東方忘却記   作:マツタケ

23 / 100
待ってくれていたみなさまも、特に待っていなかったみなさまも、お久しぶりです!
という訳で、今回は番外編ダヨ~


その21・5

カシャンっ! 陶器の割れる音が辺りに響く。

 

見るからに粗暴な男が辺りの棚を蹴飛ばしたのだ。

突然行われる暴力行為に少女も、その隣の寝込んだ男も怯えるしかなかった。

 

「何度言わせりゃ気が済むんだ!?借りた金返せって言ってんだよコッチは!!」

 

言葉の暴力。

何も拳や得物だけが人を傷つける事のできる武器とは限らない。

悪意の込められた罵声は、人を傷つけるに十分な威力を持っている。

それが暴力と同時に行使されたなら、尚更だ。

 

 

 

「も…もう少しだけ待って下さい……!来月、来月には必ず支払いますので……!!」

 

やせ細った男は大柄な男にすがる様に頭をさげる。

ただそれだけの動作もおぼついていない。

病が、彼を蝕んでいる証拠だ。

 

「その言葉も聞き飽きたつってんだよっ!! へへへ、金が払えねえってんならお前の娘を……」

 

「そ…っ、それだけはどうかご勘弁をっ!!」

 

下卑た笑みを浮かべる男に彼はもとから下げていた頭を更に低くめ、地面にこすりつける様に土下座する。

プライドなど眼中にない。

我が身よりも大事な娘のためになら何度でも頭を下げられる。

 

「ちっ……!」

 

そんな必死な彼の様に、男もすっかり興が覚めてしまったようだ。

男に背を向け、ガタのきている戸を乱暴に蹴破る。

 

「いいか!?次はねえからなッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の去ったボロ小屋はひどく静かだった。

元よりこれが本来の姿なのだから。

 

しばらくした後、男は布団に入りせき込み始める。

 

「ごほっ…! すまねえな……。俺が借金なんかしなけりゃ、こんな事には……」

 

「お父様…。それは言わない約束ですわ……」

 

少女は父の手をそっと掴む。

自らの境遇など目もくれず、ただ健気に父を気遣うその様はまさしく天使…否女神だ。

更にはその美貌はまさに国宝級と言っても過言ではない鈴芽ちゃんマジ天使。みんなのアイドル鈴芽ちゃん。お嬢様言葉がとっても可愛いゾ☆

 

 

「………さっきから何なのよ。その茶番は?」

 

「あら紫。不法侵入で訴えますわよ?」

 

空間の裂け目から突如現れた怪しげな女に怯える鈴芽ちゃん。

今日もとっても可愛いのだ。

 

「……そして何なの?このさっきから不快なモノローグは……」

 

「はて何の事やら?メタい言葉禁止、ですわ♪」

 

「……………もうどこからツッコもうかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、紫さん。粗茶ですが」

 

さも当然の様に男は紫と鈴芽にお茶を差し出す。

言うまでもなくこの男、鈴芽の本当の父などではない。

借金取りの男も実は借金取りでも何でもない、ただの大柄なだけの男だ。

 

それらがなぜあの様な茶番を繰り広げていたかといえば、言わずもがな家の主を差し置いて我が物顔でお茶を啜るこの女の仕業だ。

 

 

 

「いえ、巷ではあの様なやり取りが流行だそうでして。淑女としてはやはり俗世の波に乗っておかねば、と」

 

「あ……そう」

 

それは断じて流行ではない。

その言葉遣い同様に彼女の見識は常識から著しくズレている。自らを縛る常識は全て彼女の手によって操られてしまうのだから。

もはやツッコむのも馬鹿らしく、自身の身体の半分をスキマに入れる。

人前でその様な行為に及んでも、どうせ鈴芽が不審がられない様に記憶を操っているのだ。

 

 

 

 

 

「そうそう流行、という訳ではないのですが」

 

飲み終えた湯呑を丁寧に置き、口元を拭う。

自分のキャラによほどのこだわりがあるのか、たしかにそれは洗練された所作だった。

が、やはりどこか胡散臭い。

言うなればコスプレのようなものだ。

例えどんなに本物そっくりだろうと、所詮は贋作・廉価版なのだ。

 

 

「近々この村で小さなお祭りがあるのですが、幽々子も連れて3人で回りません?庶民のお祭りというのも馬鹿にできたものではありませんわ」

 

「なっ……!」

 

驚いた。というよりは呆れかえった。

西行寺幽々子が、その能力を扱えきれていないがために外出を控えている事など当然鈴芽も承知のはずだ。

それを失念しての発言とは考え難い。つまりは考えがあるのだ。

問題はその内容、鈴芽の性格を考えればすぐに想像できる内容だった。

 

