東方忘却記   作:マツタケ

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その16

 

 

 

 

 

 

 

 

「毎度あり」

 

人外住まう幻想郷の中でも人間が居住する小さな里。

人間の里、通称人里。

被食の立場にある人間達の里を守護するのが“人里の守護者”と呼ばれる半獣・上白沢慧音である。

 

そんな里の一角に小さな露店が開かれていた。

里に露店、そう聞くと幻想郷の住人はとあるお菓子売りを連想しがちだが、今回はそうではない。

露店に並んでいるのは弁当箱や水筒、ザルなどの竹細工である。

その露店の店主の名は藤原妹紅。

極端に里への接近をさけていた彼女だが、最近になって手製の竹細工を商品に露店を開いたりと彼女なりに里へ出向く頻度も増やしている。

 

 

 

「繁盛してるみたいだな、妹紅」

 

「まぁ、それなりに」

 

竹雑貨の露店に1人の女性が訪れる。

上白沢慧音、藤原妹紅の数少ない友人だ。というと寂しく聞こえるが、実際彼女が極力人づき合いを避けているので仕方がない。

 

「最近箸が痛んできたんでな。いくつかもらおうか」

 

「…………」

 

並べられた商品をいくつか手に取る慧音を、妹紅はじっと見つめていた。

どこか違和感。

どこという訳でもなく、普段の彼女の様子と今の彼女は何かが違って見えた。

 

 

 

 

「……慧音、疲れてるか?」

 

「えっ……あ、いや、そんな事はないぞ?」

 

違和感から導き出した答えは、正解のようだ。

慧音は決して頭が弱い訳ではない。

むしろ歴史に見識が深く教師という仕事をしている彼女は秀才の部類に入るだろう。

だが根が正直ためか彼女の性分からか、嘘や隠し事には向いていないらしい。

 

 

 

 

 

「あ、モコちゃ~~ん!里で会うなんて珍しいね」

 

そんな中、露店に新たな訪問者の声がする。

今まさに妹紅の目の前にいる慧音の居候兼寺子屋の生徒。

慧音の事を姉と慕う少女、古河音だった。

 

すると気のせいか、先ほどまでの慧音の疲れの表情がより顕著になっていく。

 

「いやぁ~、丁度良いところに……。紹介するね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の『妹』慧音です♪」

 

 

「………………は??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……何者だお前は!?」

 

1人の少女を囲んだ数人のうちの1人が声を上げる。

少女はその問いに答える事なく、壁にかけてある箒を手に彼らを睨みつけた。

 

「ひとぉ~~つ、人の世の生き血をすすり。ふたぁ~~つ、不埒な悪行三昧……」

 

「いや、2つ目どっちかというとお前の事じゃないか?」

 

少女を囲む子供達の1人がぼそっと呟くが、今の少女の耳には入らない。

今の彼女の刀(箒)が欲するは咎人の生き血。

罪を犯し人を苦しめる者への鉄槌を下す事しか今の少女の頭にはない。

 

 

 

「みっつ、醜い浮き世の鬼を……退治してくれよう!我が名は―――……」

 

「ちょ……お前……っ!マジ振りは止め………」

 

制止する声など聞く耳持たず。

上段に構えられた箒はさながらしなる鞭のように、彼女の身体と一体となって高速で振り落とされようとしている。

 

 

 

「魔法腐女子、こが―――……! 「みんなー、そろそろ休み時間は終わ……」

 

「………ね」

 

スパーーン! と、扉を開けた慧音の顔面にまるで吸い込まれるかの様に、振り落とされた箒は見事にど真ん中に命中する。

賑やかだった教室は一瞬にして沈黙に包まれた。

 

どうやら箒が欲していたのは咎人の血などではなく、主人の生き血だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、授業の前にひとつ聞きたい事がある」

 

正座する子供達を前に慧音は少し気乗りしない含みを込めて前置きする。

入口の前で1人の少女がぐったりとしているが、誰もその事に触れようとはしない。

すでに慣れた光景なのだろう。

 

 

「今日、授業に使う問題用紙が水浸しになっていた。近くで花瓶が割れていたからそのせいだろう」

 

そこで言葉を区切る。

その間誰も口を開かず重苦しい空気が流れていた。

問い詰める慧音自身も良い気分はしない。

言い辛いだろうとは思う、それでも勇気を持って名乗り出てほしいと願う。

 

 

「ちなみに、花瓶の隣には良也くんの売っているお菓子が落ちていた。怒らないかと言われれば、怒る。それでも素直に名乗り上げてほしい」

 

