東方忘却記   作:マツタケ

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その12

 

 

 

 

 

 

 

 

3匹の猫、あるいは4匹、そちらでは2匹。

にゃあ~という間延びした、どこか人の心に癒しを与える様なBGMがあちらこちらと鳴り響く。

 

人から忘れられた廃村は、今やさながら猫の里。

それはまるで村人が悪い魔法使いに猫にされてしまったかの様な錯覚さえ覚えさせる光景だった。

身体の模様は様々で、白・黒一色だったり黒ぶち茶ぶち、ちらほらと三毛猫なんかもいたりする。大柄な女性に変身して推理したりはしないのであしからず。

 

 

 

 

 

 

 

そんな猫達を遠目でぼぅっと眺めていた古河音。

人里よりも木陰が多く風通りも良いためぼぅっと涼むのには最適な場所だった。

ねこねこBGMも手伝ってか意識は遠のきうとうとと……。

 

 

「なんだ、先客か」

 

「…………あれ、良也、さん?妙なところで会います…ね………」

 

そんな彼女の上空から良也が降りて来た。

振り向きながら良也に向かって見せるその表情は目は半開きの口からよだれ。

曲がりなりにも自称乙女のする顔ではない。

良也にその事を指摘され あ、やべっ と口元を手の甲で拭う。

そんな彼女の様に良也は心の中で一言、もう何も言うまい。

 

 

 

 

 

 

「何ですそれ?おやつですか?」

 

「マタタビだよ。おやつだったとしても開口一番に食おうとするなよ……」

 

好奇の目と共に古河音は良也の手にしていた植物に手を伸ばす。

このまま食べかねないと判断した良也は彼女の手の届かない高さまで。

その手癖の悪さは未だ止まるところを知らない。

 

「マタタビ?」

 

「あぁーー……猫用のお酒みたいなもんかな?」

 

天然でもなくボケでもなく、古河音にはたまにこういう事があった。

記憶喪失による日常生活にはあまり必要のない知識の欠落。

その辺りは慧音はもちろん里の者も周知の事だった。

オタク知識こそ必要ないだろうというツッコミを受けそうではあるが。

 

 

「?猫とお酌ですか?寂しい人ですね……」

 

「するか!これを猫にやると人間を警戒しなくなるんだよ」

 

「酔わせプレイってやつですか」

 

「君の言葉にはいちいち悪意があるねぇ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マタタビの酔いが回ってか、猫はぐでんと仰向け状態。

なぁーという力の抜けきった声を上げながら身体を起こすことなく猫じゃらしを弄る。

 

そんな猫の姿に良也はすっかりご満悦だった。

猫好きな彼は、たまにこうして猫にマタタビや餌を与えて触れ合う事を日課にしている。

良也自身が猫に好かれ易いという体質も相まって、何も持っていない時でも猫の方から彼に擦り寄るという事は珍しい事ではなかった。

 

 

 

「来ないのかー?」

 

しかし、古河音は当初と変わらずただ遠目で猫を眺めるだけ。

撫でるどころか触れもしない。

 

「生憎私には酔わせプレイの趣味はないんです。私はただ、こうやって猫達の無邪気な絡みを見ていられるだけで幸せなんです……!」

 

「だから言い方!」

 

良也の言葉を無視して猫に対して恍惚の笑みを浮かべる古河音にふと疑問が浮かぶ。

『アレ』は猫を愛でるというよりも彼女が以前巫女やスク水に対して浮かべていた表情に似ている。

 

 

 

「………お前、ここには猫と遊びに来たんだよな?」

 

「何言ってるんですか、私はこの子達を――――………

そっ、そうですよ!?こんなに猫だらけのところに他に何しに来るって言うんですか?

猫を愛でる少女!そこに何の疑問があるって言うんですか!?」

 

あからさまな挙動不審。

ここには別の目的があって来ましたと言っている様なものだ。

 

 

「―――――で?」

 

「そこ掘り下げちゃうんだぁ。私は良也さんのために自重したんですよ?

でも、もう遅いですよ。掘り下げた良也さんが悪いんですからね?

 

――そう!最近のマイブーム『脳内ケモノ擬人化』です!

そこには仲睦まじいネコミミ執事がいるじゃありませんかっ!ほらほら、耳を甘噛みなんてしてますよ?

