東方忘却記   作:マツタケ

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その9

 

 

 

 

「私こそがこの世界の本当の支配者……真・X(エックス)とでもお呼び頂きましょう」

 

先程まで一切口を挟まなかった女は、突然口火を切ったように喋りはじめた。

紅くゆったりとした着物と艶のある黒髪が、まるで平安の世の貴族を思わせる。

その純和風を思わせる雰囲気と真・X(エックス)などという中二めいたネーミングが。この上なく似合っていない。

 

が、レミリアの本能はこの女は危険だと最大限に警鐘を鳴らしている。

 

「ちょっとそこの真ん中分けのお姉さんやっ!」

 

そんな彼女とレミリアの間に、空気を読まずに古河音が割って入る。

相も変わらずその復活の速さだけなら、そろそろ人間の域を脱し始めてきている。

 

「困るんだよねぇ~、そういうバレバレの嘘ついてもらっちゃ!

私ちゃ~んと能力でこの世界のルール把握してるから!そんな真の支配者だとかそんな2流漫画家が設定しそうなルール……」

 

はたと、古河音の言葉が途中で止まる。

首をかしげて何かを考える様に人差し指を顎に当てて、今まで忘れていた事を思い出したように表情をはっとさせた。

 

「あー、そっか。なんらかの方法でルールが破られた時のために、その場を取り仕切る真のルールマスターが用意されてたんだっけ」

 

「思い出して頂たようで、なによりますわ」

 

納得、そう言わんばかりに片手をパーに片手をグーにぽんと軽く叩きつける。

すると今までの不満どこへやら。

どこからか取り出したセーラー服を着物の女へと薦め始める。

 

そんな光景を、レミリアを含めた数名の者は疑問を抱いていた。

第一に、古河音がこの世界のルールを把握していたのなら、そんなルールの根本を失念するのは不自然だ。

第二に、都合とタイミングが良すぎる。

古河音が彼女を責め立てようとしたその瞬間に、まるで狙ったかの様に、それも彼女にとって都合の良いルールをぽんと思い出した。

 

さながら『古河音の中の記憶が捏造された』かの様に。

 

 

 

 

 

「あーはいはい、そういう事ね」

 

つかつかと、真・X(エックス)を名乗る彼女の下へとレミリアは彼女へと歩みを進めた。

その低い背丈からは想像もできない眼力で、紅い瞳が女の瞳を見上げた

見ると案の定その瞳は真っ黒で、そのくせ光を浴びた部分は黄金色に染められていた。

 

「話は聞いているわよ。私の知らないところで随分と好き勝手してくれたようじゃない?」

 

「……………」

 

口元に笑みを浮かべたまま、ただ無言でレミリアを見つめ返す。

 

そんなやりとりを遠目に、良也は手元にある草薙の剣のレプリカを上下に振り始めた。

思った通りに返事がない。ただの屍のようだ。

いつもならば、やれ置き方が雑、やれもっと丁寧にと口うるさい呪いの魔剣がこの空間に入って以降一言も発していない謎がここでようやく解けた。

 

古河音の話した通りならば、この空間はすごろくをするためのものなのだという。

つまりこの空間に入れられた者はすごろくをするためのプレイヤー。

思念だけの存在である“彼女”もプレイヤーの1人としてカウントされたという事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、だんまり? あぁそうか。ソイツが傍にいるから話すに話せないのか。

難儀なものねぇ。生まれ変わってまた消えて、そのくせ未だ無様にこの世にしがみついている女っていうのは」

 

「………ふふふ…」

 

別にその煽りに、特に意味はなかった。

何かを聞き出そうという訳でも、“彼女”を怒らせる事が目的でもなく。

更に言うならレミリア自身に、煽っているという自覚すらない。

ただそれは、吸血鬼の貴族としての目線が自然と身内以外を常に見下してしまう。

つまりは煽っているのではなく、本心から相手の事を見下しているのだ。

 

「………以前の知り合いにも何人か鬼の知り合いはいたのですが、どうしてこう……

 

 

 

古今東西、鬼という種族は皆様身の程知らずな方ばかりなのでしょう?」

 

「………思念体風情が、言ってくれるじゃない」

 

 

【挿絵表示】

 

 

