東方忘却記   作:マツタケ

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その23

 

 

 

 

大小・形状・色彩、様々な光の弾幕が辺り一帯に飛び交っている。

指を使っていてはとても数え切れないその弾幕はさながら舞を思わせる華麗な軌道を描いて1人の少女にへと向かっていた。

 

その様はまるで無数に流れる流れ星。

見る者全てを魅了するその光の舞はあらゆる角度から対象者を襲い、それを全て避ける事など常人には到底不可能である。

 

だが、それを可能にする者がこの幻想郷には存在する。

光の粒を見極め潜り、相手と同じく弾幕によって対象者を撃墜させる。

そのやりとりをこの幻想郷では、弾幕ごっこと呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は舞い踊る光の流れに決して逆らう事なく光との接触を避ける。

髪を衣服をなびかせ光と戯れる姿がまるでダンスを彷彿とさせる。

光の華麗さが、返って少女の舞う様な動きを更に美しいものにさせていた。

まるで少女と光の社交ダンスだ。

 

 

慧音の放つ弾幕を鈴芽は一切反撃する事なく全てを見極め回避している。

そのスタイルは今までの古河音のそれとはまるでちがった。

今までの彼女ならばその飛行魔法のセンスに任せてとにかく反射で避けていた。

そうして隙を見ては出し惜しむ事なくスペルカードで押しまくる。

それが古河音という少女を知る者の弾幕ごっこスタイルだった。

 

舞を思わせるその様は彼女の使う珍妙な言葉を体現したかの様だ。

自称淑女で格好つけ、胡散臭さ溢れるエセお嬢様。

今の彼女はまさに月詠鈴芽という人格を表現するかの様なスタイルだった。

 

 

 

完全に遊ばれている。

尚も弾幕を放ちながら慧音の頭にそんな感想が過る。

休む事なく放たれる弾幕に対して相手は一切反撃する気配を見せてはいない。

反撃出来ないのではない。反撃しないのだ。

その証拠に、距離は離れていても微かに鈴芽の鼻歌が届いてくる。

相変わらずお世辞にも上手いとは言えなかった。

 

能力を使っている訳でもない。何か奇特な術を使っている訳でもない。

それは偏に経験と才能。

容赦なく自信に向かって襲いかかる弾幕を鈴芽は一切無駄な動きをする事なく全てを撃避け続けている。

否が応でもかつて八雲紫と渡り合った記憶の魔女、月詠鈴芽という存在を感じざるを得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾幕の雨が止み、しばし膠着状態。

ふぅと息を整える慧音に対し、鈴芽の方はまるで息を乱していない。

 

「流石は人里の守護者にて私のお姉さま。隙がなく、それでいて美しい弾幕でしたわ。

……それにしても、良也さんも攻撃に参加してくださいな。魔王相手に勇者と一対一だなんて聞いた事ありませんわ」

 

不満げに抗議するその様はあきらかに余裕の表れだった。

 

「え…?あ、いや…僕は遠慮しとくよ」

 

不意に向けられた矛先に良也も流石に戸惑う。

鈴芽の指摘した通り、今回の攻撃に良也は参加していなかった。

間近で放たれる慧音の弾幕に圧倒されていた……という理由もない訳ではない。

だが、一番の理由はもっと単純なもの。

 

女の子相手に2人掛かりでの攻撃という行為に躊躇った。

 

ただ、それだけの話である。

元々ルーミアと互角の実力を持ちながら未だ勝ち星を持たない彼だ。

生来の性格がそもそも弾幕ごっこに向いていないのだろう。

 

 

 

 

 

「まぁ、おおよその理由は見当がつきますし、そういう紳士な心意気は好感が持てます

………が、あいにく私はそれでお二方への反撃の手を緩める程優しくはありませんわよ?」

 

取り出されるスペルカードと共に鈴芽の瞳が怪しく光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――白昼夢・『デイドリーム』

 

月と太陽を模した大きな弾幕、それを取り囲む様に小さな弾幕が一斉に現れた。

大きな弾幕は小さく分裂してゆき、逆に小さな弾幕は密集して大きくなってゆく。

範囲は広く、慧音はもちろん良也もその標的と化していた。

 

 

身体を逸らして、回転させて、あらゆる弾幕を慧音は回避していく。

才能や速度に頼らず、経験を活かして無駄なく弾幕を避けるその姿は

奇しくも、先ほどの鈴芽の動きにとてもよく似ていた。

 

色違いの衣装を身にまとい特徴的なスカートを翻し踊る様に弾幕を回避していくその様は、皮肉にも姉妹と評するふさわしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を使い、頭を使い、身体を使って良也は必死に弾幕を避ける。

優雅に身体を動かす余裕などない。

被弾しない様に全神経を集中させるので手一杯だ。

そんなぎりぎりの最中で、はたまたぎりぎりだからこそなのか

ふと視界に入った慧音の動きに違和感を感じた。

何がどうおかしいなど分からない。だからただの直感だ。このままでは慧音は被弾する。

 

 

 

 

 

 

 

弾幕を潜りながら慧音自身も弾幕にて応戦する。

別に相手が弾幕を放っている間、こちらが反撃してはいけないなどというルールはない。

だが、そこで慧音に疑問が生じる。

反撃“出来ている”のだ。

弾幕ごっこにおてスペルカードとは文字通り切り札。

強力な弾幕を扱えると同時に決められた枚数を使いきってしまえばそこで負けは確定していまうというルールが定められている。

たしかに今鈴芽が放っている弾幕は回避し辛い。油断をすれば被弾してしまうだろう。

だが、妙に弾幕の軌道が単調だ。

少なくとも慧音の放つスペルカードを鼻歌交じりに避けていた相手の“切り札”とは思えない。

 

 

