東方忘却記   作:マツタケ

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その27

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ悟浄さんさとりさん、ご協力感謝ですっ!」

 

ふわりと宙に浮かんだ箒に腰掛ける。

温泉の効能か単に疲れがとれただけか、古河音の魔力はフル充填。

得られる情報も得たし異変のピースである沙悟浄の拠点も発覚した。

異変に対して一手手掛けた気分だ。

今回彼女に協力したもう2人の人物。土樹良也と月詠鈴芽は未だ意識をとりもどしてはいない。

 

が、異変解決は時間との戦いだ。

現在進行形で動いている魔理沙も然る事ながら、博麗霊夢がいつ動き出すか分かったものではない。

彼女に動かれると、競争相手としては非常に厄介な相手だ。

 

 

「時代を駆け抜け突き進め~~っ!Go! Go! しるばーどっ!!」

 

対猪八戒戦以降、ずっと箒で飛べてなかった事もあってか、久々の箒の乗り心地にテンションは高々と急上昇。

残り魔力の残量など頭から捨て去り、文字通り全力疾走で地底を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

駆け抜けていた古河音の速度が徐々に落ちていく。

それは尚も減速してゆき、地底の真ん中でピタリと止まった。

 

「どこ行きゃいいんだ私っ!!?」

 

勢いで飛び出したは良いものの、目的地が皆無。

恋愛アドベンチャーなどではこういう場合マップ上に目的のキャラクターのアイコンなんかが表示されるが……残念ながらこれは現実である。

 

「こうなったらやっぱ一番当たりのでかそうな妖怪の山行ってみるかなーー……。いや、魔理沙さんが行くって言ってたし……」

 

珍しく、ない頭を必死に働かせる。

博麗の巫女ならばこういう時、直感の赴くままに動くのだろう。

残念ながら古河音には彼女のような天性の直感など備わっていない。

運に身をゆだねるには幻想郷は広すぎる。

 

「………よしっ!」

 

別に沙悟浄からの情報だけでなくとも情報は手に入れられる。

目撃情報。

何も今回の異変に詳しくない者でもそれらしいものを見た者はいるだろう。見た者を見た者だっていかもしれない。

RPGだって目的が分からない時は人に聞いたりするではないか。

 

「おぅ、さっそく人発見♪」

 

目的が分かればあとは早い。脇目も振らずに実行あるのみ。

天性の勘は古河音にはないが、代わりに行動力だけなら魔理沙にだって負けてない。

射命丸文にも、そこだけは買われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほぉ~~パルスィさ~んっ!今日も元気にパルパルしてますかぁ~?」

 

古河音が情報を求めたのは水橋パルスィ。

種族は橋姫。橋を守る女神とされているが、伝承によっては鬼女や妖怪という説もある。

説は多岐にわたるが、元は人間だった女性が想いを寄せていた男性を奪った女性を亡き者にするため儀式を経て鬼になったというのが最も有名である。

その伝承がたしかなら種族的には鬼に近いのかもしれない。

 

「……相変わらず何の悩みも抱えてなさそうな能天気な顔ね。妬ましい」

 

彼女が本当に伝承通りの経緯を経たのかどうかはさておき、彼女の能力は相手の嫉妬心を煽るという忌み嫌われる類のものなのだが、それ以上に本人が嫉妬深い。

彼女の力の源は嫉妬心であり、自らの嫉妬心でもそれを補給できる。なんという自給自足。

 

「ヤダなぁ~。パルスィさんに妬まれるだなんて、私照れちゃうじゃないですか~っ☆」

 

「……人に嫉妬されて喜べるだなんて、その図太さが妬ましいわ」

 

「もう……そんな目で見つめないでくださいよ……。私ってばそんなに妬まれるくらい魅力的ですか?」

 

「……睨まれているのを見つめられると解釈して、挙句自分を魅力的だなんて思えるその図々しさが妬ましいわ」

 

