東方忘却記   作:マツタケ

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その10

 

 

 

 

 

 

 

上空で、星の数ほどの光の弾が飛び交っている。

チカチカと目映い光は花火を思わせる様な輝きを放ち、夜景との組み合わせはさぞ見物になるだろう。

 

大小さまざまな光の中で飛び交う小さな2つの影。

もはや幻想郷名物といっても過言ではないだろう弾幕ごっこ。

遠目から見る分には酒のアテ、近場にいるなら今すぐ逃げろ、互いに空を飛びながら相手を落とした方が勝ちというなんとも物騒な“遊び”だった。

 

2つの人影は双方箒に乗って飛んでいる。

古河音と魔理沙だった。

彼女らは互いに約束はせず、会えば弾幕ごっこをするというのが習慣になっていた。

仲が悪いという訳でなくむしろ逆、弾幕友達とでもいうのだろうか。

 

 

 

 

―――恋符・『ミニミニマスタースパーク』

 

 

「っと!相変わらず火力不足だぜ?古河音」

 

光を放つ2人の衣服は奇しくもどちらも白と黒。

 

片や黒い衣服に白いエプロン。

片側だけおさげにしたウェーブのかかった金髪の上からその大きさが特徴的なリボン付きの黒い魔女帽子。

片や黒を基調とした上白沢慧音と同じデザインの衣服。

肩までかかる髪を一つ結びで纏めた上から少し小さめの白い魔女帽子。

お古という訳でなく費用(雑用)を払ってアリスに作ってもらった特注品だ。

 

……いい加減、このままあの衣装をオリ主に着せるのも怖くなってきたのだ。今更な気もするが。

 

 

 

 

 

 

「げっ…!」

 

魔理沙の放つ弾幕がわずかに箒に掠りバランスを崩す。

その隙に多量の弾幕が古河音を襲い、そのまま落下。ピチュンという音は立てていない。

 

古河音が満足に弾幕ごっこを覚え始めた辺りから魔理沙はスペルカードを使い始めていたが、今回の様に通常の弾幕で負ける事も少なくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぇ~っ、今回はスペカすら使われないで負けたぁ……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

服についた埃を払いながら、服自体にほとんど損傷がない事に感心していた。

弾幕ごっこの度にボロボロになっていてはキリがないと今回はアリスに入念に魔法をかけてもらったのだ。その分かなりの長期の雑用になったのだが。

 

「前々から思ってたけど、お前は避けるのは得意だけど火力がいまいちだな」

 

不貞腐れる彼女の下に魔理沙が古河音の落とした箒を持って着地。

拗ねていた彼女もすぐに切り替えて笑顔で箒を受け取る。

双方ともあまり後腐れのない性格だった。

 

 

 

「もっと強めの弾撃てても良いと思うんだけどな。霊力が低い訳じゃないんだし、特別高くもないけど」

 

魔理沙はは大きな帽子を傍らに置いて腰かける。古河音もそれに続いて隣に。

 

「うーーん……でも、そうするとタメの時間どうしてもかかるんですよねぇ。飛ぶ速さも落ちるし……」

 

「それだ。お前は飛んでる時そっちに霊力使い過ぎ。必要な時に飛ぶ時と撃つ時の使い分けすればもっと火力でるんじゃないか?」

 

「っていっても、そんなの今まで意識してやった事ないですし」

 

「意識すれば良いだろ?」 「そっか」

 

 

2人して弾幕ごっこの反省会。

というより魔理沙が古河音を指導しているだけの様にも見える。

弾幕ごっこの後はこれが定番となっていた。

師弟関係という訳ではないが、何度負けても嬉々として挑んでくる古河音の姿勢を魔理沙も割と気に入っていた。

勝ち負けでなく楽しいからやる。もちろん負け続けが悔しいのも事実だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁー……っ!にしても今日は暑いなぁ……」

 

空を飛んでいる時には気にならなかった照りつける太陽。

帽子を使って風を起こす。

大きい分風も起こりやすいが、その分腕が疲れた。

すぐに効率的ではないと断念する。

彼女の特徴的な衣装が更に太陽の熱を吸収しているのもあるだろう。

 

「ですよねぇ…。寺子屋の子達も最近すっかりだれちゃってます。流石の私も全然授業に身が入らなくて……」

 

「お前はいつも入ってないだろ……」

 

