東方忘却記   作:マツタケ

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その6

 

天まで届きそうな勢いで伸びに伸びた竹の群れが日の明かりを塞ぎ、昼間にも関わらず地上は薄暗かった。

そんな竹林の中にちょこんと建てられた一軒家。

手作り感の溢れるその『小屋』は、木も然ることながら多くの竹も使われていた。

老いる事も死ぬ事もない永久の少女、藤原妹紅の住みかだ。

 

その小屋の主はただ今食事中。

とれたての竹の子を、野菜を、魚を、親の敵の様に噛みしめている。

食事中、というには少し穏やかではない。

 

「あぁ~…腹立つっ!あんの傲慢女め……!!」

 

頭に浮かぶは彼女の宿敵、蓬莱山輝夜の顔。

不敵に見下し高笑いを浮かべる彼女の姿を頭に浮かべて、また食材が噛みしめられる。

食材に意思があったなら、きっと大惨事だ。

 

やっ…やめてくれ! オレは食べても美味くは…ぎゃーっ!

お願い…っ! 私の事は食べても良いから、どうかこの子だけは……キャーっ!

 

きっとそれはまるでどこかの人と巨人の大戦争な惨劇が繰り広げられるのであろう。

それが食材と妹紅になり変っているのは実に幸いだ。

そうでなくても食事をその様な採り方をするははあまり薦められたものではない。

とっている食事がカロリーの高いものではないのが不幸中の幸いだ。そうでなければ確実に栄養は偏り後にとんでもない顛末が待っている。

 

 

 

 

そんな彼女の心境を知ってか知らずか、コンコンと小屋の扉が叩かれる。

その音に気づいた妹紅はいったん箸を置き、一呼吸。

彼女の下へと訪れる者は限られてくる。

この竹林に迷い込み彼女を頼る者と、彼女自身に用がある者。

ちなみに後者は言わずもがな、彼女の親友である上白沢慧音の事だ。まれに余計なプラスαもついてくるのだが。

 

いずれにせよ苛立った態度で客人を迎える訳にもいかない。

 

「はいはーい!」

 

などと考えている間にもノックは続く。

ドタドタと足音を立てながら扉まで辿り着き、ゆっくりと戸を開く。

 

「……ん?」

 

戸を開いた先に、誰の姿もなかった。

右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても、そこには誰もいない。

悪戯か?という考えが過るが、こんな竹林の奥にまで来て悪戯をするとも考えにくい。

 

もう一度辺りを見渡して戸を閉じた。

悪戯か何かは知らないが、いないものは仕方がない。

このままでは食事も冷めてしまう。

興ざめに似た感覚に妹紅の中での苛立ちも落ち着き始めていた。

 

「ふう……」

 

戸を背に瞳を閉じて、小屋の奥へと歩を進めようとした。

その時―――――………

 

 

「おどろけェ――――っ!!」

 

「ぎゃ―――――っ!!?」

 

声に驚き閉じていた瞳を開け、その先には長く伸びた舌に一つ目のついた紫色の傘。

そのインパクトが更に彼女を驚かせる。その勢いで戸に背を打ちつけた。

 

驚いたのは一瞬ですぐに冷静さを取り戻す。

見ればその姿には覚えがあった。

短い水色の髪にそのインパクトのあるその傘を持った少女。

人を驚かしその感情を食料とする、多々良小傘という妖怪だったはずだ。

 

そんな妖怪がなぜ妹紅の下までやって来たかといえば、答えは彼女の隣にあった。

 

「はい小傘ちゃん、ヘェーイっ!」

 

「へ…へ~いっ!」

 

小気味良い音を立ててハイタッチ。

その相手は彼女の良く知るものだった。毎度お騒がせ主人公・古河音だ。

その後も右でハイタッチ、左でハイタッチ、両手でハイタッチ。

そんな一見微笑ましい光景に先程まで静まっていた輝夜への怒りも相まって――――。

 

「ふんっ!」 「いっ………たぁぁぁ………!!」

 

思い切りその頭頂部に拳骨を食らわせた。帽子越しなのはせめてもの良心だ。

 

「ちょっと!親友のきゃわゆい妹にいきなり拳骨はないんじゃない!?」

 

「その姉から許可は得てるんだがな」

 

「あ……姉……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、傘の妖怪引きつれてうちに何の用だよ?」

 

ドカっと座って腕を組む。その姿は息子に説教をするお父さんだ。

その妹紅の前に頭にコブをつけて正座する古河音と小傘。

しかし心なしか小傘の表情は満足げだ。先程の1件で空腹が満たされたのだろう。

 

