東方忘却記   作:マツタケ

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今回ちょっと短め。更新遅かった割りにこの文章量はどうなんだ……。


その30

 

 

 

 

 

 

 

妖精メイドが語るにはこうだった。

雨の続く退屈な日々。そこに一人の修行僧らしき女性が尋ねてきた。

曰く、旅の途中で仲間とはぐれてしまい一泊させてほしいとの事だった。

 

話しぶりから明らかに会話がかみ合わず、幻想郷の者ではない……外来人である事はすぐに発覚した。

幻想郷に迷い込んだ外来人がたまたま妖怪に出くわす事なく紅魔館へと訪れるという事は珍しくはあるものの稀にある事だった。

だから今回もその類だろうと紅魔館の者は疑う事をせず彼女を招き入れた。

 

それが、間違いだった。

 

一泊と言っていた彼女は翌日もう一泊とせがんできた。翌日さらにもう一泊。

さすがにここにきてようやく家主が立ち上がった。

しかし、それこそが悲劇の始まりだった。

本当に仲間とはぐれたのか。 最初からここに居座る気だったんじゃないのか。

あれやこれやと言及される内に修行僧は吹っ切れたように横柄な態度をあらわにした。

 

そして驚く事にあのレミリア・スカーレットを真正面から捻じ伏せ、紅魔館の実力ある猛者達を次々と謎の力で圧倒して見せ……紅魔館を我が物にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い…………

 

 

 

 

 

 

いやいやいやっ! レミリアって……あのレミリアだろっ!?横柄で調子に乗りやすくて人の血大量に抜きくさってそのくせちょっと飲んだだけで残り全部捨てやがって実はかなりのシスコン入っちゃってるあのレミリアだろ!?」

 

かなりボロカスに言ってはいるが、良也にはその事実が信じられなかった。

私怨はさておいて、彼女の実力は幻想郷での指折りレベル。

若さもあってか未熟な面も見られるが……潜在的な能力だけでいえばいずれはあの八雲紫に並んでもおかしくはない。

何より良也が信じられないと思っているのは――――……。

 

 

「話の流れから言ってその修行僧って三蔵法師だよな……!?人間に負けたって事!!?」

 

そう、これまで幻想郷に次々と現れる西遊記の登場人物。

外見的な特徴としてもその人物が三蔵法師である可能性は高い。

彼女と真正面から退治して勝てる人間など………いなくもないが数少ない。

すくなくともその三蔵らしき人物はその数少ない人間(化物)並みの実力者という事だ。

 

 

 

「……そうね。悟浄も間違いなくその人物が三蔵だと言っているわ」

 

立ち上がり、食器を片付け、戸締りも入念に。

沙悟浄の代弁をするさとりの行動は、これからどこかに出かける事を意味していた。

 

「ちょ……まさかさとりさん」

 

自他共に認める出不精である彼女のその行動は、誰の目からも珍しく映る。

そして珍しいからこそ、彼女の行く先が容易に想像できる。

 

「行く気ですか…?相手は紅魔館の連中を一人で倒すような奴ですよ?ていうかさとりさんって外に行くのは好きじゃないんじゃ……」

 

何も彼女は好き好んで地霊殿に身を潜めている訳ではない。

地底の住人は、皆誰しもその能力故に地上に居場所をなくした者たちばかりだ。

彼女もまたその一人。

人の心を読めるという力は一見するととても便利な能力だ。

しかしそれは読まれる側からしてみれば忌まわしい力へと見方が180度変わってしまう。

こちらは相手の心が読めず、相手は一方的にこちらの心を読んでくる。

それは不気味に他ならない。

気にしないという者もいるだろう。しかし大半の者はやはりその能力を…その能力を持つ彼女自身を忌み疎む。

口に出さなかったとしても、その思考は全て彼女の頭の中に伝わる。

 

だから彼女は今……ここにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「手を出す気はないわ。争い事は苦手ですもの。ただ、今回の異変にこの子達の通訳は必須でしょう?」

 

この子達とは、この場にいる猪八戒に沙悟浄…まだ見ぬ孫悟空の事を指しているのだろう。

元の姿に変身するといってもそれは一時的なもの。

つまり彼女は動物状態の彼らの通訳を買って出ようと言っているのだ。

 

「いや、でも……」

 

「………あなたは心が読めない分顔で分かり易いわね。

あなたのそばにいれば私の能力は一時的に封じられるのよ。気づかなかった?心を読む時はあなたから一定以上離れて使っていたのよ?」

 

 

「……………………………………うん?」

 

彼女の言わんとしている事は分かった。

土樹良也の能力“自分の世界に引き篭もる程度の能力”は自身の周囲に『世界』を作りその世界に一切の干渉を受けないというものだ。

十六夜咲夜の時間停止。伊吹萃香の集める能力。それらを一切受付けない。

そのため彼は博麗結界さえも受けつけず“外”との行き来を自由にできる。

 

