東方忘却記   作:マツタケ

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その13

 

 

 

 

人間の住まう里、通称“人里”。

人妖住まう幻想郷で人間達が安心して生活できる数少ない場所だ。

 

その証拠に今日も今日とて子供達の元気な声が…

 

「きゃ―――っ!」

 

元気な……

 

「来ないでぇ――――ッ!!」

 

声が……

 

「うひゃひゃひゃ!どこに逃げても無駄だよぉ~~☆」

 

 

……………。

 

子供達の元気な声で賑わっていた。

賑わっているのは約1名の子供だけで、あとは阿鼻叫喚ではあるがとりあえず賑わっていた。

いつの世も悪とは滅び切らないものである。

 

古河音がただ今子供達に行っている行為。

世に言うところの『スカートめくり』というものだ。

着物なのでそれをスカートめくりと称して良いのかは疑問の残るところではあるが、昨今小学生ですらやらないような低俗ないたずらである。

しかもこの女、男女問わずめくる。

当人は『この作品にもっと肌色を!私はこの作品の人気の為に!!』などと供述しており、ありがた迷惑もいいところである。

 

 

 

 

「わーっはっはっは!コレでこの作品も安泰だっ!え、メタい?こがねぇ、なんのことだかわかんなぁーい☆」

 

復讐に燃える子供たちから箒で逃げ去り、誰に向かってなのかニーズ不明のぶりっ子ポーズ。

空を飛びながらそんなポーズをとってもバランスひとつ崩さない。

飛行魔法に関してだけなら今や彼女も上級者だ。

 

「………ってふぁっ!?」

 

ふと、ポーズの視界に巨木が現れる。

先程までなかったはずの突然現れた障害物を目の当たりに、バランスを崩し箒を手放しそのまま落下していった。

 

 

 

 

「……くあぁぁ――っ!死ぬかと思った……」

 

高度十数メートルから落ちてこぶ一つで済むのだから、彼女もまた人間もどき候補の立派な一人である。

 

「って……あっるぇ?」

 

痛む頭を押さえながら見てみると、先程落ちるきっかけとなった巨木の姿が今はなかった。

なかった、というのは厳密に言えば違う。

空を飛ばなければ見えない何十メートルもはるか先に、その巨木の姿はたしかにあるのだ。

問題はその距離。

つい先程までその巨木が突然目の前に現れたという事。

 

 

 

 

「あっはっはっはっは!」

 

子供特有の未発達な笑い声が突然古河音の耳に聞こえた。

見るとそこには三人の少女。

赤い服・青い服・白い服、見事に三者三様に分かれた彩の服を身に纏った三人の姿がそこにあった。

その3人に共通しているのが背に半透明の羽が生えているという点だ。

そう、彼女らは人の子供ではなく妖精だ。

 

「私達妖精を差し置いて『人里のいたずら娘』なんて呼ばれてるらしいからどんなものかと思ったけど、大した事ないのね!!」

 

両の手を腰に当てて、高いところから見下す様に。

赤い服の少女サニーミルクが口元からギラリと八重歯を覗かせている。

どことなくその雰囲気からチルノに似たものを感じさせる。

 

服についた埃や落ち葉を払いながら、古河音は今の状況をなんとなく察した。

話だけは聞いた事がある。

光を屈折させる程度の能力・周りの音を消す程度の能力・動く物の気配を探る程度の能力。

妖精の中でも悪戯にかけては代表的な3人組の妖精がいると。

 

つまり先程の巨木もサニーの光を屈折させる程度の能力で蜃気楼の応用で突然樹が目の前に現れた様に見えた幻という訳だ。

 

「むふふふ、光の三妖精に名前を知ってもらえるなんて光栄だぁねー♪」

 

落ちていた箒がどこからともなく引き寄せられる様に古河音の手の中に収まる。

魔理沙がやっていたのを見て必死に覚えた小技魔法のひとつだ。

利便性もあるし何よりカッコイイという理由から割と習得に時間をかけていたりする。

 

「じゃあ、今度はこっちの悪戯につき合ってもらおっかなー!?」

 

箒に腰掛け、懐から一枚のスペルカードが取り出される。

言うまでもなく、やられっ放しで黙っている様な娘ではない。

それどころか、悪戯をされれば無条件でやり返して良いという公式が彼女の頭の中では出来上がっていた。

 

「げっ!アイツスペルカードなんて取り出してきたわよ!?」

 

「……妖精相手になんて大人げないのかしら」

 

「これだから人間って野蛮なのよ」

 

