東方忘却記   作:マツタケ

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その11

 

 

 

 

 

 

 

鬱蒼と並び立つ竹の中。

そこに建てられた小さな一軒家。

造りはとても不安定で、嵐の日にはそのまま吹き飛んでしまいそうだった。

 

 

竹林の中にぽつんと建てられた家は逆に目立ち、古河音はそこに目がけて勢いよく降りて行った。

 

「もぉーこぉーちゃんっ、あーそびーましょっ!宅配便だよー!これがホントの魔女の宅急便だよー!ちなみに喋る黒猫はいません。あーしからず~~!!」

 

箒から降りたとほぼ同時に、不安定なドアをガンガンと叩き始めた。

これが人里の一軒家なら確実に近所迷惑だ。

 

 

 

「ウチを壊す気かぁーーーっ!!あ……」

 

勢いよく開けられた扉が小屋に大きな負担をかけた。

木くずがいくつかぽろぽろと落ちる。

 

 

 

 

 

 

「で、何しに来たんだよ?」

 

家を壊されては堪らないと、妹紅は彼女の話を聞く態勢に入る。

 

「はいコレ。慧音お姉ちゃんからの差し入れ!私も手伝ったんだから味わって食べてちょんまげ」

 

「あ、あぁ……」

 

妙な語尾はともかく思いの外来訪の理由がまともな事に驚きを隠せなかった。

今日も今日とて慧音の服をデザインした彼女の姿が一瞬小さな慧音に見えた気がした妹紅だが、すぐに首を振ってその考えを振り払う。

古河音の様な振る舞いを見せる慧音など想像したくもない。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、知ってる?この間入った大工の新人さんけっこう格好いいんだよ。長介さんとの絡みとか妄想してみたんだけどコレがなかなか………じゃなくて、一度大工さんに見てもらったらこの家?」

 

「待て」

 

さも当然の様に自然な歩調で家に入っていく古河音の頭をむんずと掴む。

身長差があるため襟元を掴むより楽だった。

 

 

「何を当然の様に入ろうとしてるんだよ?」

 

「え~~…私今日はモコちゃん家でだらだら過ごすつもりで阿求ちゃんに描いてもらった歴史マンガ持ってきたんだよ?

ちゃんと健全ものね、流石にあの純粋な瞳の持ち主に腐ったマンガなんて描かせれないって」

 

頭を掴まれているため彼女の方を振り向けない状態で古河音は抗議する。

口ではそうは言いつつも、実際は歴史マンガの依頼をする直前までは本気で彼女に腐ったマンガを描かせる気でいた。

寸でのところで阿求の純粋な瞳になけなしの良心が痛んで咄嗟に歴史マンガを依頼したというのが事の真相だったりする。

 

 

 

 

「私はこれからタケノコ採りに出かけなきゃいけないんだよ。ウチで作ってる野菜いくつかお礼にやるから、今日は帰れ」

 

「えぇ~……あ、じゃあさ!」

 

何かを思いついた様に目を輝かせる古河音に妹紅はあまり良い予感はしなかった。

彼女のじゃあ、からは一体何が飛び出るか分かったものではない。

 

 

 

「モッちゃん!古河音を永遠亭に連れてって!」

 

両手をグーにして胸元まで寄せ乙女ポーズ、うるっと潤ませた瞳で猫なで声。

これが可愛く見えるのは本当に純情な女の子だけだ。彼女がそれをやってもタッちゃんもカッちゃんも予選敗退間違いなしだ。

阿求あたりやれば本当に可愛く見えるのかもしれない。

 

「誰がモッちゃんだ!って………永遠亭に?」

 

「前から興味はあったんだぁ。ブレザーでうさ耳な薬売りの人、名前は知らないんだけどあの人見かけた時にビビッときたんだよ!永遠亭には萌えがある!!」

 

妹紅は彼女の話の内容はほとんど理解できないが、とりあえずロクなことは言ってないだろうとひとつため息。

 

 

 

「それに、モコちゃん竹林で迷った人の道案内とかしてるんでしょ?私迷ってるんだよ人生という名の道に!ついでにそこでタケノコも採ればいいじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私はタケノコ採って帰るからな?」

 

 

結局、妹紅は古河音の屁理屈に言い負かされてしまう。

座学ではどうしようもなく口数の少ない彼女だが、その好奇心を満たすためならいくらでも口は回る。

人の原動力とは良くも悪くも欲望である。

 

