東方忘却記   作:マツタケ

14 / 100
その13

 

 

 

 

 

 

 

 

コツ コツ と、足音が反響する。

広大な廊下に人ひとり分の足音が一定の間隔で響く様は不気味な印象が残る。

更には地下室という事もあって辺りはやや薄暗く、それもまた『そういう』雰囲気に一役買っているのかもしれない。

しかし人間慣れてしまうもので、彼は当然の様にとある扉までたどり着くと躊躇なくそれを開けた。

 

紅魔館の地下にある図書館。

そこに通う事が、もはや良也の習慣となっていた。

魔導の道は日進月歩。いくら追求してもやり過ぎという事は決してない。

 

しかし、そこでひとつの違和感。

いつもは静かなはずの図書館が今日は妙に騒がしかった。

だからといって魔理沙が訪問しているにしては騒がしさが足りない。

何より良也が門を通った時には美鈴は無事だった。

その判断基準はどうなんだ、と頭の隅でセルフツッコミ。

 

「え……」

 

扉を開けた先に待っていたのは、大口を開けて鋭い牙をギラつかせた1冊の本だった。

響き渡る悲鳴と共に、ここにひとつの命が散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺す気か!?っていうか1回死んだよ!!」

 

「あ、なんかそのニュアンス某ホムンクルスっぽいかも。実は良也さんの身体の中には賢者の石とかあったりします?隠された八つ目の大罪は『ヘタレ』とか!」

 

嬉々として語る古河音に良也の拳が飛んだ。

 

良也の死因は、たまたま居合わせていた古河音が図書館の中から『ハズレ』を引いてしまった事にあった。

ここの図書館は古今東西あらゆる種類の本が収められている。

その中には禁書と呼ばれる、いわゆる呪いの本なども決して少なくない。

 

古河音が手に取ってしまったのもその類の本だった。

人食い植物ならぬ人食い本。かの有名な某RPGなどで出現するアレ的な本だ。

自ら意思を持ち人を食おうとし、逃げても逃げても追いかけてくる。

逃げた先にちょうど良也が扉を開き、本のターゲットが古河音から良也へとシフトした訳だった。

 

 

 

 

 

 

「で、何を調べてるんだ?」

 

再び本の捜索をする古河音に魔導書片手に声をかける。

元来彼女の性格からして読書の類はほとんどしないはずなのだ。

既読のはずの初級魔導書を難しい顔で読み返していた姿は良也の記憶の中でもまだ新しい。

 

「ちょっと、身体変化に影響を促す魔法について」

 

「…………お前何食った?」

 

本と睨みあいながら、あからさまに彼女らしからぬ発言が飛び出した。

基本的に、古河音は馬鹿だ。

決して頭が悪い訳ではないが、何かを理論的に考えて理屈を組み立てるタイプの人間ではない。

思いつくがままに行動し、思いつくままに爆弾発言を繰り出す。

そんな彼女のキャラにそぐわない発言に良也も彼女の体調を気にし始めていた。

 

 

「だぁーーっ!わっかんない!!」

 

やや乱暴に本を閉じながら、机に顔を突っ伏していた。

調べ物はあまり順調ではないらしい。

意を決した様な顔で椅子から立ち上がり、ずんずんと図書館の主であるパチュリーの下へと歩を進めてゆく。

 

「パチュリーさん!この際、恥を忍んでお願いします!!」

 

決意の込められた大き目のボリュームはパチュリーの耳には負担だったらしく、鬱陶しそうな目で 何よ? と一言。

 

 

 

 

 

「人の耳をネコミミに変える魔法を教えてください!!」

 

「帰れ」

 

 

 

 

 

意を決して、恥を忍んで、気合いを入れて申し出た古河音の発言は見事に一蹴された。

本当に恥以外の何物でもなかった。

そんな恥一生忍んでしまえ、と遠目に見ていた良也の心の声。

 

「良也といい貴女といい……、どうしてこう無駄な方向にばっかり変な情熱を掲げられるのかしら?」

 

げんなりとため息。僕はそこまでひどくないぞ!?という後方からの声も当然の様に無視。

 

「無駄とはなんですか!?パチュリーさん以前『魔法を学ぶ上で大事なのは好奇心』云々言ってたの覚えてますからね!?ぶっちゃけそこしか覚えてないけど!