弾幕ごっこのテンションから一気に急降下。

だからといって暑さから逃れるために常に飛び回るというのも忙しない。

 

 

 

「そうだ!ついて来い!」

 

何かを思いついた様子の魔理沙は突然立ち上がると同時に帽子を被り箒に腰かける。

次の瞬間には魔力を一気に上昇させて飛び立って行った。

 

「ちょっ…!?待ってくださいよ!!」

 

思い立ったが吉日という言葉をそのまま体現したかのような魔理沙の行動の素早さに、古河音は慌てて箒に乗って追いかける。

彼女の早さを前に一瞬でも気を抜けばすぐに見失ってしまう。

まさにロケットスタートの様に箒に跨った直後に目一杯霊力を箒に込めて空を駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視線の先に見える小さな点。

全速力で飛んでもついて行くどころか見失わないようにするのが精一杯だった。

空を飛ぶ早さだけなら古河音にも自信はあった。

弾幕ごっこの際には互いを落とす事を目的とするため直接早さを競い合うような事もない。

それでも、こうして単純にスピードを比べてみるとこうも差があるのだと思い知らされた。

 

「着いたのかな?」

 

遠目のため断言は出来ないが、魔理沙であろう人影が空中で静止していた。

スピードを全力疾走からわずかに緩めて自分のペースに切り替える。

 

 

 

「お、来たか」

 

「もうちょっとスピード落としてくださいよ……。速符さっきの弾幕ごっこで使い切っちゃったんですから」

 

「悪い悪い、暑いから泳ごうと思って湖まで来たんだけどな……」

 

語尾のトーンを落としつつ、視線を湖の方に向ける。

 

「先客がいるみたいだ」

 

「先客?」

 

湖の辺りには見知った顔やそうでない顔まで、人妖が湖周辺に集まっている。

暑い日には暑さをしのぐ、考える事はみんな一緒という事らしい。

見知った顔の中にはアリスや良也まで。

 

しかし、古河音の目を引いたのはそんな事ではなく。

 

「ごほっ……ぐはぁ…っ!!」

 

苦悶の声を上げながら彼女は吐血する。

それほどまでに驚異的な光景だった。

 

湖で遊ぶ彼女達の姿はスクール水着。

学園物のアニメや漫画ではセーラー服・ブルマに並んで見物とされるその手の者にとっては愛と勇気とロマンと夢が詰まった一品である。

“その手の者”である古河音がそんな状況を放っておくはずもなかった。

 

 

「ここは……ごほっ!楽園(エデン)とお見受けしましたが……ぐふっ……間違いないでしょうか!?」

 

「間違いだとお見受けするが、とりあえず血を拭け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見知った顔もあるという事で古河音はまずアリスの下へと降りて行った。

 

「こんにちはーっ、アリスさんに上海!『べっ…別に上海はお前なんかに会えたからって嬉しくないですぅ』」

 

「ねぇ、それって前からずっとやってるけど一体……良いわ。どうせ聞いても分からないでしょうし」

 

彼女がアリスに会うたびに繰り返す謎のアテレコ。

気にはなるが恐らく聞いたところで古河音の口からは謎の単語の羅列が並べられる事は分かり切った事だった。

 

 

 

「………人形つながりかよ」

 

「あっ、良也さんもこんにちはー!っと………」

 

背後から聞こえる覚えのある声に振り向きざまに挨拶。

すると、その隣には見知らぬ少女が一人。

 

「博麗霊夢よ。ちなみにあちらの方角には素敵なお賽銭箱のある神社が♪」

 

「その言い方だと神社は賽銭箱のついでみたいに聞こえるぞ?」

 

自己紹介も神社も良也のツッコミも二の次、初対面の相手に賽銭を勧めるこの少女は博麗霊夢。

博麗神社の巫女にして幻想郷のバランサー。

といえば聞こえは良いが、その性格は無気力にして破天荒。

 

「あぁ、良也さんが寝泊まりしてる所の……妬ましい」

 

「どこぞの嫉妬妖怪みたいになってるぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はぁ、スク水って素敵♪なんかこうスク水そのものが何か魔力みたいなものを秘めているんだと思える程に……。生きてて良かった、オタクの神様ありがとう!」

 

水遊びに来ている少女達から少し離れた場所で、古河音は彼女達を見つめていた。

いつかの東風谷早苗をみていた時の様に、古河音の目はさながら光り輝く宝石を見るかのようにうっとりとしていた。変質者以外の何物でもない。

 

