スペルカードルール。
殺し合いや争いではなく、一対一での決闘を基本としあくまで勝ち負けを取り決める決闘のルール。
幻想郷で呼ばれる弾幕ごっこである。
細かなルールはその時々で変わりはするが大まかなルールは以下のとおり。
・自らの決め技を『スペルカード』としこれを使う際には必ずそれを宣言しなければならない。そのため不意打ちは厳禁
・スペルカードの回数、また使用時間を決めておきそれを越える時間攻撃を続けてはいけない。
・相手の体力・気力が尽きた時点で勝敗を決する。それ以上の追撃をしてはならない。
あくまでお互いの勝敗を決する…まさしく決闘のルールだ。
その中で相手が死ぬ事もあるが、あくまでルールを遵守した上での話。
「以上、幻想郷でのスペルカードルールでした♪」
「つまり…………………
卑怯な事すんなって事だな!!?」
「そゆ事♪」
恐らくはルールの3割も理解できていないであろう猪八戒の発言だった。
……が、的は得ている。
決闘というニュアンスからそう感じ取ったのか、はたまた直感でそう思ったのかは定かではないが、弾幕ごっこにおいて細かなルールなどあってないようなもの。
そこさえ頭の中にあれば弾幕ごっこは成立する。
「じゃあ、オラからいくぞっ!!」
「うむっ!かかってくるがよい!!」
―――岩符・『天の川の濁流』
猪八戒。正式名称・天蓬元帥猪悟能八戒。
天保元帥とは天の川を管理し水軍を指揮する天界の官職。
つまり猪八戒とは元は天の川の管理者でもあった。
鍬で足元の岩を思い切り掻き上げ、無数の岩石が標的に向かって一直線に飛んでいく。
更には鍬を振り回した際に起こる風圧が岩石と共に吹き荒れ、その様はまさに岩石の濁流。
同じ天の川を題材にしたスペルでも魔理沙の『ミルキーウェイ』とはまるで違う。
むしろ性質としては怪力を自慢とする伊吹萃香や星熊勇儀に近いかもしれない。
威力・射程・範囲・スピード、どれをとっても弾幕としての質はとても高い。
弾幕を撃てない彼が放つ力技は下手な弾幕よりも弾幕としての完成度は高かった。
そう、もはや立派な弾幕だ。
「けど………マスパより遅いっ!!」
地を蹴り速度に乗って得意の風の性質を持つ魔力で追い風をつけて、箒に乗って駆け抜ける。
前回と今回とで、決定的にちがうものが古河音にはある。
それが箒を使っての機動力だった。
もともと彼女の地力など中の下も良い所。スタミナでいえば良也よりもずっと低い。
そんな彼女が唯一幻想郷の強者と渡り合えるもの。それが箒を使っての飛行魔法。
動体視力も折り紙つきだ。
『避ける』という事が重要な弾幕ごっこにおいては非常に重要な能力といえる。
「わははははっ!お前に足りない物、それは!情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!そして何よりもー!速さが足りない!!」
彼の放つ力技はたしかに立派な弾幕だ……が。
その『立派な弾幕』を曲がりなりにも古河音はこの幻想郷で何度も見てきた。
猪八戒を相手に古河音が彼よりも優れている点。それが速さと、弾幕ごっこの経験の差。
もとより彼を相手にガチンコをやって勝てるなどとは彼女も思っていない。
だが弾幕ごっこという土俵の上ならば、経験の差が確実に生まれる。
ぶっちゃけ子供がゲームで初心者の子を連れ出して本気で倒しにかかるみたいでみっともない。
「……いけるっ!他の人たちに比べたら『ハメ』方がまるでなっちゃいない!ぶっちゃけ当たったら死ぬけどこれは避けれる弾幕だっ!!」
当たったら死ぬという事実が彼女の頬に汗として現れてはいるものの、実際にここまで古河音は彼の放つ岩石にかすりもせず避けきっている。
『避ける』という経験は、確実にこの弾幕ごっこに活きてきているようだ。
「こ……のっ!!前と全然ちげぇ……なんで当たらねえんだ!?」
「ふふふ…当たらん…当たらんよ!?無駄無駄無駄無駄無駄無駄――――……これが私の最新スペルっ!!」
―――愛符・『萌え萌えキュン♡』
辺りに散らばる光の粒。
弾幕と呼ぶには余りに小さく淡く輝くその光景に―――――……
「……………………」
猪八戒の目は奪われた。
まだ弾幕ごっこを把握しきれていない彼は、少なくとも『攻撃』がくるものとばかり身構えていた。
これもまた弾幕ごっこの要素のひとつ。『魅せる』弾幕だ。
「………っ!!?」
突如、光の粒のひとつが爆発を起こす。
遠くの方でひとつの爆発…それをきっかけに連鎖的に光の粒が起きてゆく。
近くの粒が、遠くの粒が……爆発する間隔は一定でもどの粒が爆発するかまるで分からない。
実はこの弾幕、彼女の魔法ではない。
魔法の森で見かけられる衝撃を与えると不思議な爆発するキノコの胞子をビンに詰め、ばら撒いたものである。
そのため一切魔力を必要としない非常にエコな弾幕だ。
環境的にはまったくエコではないが。
そこに加えて――――………
「きゅっとしてぇぇ~~~~…………ドカンっ!!」
古河音自身が標的に向かって光の弾を放つ。
彼女自身の魔力の込められたそれは周りの粒より一際大きな爆発を起こし、何より速い。
辺りを爆発するキノコの胞子で覆い、彼女自身も爆発性の弾幕を放つ。
