東方忘却記   作:マツタケ

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今回は温泉回だよーっ!出血大サービス挿絵つきダァーーっ!!


その24

 

 

 

 

 

 

「……………ふう」

 

地下の温度は地上より暑い。

一般的な地下ではなく、旧地獄はという話だ。

そんな地底の名物の一つがその熱を活かした地底の温泉。

博麗神社に沸く温泉の、元ネタである。

 

暑いのであれば、身体を冷やせば良い。

単純で分かりやすく、道理だ。

だが人は暑い中で熱い湯に入り、汗を洗い流しながらもまた新しい汗をかく。

一見不合理なこの行為。

だが適度な温度の湯は筋肉を解し疲労を回復させる。逆に冷水は筋肉を強張らせて疲労が増す。

プールで泳いだ後の授業中に襲い掛かる耐えようのない疲労感は、誰しも経験があるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……極楽ごくらく」

 

そんな自然と漏れた言葉が、不意に自らのボキャブラリーセンスの無さを感じさせる。

良いではないか。自然と漏れるからこそ、そこには工夫も捻りも無い言葉が生まれるのだ。

誰も聞いてはいない心の中で、自分の中で自分に対して言い訳中。

正確には、もしかしたら聞かれているのかもしれない。

この旧地獄には、独り言のような心の声でさえ、聞き取れる妖怪が存在する。

 

 

 

 

『暇ですわぁぁぁぁぁっ!!』

 

服とは別に置いてきた荷物置き場から、金切り声の様な騒音が鳴り響いていた。

携帯の着信音などまるで比較しようのない騒音だ。

マナーモード機能がついているなら、今すぐ音を止めてブルブルと震えてほしいものだ。

 

「はあぁぁ……」

 

大きく息をひとつ吸って、特大のため息ひとつ。

身体の疲労はとれても、心の疲労は未だとれる様子もない。

 

気を紛らせるように天を仰ぎ、そういえばここは地下なのだという事に気づく。

 

 

 

 

 

「………んんっ!?」

 

首を上に向けたまま、見上げるまでに視界に何かが映った映像を脳内で再生中。

何かそこに、妙な物が映り込んでいた。

細くて、緑で、長くて、こっち見てて、尖ってて…。

それが何かと言われれば、『何か』としか言いようのない何かが確かに今、視界に映り込んでいた。

 

ずっと上を向いたまま、それを確認するのが恐ろしい。

けれどもしソレがこちらに敵意があるのなら、確認しないのはもっと恐ろしい。

恐ろしい VS 恐ろしい。選択肢など存在しない。

 

「ええぃ……ままよっ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

河童。

頭には皿があり、爬虫類のような緑色の肌。鳥のようなくちばしに亀のような甲羅を持つもう何がなんだか分からない種族の妖怪である。

河童。

そうとしか言いようのない見事なまでの伝承的な姿に、良也の頭の中では壊れていらなくなったデジカメを嬉々として分解する河城にとりの姿が映り込んでいた。

軽い走馬灯状態なのだろう。

呼鳴…。やっぱ河童ってこうだよな。

走馬灯を見ながらも、良也の中の冷静な部分はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁっ!!!」

 

あまりのインパクトに、あまりのショッキングに、遅れていた絶叫が今になって時間差でやってきた。

幻想郷に数多くの魑魅魍魎が存在するのは今や語るまでもない。

それでも人の姿を模っているためか、そのショックはマシといえるレベルだった。

あまりにそのままの河童が突然目の前に現れれば、普通に驚く。

 

 

良也の絶叫に辺りがざわめき始める。

温泉に浸かる際、タオルを身につけるのはマナー違反だという事はご存知だろうか。

彼もまた、その辺りのマナーはきちんと守っているうちの一人である。

つまりは一糸纏わぬあらヤダな姿。

幻想郷の住民は女性率が高い。そして好奇心が旺盛だ。

男一人全裸でいようと平気で入ってくる可能性大である。

 

そこまで考えが至ると、咄嗟に腰を縮めて再び身体を湯につけた。

正体不明の河童が目の前にいる状況でそんな事をしている場合ではないと分かっていながらも、羞恥心の方が勝ってしまった。乙女である。

 

 

 

 

 

「……………………………………」

 

「……………………………………」

 

ぽっ///

 

そしてなぜか、河童の方が恥ずかしげに頬(?)を朱に染めた。

そこはかとなく、もじもじしているようにも見える。

 

「なんでだよっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷぷぷぷ……!」

 

『ぷぷぷぷぷぷっ……!!』

 

「笑うなぁっ!!」

 

前世と現世が、とても楽しげに声を殺して笑いを堪えている。

古河音は自らの口元を手で覆い、もう片方の手で良也を指差している。鈴芽の方も身体があったなら同じ様なポーズをとっている事だろう。

 

「で、なぜか河童に全裸見られて懐かれた……と?」

 

温泉から出終わった後も、河童はどういう訳か良也のあとをついて来た。

それはもうぴったりと。まるで刷り込みで犬を親だと思い込んでついていく鳥の雛のように。

 

「……ずっとついて来るんだよ」

 

「『ぷっ………はっはっはっはっはっはっはっは!!』」

 

堪えていた笑いのダムが、ついに決壊した。

まるで捨て犬に懐かれて困っている少年のような良也の発言がよほど2人のツボにはまったのか、もはや下手なお笑い芸人の会場よりもずっと笑いが起きている。

 

「ぷぷぷ……良かったですね良也さん。ついにモテ期キタじゃ………ぷぷっ……ないですか……ぷーっふっふ!!」

 

