東方忘却記   作:マツタケ

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もう、そろそろみなさんもこの亀更新に慣れてきた頃でしょうか?
今まで何やってたって? もう呆れておくれっ!
まただよっ! またMMDやってましたよ! 同じ過ちを何度繰り返すんでしょうね私は!?
たぶんコレが私のデフォルトです。


その32

 

 

 

 

 

 

「い………っ!!?」

 

気を抜いてなどいなかった。まばたきすらもしていなかった。

にも関わらず、気づいた時には無数のナイフが孤を描き行く手を阻むかの様に並べられていた。

時間が飛んだ様な感覚…話には聞いていたし仕掛けも理屈も理解はしていた。

それでもいざ目の当たりにした時、文字通り考える時間などない。

 

考えるよりも先にほぼ反射で、身体を寝かせて面積を少なくする。

車は急に止まれない。加速していた箒も急に止まれない。

だから出来るのは最低限の方向転換でナイフを躱す事のみだ。

 

――――が、それはまるで詰め将棋。

 

ほぼ反射で避けたナイフに息をつく暇もなく、その先には再びナイフの列が配置されていた。

わざと抜け道を作り、その先に更にナイフを予め並べていたのだ。

 

 

 

「古河音っ……!!」

 

古河音がナイフの第一波を躱しているその『時間』が、美鈴が彼女の元へと駆けつける時間を生んでいた。

いつも刺されているナイフ。だからこそその動きがよく見えていた。

中国雑技も真っ青なその蹴り技で、ナイフ一本一本が次々と彼女の足によって弾かれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。し、死ぬかと思ったぁ~~…」

 

一旦浮遊を止めて額の汗を腕で拭う。

そのまま進めばまたナイフが並べられる事は分かりきっているからだ。

 

「ホントにだよ…。古河音は一応人間なんだから、当たってたら本当に死んでたんだよ?」

 

「いや、一応魔力で身体固めてたんで当たっても痛いで済んでたとは思いますけども」

 

「嘘っ!?……ってまぁ、私も『気』で似たような事はよくやってるか……」

 

そうは言ってもナイフを身体が完全に弾く訳ではなく、普通に刺さるし傷もできる。

精々傷の度合いを軽くする程度だ。

そもそも古河音が魔力で身を固めたのはナイフの第一波を避けた後の話であって、最初にもしナイフに当たっていたなら即退場だっただろう。

 

 

 

「ていうか、何?咲夜さん向こうの味方?」

 

「仕方ないよ。妹様を人質に取られててお嬢様も咲夜さんもロクに動けないんだから」

 

合点がいった。

そもそも一度や二度負けたからといってあのプライドの高いレミリアが紅魔館の所有権を許すなど考えられない。

相手の動きを封じ動かせるという事をよく心得ている。

 

「って事は何!?最悪レミリアさんも出てきかねないって事!?

……あ、でもレミリアさんが面白頭で人前に出てくるって事は考えられないか」

 

「いや、でも……さっきみたいに咲夜さんの能力で姿を見せずに弾幕だけ飛んでくる可能性も……」

 

「何それ怖すぎるんですけど……」

 

味方ならば夢のタッグ、敵に回ると悪夢のタッグだ。

今のような時間停止を用いてナイフではなくレミリアの強大な弾幕が配置されていたとするならば……完全に詰みである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから言わんこっちゃない……」

 

「良也さんっ!?それとたしかあなたは地霊殿の……あとそれから何ですかその緑なのは……」

 

古河音に続いて再び第二の来訪者。

それは美鈴もよく知るところの土樹良也。地霊殿の主古明地さとり。

そして何故か…良也にすり寄る謎の緑の生物だった。

ちなみに彼らが美鈴の姿を見ても驚かないのは、事前に妖精メイドの心を読んでいたさとりからすでに事情を告げられていたためである。

 

「ひょっとして……っ!まさかあなたが私達に協力を!?」

 

その場に古河音が居合わせていた事を知らない彼女は、別の妖精メイドが古明地さとりに事の顛末を知らせてくれたのではと考えた。

だとしたら、これ以上心強い味方もそうはいない。

『争い事は苦手』を自称している彼女だが、その能力は決して妹の古明地こいしに引けをとるものではない。

古河音には申し訳ないが、ようやくアタリを引いた気分になった。

 

「残念ながら……『ハズレ』よ?私は今回の顛末を見届けにきただけ。ちなみに彼女……彼の名前は猪八戒よ」

 

散々能力を封じる云々語っていたさとりは、良也から数歩離れて事もなげに美鈴の心を読んでいた。

コミュニケーションの際に心を読んでしまうのは、もはや癖なのだろう。

 

 

 

 

「えぇぇ~~と……よく分かりませんがつまり協力はして頂けないと……?」

 

「そういう事」

 

ゲームなどでも、強力なキャラはいざという時パーティーから外れる。

仲間になったと思いきや弱体化されていたりする。

現実とゲームは一緒ではない。なのに妙な点において時に現実はゲームと類似している。

 

 

 

「と、なると……」

 

まるで福引の4等賞を見るような美鈴の視線が良也に向けられていた。

能力が能力だけにポケットティッシュとまではいかないが……隣の芝は青い。

1等賞と並べてみると、何故か途端に残念に見えてしまう。

 

「なんだよその目は!?悪かったな!!」

 

「い、いえ!決してそんな事は……」

 

 

 

 

「ふふふふ………ふふ………ふふふふ」

 

そんなやりとりの中、腕を組み足を開いて不敵に笑うポケットティッシュ。

トレンドマークの白い魔女帽子から覗かせるその瞳は、さながらガチャで引き当てたレアアイテムを見るような目だった。

 