あっちには歳の離れた兄弟が……まぁ大胆!!ほら、そっちには――……」

 

「止めろぉっ!猫好きの僕の前でそんな穢れた目で猫見るのは止めろ!!」

 

 

なんとなく、良也は古河音の両の目を手で塞いだりする。

それで彼女の妄想が止まるとも思えないが、少なくとも彼女の視界に猫を入れない事ぐらいならできる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

猫と戯れだして小1時間。

いい感じに空腹感が満たしてゆき、腹の音を鳴らす時間帯になっていた。

 

「良也さん、お昼食べるなら弾幕ごっこしません?」

 

「急だな…。やらないって」

 

前回の事もあって彼女に手を取られないよう警戒する。

そんな良也の態度に古河音も 流石に毎回やりませんよ とやや不機嫌。

 

「ご飯食べる前に弾幕ごっこするとご飯が進むんですよ?最近魔理沙さん見かけないから身体鈍っちゃって。新技も作ったし!」

 

新しく作られたスペルカードをほらほらと見せるも良也には返って逆効果。

好戦的な者なら興味を持つかもしれないが、そもそも良也は弾幕ごっこ自体に否定的だ。

痛い・疲れる・辛い。

古河音からすれば食前運動感覚な弾幕ごっこも良也からすれば苦行以外の何物でもない。

誰が進んで苦行に挑もうか。

 

 

 

不意にかさかさと茂みの方から音がする。

音がすれば振り向くのが人の性、2人は反射の様にそちらの方に視線を送る。

 

「げっ、人間が2人も……」

 

「あー…そういえばここはお前の里なんだっけ?」

 

茂みから1人の少女が現れる。

顔見知りらしく、良也はそんな少女の出現に若干面倒くさそうな声を上げていた。

 

頭から猫の耳、腰から猫の尻尾を生やした少女。

彼女の名は橙。

幻想郷の妖怪の賢人。その式神のそのまた式神というやや複雑な立ち位置の化け猫だ。

 

 

 

 

ぱりーんっ!

と、古河音のオタクフィルターが音を立てて壊れていく(ような気がした)。

そんなフィルターなど今となっては不要になったのだ。

極々自然な耳の動き、尻尾の動きが彼女のソレが本物だという事を物語っていた。

 

猫、それは日本人に限らず全国民に愛される愛玩動物の代表。

その愛らしい仕草が人の心を鷲づかみにし、多少人間に警戒を向けるその姿もどこかツンデレを彷彿とさせてまた良し。

幼女、文字通り幼い女の子。

まだ大人の穢れを知らないその無垢な姿はまさしく天使。

それでいて真っ白なその心と体を何色に染めさせてやろうかと、人の中に潜むS心をくすぐる小悪魔。

 

それらがまさに一体と化したパーフェクツ生命体。

 

 

 

「1万年と2千年前からア・イ・シ・テ・るーーーーーっ!!」

 

「なっ…何なのよコイツ!!?」

 

そんな彼女を目の前にして古河音の理性が崩壊するのにそう時間は掛からなかった。

普段からあってないようなものではあるのだが。

 

どこで得た技術なのか素早い動きで橙を羽交い締めにすると、良也に向かってすがるような瞳で。

 

「ねぇ~お父さーん!この子飼っても良いでしょー!?ちゃんと餌もやるし散歩も行くから~~!!」

 

「誰がお父さんだ。そいつちゃんと飼い主いるし、その飼い主絶対に手放さないから。あと猫散歩しないしな」

 

言ってる事もやってる事も全てがおかしい古河音だが、良也は慣れた様子でツッコミだけ入れている。

この程度で取り乱すほど良也の理不尽歴は浅くない。

 

 

 

 

 

 

 

「い・い・加減に―――…………離せぇーーーーーっ!!」

 

羽交い締めにした古河音の手首を掴み、そのまま全身を使って古河音を投げる。

軽く3メートルは飛んだようだ。

見た目は少女、種族は妖怪。身体能力で人間が敵うはずもなかった。

 

余程頭にきたのか、投げた古河音にそのまま弾幕を放っていた。

 

 

 

 

―――守符・『ゴッドハンド』

 

人1人分ほどの掌が古河音の前に出現し、放たれた弾幕を受け止めた。

これも彼女の言う新技の一つらしい。

 

 

 

「ふふふふ………なるほど、つまりこの弾幕ごっこに勝った方がご主人様って事であーゆーOK!?」

 

「いや、言ってない言ってない……」

 

良也のツッコミは耳に入っておらず、すでにお互い臨戦態勢だ。

止めはしない。

弾幕ごっこに第三者が首を突っ込むと巻き込まれ損に終わるというのが幻想郷での暗黙の了解だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺様の美技に酔いなっ!新技披露、第1段!!」

 

古河音を中心に無数の小さな赤と白の弾幕が大量に現れる。

棘の様な形をした赤い弾幕、花びらの形をした白い弾幕。

その小ささを考慮しても、今までの彼女の弾幕とは比較にならない程の圧倒的な弾数。

 

