東方忘却記   作:マツタケ

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その23

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ~、お前が異変をねえ…」

 

色々と言いたい事を言い含んで、魔理沙の視線が古河音を頭からつま先までじっくりと見定める。

魔理沙は一度だけ彼女に負けた事がある。

それを今の彼女と同一人物と言って良いかは微妙な線引きだが、少なくとも魔理沙自身はそれを負けとカウントしている。

その時の彼女は異変を『起こす』側だった。

その彼女が今回は、あの時よりはるかに弱い状態で、異変を解決すると言い出してきたのだ。

 

 

 

 

 

「異変は格好のネタ。それは幻想郷の新聞記者の共通認識です」

 

取り出されたのは古河音が射命丸より譲り受けた天狗のカメラ。

本人も気の向いた時にしか書かないので忘れられがちだが、古河音は『銀鳥譚(ぎんちょうたん)』という新聞を発行している。

内容もまた気紛れで、いたずらに引っかかった者を写真に納めたり、新しく覚えた魔法を自慢したり、どこの店が美味しい…などなど。

新聞というにはあまりに個人的過ぎて、今でいうブログに近いかもしれない。

 

ともあれ、各々がバラバラの記事を書く中で新聞記者たちが共通してネタにするのが『異変』だった。

 

 

 

 

「別に文さんを悪く言うつもりないですけど、私は異変を第三者として記事にするつもりなんて最初からないです。私自身が異変を体験して解決して、私すごい!超すごい!!っていうのを全開でアピらなきゃ気が済まないんですよ」

 

新聞に主観は厳禁だ。が、もとより彼女に客観的な記事を書くなど性格的に向いていないのだろう。

それはつまり新聞を書くのに向いていないという事なのかもしれないが、そこを補うのが彼女の好奇心と行動力だった。

実際に彼女の新聞は、読む人には読まれている。主に寺子屋の同級生な訳だが。

 

 

 

「事件は先手に回ってなんぼ。悪いけど異変も記事の人気も今回は私ごっそり持っていきます!!」

 

「…………………なるほど」

 

古河音の言葉にひどく納得できた。

動機から、自分の実力を一切考慮に入れていないその無謀さまで、どこまでも彼女らしい意見に、素直にそんな言葉がでた。

止めるつもりもない。無茶だから止めろだなんて自分の性に合わないし、仮に自分がそんな事を言われてもムカつくだけだ。

 

「けど、なら尚更お前に負ける訳にはいかないな。異変解決は私の仕事だ。霊夢にもお前にも譲るつもりはない」

 

「……たしかに。異変の競争率はハンパじゃないって聞きますもんね」

 

納得できたからといって、譲るつもりなんてもっとない。

手伝うつもりもない。つまりは早い者勝ちだ。

実力も遠く離れているし師弟関係な訳でもない。それでもこの2人はとてもよく似ていた。

 

 

 

 

 

 

「じゃあさっそく。異変の情報は力づくで聞き出すに限るんだぜ☆」

 

魔理沙の表情が黒い笑みを浮かべる。

バキリと拳を鳴らすその仕草はとても魔法使いのものではない。

 

「ちょ……!?ちょっと待ってください!実は私今魔力切れでして……そういうのはまたの機会に……」

 

「そっか。じゃあ………………………遠慮なくいかせてもらうぜ?」

 

「文脈がおかしくないですか!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、『西遊記』。猪八戒。変身する動物………か

なら、河童つながりで妖怪の山辺りが無難だな。ついでにその辺に詳しそうな早苗に当たってみるのもよさそうだ。

 

 

じゃあ、ご協力感謝するぜ!!」

 

それだけを言い残し、自称普通の魔法使いは箒に跨り彗星のように天を駆けていった。

彼女が元いた場所に残っているのは一人の少女の無残な姿だった。

 

「こ……この恨み……晴らさでおくべきか………」

 

全身ぼろぼろで横たわった状態から、なんとか身体をむくりと起き上がらせる。

追いかけようにも魔力が切れた状態では空を飛ぶ事すら出来ない。

そんな状態で異変解決宣言を堂々としたのだから、ある意味大物である。

 

 

「おぉ~…派手にやられたなぁ……」

 

上空から箒を手にした良也が現れた。

何かで削り取られた様な地面の跡、月のクレーターを思わせる巨大な穴。

その中央に座り込む古河音の姿を見れば事の悲惨さは容易に想像できた。

 

「おそ………っ!!」

 

『遅いですよ良也さん!!』

そんなクレームを言いかけた言葉を、そのままごくんと飲み込んだ。

あの衝撃映像を見かけておきながら今更登場する良也に不満はある。

が、今は魔力が切れて見た目は子供・力も子供である。

回復には半日はかかる。

魔理沙が動き出した以上スタートが遅れれば遅れるだけ不利。霊夢を筆頭に他の者も動き出す可能性だってある。

 

今すぐ異変解決に乗り出すには良也は貴重な『足』で『盾』だ。

 

 

 

 

「あのぉ~~良也さぁ~~ん」

 

「気持ち悪っ……!!」

 

どこから声を出しているのか分からないような猫なで声。

身体をくねくねとさせながらわざとらしい上目遣い。

その全てがとても気持ち悪かった。

良也も思わず文字通り飛び退くほどだ。

 

「失礼な。この私の最大限の媚売りが気持ち悪いとはどういう了見ですか?」

 

「堂々と媚売りつったなお前……」

 

なんでも正直に話す事が必ずしも良い結果を生み出すとは限らない。

言わなくてもいい事を正直に言葉にして、相手を傷つけてしまう事もあるのだ。

純真な子供の何気ない一言が、心の古傷をえぐり込むように打つべし!される経験が人間誰しも一度はあるのではないだろうか。

 

