東方忘却記   作:マツタケ

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その20

 

 

 

 

 

「お~ばちゃんっ!儲かりまっかぁーー!?」

 

小銭の入った小袋を手に、山に向かってやっほーと叫ばんばかりの音量で、肉屋のおばちゃんに向かって、本日も古河音はいつも通りのテンションである。

方言という概念が通用しない幻想郷では「儲かりまっか」などとコテコテの大阪弁を使ったところで通じるはずもない。ちなみにその様な挨拶を実際に使っている人などいない。

いるとすれば、今の古河音同様エセだ。

 

「これはねぇ、『儲かってる?』っていう意味の言葉で。今外の世界では若者だったら誰しも使ってる流行語なんだよ。最近では外国の人でも日本に来たら絶対言ってる!『儲かりまっか』!」

 

首をかしげるおばちゃんに、古河音は息を吐くようにデタラメを吹き込む。

何も知らないおばちゃんは、唯々それを素直に信じ込んでしまっている。

この手の後処理に後々手を焼くのが早苗や良也だったりする。

 

「ほほぉー…。良い肉が揃っておりますなァ」

 

並べられているのは牛や鶏、豚などの家畜類から里の畑を荒らす猪まで。

妖怪に狙われるという事もあり、幻想郷の人間は男女問わず心身共にたくましい。

猪が食糧目当てに里に下りてきた日には、逆に里の男達によって食糧にされてしまう。

そんな事実を知り里の人間に無闇な殺生を控えるように説いているのが、命蓮寺の僧侶・聖白蓮だ。

 

とはいえその教えが完全に浸透している訳ではなく、今もこうして肉屋に並んでいるのが現状だ。

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいねえ。慧音様はあんまりお肉はお召しにならないはずだろ?」

 

基本くだけた喋り方をするおばちゃんも慧音に対しては尊敬語だ。

文字通り、尊敬しているのだろう。

妖怪から里を守護する慧音は、もはや里の英雄。種族的には妖怪に属する彼女だが、もしかしたらその信仰は神にも勝るのかもしれない。

 

「頼み込んだんだよ、せめて月一でくらいお肉食べたいって!

うちの姉はどうしてお肉食べないのにあんなに大きいんだろうね…?どこがとは言わないけど……どことは言わないけど!!」

 

身体の成長に対してのその悩みは、前世の頃から未解決のままである。

来世に、また女として生まれる保証はどこにもない。

 

「とういう訳でおばちゃん、豚一丁!」

 

「残念、牛じゃなかったのねえ」

 

「そんなお金、持たせてくれないってば!」

 

牛が高級食材だというのはどこでも同じ。

ましてや人里では荷物運びなどの『足』としても使われる。尚更だ。

おこづかいは必要最低限、古河音の性格を知り尽くしている慧音にとっては当然の対策だった。

 

 

 

 

 

 

「豚といえば、最近性質の悪いのが畑を荒らしてるって話だよ」

 

「豚かぁ…最近猪なら見かけたけど、野生の豚ってあんまり見ない…………」

 

店の前で井戸端会議をしていると、ふと思うところがある。

牛ほどではないが、やはり肉という食材はどうしても他のものと比べて値段が張る。

紅魔館では大量に保管されているとの話だが、これは例外中の例外。

入手自体に手間がかかる上に保存も難しい。だからこそ普段はみんな肉はそんなに使わない。

 

「おばちゃん………その豚私が捕まえたら報酬半分で、どうよ?」

 

生きた豚を解体するなど、素人にできるはずもない。

解体を頼むから、半分報酬として肉が欲しい。そう言っているわけだ。

 

「アンタもその歳でたくましいもんだねぇ…。いいよ、捕まえられたらね」

 

あくまで無料とは言わないあたり、やはりこのおばちゃんも立派な幻想郷の人間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――んで、こうやって畑の前で張り込んでいると?」

 

毎度おなじみ。人里のお菓子売り屋さんからアンパンと牛乳の一式を買い、茂みに隠れて畑を見張る絵面は間抜け以外のなにものでもなかった。

すっぽりと茂みに隠れた小さな身体とは対照的に、大きな帽子と箒が思い切りはみ出している。

これをことわざで何というのか。今一度考えて頂きたい。

 

「そんな事せんでも……何なら今度スーパーで安くパックで買ってきて……」

 

「そんな事したら私本気で怒りますよ!?」

 

突然茂みの中から、あんこと牛乳をつけた口から怒声が放たれた。

憐れみと親切心から放った良也の言葉は、古河音の中の何かに火をつけてしまったようである。

 

『女心の分かっていない殿方はこれだからまったく……ロマンという物がまるで分かっておりませんわ!』

 

「お前もかよっ!?」

 

前面から、腰元から、いわれのない非難が良也を襲う。

夏のセミは単体でもかなりの騒音だ。それが二匹になれば、さらに煩くなる。

 

「そうですよっ!草ちゃん今良い事言った!」

 

草薙ぎの剣のレプリカ。命名『草ちゃん』だそうな。

当然ながら気の合う2人は、こうして意見が合致すると瞬く間に周りの者を頭痛に陥れる。

 

 

 

 

「一狩りいこうぜ!精神はどこいったんですか!?装備っていうのはね、お金で買えるようなものじゃないでしょっ!!?

