東方忘却記   作:マツタケ

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その22

 

 

 

 

 

 

 

少年……かの有名な猪八戒を名乗る少年は高らかに跳躍した。

態勢のとり辛い空中でも一切姿勢を乱す事なく愛用の鍬を上段に構える。

重力+腕力を用いた攻撃力重視の一連の動作だ。

 

実はこれ愚策の類である。

 

高く飛べば飛ぶほど威力は上がるが、その分落下に時間がかかる。

その間相手が待ってくれるかといえばそんな訳がない。

更には空を飛べない者は一度落下地点を決めてしまえば相手が動いてもその落下地点を変える事は不可能。

これは弾幕ごっこにもいえる事で、威力を重視した弾幕は得てして隙も大きい。

 

 

 

 

 

そうと分かれば古河音のとる行動は決まった。

彼が落ちてくると同時に逆にこっちが威力重視の弾幕を撃ち込めばいいのだ。

その際に出来る隙は、彼の隙が補ってくれる。

 

正直彼がもしかの猪八戒ならばまず話し合いの場を設けるべきかもしれないが、襲われておいて無抵抗のままというのは古河音の主義に反する。

むしろこのまま彼を気絶させてしまえば、相手が猪八戒であろうとなかろうとケモ耳少年を十分に堪能できる。

むしろ古河音としては、そちらの方が目的としては大きいのだろう。

 

 

 

 

 

 

手にした先端に2つの玉がついたステッキを少年が落ちてくるであろう落下地点に向けて、魔力も充填完了だ。

 

「わはははっ!正当防衛!正当防衛ですから!!」

 

全身の魔力を練り上げ、全てを彼に撃ち込む態勢だ。

本気で正当防衛を主張するならば、せめてその笑い声は控えるべきだろう。

 

杖の先には小さな光の玉。この小さな玉に彼女のありったけの魔力が凝縮されている。

少年にしろどこぞの魔法使いにしろ、どうしてもこうも一撃必殺にこだわるのか。

おそらくは性格によるものが大きいのだろう。

 

 

 

 

 

「私の愛を受け止めるがいいわっ!愛符――――――……」

 

少年が空中から落下する数秒前。まさに弾幕を放とうとしたその瞬間。

突然の衝撃が彼女を襲った。

それにより構えていた杖は上空へ。思わずそのまま弾幕を放ってしまう。

 

 

 

天高く打ち上げられたそれは空中で派手な爆発を引き起こす。

幻想郷では弾幕を花火と例える者もいるが、まさにその役割を正しく果たせたのかもしれない。

 

「え…?は…??………今度は何!?」

 

もはや古河音にとって謎の子豚出現以降驚きの連続である。

そろそろ驚く事に疲れてきた。

 

「………いやいやいや。ないないないない」

 

立ち込める土煙の中で目を凝らしてみると、すぐにその正体は判明した。

少年が落下したであろう地点の地面が、抉れているのだ。

それはさながら月のクレーターのように。

まるで何メートルもある巨大なスコップで地面をくりぬいたかのように。

そこにあったはずの地面が『ない』のだ。

 

鍬の本来の役目は地面を耕す事だ。

こんな事を毎回していれば耕すどころの話ではない。畑が、死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「惜っしいべな~!もう少し早く振ってたら当たってたかもしんねえのに……!!」

 

当の少年は『穴』の中心で攻撃が決まらなかった事を悔しがっている。

早く振ろうとも相手に届かなければ意味がないのだから、その悔しがり方はお門違いなのだが、その尋常ならざる威力が相手に対する十分な威嚇能力を持っている。

『当たらなくて良かった』よりも『もし当たっていたら…』

そう思わせるには十分過ぎる威力だ。

 

 

「でも今度は――――……当てるっ!!」

 

「うっそ……っ!!」

 

距離など関係ない。そう言わんばかりに少年は一瞬の内に穴から飛び出し古河音に対して間合いを詰めていた。

咄嗟に彼の鍬を杖で受け止めようとしたが、すぐにそれが愚策であると気づく。

一振りで地面にクレーターを作るような腕力を直に受け止めたりすれば、当然両腕がまるごとキャスト・オフだ。

そうなればこの作品、残酷な描写タグを入れざるを得ない。それはなるべく避けたい事態である。

 

 

「…………エクス(約束された)」

 

杖に魔力が纏わりだし、それが剣の形をかたどっていく。

直に触れるが危険ならば、それを防ぐのは魔力しかない。

思考ではなく、ほぼ本能的に行った行為だった。

 

 

 