「どうでもいいけど、スク水着てスク水に萌えるっていうのもシュールな画だぞ?」

 

呆れた様子で良也は人生のアウトコースランナーにツッコミを入れていた。

良也の言う通り、古河音の今の姿もスクール水着だった。

香霖堂で扱っていたのを今月分のお小遣いをはたいて買った品だ。

 

「萌えますか?」

 

「いや、なぜだろう?むしろ軽くイラっとくる」

 

彼をイラつかせる最たる要因は、ええのんか?こうのがええのんかー?とでも言いたげなそのドヤ顔にあるのだろう。

 

 

 

 

「でも、ここまで萌えといてなんですけど私スク水って萌えるものであってそこにいやらしさを求めるのは違う気がするんですよね。

だって水着っていうのは見られても大丈夫なように作られたものなんですよ?

それだったらガードの堅い着物からほんの少しだけ見える素肌チラリズムの方がよっぽどいやらしいと思うんですけど、その辺どうですか?見えないからこそそこに生まれるドラマみたいな」

 

真剣な表情で語られるその内容は、果てしなくくだらないものだった。

これが仮にも10代前半の少女の口から語られているのだから世も末だ。

 

「………言いたい事は分からないでもないけど、お前のそのとんでもないマニアックなこだわりって一体何なの?」

 

「ふふふ……、人間やっぱり信念は貫き通してこそって思うんですよ!」

 

声を低くして良い笑顔。

その方向性をどうにかすれば、もしかしたらまだ人生を軌道修正する事も不可能ではないかもしれない。出来なければガーター一直線だ。

 

 

 

 

 

 

「『マスタアァースパアァーーーク』泳法!!」

 

ばしゃーんっ!という派手な水しぶきの音が響き渡った。

波など存在しないはずの湖が大きな波紋を立てて揺れていた。

 

見ればそこには目映い光。

古河音と同じくスクール水着に着替えた魔理沙がお馴染みの得意技を用いて弾幕背面泳ぎ。

周りはとても迷惑そうな顔をしていた。

 

「わあぁ……!楽しそう……っ!!」

 

そんな光景に古河音は一瞬で目を奪われていた。

先ほどまでスク水一直線だったその視線は魔理沙のどんでも泳法にシフトチェンジ。

絶叫マシンがあれば真っ先に向かっていくタイプなのだろう。

 

 

「…………」

 

すぐさま箒で彼女の真似事をしようと思った矢先、本日の弾幕ごっこのあとの彼女の言葉が脳裏に浮かんだ。

 

『必要な時に飛ぶ時と撃つ時の使い分けすればもっと火力でるんじゃないか?』

 

攻撃と移動の霊力の使い分け。

もし、それが出来たなら今までの戦い方を大きく変える事ができるかもしれない。

そして、彼女の真似をするならこれは絶好の機会ではないのか。

 

そんな考えが古河音の中で浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

下手な工夫はしなくて良いはず。

撃つのはミニミニマスタースパークの様なレーザー状の魔法。

そこに普段より霊力を水増ししてやるだけ。

 

ばっと湖に後ろ向きで飛び込み、全力で空を飛ぶ時の要領で魔法を構成。

 

 

「お前その構えはちょっと待て!?」

 

彼女の構えに良也が反応する。

ボールを掴む様にした両の手を腰まで下げて半身をひねる。

そして両の手に霊力を集中させ、光の球を形成する某オラ、ワクワクなその一連の動作は――――……

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ドラグスレイィィーーーブ』」

 

「そっち!?いや、どのみちアウトだけれど!!」

 

 

「えいほ―――………あれ?」

 

前方へと差し出された霊力の塊が、放出されない。

行き場を失くしたエネルギーが振動するその様子に、古河音は青ざめ直感した。

 

彼女を中心としたエネルギーによる爆発。

爆風により吹き飛ばされる彼女の身体。

高く舞い上がった古河音の身体は重力に従い弧を描く様に湖に墜落していった。

本日2度目のピチュンだった。

 

 

 

落下地点から起こる大きな水しぶきが彼女のダメージを物語っている。

ちなみにスク水のため普段の服に施された魔法も無意味である。

 

 

 

 

「汚い花火だな」

 

「この場合、花水(はなみ)じゃない?」

 

魔理沙と霊夢の一言だった。

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