「ほら、私ってば見られて綺麗になる女っていうか……正直パルスィさんの視線って若干癖になりそうなんですよね……えへへへ♪」

 

「……人の睨みを喜びに変えられるその前向きさが(以下略)

 

彼女と古河音のやりとりは基本この繰り返しである。

基本妬まれるという事はむしろ褒められていると考えている古河音と、その前向き思考をさらに妬むパルスィ。

これを循環しているととるべきか悪循環ととるべきか…ともあれこの2人が会話を始めると無駄に長い。

加えて彼女、最近若干マゾっ気に目覚めつつある。

睨まれ妬まれる事そのものが、古河音にとってご褒美になってきている。

もはや……取り返しがつかない。

 

 

 

 

 

 

「……おっといけない。パルスィさん、この辺で豚とか猿とかお坊さん見かけませんでした?」

 

「………唐突に何なのよそのレパートリーは?」

 

常に眉間にシワを寄せていたパルスィの表情が、初めて唖然としたものになる。

元ネタを知らない者にとってそれはあまりに突飛な組み合わせなのかもしれない。

 

「……そういえば、ヤマメが蜘蛛の糸に引っかかった子豚を持ち帰ってたわね」

 

「……っ!!それだぁぁぁ!!!」

 

黒谷ヤマメ。パルスィと同じく地底に住む土蜘蛛だ。

読んで字の如く蜘蛛の妖怪で、糸にかかった獲物を捕食する。

ただしそれは蝶や羽虫などではなく……妖怪らしく人間を捕食する。

 

彼女とは面識はないが居場所くらいなら魔理沙から聞いた覚えがある。

その子豚がもし本当に猪八戒なら、この時点で既に半数のピースを手に揃えた事になる。

居ても立ってもいられずに、パルスィの存在が完全に頭から抜け落ちたまま全力疾走。

 

 

 

 

「れっつごーっ!ヤ・マ・メ!ちょっはっかいぃぃ~~~っ!!」

 

 

 

 

「………人から話を聞くだけ聞いて用ができたら礼も言わずに走り去る………その行動力が妬ましいわ」

 

ここは素直に怒って良い場面である。

嫉妬もここまでくると、ある意味ポジティブなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~♪」

 

地底に風は吹かない。ただし風圧は存在する。

ある程度の速度で移動していれば風を感じる事が出来る。

風を感じる…言い得てベタな表現ではあるが、古河音はその感覚が好きだった。

人間は通常空は飛べない。"外”の人間ともなれば特にだ。

そんな彼女がある日突然空を飛べる術を手に入れて、ましてや人並み以上の才能に恵まれたとあっては、気に入らない訳がなかった。

風が強く感じるという事はそれだけ自分が速く飛んでいるという事。

自分の速さを分かり易く実感できるのだ。

 

「…………っ!!」

 

そんな中、前方から突然突風が吹き荒れた。

箒に腰掛けるという中途半端な態勢のため、突然の衝撃に大きくバランスを崩してしまう。

地底に風は………吹かないはずだった。

そしてその風には、どことなく既視感を感じさせた。

どこかで今の風を受けた記憶があるのだ。

 

「まさかっ!!」

 

いつになく真剣な顔で、今度はバランスを崩さないようにしっかりと箒に跨って、再び突風の起こった方向へ向かって全速力で飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあぁぁ~~~……もう一体何だってんだい!?」

 

黒谷ヤマメは目の前の少年に困惑していた。

最初はそれは少年ですらなかった。

自らの仕掛けた糸に久々に獲物が掛かっていたので嬉々としてそれを持ち帰ってみれば、突然光りだしてこちらに襲い掛かってくる始末。

動きは隙だらけだし空も食べない、弾幕も撃てないようだ……が、攻撃力がギャグの域だ。

腕力だけなら鬼と同等かもしれない。

 

「何もなんもねぇっ!人の事さ喰おうとしておいていざ自分が反撃さ受けたら文句言うだか!?」

 