未開封のたい焼きを手にして再び沈黙が続く。

余りに馬鹿正直な慧音の説得だが、それも彼女の真面目さ故なのだろう。

 

 

 

 

 

 

「痛ぁ……危ない危ない、朝倉さんにナイフ持って延々と追いかけられる夢見てた……あっ!」

 

教室の入り口で意識を失っていた古河音が目を覚まし、同時に何かを見つけた様な反応を示す。

と同時に、何の断りもなく慧音の手からたい焼きを奪い取り満面の笑み。

 

「そのたい焼き私のじゃーん!たい焼きと聞いて某うぐぅを連想したら今日から私の友達だぁ♪………ってあれ、何この空気?」

 

たい焼きを手に浮かれに浮かれて辺りを見渡すと、そこには形容しがたい重苦しい空気がそこにはあった。目の前の慧音ですら例外ではない。

一瞬これは頭突きを食らうフラグだろうかと身構えたが、そういう空気でもなかった。

 

 

 

「古河音、正直に答えてくれ。昨日か今日、私の部屋の花瓶を落とさなかったか?」

 

「花瓶?先月のじゃなくて?」

 

「……つい最近だ」

 

どうやら既に前科持ちらしい。ツッコみたい気持ちをぐっと抑え、そのまま話を進める。

 

 

 

 

「じゃあ、落としてないよ。最近お姉ちゃんの部屋入ってないし」

 

「……………」

 

返事はない。屍な訳ではなくそこにあるのは懐疑の視線。

別名、ジト目。

 

「むっ、何さその目!私の言う事が信じられないの!?」

 

「この前、床下から割れた食器が何枚か出てきたんだが?」

 

「………あ、それは私だ」

 

たい焼きという物的証拠・彼女の性格・過去のもろもろの前科。

実直な慧音と言えども、彼女にも信じられない言葉の1つや2つはあるものだ。

そんな光景を子供達は珍しいという眼差しで眺めていた。

慧音が子供を疑うという点についてもそうだが、この姉妹がケンカをするというのも珍しい光景だった。

 

 

 

 

「あ、あの……」

 

2人のケンカは勇気ある1人の少年の自白によって幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のだが

 

「いやいや~、『疑ってすまない!私に出来る事なら何でも言ってくれ』なんて言われたら、そりゃお言葉に甘えるしかないよねぇ」

 

ところ変わって冒頭。

つまりは、花瓶を落とした冤罪の謝罪として今日一日『姉と妹の立場を入れ替えている』という契約が成立していたのだ。

 

話を聞いた妹紅からすれば、普段から疑われる様な行いをする古河音に対して謝罪など不要だし、にも関わらずその謝罪に何の遠慮もなく乗っかるのはどうなんだと言いたい気分だ。

律儀過ぎる姉に図々し過ぎる妹、ものの見事に悪循環しか生んでいない。

 

「にしても、姉妹の交換かぁ。随分可愛らしい事してるなお前ら」

 

「でしょ?仲の良い姉妹にしかできない業なのだよ」

 

しかし、改めて考えてみると随分と安い条件である。

言ってしまえばこんなものは『ごっこ遊び』だ。

少なくとも古河音の本性を知る妹紅にとってはもっとえげつのない要求をしても何ら不思議はない。

 

 

 

「そうだ、せっかくモコちゃん来てんだし、この間貰った饅頭みんなで食べようよ!外でさ!」

 

「良いな。じゃあ少し待っててくれ。取ってくるよ」

 

妹紅の露店も落ち着き始め、時間にして昼から夕方のちょうど中間ほど。

小腹を満たし甘味を楽しむには打ってつけのタイミングだった。

 

自宅に饅頭を取りに向かう慧音の姿に古河音の口元がいやらしく歪んだ。

 

「そうじゃないでしょ?け・い・ね♪」

 

「どういう意味―――……!!?」

 

実に楽しげに微笑む古河音の言葉に、慧音の顔が青ざめる。

彼女の言葉を理解しているからこそ、その意図が理解できてしまったからこそ、慧音は絶望にも似た感覚に襲われた。

 

「ちょ…ちょっと待て!!こんな公共の場でそんな事できる訳ないだろ!!?」

 

「うぅ……私、慧音に疑われた時すごい傷ついたんだよ?だって私にとって慧音は唯一の家族で…それなのに………よよよ」

 

「~~~~………!!」

 

あからさまな嘘泣き。そんな事は慧音にも分かっている。

だが、それが嘘か真かはこの際関係ない。

『無実の者を疑ってしまった』その罪悪感を、慧音の責任感を攻める事さえできれば良いのだ。

 

