東方忘却記   作:マツタケ

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その2

 

『これより我が剣はアナタと共にあり、アナタの運命は私と共にありますわ。

ここに、契約を完了いたしました』

 

「……………」

 

どこかで聞いたようなセリフをすらすらと、まるでそれを自慢するかの様に語る。

これを本人(?)の意思で喋っているならまだしも、あきらかにそのセリフはとある有名作品のものをまるパクリしたものだった。

レプリカといえど彼の有名な草薙の剣として、もう少し威厳を保ってほしいものである。

 

 

 

 

「えぇ~と……」

 

長考の結論、ひとまず草薙の剣を元の配置に戻し倉の戸を閉めた。

仮にあの草薙の剣が本当に喋っているとしよう。

だからと言ってそのまま話を進めてしまえば、確実にこの超常現象に関わりを持ってしまう。

そうでなくとも最近妙な異変に関わったばかりなのだ。

嫌な現実を目の当たりにした時の大人の対処法。それは見なかった事にすることだ。

 

 

 

 

『いい加減になさいましっ!!そろそろ本当に怒りますわよ!!?

大体今のネタ振りを無視するとは何事ですの!? 私がわざわざネタに乗り易い様に有名なものをチョイスして差し上げたのにその優しさを無下にするなど、殿方の風上にも置けませんわっ!!』

 

 

金切り声が倉の外まで響き渡る。

もうちょっと雰囲気出せよ超常現象。仮にも伝説の剣のセリフが俗世に塗れ過ぎだ。

 

こうも叫ばれては無視し辛くなってくる。

しかし、だからといって再び戸を開けるには勇気がいる。それにこれが幻聴である可能性もまだ残っているではないか。

その時はすぐにお医者さんに相談だ。

 

 

 

「何やってるの良也さん?」

 

倉の前で葛藤に苛まれている中背後から聞こえる聞き慣れた声。

振りかえった先には声の主、呆れた様な目で良也を見る博麗霊夢の姿があった。

自覚はある。倉の前を行ったり来たりする姿はさぞ滑稽だっただろう。

 

「いや、なんて言えば良いのか……」

 

「ていうかさっきから『出しなさい』だの『こにゃにゃちわー!』だのうるさいんだけど。

何なのあれ?」

 

幻聴の可能性が、脆くも崩れ去ってしまった。

そうこうしてる内にも『ちなみにバカボンではなくさくらですわ!』などという声が聞こえてくる。どちらにせよ古い。

覚悟を決めて倉の戸を開け霊夢にもついて来てもらう事にした。

思えばこういう時こそ巫女の出番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ようやく私を外に出す気になりましたのね。ひょっとしてツンデレの真似事ですの?

お止めなさいな。良也さんにはとても会得できる代物ではございませんわ。

殿方のツンデレはもっとSっ気がありませんと――――………』

 

倉に戻るや否やペラペラと喋り出す。

どうやら相当に性質の悪い悪霊に取り憑かれてしまったらしい。

 

「これ、どうにかお祓いできないか?」

 

「えぇ~…、面倒くさいわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局アンタ何なのよ?」

 

草薙の剣を床に置いて、二対一での三者面談。

あまり客観的には見られたくない絵面だ。

 

『あら、まだお気づきにならないとは…。鈍い方々ですわね。

 

 

 

 

私の名前は月詠鈴芽。1週間程前にアナタ達のお相手をして差し上げたではありませんの』

 

月詠鈴芽とは。

慧音の妹にして外来人、上白沢古河音の前世の名前である。

かつては記憶の魔女として八雲紫や西行寺幽々子と肩を並べた程の人物であり、来世である古河音の身体に記憶と能力だけの状態で復活し『忘却異変』を起こした当人だ。

 

当たってほしくない嫌な予感が、見事に的中した。

予感というより良也の中では確証こそないものの八割方答えは出ていた。

やたらヲタク知識に精通して、その上嫌でも耳に残る珍妙な口調。

そんな人物少なくとも良也の知る限りでは1人しかいない。

 

 

「……いや、そのアンタがこんな所で何やってんのよ?」

 

文字通り剣になって倉の中で埃かぶって一週間放置されていた訳である。

良也としてもそこが疑問だった。

剣の正体が鈴芽であると分かっていても、どういう経緯でそうなったのか。

よりによって異変を鎮める鍵であり同時に良也のちょっとしたトラウマである草薙の剣に―――――――……

 

 

「………………まさか」

 

『意外と聡いですわね。

私自身も気づけばこの状態でしたので確証は持てませんが、恐らくはご想像通りかと』

 

答え合わせの結果、2人の意見は概ね同じもの。

つまり良也が草薙の剣で鈴芽の記憶を祓った際に、まるで刀身にこびりつく血の様に彼女の記憶が宿った、という説だ。あくまで仮説に過ぎないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ともあれ良也さん、今後アナタには私を常に持ち歩いてもらいますわ。お返事はイエスかはいでお答えください』

