東方忘却記   作:マツタケ

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今回ちょっと短め。次回に続くよ!


その16

 

 

 

 

 

 

 

カラコロカラコロ…。

木製の茶碗に入れられた2つのサイコロが音を立てて回り続ける。

茶碗が止まらない限り、そのサイコロは半永久的に回り続ける事だろう。

目には見えないサイコロの目は誰にも分らない。

それはさながらシュレディンガーの猫。

箱に入れられた猫が生きているか死んでいるかは、蓋を開けてみなければ分からない。

 

賽を入れられた茶碗が中身をこぼす事なく逆さ状態で畳へ叩きつけられる。

そんな茶碗の様子に周囲の視線が一斉に集まっていく。

 

「丁っ!」

 

「半!!」

 

茶碗を挟む少年と少女。

2つのサイコロの合計が偶数(丁)か奇数(半)か。互いの賭けた結果を信じて唯々茶碗を穴が空くほど睨みつけるように見つめる。

周囲の者もそれを見守るように ざわ… ざわ… と、2人の様子を見ている。

 

ゆっくりと、ゆっくりと、茶碗が開かれる。

2つの賽の目の合計が、偶数(丁)か奇数(半)か。全ては運に委ねられる。

答えは幸運の女神のみが知っている。

 

茶碗が開かれ周囲の者たちのざわめきも一層大きくなったその瞬間――――……

 

 

 

 

 

賽を挟んでいた少年と少女は、頭に大きなコブを作って倒れていた。

ざわめいていた周りの子供達も、嘘のようにしん…と静まり返っている。

 

「仮にも神聖な学び舎で……何をしてるんだお前らはっ!!」

 

頭突きによって乱れた前髪を整えながら声を張り上げるのは、寺子屋の創設者にして教師。

そしてそして、人里の守護を務める上白沢慧音先生だ。

学び舎で子供が賭博の真似事などしていたなら、教師としてそれを止めるのは当然の義務だ。

体罰が過ぎるのでは? との声も上がりそうだが、そこは幻想郷。

常識に縛られないのは先生だって同じである。

 

コブを作り地に伏せているのは寺子屋きっての問題児。島津五郎&上白沢古河音である。

寺子屋で何か問題が起きたなら大抵はこの2人が原因だ。

 

「痛えぇ~…。ほら見ろ!お前が『金は命より重い…!そこの認識をごまかす輩は生涯地を這う…!』とか言ってこづかい賭けて賭博しようなんて言うから!!ていうかどうせまた『まんが』とかいうやつのセリフなんだろコレ!?」

 

「そうですともっ!利根川さんの名ゼリフは『ざわ…』に続いて有名なんだよ!?金を手に入れるためには命張るしかないんだよっ!!?」

 

醜い論争は2つの轟音と共に鎮圧される。コブのうえに更にコブ。喧嘩両成敗だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日差しの熱が燦々と降り注ぎ、2人の体力を確実に削っていく。

寺子屋の周辺に生えた草を一本一本抜いていく。

草むしり。典型的なペナルティーである。

 

「あーもう、全然終わらねえぇ~~!ていうか暑いんだよっ!!」

 

「叫ばないでよ余計暑苦しいってば……」

 

草むしり。その恐ろしさはその単純作業。

むしっても。むしっても。むしっても…。広大に広がる草々。

労力の割に報われないその効率の悪さにじわじわと蝕まれていく精神。

そう、まさに身も心も削られる恐ろしい苦行なのだ。

 

「そうだよ!こういう時の魔法だろ!?

何かないのか?こう…あっという間に終わるような」

 

「そうでした!私ってば素敵で無敵な魔法使いっ☆」

 

置いてあった帽子と箒、ニューアイテム・カメラを持ち出して決めポーズ。

魔法も使える新聞記者。新たに決めたキャッチフレーズだ。

まずは形から入らないと気が済まないらしい。

 

「……そういうの良いから、早くやれよ」

 

「……む!」

 

気分良く自分に酔っている中、横槍を入れられて少しばかりご立腹。

 

「あぁそう…じゃあリクエストにお答えしてさっさとやっちゃいますか」

 

取り出されるのは一枚のカード。魔法を使うのにカードを使うなんてなんだか魔法少女っぽいじゃあーりませんかと、心の中で自画自賛。

 

瞳を閉じて精神集中。

体内の魔力をゆっくり高め、それに呼応するようにスペルカードが輝きだす。

それと同時に辺りの風の流れが変わる。

それは円を描くように、古河音を中心に風はぐるぐると辺りを渦巻き始めた。

 

「嵐符!かぁーみぃーかぁーぜぇーのぉぉ――………術!!」

 

