東方忘却記   作:マツタケ

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その35

 

 

 

 

 

不思議とあまり驚きはなかった。

不自然なくらいに目の前の出来事を受け入れられた。

まるで彼らの存在を最初から知っていたかの様……。

 

知っていた?

 

 

 

 

 

…………知っている。

 

小柄な身体に不似合いな怪力を持つ金髪の少年。

 

…………知っている。

 

スラリと伸びた手足に端正な顔と女性の心を持つ青年。

 

…………知っている。

 

女性らしくない粗暴な振る舞いの裏に、女性の髪の毛を恨み妬む女性らしさを持った頭髪を持たない女僧。

 

 

そして―――――――――――………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは……確かあの時の………どうして」

 

突如現れた女性の姿に咲夜は見覚えがあった。

癖の入った前髪に長く伸びた黒髪。

心なしか以前見た時よりも大きくなっている気がしないでもない胸元。

光に当たる部分のみが黒から金へと変わる特徴的な瞳。

慢心ともとれる自信に満ち溢れた表情。

 

かつて古河音によって妙な世界に閉じ込められ、そこにいた女だ。

その正体も知っている。

普段は良也の刀の中にいて時折彼の身体を乗っ取っていたとも聞いている古河音の前世の残留思念とかなんとか。

 

この姿、鈴芽が良也の身体を借り(??)魔法によって姿のみを変えたものだ。

能力とは魂と身体が一致してはじめて使えるもの。

よって今の彼女に“自分の世界に引き篭もる程度の能力”は使えない。

更には身体が本人のものでないため“記憶を操る程度の能力”も使えない。

姿のみを当時のものを再現した、劣化版である。

 

 

 

 

 

「ぱーふぇくとしゅくじょ……だぁ??」

 

突然現れた怪しさ前回の女に、三蔵も怪訝な表情を隠せない。

が、油断もしていない。

初見であるはずの彼女の縛術をあっさりと解いて見せたその手腕。

そして一瞥すればもう分かる。彼女もまた『人間』だ。

 

 

「ノンノン。発音がなってませんわねぇ…。パーフェクトSYU・KU・JO♪

 さぁ、皆さんご一緒に!パーフェク…… 

        「どうしてあなたがここにいるのよ?」

 

ぎゃあああああっ!!?」

 

 

こちらの質問に答えろ。そんなメッセージの込められたナイフが鈴芽の頭部に突き刺さる。

口よりも先に手を出せ。主レミリアの教えを忠実に守るのがメイドというものだ。

 

 

「助けた恩を仇で返すおつもりですのっ!?この身体が良也さんのものでなければ今頃死んでましたわよ私!!超痛いですわ!ナイフ超痛いですわっ!!」

 

ナイフを引き抜き手を当てて、即座に治癒魔法を施す。

蓬莱人の身体というのも相まってみるみる内に傷は塞がっていくが……痛いものは痛い。

 

「そんな事より……あなたあの小うるさい刀よね?たしかパチュリー様に封印されたって聞いたけど?」

 

「そ、そんな事…!?小うるさ…!?これだから最近の小娘は……っ!!!」

 

歯に布きせない胆の据わったその咲夜の態度が、鈴芽としては気に入らなかったらしい。

身体をわなわなと震わせながらぶつぶつと不満を漏らすその様は、完全に生意気な嫁に怒りを燃やす姑のそれだ。

 

 

 

「ふ、ふふふふ…。あの程度のB級魔法使いの封印術など、私にしてみればあってないようなもの。その気になればいつでも破れる代物でしたわ」

 

乱れた精神を根性で立て直し、カリスマっぽい立ち振る舞いで取り繕う。

が、こいしに破ってもらった事を隠し然も自分の実力のように虚勢を張るその姿は小者以外のなにものでもない。

 

 

 

 

 

 

「……さて、三蔵法師様?あなたのお言葉遣い、少々目に余るものがございます。僭越ながら私がご指導の程をして差し上げようかと……そのお身体に」

 

振り向きざまに流し目で、裾で口元を隠しながら頭を下げながら低姿勢に遠回りな宣戦布告。

決まった! 心の中でガッツポーズ。

彼女の中ではこれがパーフェクト淑女としての完成形なのだそうな。

 

 

 

 

「………これはこれは、どこのどなた様かは存じますぬが、その心遣いまこと痛み入りまする。ついては恥ずかしながら貴殿の提案に甘んじ、是非に教えを請う所存。どうかご指導の程を」

 

「…………………っ!!?」

 

両手を互いの裾に入れ、流れるような動作と口調で深々と頭を下げる。

もともと声の通りも良いため実にその姿が映えていた。

高貴でいて相手を持ち上げるその様はそれこそ誰しもが思い描く『三蔵法師』そのものだ。

 

 

「ななななな………っ!!?」

 

「はんっ……!私が何年『三蔵』やってると思ってやがる?こちとら本物の仏様相手に機嫌取りやってんだ………。

 

言葉遣いを知らねえ訳ねえだろ?」

 

 

 

 

 

 

今まで鈴芽だったはずの女性の姿が、突如男性のものへと変わった。

本来の身体の持ち主、土樹良也のものだ。

 

「ちょ……っ!?は!?………えっ!!?」

 

突然の事に驚くその様子から中身も良也本人である事が分かる。

そうなると、鈴芽の行方は当然…………。

 

 

「オイっ!なにこのタイミングで戻ってんだよっ!?」

 

『あら、良也さんは私に身体を使われるのはお嫌いではありませんでしたの?

