東方忘却記   作:マツタケ

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その9

 

 

 

 

 

 

 

 

「古河音ーっ、庭の掃除しておいてくれ」

 

「え~…。箒どこだっけ?」

 

「箒なら持ってるだろ?」

 

「いやーんっ!愛しのシルバードを掃除に使うなんてぇーっ!!」

 

 

普段落ちつきなく色んな場所に出向く古河音だが、基本的には寺子屋の一生徒であり慧音宅の居候というのが基本だ。

今回の様に慧音から家事手伝いを言い渡される事も少なくない。

 

ぶつぶつと文句を言いながらも、最終的に古河音は慧音に逆らえない。

なんだかんだで、彼女が一番懐いているのは慧音に他ならなかった。

 

 

 

 

全員分のテスト問題を作成しながら庭を掃除する古河音の姿を覗き見る。

早いもので彼女がこの家に住みだして半年が経過しようとしていた。

一度口を開けばその大半が問題発言な古河音だが、こうして掃除をする姿は以前と何も変わらずに見えると少しばかりにセンチな気分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、古河音がまだ慧音の世話になりだして間もない頃。

当時はまだ古河音に手伝いの類は任せておらず、家の事は全て慧音自身が動いていた。

 

庭掃除の天敵、それは冷たい北風。

箒を握る人間(?)の手を悴ませ油断していると集めた落ち葉すら撒き散らしかねない。

そんな最中、彼女の視界に物陰に隠れてこちらをうかがう少女の姿。

 

「どうした?こが……」

 

慧音に見つかった事を察するとすぐさま物陰に隠れてしまう。

まだ自分に慣れていないと分かりながらも軽く傷つく光景である。

 

つい先日に里外れで倒れている所を拾った少女。

どこから来たのか自分が何者なのかさえ分からず、一般的に記憶喪失と呼ばれる症状を患わせていた。

名前すら分からない様子に、彼女の特徴的な瞳から慧音は古河音と名づけた。

 

 

 

「あの……」

 

風の音にかき消えてしまいそうな小さな声。

今度は隠れてしまわない様に目線だけ彼女に合わせて声はださない。

教師という仕事をしていれば自然と色んな子供達に出会う。

そんな時の対処法も心得ていた。

 

少しずつ、慧音の下へと歩み寄っていく。

 

「掃除………やります」

 

「え、良いよ。外は寒いし中でゆっくりと…」

 

「やら……せて、ください………」

 

もぐらにでも話しているのかというくらいに、うつむいていた。

彼女なりに勇気を振り絞っての提案なのだと感じられた。

 

膝を曲げ彼女の目線に合わせて、箒を握らせる。

 

「任せて良いか?」

 

「……………はい!」

 

 

 

今までで、一番力の籠った言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テスト作成もひと段落つき、古河音の方も休憩という事でこちらに戻ってきていた。

 

「うわぁーー……足ぱんっぱん!」

 

「こらこら、若さのない事を………」

 

縁側に寝ころんだ彼女に苦笑を浮かべながらお茶を指し出す。

すると、待ってましたと言わんばかりに勢いよく起き上がった。

 

 

「慧音お姉ちゃん、掃除してる時にちょっと思ったんだけどさ」

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柔道って、ちょっと見方を変えると実にけしからんスポーツだよね!」

 

「………その発言がけしからんよ」

 

今日も今日とて古河音は通常運転。

いつ人生をコースアウトしてもおかしくない暴走状態だった。

過去を少し思い返していただけに軽く泣けそうな気分だ。

決してうれし涙とかそういう類の物ではなく。

 

 

 

 

「邪魔するぞ?」

 

男性を思わせる口調で1人の女性が彼女達の目の前に現れる。

名を藤原妹紅。

慧音とは友人関係にあり、たまにではあるがこうやって彼女の家を訪ねる事がある。

ちなみに良也と同じく不老不死だ。

妹紅の方が不死の先輩という事もあり、彼の事を気にかけていたりする。

 

 

「いやはや、モコちゃんいらっしゃ~い!歓迎するよ!」

 

「誰がモコちゃんだ!?」

 

「え~…何がご不満?可愛いし、呼びやすいし!」

 

 

 

 

 

 

「ていうか………………………………お前、古河音か?」

 

「そだよ?」

 

妹紅はとある事情から人里への接触を極端に避ける傾向にある。

そのため、友人とはいえこうして来訪するのは非常に稀なのだ。

彼女が以前来たのがちょうど半年前。

 

