東方忘却記   作:マツタケ

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今作ってる忘却記のゲームをニコニコ動画で「ウディタで忘却記。ちょこっと紹介」というタイトルで投稿してみました。
ゴールが見えない。完成が見せない。完成する気がしない…。


その15

 

 

 

 

 

妖怪の山。

人間よりも昔から天狗や河童など妖怪の中でも高位の種族が住む山である。

人間達が住まい社会系統を築いているのが人間の里ならば、まさに妖怪の里と言っても過言ではない。

 

そんな妖怪の山の一軒家。

まさに天狗の代表格。文文。新聞でおなじみ射命丸文が住居にしている建物だ。

仕事の合間に一息ついてお茶を飲む彼女の向かいの席には少女が一人。古河音である。

 

白い魔女帽子を小脇に置いて、足をぶらぶら食べかすをぼろぼろ。

『行儀が悪い』をまさに絵に描いたような素行である。

彼女が文の下を訪れている理由は主に記事の情報提供だ。

持っていった情報はそのまま記事となり、まるでラジオ番組に自分の投降した手紙が発表される気分だ。

更には彼女の下でお茶を飲み、雑談をする。

元々の気質が似ているせいなのか、ネタに出来そうな情報を掴んでは彼女の下を訪れるというのが古河音の習慣になっていた。

 

 

 

「流石に焦りましたよ。まさか落とし穴にハマるのが萃香さんだなんて思わないじゃないですか」

 

「……相変わらず命知らずな人ですねあなたも」

 

「………いや、実際に死にかけました」

 

持参した羊羹をパクっと一口。温くなったお茶を一気に飲み干し、空になった湯呑を文に向かて差し出す。おかわりの意だ。

仮にも鴉天狗を相手にお茶の催促ができる人間もそうはいないだろう。

単に命知らずというだけでもあるのだが。

 

「実はですね、古河音さん」

 

「何ですか?あ、どうもどうも」

 

差し出された湯呑を受け取り、予想外の熱さに慌てながらもゆっくりと湯呑を置く。

冬の季節は手が冷えやすい。

 

「ネタの提供はこれを最後にしてもらおうと思いまして。もちろんこうやって遊びにくる分には今まで通りで構いませんので」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………はい?」

 

新しい羊羹の封に手をかけた状態で、視線も表情も凍りつき、身体も頭もエターナルフォースブリザード。フリーズ状態である。

人間とは余りに予想外な言葉を目の当たりにすると、その情報処理が出来なくなる生き物だ。

 

例えるなら一流のケーキ職人に『とんこつラーメンを作ってください』と言うように。

はたまた新聞配達のバイトの子に『立て篭もってる犯人を説得してください』と頼むように。

 

例えその日本語自体は分かっていても、その言葉をどう受け取っていいのか人の頭は凍りつく。

 

「な………

 

 

 

 

 

 

 

なんでですか!? 私以外の協力者がニューエントリーでもしましたか!?

いらなくなったらポイですか!? 私の身体が目当てだったのね!?

使い捨ての道具ですか!? スネーク俺達は政府や誰かの道具じゃない、戦う事でしか自分を表現できなかったがいつも自分の意志で戦ってきた!スネークさらばだァァ――!!」

 

「ちがいますって!人聞き悪いにも程があるでしょ!?スネークって誰ですか!?」

 

テーブルの上に膝をつき座っている文の胸倉を掴んで前へ後ろへ。

気分はさながら浮気現場を目撃した少女漫画のヒロイン。その言動も行動も少女漫画とは果てしなく縁遠いものである。

 

 

 

 

 

「そうじゃなくて」

 

取り乱す古河音を椅子に縛りつけて、コホンとひとつ咳祓い。

天狗相手にあれだけ騒いでこれで済んでいるのはまだマシな部類である。

 

「やっぱりですね、取材の基本は足な訳です。ネタの提供はありがたいですが

やはりそれは自分で赴いてこその新聞記者。今の様に自宅でそのままネタを提供してもらっていては以前のはたてと何も変わりありません。

 

ですから、今後は自分の足で赴いてその時にネタの提供をお願いします」

 