「仕方ないじゃない。空腹で困っていた女の子がいました。そこに俺・参上!助けてあげるのは自然ななりゆきじゃない」

 

多々良小傘の事情は妹紅も小耳にはさんだ事がある。

妖怪の多くは人間を食料とする。

中には彼女の様に恐れや喜びなど、感情を食料とする妖怪も存在する。

実際、人間を食す際にも恐怖の感情は味に深みを与えるらしい。

そんな“驚き”を食料とする小傘だが、そこは非常識こそが常識な幻想卿。

多少の事では人はそう驚いてはくれない。おまけに彼女自身が人を驚かすのに向いていなかった。

そのため、彼女は空腹で悩める日々を過ごしている。

 

「で、なんで私?」

 

人を驚かすのであれば人間は他にもいくらでもいる。

わざわざ竹林の奥地までやって来て蓬莱人相手にドッキリをしかける必要性が、妹紅には理解できなかった。

 

「くっくっく、分かってないねぇ…。相手を驚かそうと思ったら1人のところを狙うのが効率的なんだよ?特にモコちゃんみたいな実は若干コミュ症気味の人って突然の事に耐性ないからちょっと意表を突くだけで…………あ

 

「ふんっ!!!」 「~~~~~~ったぁぁ……!!」

 

本日2度目の拳骨だ。

1度目は手を抜いたが今度は本気。

普段から慧音の頭突きで耐性のある古河音でなければ気絶するレベルだ。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあさ、モコちゃんも手伝ってよ。小傘ちゃんのお・しょ・く・じ♪」

 

帽子を深く被り直して不敵な笑み。

段々彼女の回復の速さが人間のそれから離れてきている。

 

もちろん彼女がこれを無償の愛やボランティア精神で提案しているかといえば、否だ。

元々人を驚かすという悪戯に属する分野は古河音のもっとも得意とするところ。

その質の悪さは妖精のそれと比べても遜色ない。人でありながら下手な妖怪よりもその危険度は高めだ。

 

そんな古河音からすれば今回の話は実に彼女の趣味と特技を活かせるフィールドなのだ。

 

「アホらしい。なんで私が……」

 

昼食に使った食器や道具を片しながら、ため息と共に古河音の提案を一蹴。

人が道に迷えば案内くらいする。怪我をしていれば手当くらいする。

しかし、悪戯まがいの事をしてまで彼女の空腹を満たそうという気は妹紅にはない。

止める気もないが手伝う気もない。勝手にしてくれ、が本音だ。

 

「そんな事言わずに人助けだと思ってさ。どうせ暇でしょ?」

 

「暇だからって何でもする訳じゃないんだよ。お前だって暇な時に勉強するか?」

 

「そりゃそうだけどさぁ…」

 

もちろん妹紅の反応など最初から予想済みだ。

この様な相談、よほどのお人好しか悪戯好きでなければ面倒がって断るだろう。

慧音に至っては提案した瞬間頭突きが飛んでくるだろう。

 

「意外と面白いもんだよぉ?相手の行動予測してそれに合わせて準備して。

じゃあ、手伝わなくても良いからついて来るだけでも。相手の驚いた反応って癖になるもんだよぉ?」

 

面倒なら面倒じゃなくなれば良い。興味がないなら興味を持たせれば良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たとえば、輝夜さんとかね☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自己嫌悪。

 

この場合、自責といった方が適当だろう。

藤原妹紅は今、激しく自分を責めていた。

彼女の口車に乗ってしまい、のこのこと2人についてきている自分に。

何より今も尚心のどこかで蓬莱山輝夜の驚く様を心待ちにしてしまっている自分に。

冗談じゃない。これではまるで古河音の同類ではないか。

 

そう、これは親友の妹の頼みだから。無害な妖怪が腹をすかせているから。

必死に自分に言い聞かせる。

 

 

 

 

「………ストップ」

 

「どうしたの?」

 

道中、古河音の表情が変わる。

今まで見せた事がないような、その表情はふざけや遊びのない真剣そのものだった。

 

「……ここからは、奴の縄張りだよ」

 

「……奴?」

 

「モコちゃんの宿敵が輝夜さんなら、まさに奴は私の宿敵」

 

周囲の観察は1秒たりとも怠らない。

視野を広く一か所一か所を慎重に、思考を柔軟に考えられるパターンを全て考える。

一歩一歩、足元を確かめるように歩を進めてゆく。

 