 

ちょいちょいと、分かる人には分かるネタを盛り込んでくる。

分かる僕も僕だけど…と、こんな時ばかりは自分のヲタクぶりを呪わざるを得ない。

剣なので表情は読めないが、声のトーンからして間違いなくどや顔だ。

 

「いや、それなんだけどさ。お前自分で移動とかできないの?ほら、こういう時ラノベとかだと剣はそのままなんだけど実体化した精霊的な何かが勝手に動き回ったり……」

 

『まぁ良也さんったら!実体化した私を所有者の権限で乱暴するつもりですのね!?エロ同人みたいに!エロ同人みたいにっ!!』

 

仮にも自称淑女が大声でえろえろ言うのはどうなんだ。

この話していて感じる疲労感。

良也には覚えがある。十中八九古河音と話している時のソレだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…ま、いいけどさ」

 

土樹良也は鈴芽の記憶入り草薙の剣のレプリカを手に入れた。

ものすごく余計なオプションである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の住む人里に対し、妖怪達の住まう妖怪の山。

そこには天狗や河童など高位の妖怪達が統括する、まさに妖怪の里の様な場所だ。

その技術力だけなら人のそれをも上回るほど。

 

そんな妖怪の山の上空を一陣の箒が駆けていた。

 

 

妖怪の山の、特に天狗は非常に仲間意識が強い。

その分外敵に対しての敵意は他の妖怪比ではなく、侵入者は容赦なく攻撃を仕掛ける。

駆ける箒の操縦士、古河音もまたかつては大量の天狗に襲われ命からがら逃げ伸びたという経験がある。

が、『とある理由』から今は自由に出入りをする許可を得ていた。

下手な真似をすれば命はないのは、今も変わらずだが。

 

 

 

 

「やっほーっ!あーっやさん♪」

 

相も変わらず図々しく、ノックもせずに唐突に侵入開始。

曰く『鍵が開いてるって事は入って良いっていうツンデレ式遠回しのメッセージでしょ』との事。

その理屈が通じるなら世界中の泥棒達は大喜びだ。

 

 

「あやや、どうしたんです古河音さん?たしか外の世界に帰ったはずでは?」

 

訪ねた(侵入した)古河音の先には大量の書類を抱えた少女がいた。

彼女の名は射命丸文。天狗の中でも指折りの実力を持つ鴉天狗だ。

が、彼女の知名度を支えるのはその実力とは別に彼女の出す新聞にある。

射命丸文の出す『文々。新聞』は元ある情報から好き勝手脚色しまくるその古河音に負けず劣らずの図々しい文面から幻想卿での知名度は低くない。主に悪い意味で。

 

「うわ耳早…っ!そうなんですけど、なんか私が幻想卿に馴染み過ぎたせいで戻れなくなったとかなんとか…」

 

「あぁ、なんとなく納得です。よっこいしょ…っと!」

 

抱えていた書類を机の上に降ろして一息。

それら全てに、写真や簡易描きの絵や印などが表記されている。

いわば新聞を作るための材料だ。

それらのネタを一部の新聞にまとめて大量に発行する。決して楽な作業ではない。

それでも本人は嬉々としてその作業に当たるのだから好きでやっている事なのだろう。

このまじめな働きの結果、人のプライバシーを決壊させるお騒がせ新聞ができるのだから悲しいものだ。

 

 

 

 

 

「で、ここに来たって事は今日もお聞かせ頂けるんですよね♪」

 

満面の笑みを浮かべて両の手を揉み手にしてごますりのポーズ。

声もどことなくいやらしい。色の方面ではなく何かを企んでいるかの様な。

 

「そりゃもう……。今回もとっておきのを持ってきましたぜ旦那ァ。ちょっとお耳を拝借」

 

すると誰がいるでもないにも関わらず2人で屈んで内緒話。

そう、古河音が妖怪の山を襲われることもなく自由に飛びまわれる理由がこれだった。

つまりはネタの提供・情報のリーク。

箒を使って好奇心の赴くままに飛び回る古河音は色んな人物と接点がある。

当然そこで得られる情報も多い。

その際に得たネタを、こうして新聞記者である文に提供するのが妖怪の山での彼女の日課の一部だった。

 

 

 

 

「…お、いいですね!それでは今回はそのネタをメインにしましょうかね……」

 

「あとですね、パチュリーさんが実は最近………」

 

「いやいやっ、さすがにそれを記事にするのはアウトですよ…。でも、ネタ提供の『お願い』をする際にそれは使えるかもしれませんね☆」

 

「文さん、お主も相当の悪よのぅ…」

 