 

「私に、幽々子の能力から村の人間を守れ、と?」

 

「お屋敷に閉じ込められたお姫様を外に連れ出すというのは物語の中ではよくある話ですわ。大抵はそこから身分の差を超えた恋路に発展するのですが、親睦を深めるという意味では最適かと」

 

瞳を閉じて胸に手を当て、自分の世界に入っていた。

 

話の外面だけを見るなら、友達想いのちょっとした美談だ。

が、その実全ての問題を紫に丸投げしている。

【幽々子のため】ではない。

【幽々子のために動く自分】のための提案に他ならない。

友人のために健気にプロジェクトを建てる自分に酔っている自分大好き人間だ。

 

「昼間からの酒をどんなに控えても、自分に酔ってちゃ世話ないわね……」

 

「だれうま」 「は……?」

 

「お気になさらず。分かる人には伝わる事ですので」

 

 

 

とは言いつつも、実際その提案自体に関しては紫も悪くは思っていなかった。

元々幽々子自身の性格は決して閉鎖的なものではない。

そんな彼女を屋敷に閉じ込めているのは、事実その能力だろう。

 

もちろん、強力な彼女の能力を抑え続けるなど紫でも厳しい。

抑えている間、妖怪としての能力はほとんど使えなくなる。

それでも、彼女に外の世界を味わってもらうには決して高過ぎる代償ではない。

 

 

 

「せっかくですから、お祭りの費用は全て幽々子に頼りましょう。持つべきものは心の友ですわ♪」

 

唯一不満があるとすれば、この女の思惑通りに動かなくてはならないという事か。

 

 

 

 

 

 

「そうそう……」

 

すっと立ち上がると小屋の玄関とも呼べる出入り口に向かって歩き始める。

茶番の終えたこの家は彼女にとってもう用済みなのだろう。

 

 

「お祭りは浴衣で参加とお伝えくださいな。せっかくのお祭りですもの」

 

パチン、と指を鳴らして去っていく。

それと同時に再び陶器が割れる様な音がした。

 

見ると先ほどまで鈴芽の【父役】だった男が湯呑を落とし、紫を見ながら怯えていた。

 

 

 

 

 

「妖怪だぁぁぁぁぁ――――――っ!!!」

 

 

 

本当に、あの女の思惑通りに動かなくてはならない。

それだけが唯一の不満だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………解散」

 

夜の暗闇を灯が照らす賑わい。

その一角に、浴衣を見に包んだ3人の少女の姿があった。

 

そのうちの1人。月詠鈴芽は静かに重々しく言い放った。

 

「いや、なんでよ!?私が幽々子の能力抑えてここまで来るのにどれだけ苦労したと思ってるの!!」

 

「ふふ……。こんな庶民の小さなお祭り、参加したところで一銭にもなりはしませんわ。私にラフな浴衣なんて肌に合いませんもの」

 

「昼間と言ってる事真逆じゃないのよ……。どうしたっていうの?」

 

 

 

そう、祭りへの参加を促したのも浴衣持参でと提案したのも彼女自身だ。

が、その意見は集合と同時に全く正反対のものへと姿を変えた。

 

祭りと言えば浴衣、浴衣といえば美女。

そんな安直な発想から生まれた今回の企画。

鈴芽自身、認める紫と幽々子の造形は間違いなく美女と評しても過言ではない。

そんな中でも特に際立つ自身の可憐さはきっと村の者の視線を男女問わず引きつける事だろう。

雑兵で周りを固めても意味はない。

美女の中で輝いてこその淑女。 そんな目論みが彼女の中ではあったのだ。

 

が、浴衣姿で現れた2人の姿に鈴芽は愕然とした。

 

浴衣という着物を簡略化したラフな衣服を身にまという事によって元々目立つものが更に、これでもかという程に際立っていたのだ。

女性特有の…、豊満な……、つまりは………、2人にあって鈴芽にないものだった。

 

 

 

「お2人には恥じらいというものがありませんのッ!?そんな大きな果物を二つもぶら下げた破廉恥な格好で出歩くなど、淑女にあるまじき行為ですわ!!」

 

2人の胸部を指差し叫ぶその姿には、どこにも【淑女】の要素はなかった。

そこはかとなく、涙目だ。

見る者によっては魅力的な2つの果実は、見る者によっては不快でしかない代物だった。

 

「ははぁ……」

 

鈴芽の不機嫌の原因を察した紫の口元がいやらしく釣り上がった。

今までの鈴芽の傍若無人な振る舞いが、今までたまりに溜まっていた鬱憤が

紫の中で一気に爆発した。

 

 

「へぇ~~……はぁ~~……そぉ~~~……」

 

顎を上げて視線を見下して、その両の腕で胸を支える様なポーズで。

鈴芽へと近づいて行く。

 

「まさか貴女がそんなに気にしてたなんて知らなかったわぁ~~…。本当なら私の能力で貴女に助力してあげても良いんだけど、ごめんねー?今幽々子の能力を抑えるので手一杯なの♪」

 

ぶちんっ!