以前学んだ霊力の使い分けの応用から強力な霊弾を放つ術を身に着けた成果だった。

注ぎ込んだ霊力であえて威力を犠牲にして徹底的に弾数と攻撃範囲を優先した新魔法。

 

 

―――華符・『咲き乱れる百合と薔薇』

 

 

上から下へ、振るわれた古河音の腕と共に数えきれない程の花びらと棘が一斉に橙へと向かい放たれてゆく。

無数に降り注ぐソレはさながら雨。

紅白の霊弾の雨が対象の逃げ場を遮る様にただその数を活かしての攻撃はまさに『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』を体現したかの様だった。

 

 

「もひとつおまけに第2段!混符―――……」

 

追撃を加える様に懐から2枚目のスペルカード。

出し惜しみはしない。流れを自分に引き寄せてそのまま勝利を我がものとする。

全てはネコミミ少女のご主人様にならんがため。

 

「だあぁぁーーーーーっ!!」

 

「げっ」

 

そう思ったのもつかぬ間、眼前に弾幕をくぐり抜けた橙の姿が迫っていた。

弾数が多い分、その威力は通常の弾幕のそれ以下。

そこに弾幕をぶつければ、スペルカードを用いるまでもなく弾幕は消滅する。

 

「お返し!!」

 

 

 

―――鬼符・『青鬼赤鬼』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ラノベ、読みたいんだけどなぁ」

 

上空で行われる弾幕ごっこを眺めながら、良也は片手間におにぎりを口にしていた。

別に弾幕ごっこに興味がある訳ではない。

魔理沙や咲夜クラスなら相当迫力のあるものになるのだろうが、半熟同士の弾幕ごっこ。

別に見物でも何でもない。本来なら猫に癒されラノベが読みたい。

 

が、下手に目を離す訳にもいかないのだ。

 

「2発か……っと!」

 

弾幕ごっこが廃村の上空で行われているため、ちらほらと流れ弾が飛んでくる。

良也1人ならすぐに退散するが、ここには猫がいる。愛猫家としては離れるに離れられない状況下。

飛んでくる流れ弾を撃ち落とさなければいけなかった。

 

 

 

「良也くん?」

 

「藍さん」

 

そんな彼の前に1人の女性が現れる。

かの有名な九尾の狐を思わせる九本の尻尾が特徴的な女性だった。

八雲藍、今古河音が弾幕ごっこをしている橙の式神の主(良也の言っていた飼い主)だ。

彼の知る限り幻想郷でも希少な常識人だったりする。

 

 

「妙なところで会いますね?」

 

「それはこちらのセリフだよ。遠目に橙が弾幕ごっこをしているのが見えたんで来たんだよ。この辺は猫の溜まり場になっているからね」

 

そんな会話の最中にも指先から放たれる小さな弾幕で流れ弾を相殺する。

彼女の弾幕ごっこは目にした事はないものの、良也は改めてレベルの差を思い知らされた。

少し気は引けながらも自分が参加しても足手まといだろうと、任せても良いですか?と一言。了承は得たようだ。

 

 

「良也くんこそ、どうしてここに?」

 

もはや上空を見てすらいない。

気配だけで撃ち落としているらしい。

 

「僕はまぁ、猫好きの趣味で」

 

もう少し話題を広げられる返し方をしたかったが、本当の事なのでこれ以上言い様がない。

 

「ところで橙の相手は?見ない顔だが……」

 

逆に藍に話を振られてしまった。

ほろりと傷つく男のプライド。

 

「人里の、慧音さんが世話をしている子ですね。まぁ、性格が少し(?)アレで弾幕ごっこに発展して………」

 

お父さん飼いたい、勝った方がご主人云々はあえて伏せておいた。

普段温和な藍も少々親馬鹿な一面もあるため、わざわざ藪をつつく事もあるまいという良也の判断だった。

 

「ほぉ…。守護者以外に人里で橙と渡り合えるとは。次世代は育ってきているという事かな」

 

「外来人ですけどね、アイツは」

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の弾幕ごっこは橙の勝利に終わる。

 

下僕と呼んでください橙様♪ と言い寄る古河音だったが

気持ち悪いから嫌 と断られたらしい。

おそらくは、仮に古河音が勝ったとしても同じ様な展開になっていた事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 




☆今回古河音が使い損ねた2枚目のスペカの説明☆
混符・『見えそで見えない絶対領域』
通常の弾幕に見え辛い半透明の弾幕を混ぜた『咲き乱れる百合と薔薇』同様に
2種類の弾幕を放つスペルカード。

はじめて書いたあとがきがオリスペ説明って(^^;
実はコレ今後使う予定がないので、せっかく考えたんだからと載せました。
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