東方忘却記   作:マツタケ

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その29

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どあぁぁぁ~~~~~~~っ!!負けたぁぁぁ~~~~……!!」

 

弾幕ごっことは心の勝負。

”勝てない” そう相手に思わせた時点で勝負は決してしまう。

それが力押しであれ、威力はなくとも美しい弾幕だったり、とにかく相手の弾幕を避け続けて“当たらない”そう思わせるのでも構わない。

心が負けを認めてしまったら、どんなに余力があろうと関係ない。

 

そういう意味で今回、古河音は完敗だった。

単に力で負けたというだけでなく、八戒の途中からの成長速度・偏に弾幕の美しさ・完成度。

それらを含めて古河音は心から“負けた”と思ってしまった。

 

 

 

「あぁぁ~~……くっやしいぃ~~!」

 

地面に仰向きで寝転がって、頭の中で今回の弾幕ごっこをリプレイする。

途中までは流れも良かった。そして負けた。

だからこそ悔しい。そして楽しかった。

矛盾する二つの気持ちが、古河音の顔をにやけさせていた。

 

 

「ふあぁぁ~~~~……面白えだなこの弾幕ごっこっての!」

 

まだ不慣れながらも空を飛ぶ事を覚えた猪八戒が古河音の元へと降り立った。

その嬉しそうな顔を見ると楽しさよりやはり悔しさの方が勝ってしまう。

だがやはり悔しさ以上に……ケモ耳少年を真下から眺めるというのはなかなかに絶景だった。

 

 

 

「んで、負けたら何でも言う事聞くって約束だっただな?」

 

「………っ!?」

 

その言葉に古河音は寝転がらせていた身体をばっと起き上がらせる。

たしかに、した。

弾幕ごっこの直前に、今回の異変解決のためそういう約束を、した。

弾幕ごっこなら勝てる。そんな薄っぺらい勝算の下負ける事などまるで考えずにそんな約束をしたのだ。

 

「ここここ……これなんてエロゲっ!?むしろ同人誌!?あかんよっ!これあかんヤツよっ!?読者の皆様私の事をそんな目で見てたのねっ!!?」

 

 

 

 

 

 

「んで?オラは何したらいいだ?」

 

「…………………………………へ?」

 

 

「勝ったのはオラだけど、お前との勝負楽しかったからお前の言う事聞いてやる☆」

 

惜しげもなく歯を見せてニコっと笑うその笑顔が、古河音の涙腺を爆発させ、彼の背に後光が差し込んでいるように見えた。

 

 

 

 

「て………………天使やっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぜぇ………ぜぇ………ぜぇ………」

 

そこは魔法の森……だった場所である。

今もそこは魔法の森である事には違いないが、眼前の光景を目にしてそこを魔法の森と判断するのは難しいだろう。

 

それほどに辺り一帯は荒れ果てていた。

 

 

 

 

 

そんな中で2つの人影が。

1つはその場で疲れきった様に座り込み、もう1つはその影に向かって何かを構えているようだった。

 

「………………私の、勝ちだな!!」

 

「………ふっざけんな!せっかく人が綺麗にしてやった家ごとボロボロにしやがって!だいたいこんな弾幕ごっこ……だったか!?んなもんやらなくても事情くらい説明するつってんだろ!!」

 

「それはダメだな。私の様式美に反する」

 

腰まで伸びた赤みがかったボサボサの頭髪。

鋭い碧眼に首下から長く伸びたスカーフ。

粗暴そうで、それでいて意思の込められた瞳からはどことなく魔理沙と似た雰囲気を感じさせる少年だった。

今はこのような姿だが、彼こそが魔理沙の家に不法侵入していた猿だった者である。

彼女の帰宅後…なぜか家には一匹の猿が侵入していた。

そしてどういう訳か部屋が綺麗に整理整頓されていた。

そんな訳の分からない状況下で魔理沙が唖然としている目の前で、その猿は綺麗になった部屋に満足するかのように光に包まれ……人の姿へと変わっていった。

 