自分達の行為をはるか彼方の棚に放り投げて、言いたい放題である。

これが妖精という種族の特徴だ。

悪戯好きで自由奔放。基本的に知能が低く本能のみで行動する。

が、悲しいかな。これらの特徴はうちの主人公に見事当てはまる。

 

「わっはっは!大人気あっちゃ悪戯なんて出来ませんぜ旦那ァ!!嵐符――……」

 

 

「わわ……っ!撤退よ!!」

 

光を屈折して姿を消し、辺りの音を消し、そのまま撤退。

彼女達が悪戯をして撤退する際によく使われるパターンだ。

しかし彼女達が姿を消しても古河音は口元に笑みを浮かべたまま慌てる様子を見せない。

 

人差し指と親指で輪を作り、そこから瞳を覗かせた。

向こうが光を屈折させるなら、こちらも光を屈折させれば良い。

光に関する魔法は彼女の専門外とするところだが、こういう小技程度なら問題ない。

薄ぼんやりと見せるその3つの人影を見据えて古河音の口元がいやらしく釣り上がった。

 

 

 

「嵐符!『神風の術』ぅぅ―――っ!!」

 

吹き荒れる竜巻が3人の身体を巻き込みぐるぐると洗濯機状態になる。

十分にかき混ぜたあとに術を解くと見事に目が渦巻き状態になっていた。

 

そんな3人の寝顔(?)を恍惚の表情でただじーっと見つめる古河音の姿は色んな意味で危ないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ……っくもやってくれたわね!!?」

 

目を覚まして、真っ先に古河音に噛みついたのはサニーミルクだった。

基本的に何か率先して行動を起こすのは彼女の役目だ。

 

「いやー、めんごめんご☆」

 

流石に気を失うのは想定外だったのか一応謝る姿勢を見せる。

が、それでサニーの方はそれで納得はしていないようだ。

 

「じゃあ……改めてはじめよっか。悪戯勝負♪」

 

「はぁ……!?」

 

挑戦的な瞳が三妖精の姿を捉えていた。

元より光の三妖精については古河音も興味があった。

里の者も幾度となく被害に遭っているし、彼女達の能力も一度目にしたいと思っていた。

 

悪戯を生業とする相手に弾幕勝負で勝つのでは意味がない。

悪戯には悪戯で勝たねば意味がない。

 

「いやー、私にも一応悪戯にプライドってもん持ってる訳ですよ。

だからどうせ勝負するならどっちの悪戯が優れてるか勝負してみなイカ?」

 

「……面白いじゃない。要はお互い悪戯を仕掛けるんじゃなくて悪戯の質を比べようって訳ね?」

 

「いぇーす」

 

2人の視線がしたり顔で交わっていた。

言わばコレは悪戯の大義名分だ。勝負という言葉を借りて思う存分悪戯し放題。

競争相手のいる悪戯というのもやり甲斐があるし、そのついでに相手を凹ませる事が出来るなら尚良し。

 

イタズラ好きで好戦的。2人の妙な共通点が話をとんとん拍子に進めている。

 

「サニー、こんな人間の勝負になんてつき合わなくても3人でかかれば負けっこないわよ」

 

「どうせ勝負とか言って不意打ちしてくるつもりよ」

 

対照的にスターサファイア・ルナチャイルド、この2人は案件に反対らしい。

サニーが3人のアクセル役なら、2人はそのブレーキ役といったところか。

人間に対して積極的に悪戯を仕掛ける半面、人間に対して強い警戒心も持っている。これも妖精の特徴である。

 

「言われてみれば……たしかに……」

 

「へぇ~~…逃げるんだ?」

 

「そんな訳ないじゃないっ!!」

 

繰り返すようではあるが、妖精の知能は決して高くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところ変わって舞台は魔法の森。

今回のターゲットはもちろん人間だ。

この様な不気味な森の中で住まう人間と言えば、もちろん彼女しかいない。

 

「ふんっ、まずは人間に悪戯っていうのが何なのか見せてあげるわ!」

 

サニーが自分達の姿消し更にルナが周りの音を消す。

彼女達が悪戯をする際には欠かせない陣系だ。

 

スターの能力で家主の動向を探りながらこっそり霧雨宅に侵入。

本人に気づかれないよう本棚に収められた本を数冊拝借すると代わりに『死ぬまで借りてくぜ☆』と書かれた書き置きを残して退散していった。

 

 

 

 

「どう?人間にはこんな真似出来ないでしょ?」

 

戻ってきたサニーがこれでもかとしたり顔で胸を張る。

やっている事は実にしょうもないが、辺りの気配を探り姿と音を消すという能力は実際使い方を工夫すれば悪戯なんかよりもより実用的に使える事だろう。

 