仲間と力を合わせて強大な敵に挑むからこそ、そこにお値段以上の価値があるんじゃないですか!!」

 

『なかなか出ないレアアイテム!それでもつき合ってくれる友人の心遣い!!それがあるから低い可能性にも何度も挑むことが出来るのでしょう!!?』

 

「それを金の力で解決しようとは………どういう了見ですかゴルァ!!」

 

「…………何の話だよ」

 

女心とは一体何だったのか。

物の例えではなく本当に頭を抱えながら、それでもお構いなしに2人の罵声は続く。

大音量で喚いているその様子から、もはや『豚を待つ』という当初の目的など頭から抜け落ちているのだろう。

この元気をデモ活動にでも使えばさぞ活躍する事だろう。

そう考えた良也だったが、2人が行うデモ活動というのはどう考えてもロクなイメージが沸いてこない。

 

 

 

 

 

かさかさっ と、落ち葉を踏んだ時特有の音が背後から聞こえてくる。

狩りのなんたるかを鈴芽と一緒に熱論していた古河音はすぐさま後ろを振り向いた。

葉を踏みつけるその音は尚も続き、徐々にこちらへと向かっている。

歩調が細かく、手足の短い動物特有のものだ。少なくとも人間のそれではない。

 

すぐさま茂みに姿を隠し、良也を睨みつける。

隠れるなり離れるなりしろ、と言いたいらしい。

 

徐々に近づく音に呼応するように、古河音の心音も大きくなる。

頭の中にあるのは豪勢な肉料理。たまにはマンガ肉なんかもどうだろう。

アレは実はとても難しい。肉とは当然ながら厚みがあればそれだけ火の通りも悪くなる。

外を焦がさず中にもちゃんと火を通すには調理の過程で煮込む必要があるのだが、なんだかそれは邪道な気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

「あれは………食べれないな」

 

待ち伏せていた畑には、古河音の目論見通り豚が現れた。

それがおばちゃんの言っていた豚と同一人物(?)かどうかは分からないが、すごい勢いで畑を荒らしている。

余談ではあるが、人は畑や食糧庫などを荒らす獣の事を害獣と呼び、その害獣を食べる獣の事を益獣と呼ぶ。

なんとも勝手な話である。

 

ともあれ、今その害獣である豚が目の前に現れた訳なのだが。

それは害獣と呼ぶにはあまりにふさわしくない容姿をしていた。

 

「……………ちっさ!」

 

そう、豚は豚でも、小豚である。

発育途中なのか、はたまたすでにその姿で大人なのかはさておき、食用にするにはあまりに小さい。

その小さな身体からは信じられないほどの勢いで畑を荒らす姿が、どことなく古河音と被っている様に良也には思えた。

そんな良也の考える隣で、古河音は何か思案するように唸っていた。

気持ちは分からないでもない。

意気揚々と待ち焦がれていた食糧が、こんな姿で現れたなら誰だって躊躇うに決まっている。

 

 

 

「良也さん、この子育ててみませんか?」

 

「ムリに決まってるだろ。僕普段はアパート暮らしだし。お前が飼えよ」

 

「いや、食料に食費割くってなんか違いません?」

 

「おいっ!!!」

 

なんという事でしょう。未だ古河音の中では目の前の豚を食べる計画が練られていたらしい。

食費を良也に割かせ、大きく育ったところを引き取る予定だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

「はいはい、交渉決裂ワロタ…。ほ~ら、ダメだよ?こんなに畑荒らしちゃって……」

 

げんなりとして表情で小豚の前に屈み、捕まえようとする。

畑とは人里の共有財産である。放っておけば人里全体の人たちが困る事になるのだ。

だが、小豚は古河音の手からするりと抜け出し鼻息を荒く臨戦態勢を取りだす。

 

「む……っ!」

 

穏便に済まそうとした自分に対して向けられる敵意に少しムッとして、身体中の魔力を練りだし指先から数本の小さな水製の触手を作りだした。

こういう小技は古河音の得意とするところだ。

 

「良いからっ!さっさと捕まりな……さ………っ!?」

 

完全に決まると思っていた触手の捕縛を華麗に回避し、あろう事かこちらに向かって突進してこようとするその姿に言葉を詰まらせた。

が、本当に驚く事になるのは実はこの後の話である。

 