留守中に猿が侵入していて一度びっくり。部屋が綺麗になっていて二度びっくり。

猿が人の姿になって、三度目のびっくりだった。

 

「改めて聞くぜ。お前、孫悟空だな?」

 

「だから……なんでお前が俺の名前を知ってるんだよ?」

 

それは肯定を意味していた。

実のところ弾幕ごっこで事情を聞きだす前から魔理沙も彼が孫悟空であろう事は予想がついていた。

その上で、やはり相手から情報を手にするためには弾幕ごっこで勝たなければならないというのが彼女の中での様式美だった。迷惑この上な様式美だ。

 

 

勝ちはしたものの最終的なダメージはどう見ても魔理沙の方が大きい。

仮にもあの西遊記の代表格だ。その実力は計り知れない。

彼に勝てたのは実力も然ることながら……運と度胸と作戦によるものが大きい。

いわゆるひとつの主人公補正だ。

 

 

 

 

 

「にしてもなんでお前人ん家に上がって掃除なんてしてたんだ?」

 

聞きたいところは他にもあったのだが、思い返してみるとそこにちょっとした疑問が沸いた。

当初彼女は物取りとばかり思っていたのだが、盗まれた物は何もなく本やキノコ…調理器具に至るまで綺麗に整理されていた。

弾幕ごっこの影響で今やそれも見る影もないが。

 

「勝手に上がったのは悪かったよ……けど普通あれだけ汚え部屋見たら誰だって綺麗にしたくなるだろうよっ!」

 

「………うん、お前はアレだな。『らのべしゅじんこう』の資質があるな」

 

「らの……なんだって?」

 

「さぁ?古河音や良也が言うには家事が得意な男にはそういう資質があるとかなんとか。『おりしゅ』でも良いらしいぜ?」

 

「いや、訳が分からん」

 

「うん、実のところ私もよく分からん」

 

世の幻想の流れ着く場所、幻想郷。

何の因果かそこに流れ着いた今でも多くの作品が彼をモデルに扱っていれ東南アジア付近では斉天大聖の名で信仰すらされている孫悟空。

そんな彼と弾幕ごっこをし、辛うじてとはいえ勝利を収めた彼女は、なんとも不毛なやりとりを繰り広げていた。

 

 

 

「おっと、聞きたいのはそうじゃなくてだな……」

 

ようやく話の脱線に気づいた魔理沙はさっそく話題を軌道修正しようとする。

……が、どうやらタイムリミットが訪れたようだ。

 

「…………マジか」

 

今目の前に居る彼は、話を聞く事適わない。

正確には質問をする事はできる。だがしても意味がない。

なぜなら今の彼は人語を話すことが出来ないからだ。

 

かつて多くの伝説を残してきた孫悟空も今はただの猿でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『美しい弾幕の応酬。見事勝利を収めた謎の少女は戦いを通じて猪八戒と硬い友情で結ばれ……』

 

場所は、再び地霊殿。

そこには意識を取り戻した良也と鈴芽、そして地霊殿の主である古明地さとりとその妹である古明地こいし。

そして、かの有名な沙悟浄と猪八戒が揃っていた。

ちなみにこちらでもタイムリミットを迎えリアル河童と子豚の状態である。

動物が増えたためか、そこはかとなくさとりの表情は嬉しそうなものだった。

 

 

そんな中で古河音は今から自分が解決するであろう異変の記事を今のうちにメモ帳の中で作っていた。

ところどころ自分の都合の良いように捏造してあるが、そこは悲しいかな彼女の師はあの射命丸文だ。

 

 

 

「いやーっ!私ってば異変解決の才能あったんじゃないですかね~?

