東方忘却記   作:マツタケ

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その15

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回のあらすじ。

 

死亡フラグ一直線。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が弾幕ごっこで勝ったら、このおはぎ食べてください!お願いします!!」

 

面倒くさい。

彼女のそんな申し出に、霊夢の頭の中に真っ先にそんな言葉が浮かんだ。

 

考慮するまでもなく断ろうと思ったが、不意に口を紡ぐ。

古河音の申し出は、いわば『賭け』だ。 それも極めて自分に有利な。

ならば、その条件を聞いてからでも答えを出すのは遅くはない。そんな結論に至った。

 

 

 

 

 

 

「私が勝ったら?」

 

品定めをするかの様な視線を古河音に送る。

正確には、彼女のこれから口に出す条件に対して。

 

「通常の3倍価格でお賽銭を投資します!   良也さんが!!」

 

「……良いわ」  「良くないわっ!!」

 

 

彼女達のやり取りを一部始終傍観していた良也が初めて口を挟む。

今まで口を挟まなかったのは、偏に古河音の目論みが成功しようとしまいと自分には関係なかったため。

加えて、この賭けが成立するという事は良也がお賽銭を投資する事とほぼ同義である。

そんな話を勝手に進めないでほしい、と思うのは彼に限った話ではないだろう。

 

 

「そんな無謀な賭けに人の財布アテにすんなよ!霊夢、お前も当然の様にそれを受けるなよ……」

 

「申し出たのはその子よ?」

 

「………そうなんだけど」

 

古河音の申し出を受けただけの自分には全くの非がない、そう言いたいのだろう。

それは何の皮肉でもなく、素でそう思っているのだ。

長いつき合いだけに彼女がそういう人間だという事は分かっていながらも、だからといって納得がいく訳ではない良也だった。

 

 

 

 

「なぁに、勝てば良いんですよ。勝てば!」

 

持ってきたおはぎをちゃぶ台に置き愛用の箒を構えた古河音は、あの博麗霊夢を相手に勝機を見出して――――……

 

「いや、お前明らかに『やっちゃった』みたいな顔してるんだけど?」

 

「……あ、顔に出てます?」

 

は、いなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁側に腰を落ち着け、お茶をすする良也の上空で行われる弾幕ごっこ。

いや、もはやソレを弾幕ごっこと呼称しても良いものか躊躇われる程に、防戦一方だった。

どちらが劣勢かは語るまい。

 

これが魔理沙相手だったなら、まだ内容は変わっていたかもしれない。結果は変わらないが。

それは弾幕ごっこを『手段』とするか『目的』とするかの違いだろう。

霧雨魔理沙は弾幕ごっこに楽しみを求める節がある。

つまりは後者、それは古河音にも言える事で、だからこそ2人は気が合うのだろう。

 

対して霊夢は弾幕ごっこを積極的にするタイプではなく、手段として用いがちだ。

異変解決のため、話し合いが面倒くさいから、妖精が鬱陶しいから、とりあえず相手を黙らせるため。ほとんどロクでもない理由だが。

今回で言えば、お賽銭のため。

だからこそ『弾幕ごっこ』という型に拘らず拮抗した勝負など視野の外。

 

早い話が、実力差関係なしに容赦ないのである。

 

 

 

 

ちなみに、良也も前者といえるだろう。

彼の場合は、逃げ延びるため、痛い目に遭うのが嫌だから、という理由で手段として弾幕ごっこを用いている。それで本当に逃げ延びれているかは別として。

 

 

 

 

 

「3倍ね…。足りるだろうけど」

 

湯呑を傍らに置いて、財布を取り出す。

この勝負の行く末など、勝負が始まった時点で決している。

というよりは、霊夢が誰かに負ける、という光景が少なくとも良也には想像できない。

 

「律儀ねぇ。負け犬根性とも取れるけど」

 

「げっ……」

 

いつから居たのか、さも当然の様に良也の隣に1人の女性が座っていた。

その振る舞いは、まるで最初から相席していたかの様な自然なもので、気配など一辺も感じさせずに。

女性の名は八雲 紫。

賢者の異名を持ち、幻想郷の創造にも大きく関わったとされる底の知れない妖怪だ。

 

 

 

 

 

「散々文句を言っていた割に、お賽銭の準備かしら?」

 

「霊夢とは嫌でも顔を合わす機会が多いから、その度に催促されるより素直に払っといた方がマシなんだよ」

 

神出鬼没な彼女の登場には慣れた様子で、良也は賽銭の額を数えている。

むしろ彼女が普通に登場する方が稀なのだという認識だ。

 

「そういう諦めの早い性格、貴方の悪い癖よ。自覚ある?」

 

「性分なんだよ。せめて殊勝と言ってくれ……」

 