 

 

 

「ぎっ………っぷりゃあああァァ~~~~~っ!!?」

 

「んなっ……!?」

 

触手を避けきり古河音の腹に小豚が体当たりを見せた次の瞬間、小豚より何倍も大きなはずの古河音の身体が空高く舞い上がっていった。

その衝撃で箒を手放し浮き上がった古河音の身体は、そのままアーチを描いて地面へ向かって激突し、それでも衝撃は収まりきらずにゴロゴロと転がっていった。

 

「あ、やばっ……助けるの忘れてた」

 

小豚が人間を吹き飛ばす。

そんなありえない光景に思わず呆気にとられていた良也の頭からは、古河音を助けるという選択肢がすっかりと抜け落ちていた。

心のどこかで古河音の打たれ強さなら問題ないという考えがあったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………し、死ぬかと思った……。良也さんめ。私が気絶してたら本当に死んでたっての…」

 

弾幕ごっこに墜落した時の対策は必須だ。

多分に漏れず古河音もまた落ちた時の衝撃を和らげる魔法を習得済みだ。

それでも痛いものは痛いし、怪我だってする。

 

「ていうか何なのアレ……?」

 

里の外まで飛ばされた古河音は服についた埃を払いながら自分を吹き飛ばした小豚のいた遥か遠くを眉間にしわを寄せて見ようとする。

だが、随分と遠くに飛ばされてしまったためどこにいるか分からない。ただでさえ目標物が小さいのだから当然だ。

元の位置に戻ろうと思ったが、箒がなかった。

歩いて取りに行くしかない。

こういう時、箒がないと飛べないというのは色々と不便だと思う。

どういう訳か素で空を飛ぶのはとても苦手なのだ。飛べない事もないが、歩いた方が早い。

 

 

 

「………………嘘ぉっ!?」

 

とぼとぼと箒を探しに歩いていると、幼い獣特有の甲高い鳴き声を発しながら小豚が空から降ってきているではないか。

これで確信が持てた。この小豚、その小さな身体に考えられない程のパワフルさを秘めている。

 

そんな光景を見ながら、古河音は思う。

渾身の体当たりで吹き飛ばしておいて、わざわざここまで更に追撃しにくるなんて私がいったい何をしたというのだ。

畑を荒らす小豚をちょっと追い払おうとしただけではないか。

まさか、良也さんに育てさせて食べようとしていた私の超絶計画を見抜いたというのか。

だとしたらこの小豚、ニュータイプかっ!?

 

 

 

 

 

 

「ふっ!!」

 

小豚の突進を避けるため、古河音は全身をばねのようにして空高く舞い上がる。

その高さにして二メートル近く。

とても素人の飛べる高さではなく、これも空を飛ぶ時の応用だ。

箒なしでは空は飛べないが、地面を蹴る力と合わせればこれくらいの事は出来るのだ。

 

「いっせいのぉぉ~~~…………せいっ!!」

 

小豚が地面に着地するタイミングを見計らって、小豚に向かって手のひらを向ける。

するとその先には小さな魔方陣がいくつも現れ、それらから弾幕が放たれていった。

着地したと同時に放たれた弾幕は小豚の四方八方を囲い込み完全に逃げ場を塞ぎ、着弾する。

その衝撃によって、爆音と共に辺りに砂煙が立ち込めた。

 

「……安心しろ。峰打ちだ」

 

着地した古河音は右手の人差し指を突き出して銃の形を象り、ふっと息を吹きかける。

峰打ちとは、相手を斬らぬよう刃のついていない反対側(峰)の部分で相手を打ちつける剣術のひとつだ。

そもそも弾幕に刃などついていないのだから、峰も何もあったものではない。

そのセリフが言いたかっただけなのか、本人は至って満足気である。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~、ちょっとやりすぎちゃったか………な……」

 

照れ隠しの様に、土煙に向かってひとりごちる自分の言葉に古河音はハッとした。

それは、フラグであるという事に。

 

「まさか……ね……っ!?」

 

 

 

 

「………っぴゃああぁぁぁぁぁ~~~……っ!!」

 

 

言うが早いか、弾丸のごとく土煙から現れた小豚の身体は吸い込まれる様に、再び古河音の腹へと突進を決めた。

今度は空へ舞い上がるのではなく、ただひたすらに転がっていった。




見直してみると今回東方キャラ誰1人として出てないやっ!
という訳で、今回より新章突入です。
ちょっと聞いてくださいよ。今回新章に入るに当たってですね。現時点で設定2割しか出来てなかったりします。馬鹿じゃないのっ!?
『2割出来てない』んじゃありません。『2割しか』出来てないんです。
この先どうしようねっ!? あとづけで頑張って………いけるのかしらっ!?w
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