「そう、奴は計算高くて人の思考を読む事に長けている。その策はさながら軍師。

奴の名は因幡…」

 

進めた右足にどこからともなく1本の縄が絡みつく。

 

「てえぇぇ~~~~~~……いっ!!?」

 

絡みついた縄はそのまま彼女の足を身体ごと上空へと引っ張り上げ、古河音を吊るし上げた。

ただ今彼女は片足を縄に縛られ宙ぶらりん状態だ。

 

 

「………………と、このようにてゐの狡猾な罠が仕掛けられてるから気をつけましょう」

 

振り子の原理でブラブラと揺れながら語る古河音の姿に妹紅は呆れて言葉もなかった。

 

「はぁ……美味しい」

 

一方小傘はというと、今の古河音の“驚き”を堪能しているようだ。

 

 

 

 

 

 

「あ~あ……。困るなぁ、せっかく仕掛けた鈴仙用の罠に勝手に引っ掛かってもらっちゃ」

 

現れたのは古河音の掛った罠の製作者、地上の妖怪兎・因幡てゐだった。

 

「ふふふ…。相変わらず見事なトラップ捌きね。てゐ!」

 

相も変わらず空中でぶらぶらと、大人しくしておけば良いものを喋る度に身振り手振りするものだから揺れはいつまで経っても収まらない。

 

「だからー、私は別にアンタを引っかけるつもりなんてないってば……」

 

そうは言いつつも口元はにんまりとニヤけている。

鈴仙用というのは本当なのだろう。が、罠に引っ掛かった者をこうして眺めるのは悪い気はしないようだ。

 

 

「だが、しかあァ―――っし!!」

 

余った片足で刃状の魔力を纏わせて自らを縛る縄を切り裂く。

箒がないので空は飛べない。

だが、まるで猫の様に空中で器用に態勢を立て直してゆく。

 

「私をいつまでも昔のままだと思ったら大まちがぁぁァァ~~~~~~……ッ!!」

 

華麗に地面へと着地した後、そのまま吸い込まれるように地面のそのまた下へと落下していった。

因幡てゐの専売特許、落とし穴である。

 

「馬鹿だね~~♪罠の下に罠を張って置くなんて常識………って何これ!!?」

 

腕にくくられた太い糸。

それが落ちていく古河音へとつながっており、当然そのまま彼女に引っ張られててゐもろとも落ちていく。

本来アリスが得意とする魔力糸の応用である。

 

 

 

 

 

「ったあぁぁ……!」

 

「ふふふふふ………人間はいつだって進化を続ける生き物なのよっ!」

 

「だったらその糸その辺の竹にでもくくりつけりゃ良いでしょ!?進化しても進歩してないじゃん!!」

 

穴の奥深くから、イタズラ兎と人間の声が響き渡る。

そんな滑稽な様が妹紅に教えてくれる。これが悪戯をするものの末路なのだと。

 

 

 

「さぁ、今日こそそのうさ耳を私にもふもふさせるのよっ!!」

 

「ちょ……!こっちくんな!!離れろ~~~~っ!!」

 

「さぁ、モコちゃん!てゐは私が喰い止める!その間に輝夜さん悪戯をッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………帰るか」

 

「そうですね♪」

 

小傘は3人分の“驚き”で満足し、妹紅は争いの不毛さを実感し、古河音はてゐのうさ耳をもふもふできた。

これが因幡てゐのもたらした幸せなのか否かは定かではない。

そんな1日だった。




どうも、久しぶりの本編更新となりましたマツタケです。
前回の人物設定除くと本当に久しぶりの更新な気がします。
えっとですね、今まで何してたかというと別に遊んでたわけじゃないんです!
いや、遊んでたんです。
というのも、今までずっと東方の動画作ってました。
動画っていっても5ページの4コマに色塗って作るだけなんて簡単じゃん♪
なんて思ってた時期が私にもありました。その結果がご覧のあり様だよっ!!
全ページに色塗るのすっごい手間なんだよ!時間かかるんだよ!
何の言い訳にもなってないよ!結局横道それて更新サボってただけっていうね!

そんな訳で『記憶を失くした霊夢ちゃん』という動画をニコニコの方に投稿させて頂きました。
暇で暇でしょうがないという方は「そういえばどっかのアホ作者が動画作ったとか言ってたな」という気持ちで退屈しのぎにでも見て頂けたら嬉しいなーと思います。

…………うん。コレ完全に宣伝ですよね。
ホント前回から成長なくてごめんなさい。だいぶ前からもう私の成長止まってるんです。
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