数えた賽銭を小脇に置き、再び湯呑を手にする。

丁度良い塩梅に適温になっていた。

 

 

「そう。じゃあその殊勝な貴方に一つアドバイス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女には、気をつけておきなさい」

 

 

 

 

「……は?彼女って…」

 

「じゃあ、私はもう行くわ」

 

良也の言葉を遮ってか、聞く気がないのか、扇子を一振りする。

すると彼女の前には言葉にはし難い異様な空間が現れた。

スキマと呼ばれる紫の能力のひとつで、その用途は移動から結界作りまで、実に様々である。

 

その空間に身を投じると、空間ごと紫の姿はあっという間に消えてしまった。

 

 

 

「何しにきたんだよ……っと、ありゃ詰んだな」

 

紫と話している間に、上空の弾幕ごっこも終局に近づいたらしい。

霊夢の弾幕が古河音の八方を包み込む様に向かっている。文字通りの八方塞がりだ。

そうなってはスピードや技術の問題ではない。物理的に避けられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

自らに襲いかかる札の群れを古河音はギリギリまで引きつける。

左手で箒に重心を掛け、右手にスペルカード。

その重心から円を描くように身体を回転させながら――――……

 

スペルカードから伸びた鞭状の魔力が辺りの弾幕を薙ぎ払ってゆく。

通常、弾幕ごっこにおいて優先すべき『避け辛さ』を犠牲にして、魔力を『鞭』という形に圧縮した事により高い攻撃力を誇るスペルカード。

 

 

―――お仕置き・『我々の業界ではご褒美です』

 

悪趣味なネーミングとは裏腹に古河音の手持ちの中では最大の火力を持っている。

魔力の鞭により焼け焦げた霊符が彼女の周りで炭となる。

 

 

 

「ふ…ふふふふ」

 

仮にもあの博麗霊夢の弾幕を退けたためか、これでもかという程にドヤ顔だ。

すると今まで回避にいっぱいいっぱいだった時とは打って変わって、霊夢に向かってまっすぐに向かっていった。完全に調子に乗っている。

 

「ど…どうしよう!?何この巫女さんに鞭を持って迫っていくっていうシチュエーション?何か変なテンションになってきた!目覚めてはいけない何かに目覚めてしまいそうっ!!あははっ……あはははははははっ!!」

 

 

 

 

そんな光景を見ていた良也は飲み終えたお茶を小脇に二・三首を振る。

 

「ダメだあいつ……もう手遅れだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――という夢を見たのさ!」

 

「現実から目を背けるな」

 

ところ変わって紅魔館。

新技を披露した古河音は、それは見事に      ボコボコにされた。

 

お仕置き・『我々の業界ではご褒美です』は霊夢の弾幕を退けたひと振り、後に霊夢に向かって振るった二振りで消え失せてしまった。

つまりは今回の新技、三振りが限界なのだ。

例えそれを考慮しなくとも、霊夢と古河音との間には埋めようのない経験と才能の差が存在していた。

その後の展開はあまりに無残過ぎて筆舌に尽くし難い。

 

そんな苦境に立たされて尚、なぜ彼女が心折れないでいられるか。

全てはリアル猫耳咲夜を夢見ているがため。

正直、良也は既に帰りたい気持ちでいっぱいである。

だからこそ願う、早よ終われ、と。

 

 

「ふふふ、何をそんな疲れた顔をしてるんです?全てはこのために頑張ってきたんじゃないですか。今までのは前座、俺達の旅はこれから始まるんじゃないですか!」

 

「ホラ、もうすでに死亡フラグ臭がし始めてるし……」

 

少なくとも警戒心という点においては十六夜咲夜のそれは霊夢の比ではない。

そんな彼女がこんな胡散臭い娘の差し入れを素直に受け取るとは考え難い。

美鈴辺りが何の疑いもなく受け取りそうだが、それはそれで良也の中の良心がとんでもなく痛む。

 

 

 

 

 

 

 

咲夜の姿を探して紅魔館を捜索していると、ある一室でお茶会が開かれていた。

一室、というよりは広場だ。

それはまさに洋館特有の統一されたデザインで彩られており、そこでお茶を楽しむ姉妹と図書館の主と司書、そしてお茶を淹れる瀟洒なメイド。

当然の様にその場から門番が外されたその光景は、2人の涙腺を軽く刺激する。

 

「こんにちはぁ、咲夜さん♪」

 

ともあれ、感傷に浸ってもいられない。

亡き美鈴(?)のためにもここで自分がやらねば美鈴が浮かばれない(??)