「むむむ…!まさか魔理沙さんのお株を奪うと同時にちょっとした皮肉まで込めるとは……」

 

ちなみに書き置きの案はスターサファイアが考えだしたものだったりする。

妖精は知能が低い、とは言っても彼女達三妖精はその中でも比較的頭は回る方だ。

それを悪戯に使うあたりが、やはり妖精といったところか。

 

「今なら降参しても良いのよ?」

 

「まっさかぁ~~」

 

ごそごそと袋の中から取り出したのは数冊の本。彼女達が魔理沙から取って来たものとは別の物だ。

本の放つ独特のオーラに3人は思わず飛び退いた。

鋭敏な妖精だからこそなのか、本能的にその本が危ないものだと勘付いたらしい。

 

「こちら某所より入手したなんか危なそうだから悪戯用に購入した妖魔本でございまーす☆」

 

人差し指をピンとつき立てて、そこから枝分かれする様に水の触手が現れる。

うねうねと動くそれは妖魔本に触れると吸着する様に本を持ちあげた。

そのまま術者はその場から動く事なく触手を伸ばして三妖精が本を持ちだした本棚に妖魔本を収めていった。

 

「ふふん、妖精にこんな真似出来ないでしょ?」

 

そっくりそのまま、倍返しだ!と言わんばかりのドヤ顔でサニーの姿を横目で見る。

案の定実に悔しそうな顔で古河音を睨みつけていた。

 

「次よ次っ!もっと悪戯の難易度を上げるわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ………こいつぁ強敵だ!!」

 

3人の案内でついていった先には古河音も思わず青ざめてしまう難所だった。

博麗神社。言わずと知れた下手な妖怪よりも危険度の高い巫女の住まう神無き神社である。

 

「はじめに言っておくわ。アイツは人間じゃない!」

 

「うん、知ってる」

 

本人がいないのを良い事に言いたい放題だ。

これを本人に聞かれればその時点で4人揃ってピチュンだろう。

彼女自身がそう言わしめさせる程の凶暴性を秘めているのも、また否定しがたい事実ではあるのだが。

 

「だからこそ私は―――………」

 

サニーミルクの表情から笑みが消えていた。

快活な普段の彼女からは想像もつかない“覚悟”がその瞳に宿っていた。

 

 

 

「能力抜きで行くわっ!」

 

この言葉にはスターもルナも、そして古河音も驚かざるを得なかった。

それはリスクでしかない。

 

「無茶よサニー!あの巫女ただでさえ能力使っても見破ってくるのに……」

 

わざわざ危険を冒さずとも悪戯が成功さえすればそれで良い。

だが、本当は分かっている。危険を冒して彼女が得ようとしているもの。

それは絶対の勝利。

もし彼女がそれを成し得たなら古河音は負けを認めざるをえない。

成し得た彼女に勝つにはそれ以上の危険を冒さねばサニーに勝った事にならない。

 

「……先行はさっきと同じ。私が行くわ」

 

「私も、一緒にいくよ。もちろん魔法抜きでね♪」

 

「アンタ……」

 

サニーが捨て身の意思を見せた時点で古河音は半分負けてしまっている。

仮に彼女が悪戯に失敗しても、それで安全な悪戯に逃げても勝ったとは言えない。

 

 

 

 

 

 

「見てなさい……この賽銭箱を

 

 

こうよっ!!」

 

包みに溜め込んだ落ち葉をバサァっと一斉にまき散らす。

賽銭箱があっという間に落ち葉まみれだ。

その上から『三妖精参上』という落書きつき。

どうでもいいが、スターもルナもいい迷惑である。

 

「大人しく負けを認めなさいっ!」

 

「残念ながら………それなら私はこうだっ!!」

 

サニーが持っていた包みより半分ほどの大きさの物を同様にいきおいよく中身をまき散らした。

その中身は落ち葉ではなく、毛虫だ。

心なしか撒かれた落ち葉の上で毛虫達が心地よさそうにしているようにも見える。

 

 

「………………………」

 

「……………………」

 

互いに無言で見つめ合い、小気味良い音を立ててハイタッチ。

悪戯を通じて何かお互いに認め合うものがあったらしい。

傍目からはただの性質の悪い嫌がらせでしかない。

 

 

 

「ヨォーシっ!テンション上がってきたぁぁ―――っ!!次行こう次っ!!」

 

「次は紅魔館のあのメイドよっ!!」

 

その後3人の妖精と1人の魔法使い見習いが複数の人間もどきに“痛い目”に遭うのだが、それはまた別のお話。

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