 

「~~~♪」

 

永遠亭へと歩を進める古河音は上機嫌だった。

うさ耳に埋め尽くされた頭の片隅で、名目としては傷薬でも貰おうと考えていた。

弾幕ごっこの後の必需品だからだ。

 

 

「ん?」

 

頭の中で何度もうさ耳を繰り返していると、不意に足元に違和感。

まるで壊れかけの踏み台にでも乗ったかの様な足場の不安定さ。

 

 

 

「ええぇぇ~~~~~~~~!!?」

 

大地は彼女の体重に耐えられず、そのまま古河音と共に下降する。

違う、彼女の落ちた跡には大き目の布や竹網。

つまりは地面のない場所を地面に見せかけるための、いわゆる落とし穴に使われる道具一式が散らばっていた。

 

 

 

「ったぁ~~……」

 

落ちてすぐに、当たりの一式を見て落とし穴だという事に気づいた。

なぜか? それは古河音も『経験者』だからだ。落とす側の。

 

 

 

「そこの人~、大丈夫ー?」

 

落とし穴の上方から人の声。

見上げた先には手袋と兎の耳のようなものをつけた1人の少女が古河音を覗きこんでいた。

その瞬間に傷の痛みは消え去り頭の中では『来て良かった!!』と高らかにガッツポーズを決めていた。彼女にとってうさ耳とは痛み止めの効果でもあるのかもしれない。

 

 

「ほら、つかまって」

 

 

【挿絵表示】

 

 

うさ耳の少女は落とし穴に向かって片手を差し出した。

正直飛べるので助けは不要だが、相手の好意を無下にする訳にはいかない(といううさ耳少女を間近で見るための建前)と彼女の申し出に甘える事にした。

 

「あ、ありがとうござ―――――………」

 

するっと抜けた。ぬるっと抜けた。

古河音の掴んだ彼女の手が、さながらうなぎでも掴んだかの様に何の抵抗もなく抜けてしまう。

 

 

 

 

「つるぺったあぁぁ~~~んっ!!?」

 

預けた重心はそのまま後方へ、他につかまる物は何もなく頭からごろごろと転がり元の場所まで落ちていった。

幸いにもカモフラージュのために用意された沢山の落ち葉がクッション代わりになった。

 

 

 

「あ、ごめんねー?そういえばこの手袋油仕事でぬるぬるだったんだっけ。ほら、素手ならもう安心。捕まって♪」

 

落ち葉に埋まった頭を抜きだし改めて彼女を見る。

うさ耳の衝撃で判断が鈍っていたが、彼女の笑顔からは自分と同じの匂いが感じられた。

別に泥臭いとかそういう話ではない。

相手の油断を誘い罠にはめ、そのリアクションを楽しむ特有の笑顔。

その喜びを原動力にスリルを求める生粋の悪戯者。

 

 

 

 

「…………くっくっくっく」

 

喉で笑いながらゆらりと立ち上がった。

よく見れば手袋を脱いだ彼女の指先は泥で汚れている。

 

「私にいたずら挑むなんて良い度胸じゃない…………」

 

杖代わりに使っていた箒に霊力を込めながらニヤリと笑う。

次の瞬間、落ち葉や土埃を撒き散らしながら勢いよく落とし穴から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「こちょこちょしてやるっ!こちょこちょし過ぎて艶めかしい声が出ちゃうくらいにこちょこちょしてやるっ!!やり過ぎてR18タグつけなきゃいけない勢いでこちょこちょしてやるーーーーっ!!」

 

それは勘弁願いたい。

一応この作品誰でも読める健全な小説を目指しているのだ。

だから極力R15タグもつけたくないというのに。

 

手をわきわきとさせながら、不気味な笑みを浮かべて少女に向かって駆け抜けていく。

 

「おっと、怖い怖い」

 

けらけらと笑いながら回れ右、膝をぐっと曲げて両足に力を込める。

古河音が少女まで距離を詰めると一瞬のうちに姿を消してしまう。

 

 

 

 

「早っ!?」

 

本当に消えてしまった訳ではない。

消えたと思った瞬間には遥か前方で某忍者漫画よろしく竹から竹へと器用に跳ねていた。

空を飛ぶならまだしも、その敏捷性は明らかに人間のソレではない。

彼女のうさ耳が飾りでないなら、それは彼女が兎の妖怪である事を示すのだろう。

 

