東方忘却記   作:マツタケ

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その7

 

 

土樹良也は魔法使い見習いである。

これは今さら説明するまでもないだろう。

だが、同時に彼は社会人でもある。英語を担当する新米教師だ。

 

そう、彼は“中”と“外”、2つの世界を行き来してそれぞれの生活を両立している。

しかし幻想卿とは違い外の世界には世間というものが存在する。

早い話が仕事が忙しくなれば当然外の生活を優先しなければならない。

 

そのため、良也はここしばらく幻想卿に来る事が出来ずにいた。

実に1ヶ月ぶりの幻想卿再来である。

 

外と幻想卿の入り口は双方に存在する“博麗神社”。

なので良也が幻想卿に訪れる際には博麗神社に必然的に訪れる事になる。

 

『幻想卿も久しぶりですわね。娯楽に事欠かない“外”も良いですが、やはりこちらが落ち着きますわ』

 

良也の手に握られているのは諸悪の根源にしてもはや呪いの産物、草薙の剣のレプリカIN月詠鈴芽である。

元来良也の能力を持ってしても博麗大結界を超えられるのは良也単身。

だが良也と剣の間にある契約の効果なのか、はたまた単に鈴芽が“物”扱いなのか、鈴芽もまた良也と共に外の世界へと行く事が可能だった。

 

 

 

 

 

 

「あら良也さん、来てたのね」

 

境内の方まで進んだ先には珍しくも掃除をする博麗霊夢の姿が。

雨でも降らなければ良いのだが、と心の中でつぶやき頭を振ってすぐさまその考えを打ち消す。

でないと勘の良い霊夢はそれをピンポイントで読みとってくるのだ。

 

「……何してるのよ?」

 

「いや、それよりほれ。これ今回の賽銭」

 

来る度来る度、霊夢が賽銭を要求するのはもはや挨拶のようなもの。

人とは個人差はあれど環境に適応していくもので、もはや催促される前に賽銭を支払うのが習慣と化していた。

幻想卿に来る時は大抵神社に泊まらせてもらっているので、宿泊代と思えば安いものだ。

 

「………………………………」

 

賽銭を前にしばし動きを止め、何かを考えるように顎に手を当て無言を保つ。

まさか賽銭の値上げを要求するつもりではないだろうか、そんな事を良也が考えていると霊夢の口から驚くべき言葉が発せられる。

 

 

 

 

「良いわよ、今のところはそこまで家計も苦しくないし。それより上がりなさいよ。お茶くらい淹れるわ」

 

目の前の賽銭に手をつけず、あろう事か労いの言葉まで残して、そのまま良也に背を向けお茶の準備。

 

 

 

 

「…………………え?」

 

『……え?』

 

 

「『ええぇぇぇ~~~っ!!?』」

 

霊夢が賽銭を拒んだ事。無償で来客を歓迎する事。それらが2人の思考を数秒間完全に停止させていた。

彼女が姿を消した後、呆然としていた2人に時間差で衝撃が押し寄せてきた。

それも失礼な話ではあるが、彼女を知る者にとってはそれだけ驚くべき事なのだ。

 

『何をなさいましたの良也さん!?新たな能力にでも目覚めましたの!?【相手に気遣いをさせる程度の能力】とか……』

 

「いや、そんな能力に目覚めた覚えはないんだけど……何か良い事でもあったのか?」

 

『……逆かもしれませんわ。何かよほど辛い事があってお賽銭を受け取る気力もないのかも』

 

本人がいないのを良い事に2人揃って言いたい放題である。

いずれにせよ、その真偽を確かめるにはあまりにリスクが高すぎる。

彼の博麗霊夢がお賽銭を遠慮するなど、これはもはや異変の領域。気安い気持ちでそれを尋ねようものならば一体何が起きるかまったく予測不可能。

 

 

 

 

 

神社の居間でただお茶を啜る音だけがその場を支配する。

何か特別という訳でなく、いつも通りの光景だ。

元々良也も霊夢もそこまで喋る方でもなく、ただ2人してお茶を飲んで日永に過ごすというのは珍しくもない。

 

相違点があるのなら霊夢自ら良也にお茶を用意するという点。もうひとつは良也の胸の内である。

単純に、気まずい。

霊夢の心境が分からない以上、お賽銭払わないでヤッター。お茶淹れてもらってヤッター。などと素直に喜べるはずもない。

そんな気持ちを洗い流すようにお茶を飲み干し、湯呑を洗うために腰を上げる。

洗い物も、賽銭同様に彼が神社に訪れた際のもはや習慣だ。

 

 

「良いわよ。私もちょうど飲み終えたし、座ってて」

 

片手に自分の、もう片方に良也の湯呑を持って、スタスタと洗い場まで。

その姿はまるで昭和映画で旦那を気遣う健気な嫁のそれ。

 

 

ええぇぇぇ~~~っ!!?