私そんな良也さんのためにわざわざ引っ込んで差し上げましたのよ?

別にせっかく人が言葉指導に託けて華麗に弾幕ごっこを仕掛ける私マジカリスマな展開にするつもりだったのに、そこの女が空気も読まずに生意気になんか格好良い感じに決めちゃってくれちゃったりしてくれちゃったりしりするもんだから、なんかもうやる気失せちゃったとかそんなんじゃございませんのよ?えぇ、ございませんとも』

 

要約すると、三蔵法師が自分よりも格好良い感じに決めてしまったので、もうやる気失くした。という事である。

つまりは友達におもちゃを自慢しようとすると、友達はもっとすごいおもちゃを持っていたため、自慢する機会を失って拗ねてしまう子供と同じだ。

基本的にこの女、精神年齢が子供のそれなのだ。

 

 

 

 

「ケンカ売るだけ売って引っ込むとかお前何のために出てきたんだよっ!?相手怒らせただけじゃんっ!!?」

 

『………………………………………』

 

返事はない。完全に拗ねているようである。

正直身体を乗っ取られるのはごめんである。だが、この場において『戦力』だけは頼りになる存在がこの様だ。

得てして力を持つ者とは性格に難のある者が多い。力も性格も持ち合わせた者などごく少数だ。

だからこそ、今回の異変も起こるべくして起きたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

「………なるほど残留思念だったか。珍しいもんだ。あそこまで自我を確立して力をもった残留思念ってのも。生前はよっぽど我が強かったと見える」

 

生前どころか、実はその生後まで我が強いのだがそれはまた別の話。

ともあれ三蔵からしてみれば勝手に出てきて勝手に帰って行ったのだ。好都合この上ない。

 

「さぁ、どうするよ従者さん。そこの男と愛のタッグでも組んでみるか?」

 

くっくっく…と喉で笑うその様は悪役…はたまたオッサンのそれだ。

先ほどまでの『三蔵法師』はどこへやら。

三蔵法師としての体裁を保つための『表』の顔という事だったのだろう。

 

 

「…………仮に私がここで手を引いたとして、妹様はどうなるのかしら?」

 

「言っただろ?当然丸坊主になってもらうさ。歯向かったからには相応の報いってもんが必要だからな」

 

「………………………」

 

普段の咲夜ならばこの辺が潮時だと負けを認めるだろう。

特別負けず嫌いという訳でなく、勝てないと判断した勝負をずるずると引きずるような戦いはしない。

時止めの能力に相手が『慣れて』きている今、一旦負けを認めてその慣れを少しでも薄れさせた方が戦術的にも有効だ。

 

が、その頃にはもう遅い。

 

一旦引けば、勝算がない訳ではない。

だが一度引いたその時にはすでにフランの髪の毛は犠牲になっている。

彼女を犠牲にした勝利など、主であるレミリアは望まない。咲夜自身も望まない。

 

 

 

 

だから勝算が低くても、あるいはなくても……ここで引く訳にはいかない。

無言のまま構えたナイフが、言葉はなくともそれを表していた。

 

「………大層な忠誠心だこって。うちの馬鹿共にも見習わせたいくらいだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

「おっと、悪党の時代はそこまでだぜっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい轟音と共に、紅魔館の屋根が大破する。

当然その破片は重力と共に落下するのだから、それは天然の弾幕となって彼女たちに降り注ぐ。

スルスルとその隙間を難なく避けていく咲夜と三蔵だが、良也の方はいっぱいいっぱい。

最後の最後で大きな破片が後頭部に。一回『休み』である。

 

 

 

 

 

「正義の味方……………参上だぜっ☆」

 

天空を背に白と黒のコントラスト。

惜しげもなく歯を見せながらニカっと笑って、自称正義の味方参上である。

ちなみに破片まみれの現状の犯人でもある。

どこかの誰かのような模倣品ではなく、元祖箒と魔女帽子の持ち主、霧雨魔理沙だ。

 

 

 

 

 

「アンタね……これどうしてくれるのよ?」

 

青筋を立ててヒクついた笑顔で、咲夜は魔理沙の下へと立っていた。

どう見ても正義の味方を歓迎する笑顔ではない。

『ワレコラ、この落とし前どないしてつけてくれんねんっ?えぇ?』

とでも言いたげな笑顔である。

 

「よう、メイド。苦戦してるみたいだな」

 

「えぇ、そうねぇ……。これからも苦戦していく予定よ?主に修理的な意味で」

 

ターゲット変更。今にも魔理沙に切りかかりそうな勢いだ。

 

 

「まぁ、そうピリピリするなって。今回は頼もしい助っ人も連れてきてるんだ。

 

 

 

 

 

頼むぜ?        悟空っ!!」




もう少し…! あともう少しでゴール見えそうっ!正直今回の異変すでに私自身が飽きてきてるっ!!(ぇ
日常のお話書く方が自分には合ってるんだなーって痛感する今日この頃。え、前にもこんなこと言った?気のせい気のせい。
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