「カリヴァァァ(勝利の剣)――――っ!!」

 

鍬に当たった剣の形をした魔力は、そのまま鍬の衝撃に耐えられず爆発と共にはじけ飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや何度目になるか分からない爆発。それに吹き飛ばされる自身。

いい加減少し慣れてきている自分が悲しくなる古河音だった。

 

「いや~…ぶっつけ本番でもなんとかなるもんだ。でも今のは『月牙天衝』とか『光魔法キラキラ』とか『風の傷』なんて選択肢もあったにゃ~…。ふふふ、厨二心に火がついて夢が広がリングだぜ~~っ!」

 

咄嗟に行ったネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲に魔力を纏わし剣を模るという技法。。

剣を用いた必殺技というのはそれだけでロマンの塊なのだ。

頭に溢れる必殺技の数々。こういうのは実際の使用よりも考えている時が一番の至福だったりする。

弾幕ごっこにおいてまず相手に近づくだけでも困難なのだから、よほどの腕がない限り近接技はあまり役に立つ事はない。

だが、こういうのは気分の問題だ。

彼の偉人は言った。『ファンタジーの世界では剣は銃よりも強い』と。

 

 

「むふふふふ………はっ!!?」

 

妄想に想いを巡らせ幸せな気分でくるくると回っていると、土煙の中から少年が姿を現せた。

案外、この現実を忘れようと本能的に行っていた現実逃避なのかもしれない。

 

「あぁぁ~…。見た目は萌え萌えなのに、対面するとマジ怖えぇ~~……これが恋ってヤツなのか!?」

 

少年を見据えながら古河音はほぼ混乱状態だ。

今でも少年を色々と萌え萌えしたいという欲求はある。だが同時に恐怖の対象でもある。実際一歩間違えれば死んでいる。

そんな相反する二つの感情が古河音の思考から冷静さを奪ってゆく。

そんなもの元からなかったのかもしれないが。

 

 

「おめえさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すげえなっ!!」

 

「………へ?」

 

少年は爛々と輝く瞳を古河音に向けていた。

まさに『少年』と呼ぶにふさわしい…裏表がなく汚れのないまっすぐな瞳だ。

欲望で汚れきった古河音の瞳とは、まさしく対極の瞳だった。

 

「オラの攻撃次から次へとおめえの妖術でかわされていったぞ!?こんなのオラ始めてだっ♪」

 

珍しいおもちゃを見つけた…はたまた初めて遊園地に連れられた子供のような声の弾みようだった。

己の全力を創意工夫で防ぎ回避する攻防戦を純粋に楽しんでいる。

通りきらない自分の力を、通らせない相手の力を、その過程を楽しむ。

彼はそういうタイプなのだろう。

 

 

「……………あかん、天使見つけた」

 

あまりに純粋な言葉と瞳に、古河音の心臓がど真ん中を打ち抜かれた。

実際に心臓を打ち抜かれた訳ではないのだが、胸を押さえて地面に顔をうずめて身悶えている。

どうやらこの少年、笑顔で相手を無効化する妖術を身につけているらしい。強敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからこっからは、もっと気合入れて攻撃すんべっ!!」

 

「ですよねっ!!?」

 

一瞬このまま友好モードへの移行を期待した古河音だったが、この手のタイプは一度出したては引っ込めない。

引く時があるとすればそれは、相手を認めた時。

つまりは自分を打ち負かした者にのみ従うのだ。いわゆる一つの『男の友情理論』。

一方は女だが、彼のようなタイプは男女の差を深くは考えないだろう。

だが、それ故に―――――……

 

 

「無理ゲーやん」

 

実力差は明らか。

にも関わらず相手はこちらを過大評価し、更に気合を入れてくる。

状況は悪化した。足がつって海で溺れている中で、更に天候が荒れるようなものだ。

絶望の上乗せ。ご飯の上のご飯乗せ。ご飯丼である。

RPGでやっと追い詰めたラスボスが更に変身なんてした時、人はこういう気分になるのかもしれない。

 

しかし、それでも古河音の表情を笑みを浮かべていた。

彼のように強敵との戦いや追い詰められる事に喜びを感じている訳ではなく、勝算とまではいかなくとも『戦える』と思っているからだ。

 

 

 

 

その根拠は『新魔法ならなんとかなるかもしれない』というひどく安直なものだった。

新しく手に入れた必殺技はしばらくの間は敵と互角に渡り合えるという現実と非現実(漫画)の境界がまるで分かっていない者の発想だ。

 

「さぁ、いくだよ!!」

 

「いらっしゃいませこんにちは!!」

 

少年は鍬を構え、負けじと古河音は杖を構える。

互いに駆け出し正面からの真っ向勝負。

今あるありったけの魔力を杖に纏わし剣の形を……。

 

形が… 杖に… 魔力を…。

 

杖は未だ何も起こらず杖のままだ。

 

今回編み出したのは杖に魔力を纏わして剣の形を作り、それを武器として振るうというもの。

ではそもそもその杖に纏わせるだけの魔力がなければ、当然杖は杖のままである。

それはつまり―――――……。

 

 

「魔力切れたぁぁ~~~~~っ!!?