金と紅の瞳がしばらく無言で見つめ合う。

張り詰めた空気にこの場にいる誰もが弾幕ごっこの開幕を覚悟した。

無論それはレミリアとて同じだ。

 

が、そこで彼女は…鈴芽は、くるりとその身を翻す。

 

「幻想卿という舞台では双方の決着は弾幕ごっこで着けるのが相場ですわ。

しかし、この世界では『すごろく』で着けるのがこの場のルール…私の事が気に入らないのであれば、ルールに則ってすごろくで勝敗をつけましょう」

 

「散々偉そうな口を叩いておいて………怖気づいたのならそう言いなさい」

 

「今や妖精や妖怪までスペルカードルールを順守する世の中ですわ。それが高貴な貴族ともあれば尚更でしょう?

貴女も貴族であるならそれに従うべきですわ。古人曰くルールを守って楽しくデュエル。

まさかスペルカードルールが守れて、この世界のルールが守れないだなんて言いませんわよね?」

 

それはまるで穴のあいてしまった米袋の様に、その開いた口からは次から次へとぽろぽろぽと屁理屈が。

相手に反論の隙を与えない。詐欺師などがよく使う手である。

 

 

 

 

 

 

「………面白いじゃない。まさか運命を操るこの私に運で挑もうなんてね」

 

こうして、紅魔館メンバープラスαによるすごろく大会が開始される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーかお前これ……最初から狙ってただろこの展開」

 

真っ白な空間は、いつの間にやらどこかで見た事のある竹林だ。

一見するとみんな揃って迷いの竹林へ移動しているかのように見えるが、地面には一面のすごろくのマスが描かれていた。

どうやらこのすごろく、プレイヤーの記憶を読みとってそれを背景にしてしまうらしい。

この空間が最初真っ白だったのはつまりそういう事だ。

 

 

「もちろんですわ。あのお嬢様ならちょっと挑発しただけで乗ってくれると信じておりましたもの。

私久々に本来の身体と能力を取り戻せてテンション上がっておりますの。誰が早々にこの身体を手放すものですか。存分に楽しませて頂きますわ!おほほほっ♪」

 

レミリアに聞こえぬようにボリュームを抑えて高笑い、器用なものである。

先程まで出していたカリスマらしきものは、今や見る影もない。

どれだけハリボテのキャラで全身を覆い尽くしても、結局はコレが地なのだという事を良也は知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~…。これを振って出た目の分だけ進めば良いのね?」

 

ところ変わって、動かない大図書館パチュリー・ノーレッジは通常のものよりもだいぶ大き目のサイコロを手に上下左右から観察していた。

単純に自分の知らないすごろくというゲームに興味が沸いたようだ。

知的好奇心という点においては彼女の右に出る者はそうはいない。今回割とノリ気らしい。

 

「それにしても、こんな大規模な魔法を使ってこんなくだらないゲームを作るなんて……。

一体これを作った魔導師は何を考えてるんでしょうか?」

 

訪れた事のない迷いの竹林をキョロキョロと見渡して、小悪魔は辺りの背景の完成度に感嘆の声をあげていた。

訪れた事がないとはいえ、竹林特有の湿気った地面に生えている竹まで、完璧に本物だ。

人の記憶ひとつからこれだけのものを再現するのは並みの魔法使いが出来ることではない。

にも関わらず、その技術をもってやっている事はただのボードゲーム。

少なくとも小悪魔にはこの魔導書の主の神経が理解できないでいた。

 

「貴女も魔女の従者なら覚えておきなさい。魔法使いなんていうのは大なり小なり皆変わり者よ」

 

「そんなっ!パチュリー様は変わり者なんかじゃ……………ありませんよ!」

 

「今の間が何だったのかは今回だけ問わないでおいてあげる」

 

普段は会話の最中にも本に目を通している彼女だが、今この場にはそれすらない。

手持無沙汰で先程からサイコロを弄っていた。

スモーカーがたばこがないと口元が寂しいのと同じ原理なのだろう。

 

「魔法っていうのは注ぎ込んだ時間だけ成果が表れるわ。

才能っていうのもあるけれど、大抵の優秀な魔法使いっていうのはその分だけ魔法に半生を費やしている。つまりはその分だけ知識をため込んでいる。偏った知識を膨大に持つ者は変わり者っていうのが相場よ」

 