それが分かると古河音は俄然楽しくなってきた。

妖怪相手に自分の能力がどこまで通じるのか、妖怪相手でも悪戯は通じるのか、既にその胸の中にある怒りは好奇心へと変わっていた。

彼女の早さに対抗するにはこちらも相応の早さで対抗するしかない。

 

 

「お前に足りないものは、それは!」

 

懐のスペルカードを取り出し、回転を加えて宙に放り投げる。

いかに術を格好良く発動させるか、彼女は日夜研究中なのだ。阿呆極まりない。

 

 

 

「情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもおおぉぉぉ……」

 

 

 

 

「早さが足りない!!」

 

投げたカードをパシッとキャッチ&術の発動。

この一連の動作のためだけに5日間の練習を要した。それだけにしたり顔だ。

 

 

―――速符・『お前には速さが足りない』

 

 

この魔法の効果は至って単純。

ただまっすぐに、一直線に前に向かって推進力を向上させるというもの。

当然その加速している間に障害物を避けるなどという器用な真似など出来るハズもない。

 

つまり―――……

 

「痛っ!?いたっいたたたたたっ!」

 

普通に歩く分には気にならない竹枝が鞭の様に古河音の顔面を攻める。

それは早ければ早い分だけ、無数の竹枝が彼女を襲う。

本来このスペルカードは弾幕ごっこのために作成されたもの。

弾幕ごっこに向かない障害物満載の竹林で使えば当然こうなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

速符の効果が切れると同時に竹林を抜けた。

それに伴い飛行を止めて地面に足を擦りながらの荒っぽい着地。

 

「ふわぁーー……死ぬかと思った……ってアレ?」

 

安堵の息をついていると、目の前には巨大な屋敷。

古河音がお世話になっている慧音宅も人里の中では大きい部類だが、それとは比べ物にならない程の大きさと高級感が感じられた。

 

妹紅に案内され、竹林を抜けて現れた目の前の屋敷。

ここが永遠亭であると古河音は直感した。

 

 

「おぉーっ、ラッキー!」

 

全身擦り傷だらけでそのセリフが言えるのは、彼女が弾幕ごっこに慣れている証拠なのだろう。

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、永遠亭へ♪」

 

「あっ、さっきの!…………ま、いいや」

 

再び彼女の前に姿を見せるうさ耳の少女。

ここぞとばかりに新作スペルカードを取り出すが、すぐにそれを懐へとしまい直す。

先ほどの事で地上で使うスペルカードは危険だという事が判明したし、永遠亭に着くという目的を果たして怒りも鎮火してしまっていた。

加えてそこにはもちろん、うさ耳補正も手伝っている。

 

 

「やっぱり、ここが永遠亭なんですね」

 

「そうだよ。私は因幡てゐ、よろしくね」

 

「古河音です。よろしく。でも握手は遠慮しときます」

 

にこやかな笑顔で差し出されるてゐの手に、握手するフリをしてさっと引く。

落とし穴の件にしてもそう。

相手の手を直接手を握るという行為は、日常の中であまり機会がない分そこには悪戯を仕込む絶好の機会。

悪戯を生業(?)とする者にとっては必須事項だ。

それでも古河音は少女を憎めない。なぜならそこにうさ耳があるからだ。

 

 

 

 

「どうしたのてゐ?外が騒がしかったけど……」

 

門の奥から1人の少女が現れる。

てゐよりも身長が高く髪も長い、ブレザー姿。

そして、てゐ同様に頭には2つの兎の耳がついている。

てゐの前例を考えると彼女も人間ではないのかもしれない。

 

そして、古河音はこの少女に見覚えがあった。

たまに人里に薬を売りに来たり、買い物をしたりする姿を何度か見かけた事がある。

 

「初めまして、結婚してください」

 

「は……………???」

 

 

開口一番でプロポーズしてくる古河音に少女は直感した。

この幻想郷の住民を大きく2種類に分けるところの、彼女は『非常識』側の人間なのだと。

自分では彼女の対応は無理とてゐに視線を送るも、当人はけらけらと笑うだけ。

むしろその様子を楽しんでいるようだった。

 

