東方忘却記   作:マツタケ

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サボってた訳じゃないんです! 決して更新サボってた訳じゃないんです!!
ただ色々と他にも手を出し過ぎて何から片付ければ良いか収集着かなくなってただけなんです。

―――それをサボりと人は呼ぶ。
次回でラストシリアス。シリアス好きなアナタもギャグ好きなアナタも、長い目でおつき合い頂ければ幸いです。


その25

 

 

 

 

 

草薙の剣。

少しでも神話やその類の話に興味のある者なら誰しもが聞いたことのある有名な代物だろう。

他にも都牟刈大刀・八重垣剣など多様な別名があるものの要は同一の品である。

良也の手に握られているのはまさにその日本古来より伝わりし最強の剣――――……

のレプリカである。

 

しかし、そこは仮にもかの神剣のレプリカだ。

本物に遠く及ばずともその剣には野火を薙いだという説に準ずる能力が宿っている。

それは『驚異を払う』というものだ。

幻想郷風に言うところの“驚異を払う程度の能力”とでも言おうか。

 

 

 

――――この場合『驚異』とは何を指すのか。

 

 

 

 

 

 

月詠鈴芽……。の記憶を宿した古河音の急変に当然の如く慧音は取り乱した。

しかし紫はすぐさま彼女に傷一つない事を見せて話した。

 

「もともと良也の“自分の世界に引き篭る程度の能力”は『止まれ』や『集まれ』といった概念的な能力に対しては非常に強力な能力よ。彼女の能力が通じないのもそのせいね。記憶、なんてまさしく概念に作用する能力だもの」

 

笑っていない。

口元も目も、淡々と説明する紫の表情は彼女らしからぬものだった。

両手で鈴芽を抱えているせいか、いつも覆っている口元もさらけ出したままだ。

 

 

「そんな良也がレプリカとはいえ草薙の剣を使って『驚異』を払ったのよ。然しもの彼女も抗うことはできなかったみたいね」

 

 

――――そう、草薙の剣が払った『驚異』とは。

 

月詠鈴芽の記憶、に他ならない。

屍人と評しても過言ではない前世より蘇り、この幻想郷を忘却へと誘う存在。

驚異と判断されるには十分すぎる資格を持っていたのだ。

 

相も変わらず淡々と語る紫を前に、未だぴくりとも動かない少女を前に、慧音は文字通り言葉がでなかった。

客観的に語るならハッピーエンドだ。

雨も止み、驚異は去り、目の前の少女も直に元に戻り、全て終息する。

 

 

 

 

素直に喜ぶには、余りに後味の悪いハッピーエンドだった。

この場にいる“月詠鈴芽と対面した者達”だからこそ、そう思うのだろう。

 

「さて、少しこの子を借りていくわね?」

 

通称“スキマ”と呼ばれる彼女専用の異空間が現れ、紫はその中に身を投じようとする。

咄嗟に手が出た慧音だが、それも霊夢によって遮られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里が一望できる崖の上でファスナーを開くように“スキマ”が開かれた。

そこから主である紫と、抱きかかえられた少女が現れる。

地に足が着いた事を確認すると抱きかかえたその手をぱっと離した。

当然少女はべしゃっという音を立ててそのまま地に落ちる。

 

 

「………まったく、相変わらず淑女に対する礼儀がなってませんわねぇ!」

 

「あぁ、変態という名の?」

 

先ほどまでのしんみりとした空気が嘘の様に。

つい数刻前までの気取った素振りが嘘の様に。少女の口から怒鳴り声が発せられた。

 

「あの場で紛らわしく狸寝入りなんてしてるからでしょ?」

 

「あら?あの場面は意識のない悲劇の少女を演じるのが最善の手でしたわ」

 

ぷいとその容姿に相応しく、その中身に相応しくない動作をとる。

語気もどことなく荒々しい、

この場に紫以外の者がいないせいなのか、かつての彼女の地が滲み出ているのだろう。

 

 

 

 

 

 

「………あと、どのくらいなの?」

 

「そうですわね……。一時間…保ちませんわね。三十分が良いところかと」

 

二人の間に一陣の風が過ぎった。

双方の髪がふわりと舞い上がり二人の表情を覆い隠す。

 

紫の能力によって一瞬にして雨の水気を消し去った崖の上に座り込み、人里をぼぅっと眺めた。

雨の恵みか、綺麗な虹がかかっている。

絶景、というのだろう。空も里も虹も、よく見える。

 

 

不意に小さなスキマが現れその中に紫が手を突っ込みごそごそと何かを探る様な動きを見せる。

そんな様を横目で見ながら相変わらず便利な能力だと思いながらも口には出さない。

癪だからだ。

そんな鈴芽の思考を知ってか知らずかスキマからひと組の徳利と猪口が取り出された。

早い話が、酒を飲むための一式だ。

 

「あの……私今は正真正銘の未成年なのですが?」

 

「じゃあ、飲まなければ良いでしょう?」

 

そう言って猪口を通じて紫の口に酒が注がれた。

ふぅと一息つくその動作はなんとも大人の余裕に満ち溢れ、何より美味しそうな所作だ。

冬の寒気が身にしみる頃合、さぞ身体の温まる事だろう。

 

「……………………」

 

ぷいとそっぽを向いた状態で、猪口だけが紫へと差し出された。

差し出された猪口を視野にも入れず、酒を含味。

ペースが早い。酒に強い彼女をこのままでは放っていてはいずれなくなってしまう。

 

「ふぅ……美味しい」

 

「注ぎなさいよっ!!」

 

