東方忘却記   作:マツタケ

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その34

 

 

 

 

「へぇ~~……『西遊記』に『幻想郷』…。なるほどねぇ…」

 

 

異世界への転移。更には自分達が物語の登場人物。

そんなにわかには信じ難い話を、三蔵法師は驚くほどあっさりと受け入れた。

安直に話を信じているのではない。

その話を受け入れなければ話は進まない。だから信じるかどうかは別としてまずは受け入れた。

 

単に頭が良いとかの話ではない。恐ろしく柔軟で胆の据わった精神の持ち主だ。

 

 

 

 

 

 

「トコロで……三蔵法師サマ?」

 

玉座に座る三蔵の下へ、未だカタコトキャラのまま古河音が数歩歩み寄る。

手を後ろに組んで、若干上目遣いで、口元は常に笑顔を絶やさずに。

相手が三蔵だという事を抜きにしても、この紅魔館を占領したような相手にまるですり寄る猫のように距離を縮める。

 

その姿はまるで、月詠鈴芽。

 

敵意を持った相手に丁寧な言葉で怪しい笑顔で近づいていく。

それはまさに良也が対面した脅威であり、彼の腰元の鈴芽にとっては過去の自分だった。

 

 

 

「ソノお命、チョウダイしてもよろしいでショウカ?」

 

「………やれるもんならやってみろよ」

 

一切表情も姿勢も崩す事なく、三蔵はただ古河音を見下すだけ。

自分に対して向けられる敵意など、対面した時から気づいていたし彼女にとっては日常茶飯事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに返答は聞いてないっス!あしからずぅ~~~~!!!」

 

空気を持ち上げるように手のひらを掬い上げる。

するとそれに呼応するかの様に部屋全体の空気が上昇し始めた。

下から上へと風が巻き上がる感じだ。

本来古河音にここまでの規模の風は起こせない。だからこそ部屋に入って以降コソコソと下準備を整えていたのだ。

 

「……はんっ!何かコソコソ小細工してたかと思えばこの程度の風…………っ!!?この餓鬼………っ!!」

 

今まで余裕に満ち溢れていた三蔵の顔から突如それが消えた。

視野が狭まりその視線が古河音へと向けられた次の瞬間……ナイフが目の前まで迫っていた。

 

「ち……っ!」

 

鬱陶しそうに、それでもいとも容易くそれを袈裟で弾く。

ナイフというのは弾幕と違い縦方向にしか飛ばないため、一度弾かれるとその勢いは簡単になくなってしまう。

そういう動作を考えるよりも先に手が動く。単純に妖怪退治がどうこう言う以前に戦い慣れている。

 

「上からくるゾ!気をつけろ☆」

 

――泡符・『修羅場フラグの地雷原』

 

上空から放たれる弾幕を包んだ水の泡、そこからランダムに溢れ出す弾幕。

水と風を操る古河音の十八番のひとつだ。

声を上げなければ不意打ちが成功した……可能性が低いながらもあったかもしれない。

が、そもそも弾幕ごっこに不意打ちは禁止事項のひとつだ。

更には曰く『様式美って大事♪』なのだそうな。

 

 

 

「わははっ!踊れ踊れっ!!ただしこの風の中であんまり動きすぎるとその僧侶頭巾がうっかりと……」

 

パシンっ! 音を立てて古河音の口が三蔵の手のひらによって、文字通り塞がれた。

何も特別な事はない。

ただ彼女の弾幕を全て避けきり距離を詰めた。それだけの事だ。

 

「悪いなァ…。こーいうのの避け方とか空の飛び方とか?だいたいここの連中の動き見てるうちに分かってるんだわ」

 

「…………っ!!?」

 

口を塞がれ眼前に迫られ、目の前の三蔵法師という女性を前に本能的に感じ取ってしまった。

 

―――――次元が違う。

 

今まで数多くの妖怪や化け物(人間)と弾幕ごっこをしても感じなかったはずの感覚。

それを幻想入りして間もないはずの新参者から感じるのだ。

『忠告しておくわ。悟空を味方につけないうちは三蔵を見つけても決して手をださない事ね』

沙悟浄の言葉に、深い意味や裏などなかった。

ただ本当に、言葉通りの意味だったのだと、今更ながらに気づいた。

 

 

術者が捕まった事で、部屋の風も落ち着きを取り戻す。

のもつかぬ間、再びナイフが三蔵へと迫っていた。

が、風が落ち着いた今彼女の反応は段違いだった。突然現れるナイフに対して慌てる事なくキャッチする。

ナイフで刺されても生きている美鈴の方がまだ可愛い芸当だ。

 

「オイオイ…。餓鬼もいるってのに容赦な……」

 

カ――――ン……! という乾いた音と共にナニカが飛んだ。

 

同時に今まで戦意に溢れていた三蔵の顔から表情も飛んだ。

まるで魂を抜き取られでもしたような……そんな顔だ。

 

「なんかコレ言うのもひっっさしぶり~~~っ……

 

『この時を待っていた!!』」

 

古河音の口を掴んでいた手もすっかりと力が抜け落ちており、抜け出すのは簡単だった。

どこから取り出したのか対八戒戦で使ったキノコの胞子入りのビン。

風も止んでいるので問題なしだ。

 

 

 

 

 

―――愛符・『萌え萌えキューン!』

 

―――幻符・『殺人ドール』

 

舞い散る胞子が次々と爆発を起こしていき、古河音自身も手でハートを形作って爆発性の弾幕を放つ。

そこに無数の巨大なナイフが容赦なく突き刺さっていく。

なぜナイフが巨大化しているかというと、彼女の能力で館を拡張しているのと同じ原理だ。

 

 

 

 

古河音が捕らえられている間に咲夜が蹴飛ばしたナニカ。

それは三蔵がずっと頭につけていた僧侶帽子とよばれる王冠に布がついたような被り物だ。

彼女は古河音が風を起こして以降、それが吹き飛ばないようにずっと片手で抑えていた。

だからこそ動きも鈍く、咲夜達もつけ入り易かった。

 

 

 

 

 

 

「完・全・勝・利――――っ♪

いや~さっすが咲夜さん!私達初めてとは思えない息のあった見事なコンビネーションでしたぁ!!私達案外相性良いんじゃありませんっ!?