そんな失礼な言葉で古河音は自分を奮起させ、いつもより若干テンションを抑え目に、且つ自然な笑みで咲夜に歩み寄る。

一応は霊夢の一件で過度に攻めると失敗すると学んだらしい。

 

 

「これは古河音様、良也様も、いらっしゃいませ」

 

メイド、という仕事をしている最中の彼女はプライベートと仕事で態度に差が生じる。

さながら接客モードというべきか。

 

「あら、私を前にして真っ先にメイドに挨拶かしら?」

 

「ははーっ!レミリア様、本日はお日柄も良く―――…」

 

「頭を上げなさい、見苦しい」

 

紅魔館の主レミリア・スカーレット。

妹のフランドール・スカーレット共々、幼い外見とは裏腹に凶悪な能力を秘めた吸血鬼姉妹だ。

古河音は以前、レミリアの愛くるしい姿に妖精用のメイド服を勧めてひどい仕打ちを受けたという過去があり、以来レミリアには文字通り頭が上がらない。

 

 

 

 

「それはそうと、お勤めご苦労さまです。もし良かったらこのおは――……」

 

「わぁ!これ何!?」

 

古河音の背後から現れたレミリアの妹、フランドール。

甘い匂いを嗅ぎつけたのか、古河音の持っていたおはぎに興味津々の様だ。

 

 

「あぁ~、ごめんね。これは咲夜さんに――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………くれないの?」

 

重く突き刺さるような視線が、突如古河音を襲う。

幼い精神と幼い外見を持ったフランドールだが、その能力はあまりに強大。

人間はおろか、並みの妖怪ですら彼女の前に立ちはだかる事敵わない。

そして、その能力を扱うには不釣り合いな幼い精神とのバランスは非常に不安定なもの。

 

おはぎを渡さない、ただそれだけの選択肢が死に直結しかねないのだ。

 

 

 

 

 

「はぅあっ………!!」

 

目の前のフランを前に、古河音は気づいてしまう。自分が今、地獄の袋小路に迷い込んでしまった事に。

まず、フランにおはぎを渡さなければ古河音の命はその時点でない。

しかし、おはぎを渡してフランが猫耳化してしまえば、妹想いの姉レミリアの凶刃が古河音に襲いかかってくる。

 

まさに前門の虎・後門の狼状態。

どちらを選んでも妹に殺されるか姉に殺されるかの選択肢しか残されていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ♪」

 

覚悟を決めた笑みでフランにおはぎを差し出す。

同じ死ぬなら萌えて死のう。 見よ、これが彼女の生き様だ。

 

 

 

「美味しい!…………あ、あれ?」

 

変化は、すぐに訪れた。

まるでつぼみから花が咲く様に、さなぎが蝶に孵化する様に、彼女の頭に猫耳が生えた。

『化け猫に化ける薬』なので尻尾も生える。

 

「あ…………ぁ………あぁ……!!」

 

幼いながらも端正な顔に輝くブロンドの髪、そこから生えたぴこぴこと動く猫耳とそれに戸惑うフランの困惑した表情が、古河音のハートをド真ん中から撃ち抜いた。

胸の奥から湧き出る衝動に身を任せ、フランのその小さな身体を力一杯抱きしめる。

それだけでは飽き足らず溢れる愛情を押しつける様に頬ずり。

 

 

「あは…あははははっ!何この可愛い生物!もう抱き締めずにはいられない!!私すごくない!?こんな薬作っちゃった私すごくない!?もうみんな今日から私の事萌えのマッドサイエンティストって呼んで良いよ!!あぁもう!この可愛さは反則過…ぎ……」

 

「へぇ、それじゃあ―――……」

 

萌え狂う古河音の肩が、突然何者かに掴まれる。

その白く小さな手からは想像もつかない程の握力と、血の様に紅い瞳から放たれる刃物の様な重圧。

紅魔館の主にして永遠に幼き紅い月、レミリア・スカーレットのものだった。

 

 

 

 

「これは一体どういう事なのか説明してもらいましょうか。『萌えのマッドサイエンティスト』さん?」

 

「あ…いや、その…………これは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ…!毎回毎回、私がやられ役だと思ったら大間違……ぃ…だ…」

 

「気概は買うけどな」

 

慣れた手つきで紅魔館を守護する門番を撃破するは、普通の魔法使い霧雨魔理沙。

対して、お茶会にも誘われず普通の魔法使いに敗北する薄幸の少女、紅美鈴。

倒れる美鈴には目もくれず、目指すは紅魔館地下の図書館。

 

実は前回から目をつけていたシリーズがある。今日はそれを死ぬまで借りよう。

期待に胸躍らせていた彼女にふと、珍妙な光景が視界に入った。

 

服はぼろぼろ、所々に焦げた様な跡が残り、真っ赤な十字架に張りつけられて首からは『私は悪い子です』と書かれたプレートが吊るされている少女の姿。

 

 

 

「お前、何があった?」

 

「……………聞かないでください」

 

 

 

 

 

 

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