徐々に変化する彼女を見たのではなく、半年間の歳月を経てのビフォア・アフター。

 

 

「……………変わったな」

 

「時は女をぉ~~~~……変えるわよっ!」

 

月に代わって風にお尻の小さな某キューティー決めポーズ。

妹紅が困った様な視線を慧音へと送ると『相手にしないでくれ』とアイコンタクト。

 

 

 

「でも、そんなに変わった?」

 

「「変わった」」

 

「慧音お姉ちゃんまで!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ていうかモコちゃんさ、もっと頻繁にウチ来なよ。むしろもう里の方に住んじゃいなYO!」

 

「……ごほっ!けほっ……ごほっ!」

 

3人で煎餅を茶請けに食べている中、慧音が突然にむせ始める。

原因は古河音の発言にあった。

 

妹紅は友人である慧音の家にすら滅多に顔を出さない程に、人里を避けている。

その傾向を良く思わない慧音は以前から妹紅を里に暮らすように勧めていたのだ。

今回彼女が訪ねて来たのも、事前に慧音が声をかけていたからに他ならない。

 

そんな事を知らない古河音のまさかの一言に煎餅の欠片が慧音の器官に入り、彼女をむせ込ませてしまっていた。

どうしたの?と尋ねる古河音を他所に妹紅は案外分かり易いなという目でむせかえす彼女の姿を見ていた。

 

 

 

「悪いけどその気はない。諦めろ」

 

「うわっ、即答」

 

彼女には彼女なりのこだわりがあった。

実は割とくだらないその胸中を知る者は少なく、というか本人を除けば知っているのは良也だけだったりする。

 

「いいじゃん、せめて頻繁にこっちに顔見せるくらい」

 

「関係ないだろ?放っといてくれ」

 

この様な物言いに、普通の子供ならどの様な反応を示すだろう。

泣くだろうか、怯えるだろうか、拗ねるだろうか、はたまたムキになって同じ様な問答を何度も繰り返すかもしれない。

 

しかし、彼女相手にそれはいけない。なぜなら妹紅の目の前にいる子供は古河音なのだ。

 

適当に流せば良いものを。

意地になって否定するその姿が完全に彼女の好奇心に火をつけてしまった。

バファリンの半分が優しさで出来ている様に、古河音の半分は好奇心で構成されているのだ。

 

 

 

 

「慧音お姉ちゃん、私ちょーっと出かけてくるね?」

 

拗ねたのだろうとその後ろ姿を眺める妹紅とは対照的に、一瞬見せた彼女の邪悪な笑顔に嫌な予感がしていた慧音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……な、なんだぁ!?」

 

古河音が出かけて数十分後。

慧音宅の前ではがやがやと、大人数の子供達が集まっている。

そのほとんどが寺子屋の生徒達だが、中にはそうでない子供まで混じっていた。

 

 

「はぁーい!みんなぁー、この人が慧音お…先生のお友達モコちゃんでぇーっす!滅多に里に現れないレアキャラだよー?マスターボールの準備はできてるかなー!?」

 

先頭切って立つのは古河音。箒の柄をマイクに見立てて演説中。

 

 

「古河音っ!どういう事だこれは!?」

 

騒ぎの中当然の様に見咎める慧音だったが、まあまあと言って古河音は妹紅の前へ。

 

「どうせ滅多に里に来ないなら、その分今日はたっぷり遊ばないとねー?今日は皆と遊ぶまで帰さないよ?逃げても無駄だよ、速符ならたっぷり用意してあるから!追いかけれないように落としてみる?加減間違えたら私大怪我しちゃうよ?だって私ったらいたいけな子供なんだもの」

 

妹紅対して浮かべるその笑みは、子供と称するにはあまりにあんまりな穢れたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、一口に遊ぶって言っても何するんだ?」

 

結局、妹紅は逃亡を諦めた。

正直逃げようと思えば逃げ切れない訳でもない。

が、そこまで全力を出してまで『子供相手』に逃げるというのも体裁がよろしくないし、妹紅自身のちょっとしたプライド的にも抵抗があった。

 

「モコちゃん花札分かる?」

 

古河音が取り出したのは加工された数十枚の札。

 

「まぁ、ルールくらいなら……ていうかよく持ってるな?」

 

「香霖堂で軽いバイトしたら譲ってくれたんだぁ!今寺子屋でちょっとしたブームだよ?」

 