どうでした私の立てた作戦?完璧な頭脳プレイだったでしょー!?

怖いわぁ~~……。自分の溢れる才能が怖いわーー……」

 

ふんぞり返る古河音の言葉を右から左へ。弾幕の放たれた方向へと視線を向けるとそのまますー…っと移動し始めた。

 

「いやん♪ 咲夜さんってば相変わらずクールビューティー!!そんな咲夜さんってば瀟洒なメイ…」

 

ざっくりと…… 咲夜が投擲した巨大ナイフが轟音を立てて部屋の壁へと突き刺さった。

あと数センチズレていれば、古河音の身体にざっくりだ。

 

「ふざけた力ね…どうやって投げたのかしら?吸血鬼じゃあるまいし」

 

「あば…あばばばばばばば……あばば…」

 

冷静に観察する咲夜に対し、古河音の方は文字通り言葉になっていない。

もはやナイフが投擲された方を向く事すら怖くて出来ない。

出来ない……が、分かっている。

きっと向かない方がこの先とんでもない事になるのだ。

 

 

 

 

「ちっ……外した!ナイフ女に至っては読んでましたってか?」

 

弾幕による煙の晴れた中心に彼女はいた。

もはや完全に空の飛び方を我が物にしているのか、空中で静止している。

僧侶帽のとれた彼女の頭は、美鈴達同様に髪の毛一本もない状態だった。

 

古河音はその事を読んでいた。彼女が『それ』に対して強烈な劣等感を持っているであろう事も。

だからこそ他の者達を自分と同じ辱めに合わせているのだと、古河音は推測していた。

だから僧侶帽を取れるように攻めれば必ず動きは制限されるだろうと、読んでいた。

 

その読みは、彼女のこれまでの動きからして正解のようだ。

 

 

 

 

 

 

「おいおい……勘弁してくれよ。お前ら全員人間だろ?やりにくいったら……

 

人殺しは仏の道に外れるんだよなァ……!!」

 

そもそも先ほどのナイフの投擲だったり、館の占領だったりと、すでに仏の道から外れまくりではあるのだが……一応そこは彼女なりの境界というものがあるのだろう。

顔から完全に笑みがなくなっていた。

先ほどまでは見下していた。だから余裕もあったし反撃すらしなかった。

咲夜ですら初めて見るその表情は……もはや良也でなくとも一目瞭然だった。

 

怒った時のレミリア・スカーレット。

 

まさにソレだった。

プライドを汚され妹を人質に取られ苛立ちで顔を歪めていた……さきほどまで彼女たちが見てきた表情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああ……あのコレ……今から謝ったら許してもらえるでしょうか?」

 

「ムリね。でも良かったじゃない。殺さないでくれるらしいわよ?」

 

そうは言いつつナイフを取り出し姿勢は既に臨戦態勢。

負ける気は最初からないらしい。

今までと何が違うかといえば、もうフォローする余裕はないから自分の身は自分で守ってくれという事らしい。どうせ殺されないのだし。

 

 

 

「ぶっ殺す……!!」

 

 

 

「殺す言ってますけどォォ~~~っ!!?」

 

「じゃあ、殺されないよう頑張りなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び交うナイフ。なぜか自由自在に飛び回る無数の数珠。

多彩な術の数々に時止めの力。

もはや完全に咲夜と三蔵の一騎打ちだ。

そこに古河音が加勢する余地などなく……例のヤムチャなポーズで地に伏せていた。その少女の頭に、髪の毛はない。

 

「………っ!!」

 

時止めの力がどんどんと効果が薄れていく。

別に能力が落ちている訳ではなく、彼女の力のように相手の不意をつくような戦い方は回数に比例して相手が『慣れて』くる。

善戦はしている……が、このままでは前回の二の舞だ。

 

 

 

「……ご主人さまに伝えときな。可愛いお前の妹の毛はないものと思えってなァ」

 

数珠でメイドの身体を縛りつけ、口元をいやらしく歪ませるその姿を見てコレが三蔵法師だと信じる人間が一体どれだけいるだろう。

完全に悪役のソレである。おそらくはこの不良坊主の手綱を握るのが、沙悟浄や孫悟空の役割だったのだろう。

幻想郷でいうところの比那名居天子と永江衣玖に近いのかもしれない。

 

 

 

 

「聞くに堪えませんわねえ……」

 

「……ぇ?」

 

咲夜を縛っていた数珠が文字通り糸が切れたようにぷっつりとばらばらに散らばっていく。

怪訝な三蔵の表情からして、彼女が解いたわけでもなさそうだ。

 

 

「仮にも三蔵法師ともあろうお方が、その様な乱暴な言葉遣いをされるなど、もっての他ですわ」

 

 

 

 

 

 

「なんだお前は………?」

 

「通りすがりのパーフェクト淑女ですわ。覚えておいてくださいまし♪」




・・・・戦闘回って疲れる!はやく終わってくれないかな!?(ぇ
基本私がまじめにお話書くと全部中二病チックになるっていうね!!
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