 

ちょっとタイム!お願いします待ってください!ワンモアタイム!中国語で謝謝!!?」

 

中国語どころか英語すら合っていない。

元々の語学力の低さも相まってもはや日本語すら危うい。

それほどにテンパっている。

そんな意味不明の言語を少年が理解する訳もなく、こちらに駆け出す足は止まらない。

 

「…っ!今こそ高まれ私のヒロイン力っ!!くええぇぇ~~~~~っ!!!」

 

ヒロインのピンチには颯爽と誰かが助けてくれる。

もはや古河音は運に身を委ねた。

自らのヒロイン力を上げれば、誰かが助けてくれるのではないか。追い詰められた人間は藁であろうと掴まずにはいられないのだ。

この奇声で本当にヒロイン力が上がるのかどうかは別として。

 

 

 

その時目の前が光った。

本当に何か救世主が現れたのかと思いきや、そこにあるのは見覚えのある小さな子豚の姿だった。

 

「………………………………」

 

子豚はきょろきょろと辺りを見渡すと獣特有の鳴き声を一声上げて、そのままどこかへ去ってしまった。

 

 

 

「お………おぉぉ~~~…………

 

 

 

 

 

私のヒロイン力すげぇ……」

 

まさに狙ったかのようなタイミングでの九死に一生。

この奇跡がはたして本当に彼女のヒロイン力によるものなのかどうかは別として、たしかに運は古河音に味方したようである。

 

 

「こりゃまた、随分派手に暴れたなぁ」

 

「魔理沙さん!?」

 

上空からの聞き慣れた声に空を見上げると

そこには古河音と同じく大きな魔女帽子を頭にかぶり箒に腰掛ける霧雨魔理沙の姿があった。

宙に浮いた箒からストンと着地すると、箒は彼女の手に吸い寄せられるように納まっていった。

 

「…………………どこから見てました?」

 

流れるような箒捌きに年季の違いを感じながらも、古河音はすぐに不満げな顔で魔理沙を見つめた。

 

「あぁ、なんで助けなかったのかって言うつもりならお門違いだぜ?

私が来た時にはもうお前しかいなかったからな」

 

「むむ…」

 

まさにその通り。

本来なら今までの苦労や憤りを魔理沙にぶつけて少しでも晴らそうとしたのだが、彼女がそう言うのなら本当にそのタイミングで来ていたのだろう。

もし今までの戦いを高みの見物を決めていたのなら、あっけらかんとそう言うはずだ。

似たもの同士。魔理沙の性格は古河音もよく知るところだ。

 

 

 

 

 

「で、何があった?

お前の弾幕が見えたからちょっと見物に来たんだが……こりゃただの弾幕ごっこじゃないよな?」

 

地面に空いた大穴、折れた木々、めくれ上がったかの様に削れた地面。

弾幕ごっこにしては『地上』に害が出すぎている。

何があったと聞きながらも、魔理沙の中ではほぼ確信があった。

 

これは異変だ、と。

 

霊夢の様に先天的な勘ではなく、何度も異変に遭遇しているうちに彼女に宿った経験によって彼女が得たもうひとつの『勘』だ。

 

「ふふふ……お察しの通り。これは異変です。でもいくら魔理沙さんでも今回はそう簡単にはお話できません」

 

服についたホコリを払い、落ちていた魔女帽子をかぶり直して魔理沙に向かって宣言する。

彼女がニヒルな笑みで聞いてきたので、こちらもニヒルな笑みで返してみた。

 

 

 

 

「この異変、解決するのはこの私ですっ!」




どうしよう!? 戦闘飽きてきた!(←サイテーだコイツ
またまた久しぶりの更新になっちゃいました。リアルが忙しいのと、やりたい事が色々あるのと両方です。
あ、最近ゆっくり実況がようやく終わることができました。でもすでに次の企画が私の頭の中に……横道逸れやすくてごめんねっ!?
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