自慢げに花札を見せる古河音に対して、妹紅は少しほっとしていた。

この人数相手に子供達と走り回るなど自分の性には合わない。

この手の卓上ゲームならお茶でも飲みながら気軽にできる。

 

 

 

 

「花ちゃん、五郎くん、佐助くん、おいで!さぁ、我ら花札四天王を倒してみなさい!」

 

「はいはい」

 

軽く流しながら腰をかける。

妹紅の目的は彼女らに勝つことでも負けることでもなく、適当に相手をして子供達の気を済ませる事にあるのだ。

そう考えれば気楽なもの。

 

 

 

 

 

 

「…く………くくくく………」

 

 

 

 

直後、古河音の全身が紅いオーラの様なものに包まれる。(ように見える)

瞳の奥には渦巻く様な虹色の光。(ように以下略)

その表情は悦楽と凶気、相手をいたぶる事にのみ悦びを覚える飢えた獣。

 

「さぁ…イメージしてください……。圧倒的な力を前に敗北するあなたの姿を……!!」

 

木霊する叫ぶような笑い声。

それは彼女であって彼女ではない。今の彼女は力に溺れた先導者。

力と凶気にその身を委ねた哀れなヤンデレ。

 

「ちなみにレン様はもっと肌の露出を多くするべきだと思うんだけど、それともあえて隠す事によって視聴者の妄想をかき立てようっていうスタッフの目論みなのかしら?」

 

「何の話だよ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、花札だけには留まらず

 

「どこ行ったぁーーーーっ!?」

 

30人(子供達)Vs1人(妹紅)による鬼ごっこをしたり

 

 

 

 

「霊力ナシつったのお前だろうが!!?」

 

中盤から古河音が箒を使いだし、プチ弾幕ごっこへと発展したり(当然の様に落とされた)

 

 

 

 

『おかしくない(か)(ですか)!?』

 

せっかくの機会なのでと乱入した慧音が歴史のお勉強会を始めたり

 

 

 

「そもそも!アニメをジャンルだけで偏見の目を向け批判するというのはファンや原作者に対する大いなる冒涜で(以下略)」

 

古河音の猛烈なるオタク演説がはじまり誰もついて行けなくなったり。

 

などなど、気づけば日も沈み始め夕陽が里を照らしている。

子供達も解散し、流石の妹紅も体力を使い果たしてぐったりとしていた。

泊まっていったらどうだ?という慧音の提案に妹紅も素直に従った。

ここまで長居してしまえば意地を張るのも馬鹿らしい、という思案の下か。

 

 

 

 

「お前、ひょっとしてこれが狙いだったか?」

 

食後に軽く身体を寝かせていた妹紅が古河音に向かってジト目を向ける。

流れのままに1泊する事になった妹紅だが、そもそもここまで疲れて外泊する事の発端は古河音にあった。

半日もあれば彼女がどういう人間かは大方掴めてくる。

既に妹紅の中では古河音という人間を『少女』というカテゴリーに当てはめるべきではないという結論が出されていた。

 

「あ、バレた?」

 

悪びれた様子もなく食器をまとめながらけらけらと笑う。

正直当てずっぽうに近い問いかけだったが、それは見事に正解だったらしい。

 

「お前な………」

 

仮にも友人の妹分。出来る事なら健やかに育ってほしい。

という願望とは裏腹に歪みまくっている彼女の姿にため息を漏らさずにはいられなかった。

ただ、古河音の目論み自体には悪い気はしない。

一連の彼女の行為は、慧音同様に自分の事を心配しての事だと容易に想像できた。

 

「気持ちだけはありがたく受け取っておく。………でも私は」

 

「分かってる」

 

妹紅の言葉を遮るような一言。

その言葉のトーンはとても落ちついていた。

まるで、妹紅を諭すかのような普段の彼女とは違う静かな物腰。

 

 

 

 

 

「なんでモコちゃんが里に来たくないかまでは分からない……。でも、これだけは言える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モコちゃんみたいな長寿キャラって実は下手な短命キャラよりずっと純情で、その純潔を未だに守っ……」

 

ゴツン、と鈍い音が響き渡る。

そこには大きなコブをつくり、頭からぷすぷすと煙を出して倒れている古河音の姿。

 

 

 

「早よ寝ろ!」

 

「…………はい」

 

ぶっ込んだ相手が友人相手だったせいか、その拳は普段より容赦のないものだった。

その性格に変貌を遂げているのは、古河音だけではないのかもしれない。

 

そんな考えが妹紅の頭に過っていた。

 

 

 

 

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