ゆっくりと首元に縄をかけじわじわと絞めつける様な言葉攻めに、鈴芽の中で何かが引き千切れた。

見下すのが大好きな人間は得てして見下される事にひどく耐性のないものである。

 

 

 

 

「きいぃぃぃ~~~~ッ!!!」

 

ひどく甲高い金切り声が祭りの大衆の中で響き渡った。

幽々子も紫も、これほどまでに取り乱した鈴芽を見るのはこれが初めてだった。

と、同時にお嬢様キャラの金メッキの脆さを垣間見た気分だった。

 

「言わせておけばよくもまぁそこまで言いたい放題言えるものですわね!!勝負よ紫、幽々子!!!」

 

「は……私っ!?」

 

怒りの矛先は、つい先ほどまで傍観者だった幽々子にまで向けられた。

友のために健気な淑女、とは何だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大勢の村人がある一団をぐるっと囲っていた。

火事と喧嘩は江戸の花。その精神は幻想郷でも通じるようだ。

 

見物人の中央には幽々子・紫・鈴芽の3人。その前に置かれた酒・酒・酒。

浴衣姿の女3人が祭りのど真ん中で飲み比べ。大衆にとってはこれ以上ない娯楽なのだろう。

突然の思いつきに屋敷から連れ出され、言いがかりをつけられた上に妙な勝負に巻き込まれた挙句に大衆の見世物にされる。

今回の一番の被害者は間違いないく幽々子だ。

 

 

『なかなか面白そうな事してるじゃないか!』

 

どこからともなくエコーの効いた声が聞こえる。

周囲の空中に霧の様な靄が現れ、それが一ヶ所に集まり人の姿を成してゆく。

一見小さな人間の娘の姿を模しては入るが、一瞥して分かる人ではありえないその種族を象徴するかの様な長い2本の角。 伊吹萃香だ。

 

 

「こんな人里のど真ん中で酒飲みとは、随分酔狂だねぇ紫。嫌いじゃないよそういうの」

 

「祭りなんて、大なり小なり酔狂な連中のする事よ。便利な能力の使い手もいる事だし、ね?」

 

扇子の指す先には据わった目をして念仏でも唱える様にぶつぶつと呟く鈴芽の姿があった。

まさに酔狂代表。そんな姿だった。

 

 

 

 

「珍しい。格好つけのアンタが進んで酒を飲もうなんてねぇ。どれ私もひとつ参加してみるかな?」

 

「ハンっ!小鬼風情が淑女にケンカを売ろうだなんて、身の程知らずも良いところですわ……」

 

『小鬼』その一言が彼女の瞳に怒気を宿らせた。並の妖怪ならそれだけで逃げ惑う。

が、それに怯む鈴芽ではない。乙女の誇りを傷つけられた者は鬼にも負けない。

 

 

「言うねぇ…。なんなら酒と言わず拳で語っても良いんだよ?」

 

「喧嘩を買うなら土俵にちゃんとお上がりなさいな。ルールも守れない方に勝ち負けを決める権利はございませんわ……!」

 

2人の間に火花散る。

さて、彼女の当初の目的とは一体何だったのか。

 

 

「勝負は簡単。潰れたら負け、潰れなかったら勝ちだ!」

 

「望むところですわっ!どんな勝負も可憐に決める私の様をご覧なさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間にして10分程の時間が過ぎる。

幽々子・紫がのんびりと酒を口に運び、萃香が浴びる様に酒を飲む。

 

そして、鈴芽が顔を真っ赤にして地に顔を伏せていた。

彼女が酒に強いか弱いかといえば、極々普通である。

それを萃香相手に対抗心を燃やして酒を煽れば――――……結果こうなる。

 

 

「いやぁ~、相変わらずからかい甲斐のある奴だねー」

 

倒れた鈴芽を気に留める事なく各々が自分のペースで酒を口にする。

これ以上ない程に、自業自得だ。

 

「悪いわね幽々子。結局祭りらしい事何にもできなかったわね」

 

「本当にね…。ま、貴女達がいると結局どこに行こうとこうなるのは分かってたけど」

 

 

 

近いうちに、能力を使わせて再び祭りに来よう。

顔が、信号機の様に赤から青に変わり始めた鈴芽を見ながら、幽々子と紫は思った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。