 

本人に聞こえないように、心の中で再び絶叫。

もはやアレは霊夢の偽物か何かではないのか、そんな疑問すら2人の脳裏に過る。

元々霊夢の家事スペックが高い事は良也も知っている。

だがそれでも、未だかつてあの博麗霊夢がここまで献身的な動きを見せた事があっただろうか。いや、ない!(反語)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢の真意を確かめるにはあまりに怖く、その場に留まるにはあまりに気まずく

良也は逃げるように人里まで来ていた。

時間が解決してくれるかもしれない。そんな淡い希望にすがって。

 

『……まったく。我がマスターながらそのヘタレ加減はどうにかなりませんの?』

 

「じゃあ、お前が霊夢に聞いてみろよ」

 

『そんなデリカシーのない事出来る訳ありませんわ。きっと今の霊夢さんはその胸に大きな傷を負っていらっしゃるに違いありませんもの。そんな霊夢さんの心に土足で踏み込むような真似、私にはとてもとても……』

 

相手を気遣う出来る女を演じてはいるが、要は鈴芽も聞きづらいという事である。

ペットは飼い主に似るという説が存在するが、案外剣であってもその理屈は通じるらしい。

 

 

 

 

「よう、土樹。久しぶりじゃねえか」

 

「いや、最近忙しかったもんで……」

 

そんな彼らの下に現れたのは人里でも指折りの大工の頭領、源さんである。

まさに大工になるべくして与えられた様な、そんな名前だ。

元々酒好きな良也は人里で飲む機会も少なくない。

酒の力は年齢を超えて、そこにコミュニケーションの場を自然と作るものだ。

早い話、飲み友達である。

 

「まぁ…その、なんだ……外の世界ってのは色々あるんだろ?俺にゃあ分かんねえけどよ…」

 

「え…?はぁ……まぁ…ねえ」

 

目線をそらしながら、歯切れ悪く短く刈り上げられた髪をぼりぼりとかき始める。

いつもの快活な彼からは想像もつかない姿である。

 

「この前もらったとっておきの酒だ。コレ飲んで嫌な事忘れちまいな」

 

「え…っ!?良いんですか!?」

 

「良いんだよ。コイツを今必要としてるのは俺じゃねえ」

 

酒好きの良也としてはとてもありがたい話だ。

しかしあまりに唐突過ぎて素直に喜べない。

そう、先程の霊夢の件と同じ理屈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、良いもん持っとるじゃないか!」

 

 

「……目聡いですね、マミゾウさん」

 

開口一番良也の持っている酒に目をつけたのは正当なる化け狸の頭領。

二ッ岩マミゾウだった。

種族の特性か彼女自身のものなのか、マミゾウはその高い柔軟性から人妖問わず種族を超えて色んな者の相談役となっている。

 

「はっはっは、そうでなくては経営など成り立たんからのう!」

 

彼女は幻想卿に来る以前は外の世界で会社を切り盛りしていた。そうして今現在幻想卿にて早くも顔馴染みとなっているのだから、まさに適応能力の塊である。

 

 

 

互いに木にもたれて座り込み早くも貰い物の酒を開けて昼間酒。

ここが幻想卿でなければ立派なダメ人間である。

 

「お、良い味してますね…」

 

「本当にのう。こんな良い酒を1人寂しく飲むのはもったいない。儂が来て良かったじゃろう?」

 

「ははは……」

 

物は言い様である。

目聡く良い酒をたかりに来ただけなのに言い方次第で恩人の様に聞こえてしまう。

それも何故か彼女が言うと説得力を持っている。

言葉とは、使い方次第で人の心を動かす力を秘めている。彼女はその使い方を熟知していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしのぅ……」

 

酒の入った猪口をゆらゆらと揺らし、中に入った酒を弄ぶ。

本来ワイングラスでやるアレだ。

 

「儂も多くの人間を見てきた。十人十色、人の数だけ趣味や好みがあるのは知っておるし、それを咎めるつもりもない。

が、それで人に心配をかけるのは違うんじゃないかのう?」

 