これで今回の見出しは私のも含めてばっちり決まりですよっ!霊夢さんもまだまだ動きそうにないし、私の時代がカミングスーンですよ!?」

 

「………お前のセリフって一言一句見事にフラグにしか聞こえないのはなんでだろうな?」

 

ただ今良也はこいしと一対一のババ抜き中。その特性と相まって良也の10連敗中である。

別にババ抜きに限った話でなく、この手のテーブルゲームにおいて彼女は妙な強さを有していた。

これで弾幕も強いというのだからつくづく天は二物を与えるのが好きなようだ。

与えられない者はひとつも与えられないが。

 

 

 

 

 

「………そう。どうやら彼も幻想郷に来るまでの記憶がないらしいわ。この分だと他の2人を見つけても進展はないかもしれないわよ?」

 

もはや今回の異変のキーパーソン、古明地さとり。

彼女なしでこの異変の進展はもはやありえないだろう。

 

「モーマンタイですよ♪今まで異変も基本問題が解決しなくてもとりあえずラスボス叩けば解決扱いだったんでしょ?何も問題ないですよっ!」

 

高らかに彼女の笑い声が鳴り響いた。

おそらく頭の中ではすでに異変解決と新聞記事の見出しが出来上がっているのだろう。

沙悟浄に気に入られたのはあくまで良也、猪八戒が協力的なのも彼自身の性格によるものが大きい。

運が彼女を見放した時、異変解決は一気に遠のいてしまうだろう。

 

 

 

 

「おーい、まだか?お前の番だぞこい………し?」

 

ババ抜きもいよいよ良也の19連敗・20戦目。

いつまで経っても減らない手札に違和感を覚えこいしに呼びかけ……そこで初めて気づいた。

対戦相手、古明地こいしの不在に。

彼女の行動は全てが無意識、全ての行動がランダムだ。

下手な気紛れよりもさらに上だ。

なぜなら通常の気紛れは例え気が変わったとしてもそれを行動に起こすかどうかは別問題。

彼女の場合、気が変わるも変わらないも、行動を起こすか起こさないかも、全てが無意識だ。つまりは本人すらも彼女の行動を予測できない。

さとりが彼女の心を読めない原因もそこにあった。

 

 

 

「お姉ちゃんっ!」

 

「きゃっ……!! こいし……背後から突然話しかけるのは止めなさいって何度も……いいわ。それで、どうしたの?」

 

普段『驚き』というものに耐性のないさとりは、不意打ちにとても弱い。

ほぼ何も考えていないお空ですら、彼女の不意はそうそうつけるものではない。

本人にその意思はないのだが、まさに彼女の天敵ともいえる能力だ。

 

 

「えへへ~~……妖精拾ってきた♪」

 

彼女が首根っこを掴んで自慢そうに姉に見せ付けているもの。

それはたしかに妖精だった。

姿かたちは幼い人間のもの。背中に生えた羽が人間か否かを見分けるポイントだ。

妖精とは自然や概念が人の形を成し人格を持った……生き物というより現象に近い。

なので彼女らには死が存在せず消滅しても後に復活する。

そういう意味では妖怪よりもタフなのかもしれない。

 

 

「あら?この子地底ではあまり見ない種類の妖精ね」

 

そこでさとりは気づいた。

妖精とはその場所特有の自然現象の化身。

『冷気』だったり『春風』だったり、当然その場所特有の妖精が生まれる。

地底のように閉鎖された場所なら尚更だ。

だから比較的地底では妖精を見かける事自体珍しい。

 

どこから来たのか探ろうにも、今は気を失っているため心が読めない。

 

 

 

「そいつ、紅魔館の妖精メイドですよ。何度か見かけた事ありますし」

 

彼女の疑問に答えたのは良也だった。

すっかり紅魔館では顔なじみの彼は魔法の勉強のために図書館に赴くのはもちろんの事、紅魔館で開かれるお茶会にもよくよく顔を出している。

大抵はレミリアに小馬鹿にされながら過ごす事になっているのだが。

 

 

………さい」

 

先ほどまで気を失っていた妖精メイドが意識を取り戻した。

その顔色はひどく、何かに怯えているのが心を読めなくても手に取るように分かる。

 

 

 

 

「……………助けてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館が、占拠されましたっ!」




やっぱり原作キャラ出せると楽しいです。異変もちょっとずつ進行していく感じで。
悟空男にするか女にするか悩んだんですけど、最終的に男になりました。
男キャラの連投で胸焼けしている方、ごめんなさい。
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