 

 

 

『You still have lots more to work on.…まだまだですわね』

 

妙に流暢な発音で良也の腰元からしたり声が聞こえてくる。顔は見えないが、おそらくきっとしたり顔なのだろう。

 

『その程度の媚売りでは殿方の心を掌握など夢のまた夢……DREAMS COME TRUEですわ!』

 

「………お前それ意味分かって言ってる?」

 

その癖発音だけは妙にしっかりとしている。

おそらくはそれを自慢したいのだろうが、使いどころをものの見事に間違えて返ってアホまる出しである。

 

『殿方の心を掌握するのであれば……そうですわね。良也さん』

 

「……なんだよ?」

 

『もし今すぐ私の封印を解いてくださるのであれば、良也さんの身体を使って公衆の面前で○○○して×××して△△△してさしあげてもよろしくてよ?』

 

「今すぐ口を閉じろこのエセお嬢様!!!」

 

口調はあくまで優雅に、言っている事はもはや表記しがたい最低の内容だった。

 

 

 

「大丈夫。羞恥プレイは立派な性癖のひとつですよ?」

 

「性癖って時点で立派も何もねえよ!ていうか違うから!!」

 

『あら、良也さんは何度か公衆の面前で裸体を晒された経歴があると聞き及びましたので、てっきり見られる悦びに飢えてらっしゃるのかと……』

 

「全部事故だよ!黒歴史だよ!!掘り返すんじゃねええ!!!」

 

彼の言う事故とは、蓬莱人特有のものだ。

蓬莱人は何度死んでも不死鳥の如く蘇る。ただしそれは肉体の話であって、『服』は別の話。

つまり炎や爆発によって身体が衣服まるごと消滅した際身体『だけ』が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とおおおぉぉぉぉぉ………ちゃくっ!IN地霊殿!!」

 

「運んだの僕だけどな?」

 

「ヤダなぁ~。ちゃんと感謝してますよ?グッジョブ・マイレッグ」

 

良也の周りに白く輝く弾幕が夜空に散らばる星のように浮かび上がり、それらが全て古河音を襲う。

地底に響き渡る断末魔は、とても汚いものだった。

 

 

 

 

『珍しいですわね。良也さんが子供に手を出すだなんて』

 

「ま……さすがに、な」

 

そもそもなぜ地霊殿まで足を運んでいるかといえば。

古河音曰く、魔理沙と被るのが嫌との事。

今回の異変の要点はなぜか幻想郷にいる猪八戒を始め『西遊記』の登場人物を探し当て、その原因を究明するというもの。

謎を解明するまでが異変です。でないとバッドエンドになってしまうのだ。

他にもいる確証はないが、いる『かもしれない』西遊記の登場人物に遭遇する事が第一のステップ。

つまり仮に魔理沙の向かった妖怪の山が『当たり』だったとしても他のポイントで『当たり』を見つけさえすればいい。

 

 

 

「あぁ~~もう……魔力の使えないか弱い乙女に何しよっとね!?」

 

弾幕の直撃を受けたはずの古河音はむくりとゾンビの如く復活を果たす。

この耐久力の秘密に、どうやら魔力は関係ないらしい。

 

「そんな事より、なんで地霊殿?」

 

「そ、そんなこ……」

 

狭いようでいて広い幻想郷。無闇に探していてはキリがない。

一番可能性として高いのは魔理沙の選んだ妖怪の山だろう。いかにも『河童』や『猿』がいそうだ。

牛魔王などの線も考えれば、あながち間違ってもいないのだが。

 

 

 

 

「んふふふ…捜索ゲームの基本は意外性ですよ」

 

確信にも似た自信に満ち満ちた瞳が良也を見据える。

さながら気分はコ○ン君だ。言動はただのアホだ。

 

「『このキャラここにいそうだぞ』なんて素人の考えなんですよ。大事なのは意外性……『こんな所にいる訳ないじゃん!』『こんなん分かる訳ないじゃん!!』そういう所に重要キャラを配置させる………修羅場を潜り抜けてきた私の勘がそう言っています」

 

 

 

 

「………なんで」

 

なんでコイツは、こんなある意味超理論をこんなにも自信を持って言い切れるのだろう。

素直にそんな疑問が沸いてくる。

その姿はまるでチョビひげを生やして毎度子供探偵に眠らされる迷える探偵。

根拠など何一つなく、自分の発想をここまで疑わないのはある意味才能かもしれない。

 

「………あ」

 

そこまで考えてなんとなく疑問が解けた様な気がした。

アレだ。

料理下手な人がどういう訳か味見もせずに自信満々で人に料理を振舞う。

そして決まって人を悶絶させるような悲惨な料理を作り出す。

古河音の言動は、それに通じるものがある。

 

 

「そ・れ・に、一度旧地獄の源泉温泉入ってみたかったんですよね~!魔力回復にも期待できそうだしっ♪」

 

鼻歌交じりに小踊りしながら、旧地獄の道を駆けて行く。

魔力は尽きていながらも体力のほうはまだまだ健在のようだ。

 

 

 

 

 

「………はっ!」

 

駆け足の古河音の足が、何かに気づいたようにぴたりと止まった。

ゆっくりと振り返るその動作は、背後の気配に気づくホラー作品の被害者を思わせる。

振り返る先には良也の姿。珍しく神妙な顔でごくりと唾を飲み込んだ。

 

 

 

「のぞ… 「覗かねーよ」

 

 

 

「……はえーよ」




戦闘描かないほうがはかどるなーって改めて実感しはじめた今日この頃。
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