「……はぁ」

 

さながら先生の様に、まるで人生相談の様に、何か深そうな事を言い始めるマミゾウ。

だが、その言葉の真意が分からない。

何か深い事を言っているのは良也にも分かる。

この場に2人しかいないのだから良也に向かってその言葉を投げられているというのも分かる。

しかし彼にはその言葉に思い当たる節がない。

 

「その様子だとまだ見とらんようじゃのう。まったくあの天狗にも困ったもんじゃ。世間にはぷらいばしーというものがあるじゃろうに」

 

マミゾウの懐から取り出されたのは一枚の新聞紙。

外の世界のものではなく、幻想卿のものだ。

彼もよく知る幻想卿のパパラッチ、射命丸文の『文々。新聞』だ。

 

 

 

「…………お」

 

一面に大きく載せられた記事には良也の姿がくっきりと写っていた。

その内容は

 

幻想卿のお菓子売り土樹良也。泉のど真ん中でひとり女性口調で高笑い。

隠された趣味か!? はたまた外の世界でのストレスか!? これが精神病というものなのか!?

 

というものだった。

 

『あらあら、綺麗に写ってますわね(草薙の剣が)。さすが私、無駄がなくそれでいて美しいフォルムですわ』

 

「これは珍しい。口を利くのかその剣は」

 

妙に優しい霊夢・唐突に酒をくれた源さん・文々。新聞

点と点が線で繋がった。

思い返されるは、以前古河音との弾幕ごっこの際に起った顛末。

 

『ですが残念ですわね……。私実はもう少し左斜めから撮った方が写真写りが……』

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のせいかァ~~~~~~~~~ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え? こんなオチ前にも見た事ある?

あややや、私には何の事やらさっぱり……。

 

ここからはおまけですよー!

 

 

 

 

 

 

 

魔「ハイハイどうもー。霧雨魔理沙です」

 

古「上白沢古河音です」

 

魔「まさかの2回目ですよコレ」

 

古「そうなんです。まさかの2回目やっちゃうんです」

 

魔「まぁ、やるからにはね。大爆笑とっていかないと」

 

古「そんな訳でね、私達【しまう魔女】っていうんですけどね」

 

魔「………ん?」

 

古「名前だけでもね 魔「いやいや…」 覚えていってくださいねー」

 

魔「いやいやいや…」

 

古「実はですね私 魔「いやいや」 最近ハマってるものが… 魔「いやいやいや」

 

古「『いやいや』うるさいなっ!」

 

古「何なんですかさっきから!?若干いやいやがゲシュタルト崩壊起こし始めましたよ!」

 

魔「だってお前…何なんだよ【しまう魔女】って?」

 

古「私達のコンビ名ですよ。シンプルで良いでしょ?」

 

魔「ないわ~…」

 

古「えー…」

 

魔「ていうのもですね?私達ネタ考えててコンビ名なかなか浮かばなかったんですよ。

  そしたらコイツが本番で名前考えて発表するなんて言い出すもんだから任せたら…

  このザマですよ」

 

古「何なんですかこのザマって!まるで私がコンビ名でスベってるみたいじゃないですか!」

 

魔「スベってるよ。思いっきりスベってるぜ?東方M-1見てみ?みんな格好良いコンビ

  名だろ?」

 

古「まぁ…たしかにねぇ」

 

魔「ウィッチドール・巫女巫女スパーク・こーりんスパーク、みんな格好良い!」

 

古「全部自分の出てるコンビ名じゃないですか……でも分かりました。

  格好良いのが良いと」

 

魔「やっぱり何事もね、形から入らないと」

 

古「それならとっておきのがありますよ!」

 

魔「ほう、とっておきのが」

 

古「ほら私達2人とも白と黒の衣装でしょ?でもって2人とも魔法使いじゃないですか」

 

魔「はいはい」

 

古「だからですね。【純白の聖なる光と漆黒の闇連なる衣装を身に纏いし魔なる…

 

魔「なげーよっ!」 ぺしっ!

 

古「痛ぁ~…!」

 

魔「どこまで続いてくんだよ!?中二病かっ!」

 

古「いや、格好良いのが良いって言うから…」

 

魔「格好良くもないよっ!ただただ痛々しいわ!

  もっと他にあるだろ?シンプルなので良いんだよ」

 

古「えぇ~~…。シンプルにしたら格好良いのが良いって言うし、格好良くしたらシンプル

  にって言うし、魔理沙さんさっきからなんだか………

 

  ウケる~♪」

 

魔「ウケるかっ!」 ぺしっ!