魔法に限った話でもない。

例えばここに古河音を例に出すと分かりやすいだろう。

ヲタク知識を大量にため込み、その情熱に半生どころか人生の全てを燃やすあの姿は『変わり者』以外の何物でもない。

もちろんこれは極論だ。彼女の場合ヲタク云々関係なく生粋の変人である可能性が高い。

 

しかし知識人と呼ばれる人種に変わり者が多いというのも否定はしきれない。

人より知識を持つ者は。人より深いまたは人より広い視野の持ち主だ。

そして人は自分達と異なる視野や価値観を持つ者を変わり者として見る場合がある。

知識の先に魔法があり魔法の先に知識がある。パチュリーが言いたい事は、つまりそういう事だ。

 

 

 

 

パチュリーの手元から今、文字通り賽が投げられる。

 

あまりに広いフィールドのためサイコロは2度投じられ、その合計分の数だけ進められる。

結果、パチュリーの出た目は四たす五の九マスである。

 

足元のマス目に従い九マス分進んでいく。

よく見てみるとマス目は全て赤・青・黄の三種類のマスがあり、それらの配置はランダムだ。

九マス進んだ先に待っていたのは赤いマス。

すると、そのマスに突然文字が浮かび始めマス目は結界によりパチュリーは閉じ込められてしまう。

 

「……なるほど、そういう仕組みね」

 

突然の出来事にもパチュリーの分析は慌てず進められた。

彼女の見解はこうだ。

今回のように全てのマス目には『指示』や『お題』か用意されており、それらをクリアしなければこの結界は解けず次のマスに進めない。

マス目が三色となのは、おそらくその問題の種類が三種に分かれているのだろう。というものだ。

そしてそれはおおよそ正解だ。

 

「……ってちょっと待って何コレ!?」

 

ここまで平静を保ち続けていた彼女がその『お題』を目にして初めて表情を変えた。

 

同時にどこからかBGMが流れ始め、パチュリーの手元にはどこからいつの間にやらマイクが現れていた。

そのお題はズバリ『サライをフルコーラス熱唱!』である。

ご丁寧にも歌詞や曲がパチュリーの頭の中に自動的にインストール。今回のお題『熱唱』もクリア条件のひとつである。

 

みんなの前で突然歌わなければならない。しかもマイクつきの熱唱で。

加えて喉の弱い彼女にフルコーラス。よりにもよって24時間テレビのマラソンの際のお約束の曲。

まさにパチュリーのために作られたような嫌がらせの様なお題だった。

 

 

 

 

「遠い夢すてきれずに ふるさとをすてた♪」

 

覚悟を決めたような彼女の歌声が、今まさにこの場にいる全員の下へと届く。

その声はキレイに透き通っており原曲を知らずとも絶賛の歌声である。

 

 

 

 

 

「動き始めた ごほっ… 汽車の ……ごほっ!げほっ!! 窓辺を こほっ!げほっ!ずひょっ!!」

 

だがそれも最初だけ。

彼女の喉でおおよそ6分以上に渡る曲をフルコーラスなど、もはや拷問の域である。

 

それでも彼女は戦った。逃げ出したくなった。それでも彼女は立ち向かった。

喉は既に限界を超えており、もはや気力の勝負だ。

 

 

 

 

「まぶたとじれば… 浮かぶ…景色が……!」

 

この場にいる誰しもが、彼女の戦いに釘つけだった。

体力・喉共に限界を迎え、マイクを持ってしても聞こえるかどうかのか細い歌声。

そんな彼女を笑う者など誰もいない。

ただ彼女の小さな歌声を、パチュリーの孤独な戦いを、全員が見届けている。

 

 

 

 

「サクラ吹雪の サライ…の空へ

   いつか帰る ……けほっ! ……いつか帰る

 

  ……きっと帰るから………っ!!」

 

そして、ついに彼女は歌い抜いた!

長い道のりを一歩一歩確実に、喘息というハンデをものともせずに、ついに山頂へと辿り着いたのだ。

まさに大喝采。 惜しみない拍手が全て、彼女へ向けられていた。

 

一体となった拍手の中、彼女はマイクを手につぶやいた。

 

 

 

 

 

え、こんなのがこの先ずっと続いていくの? と……。




……しまった。せっかくならパチェの熱唱シーンの方を立ち絵にするべきだったΣ(゚Д゚)
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