは【遮光のイヤリング】を早速細かく弄り始め、そして……

 

 

 「……よし!」

 

 

 その手に出来上がったのは小さな猫用の首輪だった。

 

 ――首輪の真ん中で鈴代わりに三日月のイヤリングが揺れている。

 

 オルトは早速、その首輪をぐっすり寝ているクロへと装備した。

 スウスウと寝息を立てるクロはそれに気が付く様子は無い。

 しかし、その首輪は全身黒のクロに良く似合っている。

 その様子を確認したオルトはニッコリとほほ笑んだのだった。

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――『GOWOOOOOOOOOOOOOON!!』

 

 

 辺境の村をこれまでにない程の揺れが襲った。

 

 

 ――村中から木霊する悲鳴。

 

 ――おそらくモンスターのモノだろう咆哮が響き……何かが崩れる音がする。

 

 ――そして……音が無くなった。

 

 

 余りに突然の出来事に反応出来ないでいたオルト。

 彼はその静寂に――底知れぬ不安感に突き動かされるようにドアを開き、外に出る。

 そして、

 

 

 「ど、どうしたんだ!? 何が起こ――――――――」

 

 

 ……言葉を失った。

 その眼前に映った光景に。

 

 

 ――規則正しく並んでいた住宅は半ば、地面ごと消し飛ばされていた。

 

 ――そうして出来た村の中央……そこには『自警団』だったモノ(・・・・・)が散らばっていた。

 

 ――一切の動きを止めて硬直するオルトと村人達、その視線の中央には先ほどまで店に来ていた子供たちを見下ろすように大きな影が出来ている。

 

 

 『アァ、久しぶりの外ダァ』

 

 

 その影を作り出すモノは、どこか片言に言葉を話す。

 言葉を発する大きな――三つの口からは地面を溶かす涎が滴り落ち、地面からジュウジュウと白い煙を立ち上がらせた。

 そんな様子を見て、オルトは叫ぶ。

 

 (――なんで、何でこんなところに!!)

 

 言葉は出ない。

 言葉を発した瞬間殺されると自然と理解できていたから。

 

 足がガクガクと震え、呼吸を――心臓の鼓動でさえ止めてしまいたいほどの『殺意』が立ち込める。

 一瞬でも気を抜けば、すぐにでも【失神】してしまうだろう。

 しかし……【失神】しない。

 倒れない。

 

 一歩でも、ほんの少しでも動きを見せればその瞬間、殺されると理解できていたから。

 

 

 『あの忌々しい【地神】に封じられてからどれくらいたったカナァ……』

 

 『絶対に許さネェ!! 必ず見つけ出してかみ殺してヤル!!』

 

 『マァ、とりあえず今は柔らかい子供の肉でも食って腹を満たしたい気分ダ』

 

 

 ――獅子、角羊、大梟の三頭。

 

 ――尾があるはずの部位からは大きな毒蛇の頭が蠢き、こちらを覗き見る。

 

 ――大地を切り裂く鋭い爪が、空を駆けることが出来るだろう大きな翼が力強く揺れていた。

 

 

 『古代伝説級』<UBM>、【悪喰牝山羊 カイメラン】

 

 

 大地震によって呪縛から解き放たれた災害がすぐ眼前に立ちふさがっていた。

 <UBM>に立ち向かえるだろう<マスター>は居ない。

 その多くが<カルチェラタン>で見つかった遺跡の探索へと出かけてしまった。

 守ってくれる『自警団』も居ない。

 既に人の形ですらない状態で目の前に転がっているのだから。

 来るべき助けも――来ないだろう。

 ここは辺境。

 何より助けを呼びに行こうと動けば、その瞬間に殺されてしまうのだから。

 

 そのことを理解し……オルトは大粒の涙を流した。

 

 (神様、なんでこんなことに!)