古河音の拘束を解いてそっと手を取る。

その顔は普段の清く正しい射命丸(笑)の顔ではなく、一人の記者としての表情だった

それは記者としてのポリシーであり、射命丸文としての生き方そのもの。

誰かが横から口だしして良いものではない

 

「………わかりました。やっぱこだわりって大事ですもんね」

 

「いえ、こちらこそ我儘言ってすみません」

 

お互いがお互いの生き方を認め合い、譲り合う。

美しくもこの作品に似つかわしくない展開である。

 

 

 

「ていうか、正直言うと古河音さんのネタって記事にし辛かったんですよね~♪」

 

「………え?」

 

握っていた手をパッと離してけらけらと笑う。

その変貌ぶりに流石の古河音もポカンと口を開けて唖然とせざるを得ない。

 

「ほら、古河音さんの持って来るネタって文章だけだといまいち伝え辛いっていうか、写真がないとインパクトに欠けるものが多かったもので」

 

「おぅっ…!」

 

言葉とは時として下手な武器よりも強大な威力を秘めている事がある。

例えるならばそれは言葉の灰皿(ガラス製)だ。

油断しているところに後頭部に重量感のある灰皿(ガラス製)が強烈な一発。

効果:相手は死ぬ。

犯人は慌てて凶器についた指紋をふき取り部屋を出る。しかしその時犯人は予想だにしていなかった。

その現場を影で見ていた謎の人物がいた事に。

そう、その現場の一部始終を―――……

 

 

家政婦は見ていた!!

 

テーブルに顔をうずめて無言タイム。

喋らないのではない。喋れないのだ。言葉を発する気力が今の彼女にはない。

たとえHPが満タンだとしてもMPがゼロなのだ。

彼女の心は灰皿(ガラス製)で後頭部を殴られ即死だ。

ガラスのハートとよく言うが、最近のガラスはとても頑丈なのだ。

 

「なんだ、まだ気にしてたんですか?」

 

そんな古河音に文が近づき、差し入れという訳でもなく羊羹を一口パクリ。

古河音が持参したものである。まさにパクリ。一口パクリ。

これでも古河音としては今まで持ってきていたネタにそれなりの自信はあった。

それが新聞に載りまさに自信が有頂天状態だった。

その伸びきった鼻が今まさにぽっきりと折れたのだ。

 

「そんなに自分のネタを…もぐ…新聞に載せたいなら…むぐ…自分で新聞を作れば良いじゃないですか」

 

その言葉に、ぴくりと古河音の耳が反応する。

 

「ネタを提供して頂いたお礼に。カメラや印刷工場くらい提供しますよ?」

 

「ま間々ママままママ……マジっすか!!?」

 

うずめていた顔をがばっと起こして、サラマンダーよりずっと早く文に向ってぐいっと詰め寄る。

心の力は充填完了。今ならバオウザケルガだってきっと撃てる。

底辺だったテンションは上限いっぱいハイテンションだ。

 

「落ち着いてください!落ち込んだりはしゃいだり忙しい人ですね!!」

 

しがみつく古河音を力づくで引きはがす。

天狗の力で引きはがされ勢い余って壁に後頭部を強打。

にも関わらず何事もなかったかの様に再度文にしがみつこうとする。

物理的に打った後頭部は何のダメージもなかった。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~その発想はなかったにゃー!そっか、新聞デビューかぁ……」

 

テーブルに肘つき手に顎を乗せて、口元は緩みっ放しのにやにや状態である。

頭の中では箒に跨り華麗に新聞を配る自分の姿。身長やその他もろもろボリュームを増した美化十割の姿だ。

貧乳はステータス。そんな事は言われるまでもなく分かっている。けれどそこは女の子、夢を見たって良いではないか。

 

「浮かれるのは良いけど、大変なんですよ?新聞作るのも」

 

どさっと持ち出す新聞の山。びっしり書かれた文字の量。

いくら印刷技術に長けた天狗の工場とはいえ、その作業をするのは1人だ。

その様が某姉から持ち出される宿題を彷彿とさせてしまい、少しげんなり気分。

 

「……いやいやいやっ!」

 

首を左右に力強く振り、邪念退散・悪霊退散。

ネガティブ気分を物理的に追い払い頭の中に再び美化十割の自分の姿を想像する。イメージは力なり。力はイメージなり。妄想こそがヲタクの原動力だ。

 