「人も何も…アンタどう考えても人間じゃないだろっ!?人の住処こんなにボロボロにしてくれて……どう落とし前つけてくれる気だい!?」

 

ヤマメが彼に苦戦している理由が何よりもそこだった。

彼女の能力は『病気(主に感染症)を操る程度の能力』。

文字通り相手を病気にしてしまう恐ろしい能力だが、妖怪というのはどの種族も総じて肉体的なダメージに滅法強い。

その対抗策として魔力や霊力などが使用される訳だが。

ともあれ、つまりは妖怪は病気にかかりづらい。

そのため彼女の能力は人間相手には非常に凶悪な能力ではあるが、人外相手にはとても相性の悪い能力なのだ。

 

 

 

 

「オラは正義の妖怪だっ!人間を食い物にする悪い妖怪さ退治すんのがオラの役目だべっ!!」

 

「あぁぁ~~……はいはい。なんか人里にもいるらしいねそういうのが……。

そりゃ精神だったりその辺の虫だったり妖怪によっちゃ人を食わないのもいるだろうさ。でも人を食わなきゃ生きていけないヤツだっているんだから!その辺はもっと融通ってヤツをさぁ……!」

 

「そこを喰わずになんとかする方法を見つけるのが、仏の道だべっ!」

 

「……分かった分かったそういう感じか…。話通じない感じか。もう良いよまったく!!」

 

人を食うな。

そういう声は以前から幻想郷に上がっている。

実際ヤマメも納得はしている。仮に妖怪を食事にする種族なんてものがいれば妖怪は結集してそれらを排除にかかるだろう。

自らの種族を守るため戦う。当然で自然な流れだ。

だからこそこの幻想郷でもその辺りの線引きが引かれている。

 

けれどやっぱりたまにいるのだ。

彼のように人間を一切食べるなという頑固者が。妖怪にも。人間にも。

たしかにそれは正論なのかもしれない。

無益な争いはなくなるに越したことはない。

けれどそれなら人間は食事に何か制限をかけているのか。宗教などでかけている者もいるがそれは極一部の話。

なのに妖怪だけ『主食を喰うな』という始末である。

理不尽だ。

そう、正論が必ずしも常に正しいとは限らない。妥協しない正論とは時にとても理不尽なものにもなり得る。

 

 

 

 

「……とは言ったものの。どうしたもんかねぇ」

 

冗談のような腕力を見た時点ではっきりしている。

妖怪としての地力は向こうの方が圧倒的に上なのだろう。

ただ、どういう訳か妖怪のくせに空も飛べなければ弾幕も撃てない様子。

鍬を振り回すときに発生する風圧がすでに弾幕の域ではあるが…。

おそらくは2~3発弾幕を当てたところでピンピンしているのだろう。

相手を弱らせる事を得意とする彼女にとってタフな相手というのが一番相性の悪い相手だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

「れでぃ~す え~んど じぇんとるむぇ~ん!!本日注目のぉぉ……

 

 

あぁかぁこ~な~~……魔女っ娘・元気でヲタク趣味!きゅーとで可愛い古河音ちゃ~~んっ!」

 

 

 

 

 

 

「俺・参上!!」

 

ヤマメと少年のちょうど真ん中くらいの位置取りに、一人の少女が降り立った。

なぜか両腕と両足を広げて何かのポーズを決めている。

彼女なりに格好良いポーズのつもりなのだろうか。

 

「お前ぇは……」

 

少年は少女の登場に多少なりとも驚いている様子だ。

ヤマメ自身も驚いてはいるが、唖然としている感の方が強い。

 

 

 

 

「むふふふ……。お久しぶりです。八戒くん。

 

 

 

さぁ、海賊の時間だ!」




基本私のやってるパロネタって元ネタ知らないのにググったりして見つけてるものがほとんどだったりするというどーでもいい暴露。
東方キャラの説明の時はいつもPixiv百科様にお世話になってます。
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