 

 ギデオンから放送されたあの【聖騎士】は居ない。

 その拳ですべてをひっくり返して見せた【破壊王】もここには居ない。

 あるのは絶望。

 ゆっくりと近づいてくる『死』への恐怖だけである。

 

 

 

 

 ――あぁ、なんて不幸なのだろう。

 

 

 

 

 黒猫は『招き猫』だった。

 しかし……同時に不幸の兆候ともいえる存在だ。

 結果、こうして絶望する。

 

 

 

 

 ――『死』は確定された、よってこれから巻き起こるのは死の連鎖(・・・・)

 

 

 

 

 『チャリンッ』――何かが揺れる音がする。

 『ペタペタッ』――死を呼び起こすモノの足音が妙に響く。

 

 

 

 

 ――あぁ、なんて可哀そうな――――【悪喰牝山羊 カイメラン】

 

 

 

 

 目覚める時がもう数週間早ければ。

 目覚める時が後、数日遅ければ討伐されることは無かっただろうに。

 

 

 

 

 妙な静寂が支配する辺境村。

 その広場に一匹の黒猫が――“クロ”が姿を現した。

 そして……

 

 

 『ボクは恩を忘れない猫なんだ』

 

 

 固まるオルトの横をすり抜けながら、そう小さく呟いた。

 目を見張るオルト。

 いや、オルトだけではない……村中の人が、【悪喰牝山羊 カイメラン】がその黒猫を凝視していた。

 しかし黒猫はそんな視線に怯えもしない。

 あくまでいつも通り、猫らしく自由にスタスタ歩く。

 

 

 『猫はいいよ。なにものにも縛られない、ただ気が向くままに生きて、気が向くままに行動すればいいんだから』

 

 

 クロは歩く。

 余りにも予想外な……驚きの連続だったからだろうか?

 【悪喰牝山羊 カイメラン】ですら攻撃を忘れ、その距離はすでに三メテル程度まで近づいていた。

 向かい合う目と目。

 鼻と鼻。

 爪と牙。

 そして黒猫は【悪喰牝山羊 カイメラン】に向かって宣言する。

 

 

 『だから……気が向くままに、ボクはキミを討伐することにした』

 

 

 そして……その瞬間。

 

 

 『『『GWAAAAOOOOOOOOO!!』』』

 

 

 【悪喰牝山羊 カイメラン】の放つ鋭い爪撃によって地面が割れ、クロの腹は切り(・・・・・・・)裂かれ(・・・)大きく後方に吹き飛んだ。

 切り裂かれたクロの腹からは血が溢れ出し、中に詰まっていた腸や心臓が地面へと飛び散る。

 

 (――――――――ッ!!)

 

 その光景に、あまりにも無残なクロの姿にオルトは声にならない悲鳴を上げた。

 ――一撃だ。

 呆気ない最後。

 これなら助けに来てくれなくて良かった!

 クロだけでも逃げてくれた方が嬉しかった!

 そう、オルトは心の中で叫び……

 

 

 『《不死身の黒猫(ヒャクマンカイイキタネコ)》……これ、『痛覚』ONにしなくちゃ使えないから嫌なんだよね……』

 

 

 聞き覚えのある声と同時に、全く別の場所から無傷な姿のクロが姿を現せた。

 そして――これまた次の瞬間、首を斬り飛ばされ倒れ伏す。

 だが、響く声は止まらない。

 

 

 『うーん、相変わらず日中だと弱体化(・・・・・・・)するなぁ(・・・・)これ(首輪)のおかげで多少はましだけど』

 

 

 今度は倒壊した建物の物陰から。

 その次は先ほどまで死んだクロの死体の影から。

 その次の次は【悪喰牝山羊 カイメラン】の足元から。

 

 

 

 『死んでも……死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも――蘇る』

 

 

 

 何体目のクロが死んだだろう。

 土が見えていた地面は真っ赤に染まり、埋め尽くすようなクロの死体が山積みとなっていた。

 

 

 ――腹が掻き切られたクロ。

 

 ――体が食いちぎられ、頭部だけとなったクロ。

 

 ――【悪喰牝山羊 カイメラン】の吐き出す炎に焼かれ、消し炭になったクロ。

 

 

 そして……

 

 

 『《アウェイキング・アンデッド》』

 

 

 地面を埋め尽くすほどの死体が――クロが一斉に動き出した。

 ――アンデット。

 【死霊術師】の基本スキルであるアンデット作成スキルである。

 ここで魔法に詳しい一部の村人は気が付いた。

 

 

 『何故、日中なのにアンデットが動いている?』

 