そんな彼女の疑問に応えるかの様に、突如景色が変わった。

 

「……っ!!」

 

否、変わったのは景色ではなく弾幕だ。

先ほどまでの弾幕の軌道、動きに形状、更には自分のいた位置や体勢までもが先ほどまでと全く別のものへと変化したのだ。

 

 

 

 

「白昼夢…。現実で目を覚ましている状態にも関わらず、非現実的な幻想を見てしまう現象の事を言います。

私の能力を持ってすれば更にリアルな幻想があなたをお待ちしておりますわ。

さぁ、あなたが今見ているのは夢、現実、どちらでしょう?そんな私の言葉もまた幻かもしれませんわ♪」

 

尚も弾幕を放ちながら、自らの切り札をあっさり丁寧にタネ明かし。

いくら弾幕ごっことはいえ、戦闘中にあるまじき行為である。

だが良いのだ。

技の解説は敵キャラには必須の様式美。むしろしない方が邪道なのだ。

 

別に彼女は本気で幻想郷を忘却へと陥れる事が目的ではない。

そうなっても構わない程度には考えてはいるが、これはあくまでゲームなのだ。

ゲームとはルールを順守してこそ面白い。

そして遊びとは面白さあってこそ、面白みのない遊びなどただの時間の浪費だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまっ……!」

 

突然変わった弾幕に流石の慧音も対処が追いつかず、1発の霊弾が彼女の後頭部へと当たりそうになる。

しかしその直後彼女の手は何者かに引っ張られて被弾を免れる。

 

「良也くん!?」

 

「たぶんこれで…アイツの能力効か…なくなったと思うん、ですけど……!」

 

本来弾幕を避けるだけでいっぱいいっぱいな良也だ。

当然そこに誰かのサポートに回る余力など持ち合わせていない。

それをなんとか慧音の被弾を免れるために全神経を注ぎこんだのだ。

文字通り、心身ともに疲れ切っていた。

 

違和感が、消えた。

視界も良好、記憶を弄られる余地もない。こうなればただの弾幕ごっこ。

 

「すまない良也くん、このままつき合ってもらうぞ!」

 

今度は慧音が彼の手を引き弾幕を潜り抜けてゆく。

手を引く良也の存在も計算に入れながら、右へ左へ上へ下へ、弾幕は決して彼女達に当たる事なく回避されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら良也さん、慧音ルートの開拓ですの?役得とはよく言ったものですわ。おほほほっ♪」

 

そんな様を見る鈴芽の表情は楽しげで、それでいて面白くなさそうなものだった。

弾幕ごっこのみならず、遊びはやはり張り合いがあってこそ。

しかし、彼女の理念は前世の頃から変わらない。

能力の通じない相手は彼女にとって“苦手”の対象に他ならない。

 

そんな想いが無意識か、はたまた意識的にか

弾幕の威力を、速さを、複雑さを、加速させていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…っ…はぁ…!」

 

 

スペルカードの効果が切れ、弾幕が収まる。

多少ムキになった彼女の弾幕は慧音の体力を削るには十分過ぎるものだった。

良也を連れて、というのも疲労の要素となり更にはその良也も満身創痍だ。

 

「Are you ready!! I'm Lady はじめよう♪」

 

対してこちらは鼻歌が進化してついにはマジ歌いになってしまっていた。

これではカラオケの点数も下手すれば50点届かないかもしれない。

 

 

 

早々に決着をつけなければ負けは確定してしまう。

能力を差し引いても表れるその圧倒的な実力の差にそう感じざるを得ない。

魔力が元に戻れば良也にも負けかねない、鈴芽は言っていた。

しかし弾幕ごっことは、元々弱者が強者と戦えるために作られたルールだ。

彼女の溢れんばかりの才覚と経験、“記憶を操る程度の能力”。

例え3日過ぎ魔力が戻ったとしても、弾幕ごっこという舞台の上でならそれでも負けてしまうかもしれない。

そう思わせる程のものだった。

 

 

 

だが、弱者が強者と戦えるためのルールというのであれば

それはこちらにも言える事。

慧音は次のスペルカードを取り出し、未だその闘志は衰える気配を見せない。

 

 

 

注意深く見なければ気づかない程のひとつの小さな泡がふわりと浮遊する。

それは、誰にも気づかれる事なく良也の髪に付着していった。

 

 

 

 

 

「うんうん♪その意気や良しですわ。

安西先生も仰ってましたわ、諦めたらそこで試合終了ですよ、と。

 

 

 

 

―――――――しかし」

 

パチンと鈴芽が指を鳴らすと同時に大きな破裂音が鳴り響く。

同時に下の湖へと良也は落下していた。

高い位置から石でも落としたかの様な水しぶきを弾く音が下の方から聞こえてくる。

 

「……………え?」

 

「ごめんあそばせ。本来ならば二対一の勝負に不服はないのですが、能力の通じない相手には少々トラウマがありまして、彼にはご退場願いました」

 

何が起こったのか、慧音の頭がついていかない。

突然の破裂音と共に良也の姿はなく、気づけば湖から何かが落ちる音がした。

下が湖とはいえこの高度、常人ならばひとたまりもない。

 

 

「ご心配なく、精々かるく脳震盪を起こした程度ですわ。

随分と高い位置からの落下ですが、彼の体質はお姉さまもご存じでしょう?」

 

あくまで古河音である彼女が指すのは良也の不老不死としての体質だった。

とある事情で不死と化した彼は何度死んでも消える事なく蘇る。

幻想郷にて彼を知る者なら誰しもが知っている事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、楽しい楽しい弾幕ごっこを続けましょう?

もし負けてもお姉さまなら特別に記憶を弄らずコンテニューは3回までと致しますわ♪」

 

 

 

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