ついにキャラが崩壊した。

そんな彼女の様に紫もすっかり満足気な表情をしていた。

注げと口に出させる事が彼女の目的ではあったが、予想以上の収穫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……幽々子は、元気にしてますの?というか、こんな時くらい記憶の境界を弄るのはお止めなさいな」

 

「イヤよ。貴女に記憶を読まれるなんて“一度”で十分だわ」

 

そうでなくとも、鈴芽の能力はどんどんと薄れていっている。

その上境界を弄って“壁”など作られては記憶など読み取れるはずもない。

 

 

 

「貴女はもう少し言葉を交わす事を覚えた方が良いわ」

 

「言われるまでもありませんわ。私は相手の記憶を読んで本性を知った上での言葉遊びが好きですの」

 

「悪趣味な……」 「貴女ほどではありません」

 

縦、横、斜めに、ずっと平行線だ。

あちらがあぁ言えば、こちらがこう言う。

互いに意見を認める事なく自らの主張こそが正しいとする。

文字通り昔から、そういう間柄なのだ。

 

 

 

 

「亡霊っていうのは燃費が悪いのかしらね?今じゃすっかり腹ペコキャラよ。

一日三食のご飯からおやつの支度、庭の手入れ。来客の応対まで庭師に任せきり。あぁ、妖忌の孫娘ね」

 

「………それ、本当に幽々子の話ですの?」

 

飲酒を中断し、目をぱちくりと見開いて紫の話に食いつく。

妖忌に孫娘がいたというのも驚きだが、それよりも幽々子の変貌ぶりに言葉がない。

たしかに幽々子は多少食い意地が張っていた節はあった。

しかし鈴芽の知る限り、少なくとも幽々子は誰かに依存した生活を送るような女ではなかったはずだ。

和服を身にまとったお嬢様。まさにそう呼ぶに相応しい良識派。それが鈴芽の知る西行寺幽々子だ。

 

紫の口から語られる幽々子が、どんどんと鈴芽の中の幽々子像を崩していく。

今、彼女がどんな人物なのか会ってみたくなる。

しかし、もう遅い。

酒に映る自らの顔を見ながら自虐的に微笑む。

残された時間も、もはやあってないようなもの。

 

「紫……」

 

猪口を地に置き、その視線が真っ直ぐと見つめる。

紫も、その様子だけで全てを悟ったように顔を伏せる。

なぜ、自分はいつも残される側なのかと思わずにはいられない。

 

笑い話も良いところだ。

そう誘導したのは他の誰でもない、紫自身だ。

良也の記憶を読み取られる事なく概念に対して有効な能力と彼の保つ刀の能力に目をつけ、それを事の顛末まで傍観していた。

前世の者は現世に影響を与えるべきではない。そんな歯の浮く様な正論の下鈴芽の消滅を誘導したのは八雲紫だ。

悲しむ資格など自分にはありはしない、そう自分に言い聞かせる。

 

 

 

 

「少し、言伝を頼まれて頂けません?」

 

「……貴女が私に頼み事なんて、逆じゃないの?こういうのは後で雨が降るものよ」

 

癖なのかそんな自分の気持ちを誤魔化すためなのか、皮肉は欠かさない。

元々そういう間柄なのだ。今更欠かしたくもない。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に―――…… 改めて悪趣味だと思うわ。貴女って女は」

 

鈴芽の言伝を聞いて、皮肉ではなく心底そんな言葉が出てきた。

らしいといえばらしいのか、呆れを通り越して笑いまでこみ上げてくる。

 

 

「頼まれなくもないけど、貸しにしておくわよ?」

 

「貸しって……。今の私にどうやって返せと?」

 

 

 

「良いわよ。今すぐ返してもらうから」

 

記憶も、意識も、もう随分と薄らいでいる。

時間がないどころの話ではない。

慧音の授業中によくこんな状態になっていた事が思い出される。

ウトウトと、相手の話を聞いているのかいないのか。

そんな事を思っている時点で月詠鈴芽という人格が薄らいでいる証拠だ。

 

 

「―――――最後くらい、私の友として逝きなさい」

 

 

 

 

 

 

 

『失礼…。紫、今までありがとう

 

貴女達との“友達ごっこ”は、とても楽しかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぷっ」

 

薄らいだ意識でもはっきりと聞こえたその言葉は鈴芽の笑いのツボを的確に突いたようだ。

 

「あっはっはっは……!!止めてくださいまし!そもそも私は貴女のお友達になんてなった覚えはありませんわ……あははっ!!けど、まぁ――――――――………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貸しなら、仕方ありませんわね♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ちぼうけを食らっていた良也と慧音の手にはひと串の団子が握られていた。

じっと待つのもアレなのでと良也が里で買ってきたものだ。

 

霊夢はというと、異変は解決したとの事で早々に帰ってしまう。

今回ばかりはその神経の図太さが良也には羨ましい。

彼はというと、仮にも古河音の身に剣を通した身としては非常に肩身が狭かった。

慧音自身はそれを責めることなどまずしないが、それでも気まずい事に変わりはない。

 

無言の、ただ待つだけの時間が淡々と過ぎる中、突然スキマが現れた。

2人共、その出現にばっと視線を移す。

 

 

 

スキマから現れた紫は、いつも通りだった。

口元は扇子で隠れて、目元はどこか笑っているような。

余裕と胡散臭さが全身から溢れ出す、まさに誰もが知る八雲紫だった。

 

 

 

「上白沢慧音、貴女の待ち人が待ってるわよ」

 

 

 

 

 

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