東方忘却記   作:マツタケ

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今回、お亡くなりになった声優さんをネタにするという少々不謹慎な内容が含まれております。そういうネタを不快に感じられる方はご注意ください。並びに今でもご冥福をお祈りしております。


その33

 

 

 

 

 

 

「あなたには心苦しい質問だと思うけれど、ひとつ確認をさせてもらうわ」

 

前髪をかき上げながら決め顔と決めポーズの練習をする古河音を傍らに、さとりは再びレミリアへと言葉を投げかける。

尚も彼女の周りを右往左往する少女の存在は、置物か何かだと思うようにしている。

 

「今この館の奥で居座っている人間。その彼女を相手に一番善戦したのは、あなた達の中で誰だったのかしら?」

 

「……………っ!!」

 

その質問に対してレミリアの表情が苦虫を潰したように歪み、さとりを睨みつける。

それに対しては彼女の従者である咲夜もまた同様で、主に対する侮辱を不快に感じていた。

それでも何も言わないのは……心のどこかで分かっているからだ。

彼女が言わんとしている事は正しくて、そうするべきなのだという事を。

 

 

 

 

 

 

 

「……ここはあなたの意思を尊重して、あなたに答えてもらいたいのだけれど」

 

「…………………………」

 

相手の心を読む事と、相手の心を理解する事とはまるで違う。

少なからず共感し得るレミリアを相手に、さとりは初めて対話を試み始めている。

まだ稚拙でお世辞にも達者とは言えないが、それは彼女の大きな変化だ。

 

 

「…………………………………咲夜よ」

 

うつむきながらぽつりとつぶやく彼女の言葉に当人である咲夜も辛そうな顔をしていた。

従者が主の前を歩くなど許される事ではなく、それは主と従者の共通認識だ。

だから認める訳にはいかなかったし、認めたくなかった。

 

 

 

 

「――――そう、相手はあなた達を完膚なきまでに捻じ伏せた。あなたの妹も例外なくね……。それはおそらく私や私の妹が相手でも同じ事…。

 

なぜなら私達は、『妖怪』だから」

 

正確には鬼や悪魔など細かく分類されるのだが、そういう話ではない。

そういう種族も含めて人間に害する人外。それらを総称しての事だ。

 

「相手は妖怪退治の専門家。妖怪相手には文字通り無敵の強さを発揮する…ただし、人間相手なら苦戦もする」

 

「だから人間であるコイツ等に任せるべき…そう言いたい訳?」

 

さとりの言うとおりその僧は見たこともない術や道具を用いてレミリア達を完封した。

倒したというよりは封じ込めたという表現があっている。

そんな中、負けはしたものの十六夜咲夜だけが彼女を相手に善戦した。

 

 

 

「話にならないわね。それでも咲夜は負けたのよ?そこのボンクラ2匹が加わったところで勝率が上がるどころか足でまといにしかならないわよ!」

 

「……………………………」

 

視線を下に向け、顎に手を当てて思考を巡らせる。

何か答えを模索するような、そんな姿だ。

 

「あの……さとりさん?」

 

急に黙り込むさとりに良也が顔を覗かせる。

心配…というのもあるが、それ以外にも彼にはさとりが何に対して言葉を詰まらせているのか心当たりがあった。

 

 

「その通りよ、ごめんなさい。上手い言い訳が思い浮かばなかったわ」

 

「ですよねっ!!!」

 

散々古河音達なら適任だなんだと持ち上げておいて、いざ戦力になるのかと言われれば言葉を詰まらせてしまう。

単に相性が良いというだけの話であって、だからといって勝てるかどうかは全くの別問題だ。

レベル2の水属性攻撃でレベル100の火属性モンスターは倒せるのか。

詰まるところそういう話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー…まんたいっ!!

 

任せてくださいレミリアさん♪今回の記事に紅魔館の頭の事は書きませんから。私だってメイドさんの頭を丸めるだなんて憤慨してるんですよっ!

なんたって私ってばほらっ!空気の読める新聞き……しゃしゃしゃ……っ!!」

 

レミリアの指先が古河音のこめかみへと深く食い込む。

本人も知ってやっている訳ではないが威力は絶大。アイアンクローと呼ばれるプロレス技だ。

相手の頭を掴み握力に物を言わせて指の力だけで締め上げる。ただそれだけの技である。

単純故に、握力のあるものが使えばその威力は計り知れない。

 

「あのねぇ~~……こっちは妹を人質にされて苛立ってるの。あなたの軽はずみな行動であの子に何かあったらどう責任をとってくれるのかしら?え?」

 

「とととと…とりあえず手を離してもらえませんかっ!?今ちょっと石森達幸さんが元気に手を振ってる姿が見えるんですけどっ!!今にも『グリフィンドールっ!』って元気に叫びそうなんですけど!!?」

 

ばたばたと抵抗する足が徐々に弱まっていく。その魂は向こうに逝く寸前だ。

彼の有名な声優も彼女を迎え入れる気満々らしい。

 

 

「そそそ……それに一応策もあるんですっ!弱点つけるかもしれないんですすす……っ!!」

 

「………………………………」

 

古河音を掴んだ手が開かれ、重力に従い彼女の身体はレミリアの足元に転がり落ちる。

心なしかその魂は口から出る寸前のように見えなくもない。

が、そんな弱りきった彼女の状態などお構いなしにレミリアの鋭く尖った爪先が古河音の眼前に迫っていた。

 