その世界の範囲に入った者もまた能力の影響を受けなくなる。

 

つまり彼女は、その能力を使い一時的に心を読めなくしようという訳だ。

だが問題は、そのためにはその能力者である彼がそばにいなくてはならないという点。

そして彼女がこれから行こうとしているのは、事件現場の真っ只中。

 

 

 

 

「いやいやいやっ!!いくら僕が死なないからってそんな危ないところ行きませんよ!?」

 

自身の能力だけ手渡せるなら喜んで手渡している場面だ。

しかし、能力と能力者は切っても離せないセットメニューだ。

さとりの能力を封じるためには、必然的に彼もさとりと共に同行しなくてはならない。

 

 

 

「……でも、彼女はもう出発しているわよ?妖精メイドと一緒に」

 

「……んなっ!!?」

 

やけに静かだとは、良也も思っていた。

周囲を見渡せばいつの間にか、古河音の姿はどこにも見当たらなかった。

タイミングとしてはおそらく、妖精メイドが事の顛末を語り終えた直後である。

その間良也とさとりのやりとりに見向きもせず、一秒の躊躇もなく一直線に紅魔館に向かったのだろう。

野次馬根性ならばまだ良い。だがおそらくは今回の異変を解決するために。

 

 

 

「あんの……アホっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し………

 

 

 

 

白っ!!!」

 

白かった。紅魔館といえばその広大さも然る事ながら、その独創的な配色にも定評のある館だ。

それが今、古河音の訪れた紅魔館は隅々まで、白かった。

以前より幾分かは目に優しい配色にはなってはいるが、これはこれで塗った本人のセンスを疑う配色である。

 

「これもやっぱり、そのお坊さんが?」

 

「まぁ……正確には他の妖精メイドを使って塗らせたんですけどね?……はぁ」

 

箒の後部座席(?)に乗せてつれてきた妖精メイド。

彼女を連れて行けば紅魔館の細かな内部事情もナビゲートしてもらえるだろうと、ほぼ無理矢理に連れて来た。

妖精メイドとしては彼女ではなく古明地さとりに来てほしかったのだが……その事を言う暇すら与えられず、ここまでつれて来られた。

 

「……みんな、頼んだわよ」

 

遠い目で空を仰ぎながら、他にも助けを呼びに行った妖精メイド達に心の中で希望を託す。

残念ながら私は役に立てなかった……。そんな想いが彼女の瞳から涙となって流れていた。

 

 

 

 

 

 

「あなた……古河音っ!?」

 

紅魔館への進入経路を模索していた古河音に、聞き覚えのある声が掛かった。

本来ならば見張りに見つかる侵入者は大群の兵隊に追いかけられると相場は決まっているのだが……その声の主は彼女の知る限りそんな事はしない人物だった。

あわよくば協力も得られるかもしれない。

そんな期待を胸に古河音はその声の主へと振り返った。

 

「その声は、美鈴さ…………

 

 

 

誰だあああぁぁぁ~~~~~~~~~っ!!!?」

 

「ちょっと古河音……!声が大きいってば……」

 

口元に人差し指を置き静かにするように古河音を促す。

侵入者を見つけても報告せず、発見されないように周囲の様子を伺うその行動からして彼女はこちらの味方の様だ。

それは分かった。それくらいは古河音にも分かった。

 

だがしかし、未だに分からない事がある。

 

 

 

「あ…あの……ひとつお伺いしますが、あなたは紅美鈴さんで間違いないんですよね………?」

 

おそるおそる尋ねる古河音に美鈴も気まずそうに頬を掻く。

なぜそのような事を尋ねられるのか、本人にも思い当たる節はあるようだ。

 

 

 

声を聞いた時。その声の人物を美鈴だと思った。

しかし振り向きその声の主をその目にした時、それが誰なのか分からなくなった。

挙動や仕草、言動などを見る限り間違いなく古河音のよく知る彼女だった。

それでも未だに目の前の人物が美鈴であるという事実が、彼女には信じられずにいた。というより、信じたくない。

 

 

まず第一に、服装だ。

いつもの華人服ではなく今の彼女は現在の紅魔館を思わせる上下白の修行僧のような格好をしている。

おそらくは、紅魔館を牛耳ったと言われている人物の仕業だろう。

そして第二に、これが美鈴を美鈴と思えない一番の理由だ。

 

………ないのだ。

 

女性の命ともいえるそれが、今の彼女には全くなかった。

僧といえば何を思い浮かべるだろうか。

茶髪だろうか。金髪だろうか。清楚に黒髪だろうか。

 

 

………ないのだ。

 

そう、今の彼女には女の命ともいえる髪の毛が全く存在していなかった。

丸坊主である。

 

 

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