『ひー…お腹ないけどお腹痛いですわ……。人間にモテずに人外に好かれるというのは………ぷぷっ!……立派なラノベ主人公の……ぷぷっ!……ステータスですわよ?』

 

「あーっはっは……河童にモテるラノベ………ぷっはっはっはっは!!」

 

『朝起きたら幼馴染の河童が………ぷっふふふ……!!』

 

 

 

 

「……………」

 

もはや笑いの地雷原に自ら突っ込み転がりまくっている。

あまりに楽しげな2人の様子に怒る気力もない。

その間も、背後の河童がまた少し距離を詰めてきている。サイテーのモテ期だ。

 

「あーっ!こんなところにいた!!」

 

そんな収拾のつかない状況に一人の少女が駆け寄ってくる。

上下が黒で統一されたゴスロリのドレスを身に纏い、頭からは黒い猫の耳を生やしている。

彼女の名は火焔猫燐。本人が長い名前を嫌っており、通称お燐である。

 

「あれ?良也じゃない。さとり様に用事?」

 

「いやー…あぁ~~~……」

 

尚も爆笑中の一振りと一人。コイツに頼まれてやってきたと説明するのがなんとなく癪な気がした。

 

「……温泉に浸かりに」

 

「あっはっは!温泉なら博麗神社で事足りるでしょうに。どうぞご贔屓に♪」

 

けらけらと笑うその様は、彼女の人懐っこさを表していた。

人懐っこいという点では古河音にも言える事なのだが、何かが違う。何かが足りない。

そう、爽やかさが足りない。

 

「っといけない!ほら、早く帰るよ?さとり様も心配してるんだから!」

 

そう言って良也の隣にいる河童の手を引く。

引いているはずなのだが…傍目からはいたいけな少女が河童に襲われているようにしか見えないのだから、見た目というのは非常に重要である。

 

「なんだ、このリアル河童と知り合いか?」

 

「うちの新入りだよ。行くアテがないとかでウチで住まわせてるの」

 

「へぇ~~……」

 

 

 

 

「ほら、行くよ悟浄!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?今なんて……おいっ!」

 

どこかで聞いたような単語に思わず古河音に声をかける。

そこまでしてやるような義理などないのだが、変なところでお人好しである。

 

 

 

「河童学園の生徒会長に呼び出されて……」

 

『……パンを加えて河童のヒロインのラッキースケベ』

 

「『ぷぅ~~っふっふっふっふ!!』」

 

 

 

「お前らあああぁぁぁ~~~~~~~っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地霊殿。

旧地獄に存在する地上の荒くれ者が追われ住み着く旧都。

その中心に立てられた古明地姉妹の住まう屋敷の名称だ。

例に漏れずここにいる者たちもまた幻想郷に異変をもたらした張本人たちである。

その主である古明地さとりは『覚(さとり)』と呼ばれる心を読む事を得意とする妖怪であり、数多くのペットを放し飼いで飼っている。

良也と雑談していた火焔猫燐もそのうちの一人だ。

 

 

「で、最近になってそこに河童を飼い始めたの。仲間とはぐれたとかなんとか」

 

聞いてもいないのに、さとりは一人淡々と説明だけを終えた。

良也たちがさとりの部屋に訪問してわずか数秒。相手が座り終えるのを待たずにただ淡々と、『河童説明会』が始まってしまったのだ。

その間、さとり以外は誰一人として喋っていない。

質問をする前に彼女が一人で答えてしまうからだ。

 

状況はあらかた把握できた。できたのだが……どこか釈然としない。

 

 

 

『さとりさん……と、仰いましたわね?』

 

「アナタと私の能力が被っている事が気に入らないと?

しかも今のアナタは能力が使えないから一方的に思考が読まれる事が更に気に入らないと?

 

こちらに他意はなかったのだけど、気分を害したのなら謝るわ。ごめんなさい」

 

 

 

『いい加減に……

 

 

 

 

 

 

しなさいよこのアマあぁぁぁぁぁっ!!

何なのさっきから!?ひとりゲーム実況でもしてるの!?馬鹿なの!?死ぬの!!?

こっちはそういうとこ込み込みでアンタに事が気に入らないって言ってんのよ!!会話のキャッチボールって知ってますか!?年中オンゲでソロプレイですか!?どーせチャットとかしてても一人会話に混じれずボッチなんでしょ!?ばーか!バーカ!!』

 

金メッキが剥がれた瞬間だった。

身体は刀剣なのだから息切れなどしないはずなのだが、ぜぇぜぇとどういう訳か呼吸を荒げている。

おそらくは人間の身体を持っていた頃の名残なのだろう。要するに息が切れた、ような気がするのである。

 

彼女の言葉を聞きながら、彼女の心を読みながら、その2つを吟味しながらさとりは深く感心する。

心の声と言動が見事に一致する。

通常人でも妖でも、何かしら言葉を口にする際心の内容を編集して言葉にする。

しかし鈴芽の言動には一切それがなかった。

心の内容をダイレクトに、本能の赴くままに何も考えず言葉にしているのだ。

かつては自分と同じく多種多様な人の闇を覗いた経験をしておきながら、こうまで自由奔放に生きられるのは、さとりにとってひどく興味深いものだった。

 

 

 

 

 

「………せっかく来たのだから、紅茶でも淹れてくるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『……勝ちましたわね』

 

「いや、お前の負けだよ」




・・・・・・・・・・・・・・。
嘘は言ってない。ちゃんと入浴シーンありました。挿絵もついてました。
ワタシ ウソ ツイテナイ。
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