 

古「痛ぁ~…!」

 

魔「何にウケてんだよ!もっと真面目にやれって!」

 

古「じゃあ、魔理沙さんだったらどんなコンビ名にするんです?」

 

魔「要は、白と黒に関連したコンビ名にしたいんだろ?」

 

古「そうですね」

 

魔「格好良く、シンプルに、【オセロ】!」

 

古「それダメなやつ!!」

 

魔「……なんで?」

 

古「ダメですよそれは…!魔理沙さんは知らないかもしれませんけど

  そのコンビ名もう外で使われてますからね?」

 

魔「そーなのかー!」

 

古「ルーミアかっ!……え?なんで今それやった?

  それこーりんスパークの時に使ったネタですよね?」

 

魔「ぜ☆」

 

古「好きですねそれ! ……とにかくそのコンビ名は却下!」

 

魔「相方さん一時期大変な事になってたしねぇ」

 

古「知ってんじゃないですか!」

 

魔「催眠術怖い。ホント怖い」

 

古「がっつり知ってんじゃないですか……」

 

魔「まぁ今回の事でね。お前のネーミングセンスのなさが判明したな」

 

古「そんな事ないですよ。私めっちゃネーミングセンスありますよ」

 

魔「本当か?こういうのは普段のちょっとしたところに表れますからね。

  例えばスペルカード、恋符【マスタースパーク】 かっこいいっ!」

 

古「そんなの私だって愛符【萌えぇぇぇ~~~~っ!!!】」

 

魔「ふざけてんのか!」 ぺし!

 

古「痛ぁ~…!」

 

魔「ふざけてんのか!何だよ萌えぇぇぇ~~~~っ!!って。

  ちぇぇぇぇぇぇん、じゃないんだから!

  言うか?弾幕ごっこ中にちぇぇぇぇぇぇんなんて言うか?」

 

古「藍さんが?」

 

魔「そう」

 

古「スペルカード持って?」

 

魔「そう」

 

古「キリっとした顔で」

 

魔「そう」

 

古「ちぇぇぇぇぇぇん! って?」

 

魔「……そう」

 

古「式神【ちぇぇぇぇぇぇん】って?」

 

魔「…………そ」

 

魔・古「ぷっ!」

 

古「……何笑ってんですか!?」

 

魔「お前だって笑ってるだろ?お前が何回もちぇぇぇぇぇぇん言うから……」

 

魔・古「……………」

 

魔・古「ぜ☆」

 

魔「被せんなっつの!」 ぺし!

 

古「痛ぁ~…!」

 

魔「なんで今被せてきた!?

  そこは私が、ぜ☆でお前がツッコミで一区切りつけたろ?」

 

古「ぽにょ☆」

 

魔「ぽにょ☆って何だよ!?もう原型がわかんねーよ!

  いやお前はね、普段からそうやって人のものパクるよな」

 

古「そんな事ないですよ。私言う程パクってないですよ?」

 

魔「いーやパクってるね。例えばお前の帽子、私と同じデザインだろ?」

 

古「そうですねぇ」

 

魔「パクってんじゃん」

 

古「そこを言われると……ねぇ?」

 

魔「あとお前のその服、慧音と同じデザインだろ?」

 

古「そうですねぇ」

 

魔「パクってんじゃん」

 

古「いや、そこはお揃いで良いじゃないですか!姉妹なんだし」

 

魔「いやいや、幻想卿の姉妹見てみ?みんな服装工夫してるから」

 

古「うーん、今度作り直そうかなー?

  あ、話は変わるんですけどね」

 

魔「はいはい」

 

古「私がパチュリーさんに借りた本が最近無くなっちゃいまして」

 

魔「それは大変」

 

古「パチュリーさんが返せ返せうるさいんですよ……。

  あとで探すの手伝ってもらえません?」

 

魔「あー、それなら大丈夫」

 

古「え、なんで?」

 

魔「その本ならちゃんと私の家に仕舞ってるぜ」

 

古「あー、それなら安心…………ってパクってんじゃん!

  いい加減にしろ!」

 

魔「どうも、ありがとうございましたー」




「でもお前、あの本私が持ち帰った時点で相当返却期限過ぎてたよな?」

「いや~、返さなきゃいけないって思ってたんですけど、他の事に目がいくとついつい忘れて」
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