「なぁーいすタイミング!ラーの鏡!!」

 

「誰が1イベントのみの使い捨てアイテムかっ!!!」

 

そう、ポケットティッシュはラーの鏡の能力がこの場面においていかに有用か気づいていた。

勝率は別として、この2人の戦闘能力は似たり寄ったりだ。

良也の勝率が高くないのは単純な地力も然る事ながら、『女の子相手に本気を出せない』というのも大きい。

 

ともあれ古河音がこの場で見出したのは良也の戦闘能力ではなく、彼の特殊な能力だ。

彼の“自分の世界に引き篭もる程度の能力”に概念の能力は無効化される。ちなみに物理ほどその効力は弱くなる。

“時間”もまた概念のひとつ。

つまり良也がいれば咲夜の時間停止は無効化され、結果姿を現さざるを得ない。

まさにこの場において、ラーの鏡だ。

 

 

 

 

 

「…………本当にあなたは、分不相応に厄介な能力ね?」

 

辺りの空気が一変した。

重くのしかかるような魔力…カツンカツンと一歩ずつ近づいてくる足音は耳にする者全てを萎縮させる効果があった

 

 

「あなたには何度かお茶会に誘ってあげたというのに……恩を仇で返す気かしら?

 

 

 

 

土樹良也?」

 

二つ並んだ赤い満月を思わせる赤い瞳が突き刺すように良也に向けられた。

頭を隠すためであろう普段より深く被られたフリルつきの帽子。

数歩後ろからつき従う瀟洒なメイド。頭には調理の際に見かけられる三角巾を装備中だ。カチューシャでは不足なためだろう。

不思議と、頭を包み隠さずにいる美鈴が清々しく見える。

 

 

「お…おぉ……話には聞いてたけど改めて見ると……」

 

「………何?」

 

「ひぃ…っ!!」

 

そんな異様な光景から出た良也の素直な感想が、レミリアの逆鱗に触れた。

冗談のような頭とは対照的に、その瞳は今にもこの場にいるものを全員捻り殺さんばかりに据わっている。

偏に屈辱。その感情が今の彼女を苛立たせていた。

 

 

 

 

「困ったわね……。この姿を見た奴らは全員殺すとして……一人死なないヤツがいるのよねぇ……」

 

「私殺されるんですかっ!!?」

 

その場にいる者を標的として一瞥して、最後に良也にその視線が定まった。

さながら『燃えるゴミ』・『燃えないゴミ』を識別するようなその言動は、まず『捨てる』事が大前提となっている。

見たものは消す。非常に分かり易い論法である。

 

 

 

「待て待て待てっ!僕は別に今回の事に関わるつもりはないし、コイツもすぐに帰らせるから!物騒な事言ってんなよ……」

 

「その目と頭を置いて帰るなら、どうぞご自由に」

 

「何も解決してねえぇっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいのかしら?」

 

この場の喧騒・レミリアの威圧、それらから隔離されたような冷めた一声が静かに響いた。

黒い子豚の頭を静かに撫でながら、殺意も戸惑いも萎縮も込められていない古明地さとりの瞳が…レミリア・スカーレットの姿を捉えていた。

 

「……それは命の懇願と捉えれば良いのかしら?それとも……私を相手に殺されない自信があるとでも?」

 

「……………………………」

 

そんな彼女の言葉にしばし悩む。

今更ではあるが普段引きこもりがちな彼女は対話という能力が乏しい。

相手の意図する事は手に取るように分かる。だがこちらの意図する事を汲み取ってもらえない場合、どう伝えて良いのかという能力に欠けているのだ。

 

 

 

「………そうではなく」

 

コホンと一つ咳払い。ようやく頭の中で話の内容の整理がついたようだ。

 

「今回の異変…あなた達にとっては事件かしらね?

解決出来るとしたら私やあなたではなく、彼女達の方が適任だと思うわ。

 

と、言うより……気づいているんでしょ?でもそれをプライドが……」

 

「うるさいわね……っ!!そんなに死にたいの?」

 

またやってしまった。

心の中でさとりはそう思った。

今のレミリアの感情は非常にピリついている。自分がそうしたのだとさとりは考えていた。

 

人は心が読めない。そして読まれたくない。

特に葛藤や自己嫌悪、そういった感情を人は必死で隠そうとする。

そういった隠したい感情に触れられた時、人の心は大いにざわめく。

それに容易く触れる事が出来るのがさとりの能力であり……『嫌われる』要因でもあった。

 

つまり人は図星をつかれると動揺し、時には怒る。

傍から見ればそれはただの逆切れと呼ばれるものなのだが、人の心とはそういう構造をしているのだから仕方ない。

人外であろうと心を持つ者もまた同様である。

 

 

 

 

 

 

 

「何ですか!?今回の異変にさとりさんやレミリアさんより私達が適任って何ですかそれっ!?それってまさか私達が秘めた力を眠らせているとかそういうアレですかっ!?そういう事なんですかっ!?

いや、私もですね?なんで私ってもっとすごい力がないのかなーなんて思ってた訳ですよ!だって私主役ですよ?

もっとこぅ…チートな力があっても良いんじゃないかなとは常々思ってた訳ですよっ!そっかぁ…眠ってたんなら仕方ないっ!!今ここでようやく開花な訳ですねっ!?無双いっちゃいますよ私っ!?この小説バトルものになっちゃいますよっ!!?」

 

まるでクリスマスのイルミネーションの様に目をキラキラと輝かせながら、空気も読まずに息巻いてさとりの肩を大きく揺さぶる古河音。

人間心は読めずとも空気を読む事はできる。それすら出来ない者の末路がこれである。

 

 

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