「挨拶ですよ挨拶。それより今度、早苗さんや咲夜さん達とユニット組んで人里で踊って歌いませんか!?巫女・メイド・うさ耳が一つになる時輝く奇跡はきっと起きます!!良也さん辺り泣いて喜びますよきっと!『僕はいいや』とか言いながら絶対チラチラ見てきますよあの人!!」

 

「良也……?あなたアイツの知り合い?」

 

「ん?はい、同じ外来人…だっけ?それなので」

 

じっと少女は古河音を見る。

見た目は普通の子供だが、その口から開くほとんどが理解不能にして不可解。

だが、それも先の会話で少女の中で何かが繋がったような気がした。

 

 

 

「道理で」 「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――紅魔館 地下図書館にて

 

 

「は…………っくしゅん!!」

 

「ちょっと…、貴重な本に唾とばさないでくれる?」

 

広大な図書館で本を読む男女2人、土樹良也とパチュリー・ノーレッジ。

盛大なくしゃみをする良也に向かってパチュリーは非難の視線を送る。

 

そんな彼女の態度に1つため息。

風邪でも引いたの?などと心配してくれる様な人物でない事は分かっていながらも、頭のどこかで期待してしまっている自分に対してのものか。

はたまた、あまりにも予想通り過ぎる彼女の言動に対するものなのか。

おそらくは両方である。

 

「誰かが噂でもしてんのかね?」

 

「レミィ辺りが気まぐれに血を飲もうとしてるのかもね」

 

「変なフラグ止めてくれる!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――再び永遠亭

 

 

「しっっ……みるぅ~~!」

 

古河音は落とし穴と竹枝によってできた全身の擦り傷の治療中だった。

治療しているのはブレザー姿のうさ耳少女――鈴仙・優曇華院・イナバの師匠にあたる八意永琳。

永遠亭の薬のスペシャリストだ。

 

「はい、これでお終い。ダメよ?年頃の女の子がこんなに生傷作っちゃ」

 

「あははっ、でも弾幕ごっこやってたら傷作っちゃうんですよね♪」

 

そう言いつつも、永琳の言葉に少しくすぐったい気持ちになる。

自分で乙女を自称する時は多々あるが、最近になって人妖含めて誰も自分の事をそのように扱わなくなってきているためである。自業自得だが。

 

 

 

「………あら?」 「はい?」

 

「あなた、妙な術が掛かってるわね」

 

永琳の言葉に少しの間首をかしげ、思いついたように自分の服を軽く指でつまむ。

 

「あ、この服アリスさんに作ってもらって。弾幕ごっこには欠かせない防御魔法つきなんです」

 

自慢げに胸を張る。

姉とお揃いのデザインというのも自慢ポイントのひとつだったりする。

 

「ちがうわ。あなた自身に………見た事ない術式ねぇ」

 

「はぁ…」

 

永琳の言葉に古河音はいまいち実感が沸かなかった

今までそんな事を誰にも言われた事はなかったし、これまで過ごしてきて何も支障はなかった。

結論として差ほど気にしない事にした。

 

 

 

 

「それはそうと、ちょっと面白い薬があるんだけど……よかったら試してみない?」

 

『面白い』そんなフレーズに古河音が目を輝かせ反応しないハズもなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~~」

 

寺子屋・上白沢宅にて戸の開く音と同時に声が響く。

家主である慧音は聞き覚えはあれども妙に違和感の残るその声に首をかしげていた。

 

「古河音?にしては妙に声が野太いよう―――………なっ!!?」

 

慧音の目の前に現れた少女は、頬は膨れ上がり、腕は服に絞めつけられ、足はさながら象の様。

食っちゃ寝生活を何年も続けた様な悲しいモンスターが慧音の前に立っていた。

そして、体型こそ別人だが毎日寝食を共に過ごしている少女を慧音は見間違えるはずもなく。

 

「な………何があった?」

 

「いや~、永琳さんから『魔力が上がる薬』もらったんだけど副作用があったみたいで。

でも、効果は抜群だよ?いつもの倍以上のスピードで飛んで帰ってきたから♪魔力も体型も2~3日で効果切れだって」

 

服が特注品のため、どんなに太っても破れないのは不幸中の幸いか。

 

 

 

「2~3日………か」

 

ギシギシと床を鳴らしながら歩いて行く古河音の姿に、サイズの合う着物を買わねばならない事を考えてしまう。

古河音の姿同様に、気分の重くなる慧音だった。

 

 

 

 

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