――嵐符・『神風の術』

 

彼女の宣言と共にスペルカードの輝きは極限に、カードが発現した証だ。

ゆっくりと渦巻いていた風の勢いは急加速。それは巨大な竜巻へと姿を変える。

 

「ぶわっ!ちょ…コレ俺まで巻き添えじゃねえか!!」

 

きこえませーんと言わんばかりに瞳を閉じる。これが本当の『無視』だ。

 

しかし、ふと気になり足元を覗いてみると当初の目的である草々は未だ地面に健在だ。

古河音の企み『竜巻で雑草一掃作戦は』どんな環境にも耐え抜く雑草魂によって阻まれる。

竜巻の中雑草はひらひらとなびくばかりで一向に抜ける気配を見せない。

大地に根を張り歯を食いしばって、雨が降っても風が吹いても、それでも僕らは負けません。これぞ雑草魂だ。

 

「ふふふ…!私の神風の術に耐えるとはやるじゃないか。

 なら―――……これが私の全力全開!私の戦闘力は53万!!

 神風の術、フル・パワァァ―――っ!!」

 

「あ…アホか!そんな事したら…っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには凄惨な光景があった。

辺りの木々が折れ、葉は散り、寺子屋自体も一部倒壊。

砂埃舞い散り、干されてあった洗濯物も砂まみれ。

 

そんな光景に愕然とする少年と、本気出してスカっとした表情をする少女。

そして、それだけの嵐の中未だ一本たりとも抜けていない雑草達。

 

「………まさしくお前も強敵(とも)だった」

 

リスペクト。

相手を罵るのではなく、自分の全力を受けきった相手を素直に称え尊敬する精神。

ライバルとして認めた。そんな瞳で古河音は雑草達を見ていた。

 

 

 

「―――そうか。新しい友達ができたのか。それは良かった」

 

背後から、とてもとても聞き覚えのある声が聞こえてくる。

リスペクト?ライバル?尊敬? そんな気持ちがその一声によって一瞬で消え去った。

絶望。 そんな言葉が古河音の心を塗りつぶしていく。振り向く勇気が出てこない。

 

「ところで……何なんだろうなぁ?この状況は」

 

「いや、これは……その……深い……深い訳が……そう、五郎君が……

 ってオォォ――――イっ!!?」

 

視界に映っていたのは遥か彼方で全速力で疾走していた裏切り者(とも)の姿だった。

よくよく見てみると走りながらも親指をぐっと立てている。

『お前の死は無駄にしない』そんな意味が込められているのだろう。

 

 

 

 

 

「歯ぁ……食いしばれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンと、壊れた部分に新しい板を張りつけていく。

洗濯物も干し直し、散らかった砂と葉っぱもきれいに片づけている。

それをやっているのは散らかした張本人ではなく、その姉慧音。

ではその当人は何をしているのかといえば、未だ昏睡状態。縁側でぐったり大の字だ。

 

「はぁ……」

 

修復作業を続けながらも思わずため息。

古河音を拾ったばかりの頃は、まさか彼女がこんな事になるなど誰が想像しただろう。

記憶の有る無しで人とはここまで変わってしまうのか。記憶の重大さを改めて思い知らされる。

別にあの頃に戻りたいだとか、あの頃に戻ってほしいだとか思ってる訳ではない。

ただ、少しだけ昔の映像を懐かしんで今とのギャップに頭痛がするだけなのだ。

 

 

 

「………う…ん」

 

かすかに聞こえるうめき声。古河音の意識が戻ったのだろう。

修復作業を申し渡したとして、再びそれをサボろうと何か問題を起こすのではないだろうか。

そんな容易に想像できる悪循環にすでに若干胃が痛む。

 

頭を押さえながらむくりと身体を起こす。

普段ならばもっと復活が早いのだが、今回はかなり強めの頭突き。

我ながら最近威力が上がっている気がする慧音だった。

 

「あの……」

 

「どうした?言い訳なら聞く気はないぞ。早く掃除を手伝いなさい」

 

何やらしおらしい雰囲気ではあるが、今更それに騙される姉ではない。

気を許した瞬間に大暴走。そのパターンに今まで何度も痛い目を見てきたのだ。

 

「…………」

 

突き放した言葉に何を言うでもなく、そのままうつむいてしまう。

まるで当初の彼女を思わせるその反応に思わず良心がちくりと痛んだが、すぐにその考えを首を振って振りはらう。

縦横無尽・破天荒、それが慧音の知る彼女だ。

気を許した瞬間にその爪を伸ばして手を引っ掻かれるのは自明の理。

 

 

「……これだけ……これだけ聞いて良いですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、誰なんですか?」




原・点・回・帰☆
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