「いえいえ、古河音さん程ではありませんよぉ…」

 

2人屈んで悪人面で、ふふふと笑う絵面はとても新聞記事の話し合いには見えない。

古河音としても自分の提供したネタを文が勝手に面白おかしく解釈して記事にしてくれるので、それだけでも十分すぎる程にメリットがある。

というか、元々この2人の性分が似ているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得いかないわね!」

 

突如、2人の元に現れた1人の少女。

この妖怪の山に現れるのだから彼女もまた人ではない。

姫海棠はたて。念写能力を用いて新聞記事を発行する文のライバル的存在だ。

彼女もまた文と同じく鴉天狗な訳だが、ノックとは何だったのか。

 

「土樹に続いてその子まで、なんでアンタのところばっかり提供者が寄りつくのよ!?」

 

「あやや、はたてさん。お久しぶりでぇーっす!」

 

「古河音さん!?それ私のフレーズ……」

 

 

 

姫海棠はたての発行する『花果子念報』は『文々。新聞』と並ぶ幻想卿の2大新聞だ。

とはいえ、どちらも読者の数はどんぐりの背比べ。

一部の者しか読まない人間。基本奔放な妖怪。幻想卿という舞台においてそもそも新聞というジャンルそのものがそこまで需要がない。

 

それでもどちらが人気かといえば文の『文々。新聞』に分がある。

はたてはその能力から家に篭り切りでも新聞が発行できてしまうのに対し、文のそれはまさに自らの足を使い情報を写真を記事にする。

どちらが読者に受けが良いかといえば、つまりはそういう事。

手間のかけた料理は美味しい。もちろん一概にそうとも言えないが。

 

 

「そういう訳で上白沢…は紛らわしいわね。古河音、今度私にもネタの提供してくれないかしら?」

 

「ん~~…悪いんですけど私『文々。新聞』派なので……」

 

「『紅魔館のメイドさんシリーズ』」

 

取り出されたのは紅魔館で働く十六夜咲夜含める妖精メイド達が写された写真の数々。

一枚一枚がどれもきれいな写り方をした絶品だった。

これが彼女の能力、念写である。

キーワードさえあれば自在にその場の映像を写真にできてしまう。まさに記者にとって夢のような能力だ。

ただし、自分で撮る訳ではないのでどうしてもありきたりな写りになっていまうのが欠点でもある。結果『文々。新聞』とネタが被り、早さで劣る『花果子念報』の不利になってしまう。

 

 

 

 

 

 

「今度なんて水臭い!実はまだ文さんにも話してないとっておきの奴が……」

 

「ちょっと古河音さん!?」

 

はたての写真をぎゅっと掴み、恍惚の笑みを浮かべてはたてを見つめる。

その様は傍から見れば恋する乙女に見えなくもないが、その心は煩悩塗れだ。

 

 

「すみません文さん、私は常に弱い者の味方なんですっ!」

 

「誰が弱い者よ!!?」

 

実際この中で一番弱いのは古河音に他ならないが、そういう話ではない。

前述の通りはたては非常に文の『文々。新聞』に対してライバル心を燃やしている。

もちろんそれは文自身も同じ事。

そんな彼女達にとってネタの提供者は必要不可欠。そんな人物にうろうろふらふらされては困るのだ。

 

 

「………へぇ~~。そういう態度なら私にも考えがありますよ古河音さん?」

 

いつもの笑顔で、声のトーンがいつもより低い。

こういう喋り方を古河音はどこかで見た気がした。

そう、悪戯がバレた際によく慧音が頭突きの寸前に嵐の前の静けさのごとくこういう喋り方していた事が記憶に蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今までネタを提供して頂いた際に『古河音さんの名前は一切出さない』という約束でしたよね?」

 

その言葉に、古河音の顔から血の気が引いた。

恍惚とした赤みがかった顔から青へと変化する様はさながら信号機の様だ。

そして次に文がどんな言葉を口にするのか、古河音には分かってしまった。

 

 

「次に書く記事が決まりました!ズバリ『人里の魔法使い見習いの新聞記事への貢献』うん、これに決まりですねっ♪」

 

これを訳すと『古河音の暴露してきた皆さんの失態』だ。

今までリークしてきたネタの中には幻想卿でも指折りの有力者達の物も多い。

この場合の有力者とは権力を持った者を指すのではなく、文字通り『力』を持った者達の事だ。

それらがバレれば槍やら炎やら風やら頭突きやらがもれなく彼女に降り注ぐ。

命はない。物の例えではなく、命がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっ…ずびばせん……っ!おがえじじばす!(すっ…すみません……っ!お返しします!!)」

 

写真をはたてに返す彼女の顔は涙溢れ鼻水の垂らした、それはもう見れたものではなかったという。

 

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