 

 

 

 

 

「妹紅……」

 

「っ!!………なんだ?」

 

妹紅に向けられた慧音の瞳が完全に死んでいた。

生気がまるで感じられない。生きている者がして良い瞳ではない。

少なくとも妹紅はこんな慧音を見た事がなかった。

 

「これから起こる事は不幸な事故としてその胸にしまってほしい。そして出来ることなら即座に忘れてくれると助かる」

 

「わ…分かった………」

 

さながら死者の瞳が妹紅の目を真っ直ぐに捕らえて離さない。

全てを失ったかの様な慧音の言葉が妹紅に有無を言わせなかった。

 

 

 

 

 

「古河音お姉ちゃん、ちょっと待っててね?慧音、これからお饅頭取りに行って来るから♪」

 

「うん、人にぶつからないように気をつけるんだよ?」

 

「は~~い♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

事故が起こった。それも天災クラスの大事故だ。

 

潤ませた瞳でちらっと上目遣い。

時折胸の谷間を強調させながら、普段より高いトーンのキュートなボイスで。

輝かんばかりの笑顔を振りまきながら、慧音は走り去って行った。

 

これぞ古河音が慧音に仕込んだ『萌え妹キャラ』である。

同時に今日の慧音の疲労の諸悪の根源でもあった。

 

「はぁ……。何だろうこの気持ち?この得も言われぬこんな気持ちを、私はなんて名づけたら良いんだろう?」

 

「……その気持ちの名前は分からんが今のお前に相応しい言葉ならあるぞ。『最低』だ」

 

満足げに息を漏らす古河音に軽蔑の視線を送りながら、妹紅は今の事故を胸の奥底に深くしまい込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

上白沢慧音の朝は早い。

寺子屋の準備も然ることながら、彼女の本分は人里の守護。

里の周辺に怪しい妖怪が近づいていないか、隠れた所で被害は起こっていないかなど、入念にパトロールが行われている。

もちろん里の人間も協力はしているが、彼女1人の働きには敵わない。

 

「慧音様、今日もご苦労さまです。これうちで作った煮物です。よかったら」

 

「すまないな。ありがたく頂こう」

 

彼女のパトロールを手伝う内の1人の青年が1つの包みを手渡す。

こういった差し入れはたまにある事だった。

特に里の守護してもらう側の感謝の念もあってか珍しい事ではない。

 

だから慧音も、まだこの時は不思議に思う事はなかった。

 

 

 

 

 

「慧音様。これよろしければ」 「上白沢様、これうちの新商品なんですけど」 「うちの鶏が卵を生みまして」 「慧音様」 「上白沢様」

 

里の人達の変化に気づくのに、そう時間は掛からなかった。

今日に限って、会う人会う人から施しを受けるのだ。

2~3人ならまだしも、ここまでくるとあきらかに異様だ。

 

ふと、落ちていた新聞が目に入った。

慧音もたまに目を通している射命丸文の発行している『文文。新聞』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慧音様どうかお気を確かに!!」

「早まらないでください!悲しい事故だったのは私達みな分かっております!」

 

「離せ!離してくれ! 後生だ。死なせてくれえぇぇ~~~~~~っ!!!」

 

新聞には、『里の守護者、奇行に走る。普段のストレスが原因か!?』という記事と共に一抹の事故の写真がでかでかと掲載されていたのだった。

 

普段新聞を読まない妹紅はこの事実を知る由もない。

 

 

 




いつもふざけてマツタケです(^^
ここまで作品を読んで頂いてありがとうございます。
さて、今までギャグ一筋で突っ走って来たこの作品ですが
ギャグパートはこれにて終了です。

では次回からシリアスになるのかといえばなりません。
シリアスという名の中二病編です。
もう読んでいて『中二病っ!!』と叫びたくなるような展開です。
ここまでギャグを楽しんでくださっていた方、
シリアスなんかに用はないZEという方、申し訳ありません。

というか、本当はギャグパートなんて2~3話流してすぐ終わらせる
中編にする予定だったんです。
それがいつのまにか5話からはじまり16話までとずるずるギャグを
引っ張ってしまいご覧のあり様です。
だって楽しいんだもん! ぶっちゃけシリアスなんて書きたくないんだよ!!
なのですが、やはり作品を書く以上ちゃんと完結するために
真面目に話をつけるつもりです。

という訳でここまで読んでくださった方々ありがとうございました!
次回からの合言葉は 中二病☆
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