単なるつけ耳では再現できないぴょこぴょこ動くあの自然な動きを!あの人やこの人との組み合わせ次第でその萌えはどこまで行けるのか!?私達はその行く先をを確かめる義務があるのではないで――――………」

 

鳴り響く轟音と目映い光、同時に古河音の身体ははるか後方に吹き飛んでいった。

彼女がパチュリーの前でスイッチが入るのは今回が初めてではない。

その経験から、古河音を黙らせるには弾幕が一番手っ取り早いという結論に至っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹き飛ばされた古河音は適当な本棚に捕まりやっとの思いで足をガクガクさせながら辛うじて立っていた。

加減しているとはいえ、熟練の魔法使いの弾幕を至近距離で受ければ誰だってそうなる。

しかし、そんな彼女に更なる追撃が。

 

「おふぅーーーーーっ!!?」

 

本棚にぶつかった衝撃のせいで大量の本が雪崩のように彼女の下へと落ちてゆく。

ここの図書館は本棚ひとつ取ってもその収納された本の数は尋常ではない。

小柄な彼女の身体など見事に埋め尽くされてしまう。

 

「し……死ねる……!!普通に死ぬかと思った!」

 

ぜぇぜぇと荒く息をしながら本の山から上半身だけが飛び出ていた。

いっそ弾幕で本を吹き飛ばしてやろうかという考えも浮かんだが、パチュリーのコレクションである本を傷つければ説教コースが待っている事は明白なので止めた。

 

遠くから ちゃんと片しときなさいよ? というパチュリーの声。

理不尽、そんな言葉が頭に過りながらひとつため息。

 

 

 

「大丈夫ですよ、私も手伝いますし。紅茶いかがですか?」

 

未だ上半身だけを本の山から突き出した古河音の前に1人の少女。

小悪魔、そう呼ばれる少女だ。

読んで字のごとく低級の悪魔で、この図書館での主な雑務は彼女がこなしている。

パチュリーが図書館の主であるなら彼女は司書といったところ。

 

 

「ありがとう小悪魔さんっ!!あなたは天使だ!!!」

 

「悪魔なんですけど……」

 

苦笑する小悪魔を前に、ぶわっと古河音の瞳から涙が溢れ出る。

彼女が空を飛べるようになって月日は流れ、この幻想郷で色んな人物に出会ってきたが、古河音にとって小悪魔は間違いなく良い人ランキングはかなり上位の部類だ。

単にその他の人物が理不尽・非常識・破天荒というのもあるが、それ抜きにしても小悪魔は良い人だと感じられた。

 

「そんな謙遜しちゃってホントはその羽外したら中から天使の翼でてきません?ちょっと待っててください。今から『小悪魔ちゃんマジ天使』ってタグつけて来ますから!あ、紅茶頂きますね」

 

本の山から抜けだすとタンと飛び降り小悪魔の下へ。

無駄に身軽である。

紅茶を飲み終えると 美味い、もう一杯!とカラになったカップを差し出す。

彼女こそ小悪魔を見習うべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとぉ、良也さんも手伝ってくださいよ!」

 

「いや、僕は関係ないだろ?」

 

片付け開始から数分後、1人本を読む良也に古河音は食ってかかっていた。

崩れ落ちた本の数々は本棚の上層部にまで及んでいる。

紅魔館の本棚はとにかく大きい、というより高い。

それは優に十数メートルは超えており、はしごや飛行が必要となってくる。

 

「箒に乗って物運ぶのって難しいんですから手伝ってくれたって良いじゃないですか~。ほれほれ、良いとこ見せて小悪魔ルート!」

 

「ま、良いけどさ……」

 

半ば諦める形でパタンと本を閉じる。

古河音の件に関しては始終自業自得、手伝う気など毛頭なかった。

だからといって別に小悪魔ルートに行こうとも行けるとも思ってはいない。

しかし、問題を起こした古河音に小悪魔1人をつき合わせるのも妙に申し訳ない気分に駆られる。

 

本当に僕関係ないんだけどな と良也は心の中でつぶやき腰を上げた。

 

 

 

 

 

「………っ!良也さんそれちょっとストップ!!」

 