 

 もっともな、的確な疑問。

 下級のアンデットでは陽光を浴びるだけでダメージを負い、蒸発してしまうだろう。

 そう、唯の【死霊術師】が作ったアンデットだったならば。

 そのアンデットはダメージは負うも消えはしない。

 むしろ生前よりも強くなって【悪喰牝山羊 カイメラン】へと進み始めた。

 

 

 『ボクのジョブは【死霊王(キング・オブ・コープス)】、死んでも死なない“不死の王”』

 

 

 その状況に【悪喰牝山羊 カイメラン】は焦ったように爪を振るう……が、その爪はアンデットとなったクロによって受け止められた。

 元より気が付かない方がおかしいのだ。

 

 ――地面を割るほどの爪撃。

 

 ――しかしクロの身体が負った傷は腹が切り裂かれる程度だということに。

 

 

 狂ったように獅子の頭が炎を吹き、角羊の角が雷を帯び、毒蛇の頭が毒をまき散らす。

 しかし無駄だ。

 何百、何千回クロは死んだか分からない。

 炎によって燃え尽きようとも、その後ろから、下から、真上から――湧き出るほどに居るのだから。

 

 

 『GAAAAAAAA!!』

 

 

 大きく羽ばたく翼。

 【悪喰牝山羊 カイメラン】は逃走すべく宙に逃れようとして……

 

 

 『……五千六百八十九。これがキミの殺したボクの数だよ』

 

 

 その背にアンデットではない――無傷のクロが飛び乗っていることに気が付いた。

 

 

 『生物は死ぬと多少なり怨念を発するんだ。実はボクの《不死身の黒猫》も死ぬたびに多少の怨念をまき散らしているんだ、まぁその密度は千回死んでようやくまともな量になる程度だけど』

 

 

 長年、地殻に封印されてきた【悪喰牝山羊 カイメラン】にはその言葉の意味は分からない。

 しかし……その言葉に込められた明確な殺意だけは感じとれていた。

 ――恐怖。

 <UBM>となって久しく感じたことの無かった恐怖に自然と身体が震えるのを【悪喰牝山羊 カイメラン】は感じていた。

 そんな【カイメラン】を安心させるように、クロは優しくその手を置く。

 

 

 『ボクは五千六百八十九回。キミは……何回死ねるかな?』

 

 

 その言葉はまるで子供に語り掛けるような優しい口調。

 そして……

 

 

 『――《死霊道連》』

 

 

 その言葉と同時に――クロと【悪喰牝山羊 カイメラン】は即死したのだった。

 

 

 

 

 【<UBM>【悪喰牝山羊 カイメラン】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【■■■■■■】がMVPに選出されました】

 【【■■■■■■】にMVP特典【鋭斬双翼 カイメラン】を贈与します】

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 あの日以降、クロはオルトの前から姿を消した。

 最後に会話を交わしたわけでもない――まるで『恩はかえしたよ』と言わんばかりにいつの間にか居なくなっていた。

 そのことに正直、ホッとした自分が居た。

 今なら分かる、<マスター>であり【死霊王】であり、黒猫。

 それがクロだ。

 『薬屋』だった店は、クロが居なくなってもあの時と変わらず開いている。

 あの日以降、少し多くなった客。

 クロの寝息が聞こえないだけでそれ以外に変化はほとんど起きなかった。

 ただ……

 

 

 「「オルトのおっちゃん! きた()!!」」

 

 「おっちゃんじゃない。俺はまだ二十代だ」

 

 「いつも同じことばかり言ってるな、おっちゃん。そんなんじゃすぐに老けちゃうぞ……って、あれ?」

 

 「あぁ、それか……看板猫が居なくなったからな。……魔除けとお守り代わりにそこにおいてあるんだよ」

 

 「……うん! 絶対効果あるよ!! だって俺達も助けてくれたんだもん!!」

 

 

 子供たちと見つめる先。

 店先のクロの定位置だった場所には――自分で彫った無骨な黒い招き猫の置物が飾られていたのだった。

 

 

 

 

 

 




勢いで書いた短編。
あれ? リソース可笑しくね? みたいな疑問は胸にしまっておくのだ……

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