「今の話…嘘じゃないわよね?嘘なら殺すわ。ちょうど嘘発見器もここにあることだしねぇ」

 

くすくすと笑いながらその視線はさとりへと向けられる。

槍の貫通力にも引けをとらないその爪先が今にも古河音の顔に刺さらんばかりの距離まで詰められている。

彼女に限らず、基本妖怪は人の恐怖の心を好む。

血を呑む種族。人肉を食らう種族。それらの種族にとって恐怖などの感情は、いわば調味料。

中には喰いもしないのに人を恐怖に貶める事を趣味とする者もいるが、大抵は食事目的である。

 

 

 

 

 

「嘘ではないわね。正直穴だらけだけで良い策とは言えないけれど……上手くいく可能性としては2~3割といったところかしら?」

 

左手に二本・右手に三本の指を突き立て『2~3割』を表現。

レミリアの皮肉も何のその。むしろここまで悪意を包み隠さず口にする彼女に感心しているくらいだ。

 

「……………ちっ」

 

明らかに不快な表情をしながらその爪が古河音の下から離れていく。

2~3割。

決して褒められた数字ではないが、それでも今レミリアが彼女に挑んで勝てる確立よりははるかに高い。

自分の足元にも及ばない人間の小娘が立てた策が自分の勝率より高いというのだ。

不愉快極まりない。

 

 

 

「……失敗したら、分かってるわね」

 

「い……イエスマム……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

館の奥の一際大きな扉。

本来ならばそこは君主であるレミリアがいるべき玉座つきの部屋である。

レミリアは先ほど廊下で会ったのだから、今この部屋には誰もいる訳はない。

 

が、いる。

 

良也も古河音も咲夜も、それを感じとっていた。

別に扉がガラス製な訳でも中から物音が聞こえる訳でも特別何か大きな力を感じる訳でもない。

 

だが、いる。

 

『なんとなく』としか言いようのない存在感。

あやふやで曖昧な、けれどたしかに『いる』と断言できてしまうような。

そんな存在感が、扉の前にはあった。

 

 

 

「たのもぉぉ~~~っ!!」

 

勢いよく開かれた扉の先に鎮座する玉座。

そこに彼女はいた。

全身白く包まれた純白の袈裟。それに不似合いな見下すような視線と頬杖。

釣り上がった口元に寄せられた眉間のシワ。

姿格好は間違いなく僧なのだが、その雰囲気はお世辞にも僧らしいとは言えなかった。

 

部屋の隅にはフランの姿。

髪の毛は……無事だ。つまり彼女を人質にとは、逆らえば彼女の頭も丸める。

そういう意味なのだろう。

案外しょうもない脅しだが、レミリア相手には効果覿面だ。

 

 

 

「あぁ~~?何だテメエらは?この三蔵法師様に説法でも乞いに来やがったか?」

 

お世辞にも、僧らしい……三蔵法師らしいとは言えなかった。

男と見紛うばかりのその口調だが、それとは裏腹に通った声は間違いなく女性のものだ。

三蔵法師というものを知らない咲夜達にはただの変わった女としか映らないのだろうが、三蔵法師を知っている良也達には悪い意味でギャップが酷すぎる。

ある意味、沙悟浄と対極の位置に属するのかもしれない。

 

「いや…その……」

 

良也は、彼女相手に完全に萎縮していた。

もともとこんな事件に巻き込まれるつもりなどなかったし、あまりに彼の知る三蔵法師からはかけ離れていた。

………………というのもある。

が、それ以上に彼女から発せられる相手を威圧する雰囲気が身体にのしかかるのだ。

 

その雰囲気には覚えがある。というよりつい先ほどまで感じていた。

そう、レミリア・スカーレット。

口調や姿こそ違えど、彼女の雰囲気はレミリアを思わせるものがあるのだ。

だからこそ、敗北したレミリアは余計に悔しかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「そうなんデーーースっ!!」

 

瞳を潤ませ揉み手を組んで、腰を屈めて服従のポーズ。

 

「ワタシ達カノ有名な三蔵法師サマの大ファンなのデーースっ♪本日は三蔵法師サマに一目お会いしたくテ、やって来マーーシタ!!」

 

クルクル回って三回転。両手を差し出すように三蔵法師へと向ける。

一体何のキャラを目指してこの珍妙な口調になっているのかは謎だが、ひとまずは媚びて相手を油断させようという事らしい。

 

 

 

 

 

 

 

「ファン………ねぇ………。

 

 

 

 

 

なんだなんだ……やっと私の事を知ってる奴が現れたじゃねーかっ!!

良いねえ。お前には色々と聞きたい事がある」

 

「ワタクシ共の知ってる事であればナンな~~りとっ!!」

 

意外や意外。上機嫌である。

あまりに怪しい古河音のおべっかに三蔵法師は気分を良くしている様子だ。

そんな彼女の様子に表面上の顔とは裏腹に心の中ではニタリ…と不気味に笑う。

完全に悪役……否。この戦いに正義の味方など存在しない。

そもそも異変とはそういうものだ。

 

その間も少しずつ…少しずつ三蔵法師に気づかれないように周囲の空気を操っていく。

狙うは一発。

古河音の推測が当たっているなら、相手は隙を見せるはずだ。

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