これが彼女の新たなスペル愛符・『萌え萌えキュン♡』である。
「こ…こんのォ!!」
「ふぇ…?」
それは、あくまで意図しての行動ではなかった。
八戒はただ苦し紛れに鍬を振り回しただけだ。
ただその行動が、辺りに散らばったキノコの胞子を古河音の元へと運ぶという結果へと繋がった。
胞子は一度空気に触れて爆発が起こったが最後、もうそれは止まらない。
「うぎゃああああっ!!やべっ……!これやべぇ……!!あ、でもこれなら今回のスペカ当たりかもしんない……っ!ぴぎゃああ……っ!!」
一発逆転・因果応報・自業自得、この状況を表す言葉はどれが適当だろうか。
ともあれ今まで猪八戒が置かれていた状況は全て古河音に置き換わる。
これもいわゆるひとつのスペルブレイクなのかもしれない。
「お…おぉ!なんか自分が妖術でも使ってる気分だ…!楽しくなってきただっ…!」
古河音の逃げ惑う姿を見ながら八戒は妙に満足気な笑みを浮かべる。
この弾幕ごっこを純粋に楽しんでいるのか……潜在的にサドの性質を秘めているのかは定かではないが。
「よぉ~~しっ!お前の見ててだいぶ分かってきたぞ!!」
「………へ?」
ぐっと足に力を込めて…足元の地面にひびが入る程の脚力で地を蹴った。
跳躍…などとは生ぬるい。宙に浮かんだ古河音に余裕で届くジャンプ力を見せ古河音の前まで迫ってゆく。
当然古河音はそれに反応する。いくらその跳躍が鋭いものではあっても弾幕に比べれば当然劣る。
ほんの少し届かないところまで高度を上げれば良い。それだけで空を飛べない彼はそのまま重力に従って落ちていく。
はずだった。
「ふんぎぃ……!!」
「ぴょ!!?」
まだ不安定ではあるものの、落ちていくはずの身体がたしかに踏み止まった。
その事実に古河音は焦った。
経緯はどうであれ彼が空中に踏み止まったという事はこのまま第二撃が襲い掛かってくるからだ。
「………スペル2枚目っ!!」
出し惜しんでいる余裕はない。一刻も早く次の攻撃がくる前に相手の動きを封じなければならない。
でなければ…やられる。
―――水符・『一緒に暗殺しなイカ?』
いつの間にやら彼女の十八番。
以前は子豚時に躱されたが今回は人型サイズの標的のため命中し易い。
無数の触手が八戒の手足を縛り上げる。毎度おなじみ破られてもその度再生する仕様だ。
彼の怪力を抑えるためには、再生と触手の本数に相当魔力を注ぎ込まなければならない。
「~~~~~~~~~~っ!!!」
捕縛された獣は自身に何が起こっているかも分からずにジタバタと身体を必死に動かせる。
それと同じ様に彼もまたとにかく身体を動かした。
手足をぶんぶんと振り回し、レバガチャよろしく駄々っ子のように空中でもがいている。
「……はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……。か、かわぇぇ……っ!!も…もう…もう…
は…鼻血でそ…………ってホントに出てきたっ!?どうしよ…止まんないっ!」
頭から小さなケモ耳を生やした少年が四肢を振り回すその光景が、彼女の精神を十二分に乱れさせた。
挙句その精神の乱れは肉体にも影響したらしく、手のひらで鼻を押さえるも…その隙間から赤い液体が流れ出ていた。
当然そのような状態で、魔法の持続などできるはずもない。
「……なるほど。自分の力を弾に変えれば良いだなっ!!」
触手から解き放たれた猪八戒は、感覚的に弾幕がどういうものなのか理解し始めたらしい。
その間も古河音は必死に流血を止めようとしていた。
「ひょ…ひょっと待っへ……!乙女のピンひにあんたそんな………っ!!!」
尚も片手で鼻を押さえながら、空いたもう片方の手で必死に抗議のアピール。
……が、聞こえていない。
凄まじい程の集中力で彼の中の妖気が高まっているのが肌で感じられる。
大技が放たれる前兆だ。
「……むっ!!?」
突如思いもよらぬ方向から光の塊が押し寄せる。
咄嗟に古河音はそれを避けるも、それはそのまま消える事なくその場に壁のように存在し続けていた。
再び同じ様な光の壁が右から、左から、前方から、あらゆる角度から押し寄せた。
古河音自身それらを避けながらも薄々気づき始めた。
これらは攻撃であって……攻撃ではない事に。
――――罪符・『八戒』
八戒…八斎戒とも呼ばれる仏教で在家の男女が一日だけ守る戒めの事を意味する。
そもそも八戒という名前はかつて人を食らい罪を犯した豚の妖怪の欲望を戒めるため三蔵法師が与えたものと言われている。
今の彼がその逸話とどこまで合致しているのかは……定かではない。
「す………救いはないんですか……?」
気づけば光の壁は八本に達し、猪八戒と古河音を囲んでいた。
彼を相手に接近戦は禁物。だから彼女は弾幕ごっこを申し込んだ。
更には著八戒の持っていた鍬が、いつの間にかとんでもない大きさに巨大化していた。
正確には以前古河音が魔力で剣を作って見せたのと同じく、妖気で作り上げたものだ。
「こ………降参シマス」
戦闘描写って疲れます。
前回温泉回とか言っておきながらアレだったのでがっかりされた方もいらっしゃるとの事で。
今回は正真正銘、うちのヒロインの入浴シーンを描いてみたジ☆
【挿絵表示】
ど……どうでしょうか?(振るえ声)