「大丈夫です!私好きな事には粘着質ですからっ!」

 

微妙に間違えている言葉のチョイスと共に、自信満々に胸を張る。

実際、古河音が習得している魔法についても同じ事が言える。

魔法とは理論が求められる技術だ。言わば科学に近い。理屈を理解していなければ扱えられない代物なのだ。

それをなぜ理屈よりも身体で覚える体育会系の古河音が魔法を習得できているかといえば、ひとえに努力の賜物だ。言うなれば『ない知恵絞って』というもの。

『好きこそものの上手なれ』とも言う。

早い話が苦手分野も気持ちひとつでそれなりに克服できるという事だ。その意欲を少しでも勉強に傾けろよという声もあるだろうが、こればかりは気持ちの問題だ。

 

 

 

「ま、期待ぜずに待ってますよ」

 

現像した写真をトランプのようにパラパラと弄りながら、文の視線は不敵なものだ。

古河音が新聞を作るというなら、その時点で文にとってはライバルだ。

実際その行動範囲と行動力、そして好奇心はまさに記者向き。魔法よりもずっと合っているかもしれない。

だからこそ決して甘くは見ていないし、姫海棠はたて同様に内心認めている。

 

「ほぅ、そうなると新聞名も考えなきゃですねー。こぅ…インパクトのあるやつを!」

 

「あー…そういえば古河音さんのネーミングセンスってアレでしたねえ……」

 

スペルカード然り。

特にこの手の名前は本人の特性が強く影響する。良くも悪くも。

そんな文の心配をよそに顎に手を当て瞳を閉じて、うんうんと今も唸っている。

 

唸りながらも時折羊羹を一口パクリ。頭を使うと小腹がすくようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど…。このコードから『電気』を供給して熱を発生させる訳か」

 

眼鏡越しにまじまじと『炬燵』を見つめるその人物は香霖堂の店主、森近霖之助だ。

彼には珍しいものを見つけてはそれを拾って帰って店に展示するという妙な蒐集癖がある。

この辺り、彼も決して魔理沙の事をどうこう言えないだろう。

救いがあるとすれば盗む(曰く借りる)のではなく拾っているという点か。

今回もそれだ。

幻想入りした炬燵を見つけてそれを店に持ち帰り、それを現在良也に詳細を聞いている。

 

彼の能力にかかればその名前も用途も分かるが、実際に使用した人間に聞いてみた方がより詳細にことは分かる。

そこを怠るようならそもそも重い炬燵をわざわざ持ち帰ったりはしないだろう。

 

 

 

「まぁ、そんな感じで。ここにあるたいていの物は『電気』がないと使えないものですね」

 

「ふむ…。雷のように威力が強すぎても駄目なんだってね?」

 

「そうですね…。常に一定の電気量じゃないと」

 

彼の物に対する知的好奇心は魔法使いに劣らない。

一見無理な事でも『どうすれば無理じゃなくなるか』をひとつひとつ考える。

考えた結果、それでも無理でも捨てずにそのまま店に置いたまま。

完全に片づけられない女状態である。

 

 

 

「ごう……っがァァ―――いっ!!」

 

そんな談義を一刀両断。

男の園に突如扉を勢いよく開ける音と共に大音量の声が響き渡る。

輝かんばかりのどや顔で、手にした2人分の新聞紙をこれでもかと見せびらかしている。

新聞記者はじめました、古河音である。

 

 

「なんだよ…。お前文のとこでバイトでも始めたのか?」

 

「バイト…?ノンノン内定ゲットですよん♪

私、新聞始めました。今後とも『銀鳥譚(ぎんちょうたん)』をご贔屓にぃ~!」

 

新聞を渡し終えると有無を言わさず箒でダッシュ。

文字通り駆ける様に飛んで行った。

 

ちなみに、その新聞の内容は『特集・尻!』。

数多くの人妖の尻を捉えた写真と共に尻についての熱い思いがびっしりと。

男性編・女性編と2部に分けて作られるという手の込みようだ。

あまりにマニアックなその内容は、おおよそ新聞と呼ばれるものとは程遠いものだった。

 

批判の声も多い中、一部の者からは熱い支持を得たとか得なかったとか。

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