片付けも終盤に差し掛かる頃、とある本が古河音の視界に入った。

良也が両腕を使って持ち上げた数冊の本の内、一番上にあった本を古河音は引っ手繰る様に手に取った。

床の上にその本を開き えーとぉ…? とノロノロ読み始めた。

速読が苦手なのは相変わらずのようで、やがてあるページにまでたどり着くと

 

「コレだぁぁーーーーー!!」

 

大音量の彼女の声は図書館に大きく響き、パチュリーの静かにしろとでも言いたげな視線が押し寄せてくる。

こほんっ とわざとらしく間を取り声のボリュームを下げる。

流石に図書館の中で堂々と彼女を不機嫌にさせる程バカではなかったようだ。

 

「良也さん、これアリじゃないですか!?いけるんじゃないですか!?」

 

「どれどれ……」

 

抑え気味の声でテンションだけは上げて、先ほどの本を良也に見せる。

そんな彼女のテンションについていけずに、良也はとりあえず本を受け取る。

 

 

 

それは、端的にいってしまえば妖を化かす手段が記された書物。

魔法薬や道具、はたまた傾向と対策など項目はいくつもあるが、それらに共通するのが『妖の目から逃れる手段』というものだった。

 

まだ、人と妖のパワーバランスが現在よりも遥かに妖怪寄りだった頃。

人間という種族が彼らに対して出来るのは『勝る』手段を模索する事ではなく『生きる』手段を手探りで探す事だった。

人の姿と匂いを消す薬、妖の嫌がる臭いを放つ薬、逆に妖の好みそうな餌、等々。

妖に対抗できる霊力も頼れる霊媒師もいない中で人が試行錯誤で妖の手から逃れる方法や歴史などが主に記されていた。

 

 

 

 

 

 

「その本のタイトル見て直感したんです、ピーンとね!妖怪の目を騙すなら時には自分達を妖怪に見せる必要だってあったりする訳です!」

 

たしかに、それらの項目の中には飲むだけで人外に化けられる薬などという冗談の様な魔法薬の製法も記載されている。

鬼や妖狐、化け猫から天狗に吸血鬼、様々な種族に化けられる薬の製法が事細かく。

ちなみに、それで騙せるのは精々低級妖怪くらいらしい。

なら載せるなよ と良也は心の中でツッコんだがどんな本にも余談が記されたりする事は決して珍しい事ではない。

 

 

「化け猫、なんて人聞き悪いけど早い話がそれってネコミミ少女ですよね!?」

 

「なんで少女限定なんだよ?たしかに幻想郷だと普通にありえるけど……」

 

ここまでくれば古河音の言いたい事は想像がついた。

化け猫に化けれる薬を人に飲ませてネコミミで萌え、という企みなのだろう。

仮にも先人の知恵に対して冒涜も良いところだ。

 

 

 

「……魔法薬の場合ふつうの魔法と違って適正とか関係ないけど、その分細かな調合とか結構難しいからな?」

 

呆れの含んだ声色で、受け取った本を再び古河音に手渡した。

良也としても彼女の気持ちがまったく分からないと言えば嘘になる。

ケモ耳と女の子の組み合わせはベタながらも胸にくるものはあるし、お試し感覚で見れるものなら見たくない事もない。

 

ただ、そこには言いようのない温度差が存在した。

良也をぬるま湯とするならば、古河音はさながら沸騰したお湯。

なぜそこまで、命をかけるまでに情熱を注げられるのか、良也には理解の外だった。

 

 

 

 

 

 

「そこですよ。ご存じの通り私はそういう細かな作業苦手なんです……。そ、こ、で、一緒に幻想郷に萌えのかけ橋を造りませんか!?なぁに、良也さんにとっても悪い話じゃないでしょう?」

 

声のトーンを落として喉で笑いながら、その表情はさながら悪代官。

要約すると、薬作りを手伝えと言いたいらしい。

 

 

「嫌だよ、その薬誰かに飲ますんだろ?その片棒担ぐってどんな死亡フラグだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――咲夜さん」

 

ぽつりと呟いたその単語に、良也の耳がぴくりと動いた。

 

 

 

 

「今回の私のターゲットは、彼女です!」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。