東方忘却記   作:マツタケ

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その37

 

 

 

 

 

 

 

まるで最初かないなかったかの様に。

まるで最初から異変などなかったかの様に。

 

今回の事件の登場人物が突然姿を消した。

 

代わりに現れたのは、まるで絵心が感じられない申し訳程度の汚い絵に。解読困難な汚い文字。

それらが描かれた真っ白なはずだった絵日記の様な一冊の本。

 

「今こそ話します……すべての始まりを」

 

瞳を閉じて思い返すように、彼女の知る今回の異変が語られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリっと音を立てながら、口の中へと運んだスコーンをかみ砕いていく。

それを洗い流すように、紅茶を一口。

そして、手元の本に視線を向ける。

 

至福。そんな言葉が彼女の頭の中に浮かんできた。

 

何をするでもなく、何かに追われるでもなく、ゆっくりと過ぎていく時間。

満員電車のような落ち着きのない日々も嫌いではないし、むしろ好んでそういう日々を過ごしている。

しかし、むしろだからこそこういう落ち着いた時間が尚の事心に染み渡る。

博麗霊夢の気持ちが少しだけ分かったような気がしないでもないが、自分には毎日そんな日々を過ごせと言われたらきっと…退屈で死んでしまうだろう。

 

「あー…へー……。あ、じゃあここの魔法はあっちにした方がいいんだ。へぇーへぇーへぇー」

 

ベッドに転がってスコーンを頬張りながら紅茶を飲んで魔導書を読みふける。

ポロポロと本やベッドにこぼれるスコーンの食べかす。

優雅という言葉からは遥か彼方の星ほどに離れた行儀の悪い姿である。

スコーンと紅茶と魔導書。

この三点だけ聞くととても優雅そうなイメージが沸く。やる人がやればきっと絵になるのだろう。

 

ところが今ベッドに寝転がっている少女がそれを扱うと……結果コレである。

 

「あぁ、ひぃね~。…んぐ…これはけっこうあのまほぉーにちゅかへるかもしれなひ………んぐんぐ……ふひぃ~~……」

 

バリバリと口の中にスコーンを放り込んで独り言。

完全に色々と何かがアウトである。

しかしその行為以上にアウトなのが―――――……

 

 

 

 

 

ぽんと、肩が誰かに叩かれた気がした。

人にしては、少し小さい気もするが不思議に思いつつも振り返る。

 

シャンハーイ

 

そんな声が聞こえた気がした。

いや、しただけで別にそんな声は発せられていない。

『彼女』の姿を目にした時、なんとなくそんな気がしたのだ。

そう、古河音の肩を背後から叩いたその正体はアリス・マーガトロイドの持つ人形。

彼女の姿を見た瞬間、違和感は解けた。

しかしそれも束の間。彼女の全身が音を立てて輝き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自爆。 読んで字のごとく自らの身体を爆発させる行為である。

犠牲を伴う代わりにその破壊力は抜群。もちろん今回に至っても同じ事だ。

ベッドは跡形もなく吹き飛び、紅茶もスコーンも見る影もない。

もちろん、古河音へのダメージも甚大なものだ。

 

 

「勝手に不法侵入してよくもまぁ……そこまでくつろげたものね」

 

お察しの方もいらっしゃった事だろう。

古河音が散々我が物顔でくつろいでいたのは彼女の自室ではない。

彼女が使っている部屋は慧音のものであり、和室だ。ベッドなどない。

 

アリスは帰宅した時我が目を疑った。

まず最初に驚いたのが壊されたドアノブ。

たまに人里に降りて人形劇を披露して帰ってみればまさかの空き巣。

なんでこんな時に限ってと焦りと怒りが芽生えた。

次に目にしたのが見覚えのある少女が自分のベッドに寝転がり帰宅後に楽しみにしていたスコーンと紅茶を我が物顔で口にしていた衝撃の映像である。

 

驚き……まずその姿を目にしたアリスの感情である。

苛立ちと怒り……次にアリスの胸の内に沸いてきたのがそれである。

 

ベッドのひとつやふたつ犠牲にしても構わない。それくらいのレベルだ。

 

 

「あなたはねぇ……もう少し倫理だとか常識だとかその辺を頭に叩き込んだ方がいいと思うのよ。ねぇ……私の言ってる事なにか間違ってるかしら?」

 

「頭っ!!頭踏んづけないでぇぇぇ~~っ!!アリスさんってそんなキャラでしたっけ!?そういうのはもっと他の人担当だと私思うんですけどもおおぉぉぉ!!」

 

自爆した人形の被害を受けた古河音を更に足踏み。

普段の彼女からは想像し難い行為だ。

尚もギリギリとその踏みつける力は徐々に増していく。

 

この構図こそ世に言う  自業自得である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何しにきたのよ?」

 

「いや~、なんだか急にアリスさんちの紅茶が恋しくなっちゃって。紅魔館のは最近若干飽きたっていうか」

 

「帰れ」

 

そんなしょうもない理由でドアを壊され、本とベッドを食べかすだらけにされたのかと思うと苛立ちは更に募る一方だった。

黙って帰す分まだ優しい方だ。

 

「ええぇぇ~~~……そんなつれない事言わないでくださいよぉぉ~~!私だってたまにはアリスさんみたいに一日中引き籠って誰にも会わずにダラダラしたい日だってあるんですよ!?」

 

瞬間、彼女の操る人形のうち一体が無言で古河音の額に鉄製の槍を突き刺した。

 

「のおおぉぉぉぉぉっ!!?」

 

もちろん致命傷にならない程度の浅い刺し傷だ。

が、あくまで致命傷にならない『程度』だ。

それなりに痛いし額という部位は少しの傷でも血が出やすい。

 

 

 

「さ…最近のアリスさんはツッコミに容赦がなくなってる気がする……」

 

「容赦っていうのはそれをする必要がある相手にする事よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁ~~~……暇だぁ~~~……」

 

アリス邸より追い出され、再び人里へとんぼ帰りである。

話を聞くとつい先ほどまでアリスは人里で人形劇をしていたのだという。

完全に入れ違いだった。

やるべき事・やれる事はあるのだ。

魔法の練習、友人との遊び、弾幕ごっこ。

だが、そのどれとも違う。何かしたいのだけれどその何かが分からない。

やりたい事が、噛み合わないのである。

 

 

 

 

「………およ?」

 

ふと目に止まったのは人里唯一の貸本屋、鈴奈庵だった。

唯一とは言ってもそもそも人里にある店など大抵一種類につき一件なのだが。

その割に酒屋だけが妙に多いのが、なんとも幻想郷らしい。

 

ともあれ、古河音の目は鈴奈庵になぜか引かれた。

何がという訳でもなく、直感のような、はたまたなんとなく。

 

 

「お邪魔そまーす!」

 

どうせやる事もないのだしと、古河音はそのまま鈴奈庵へと足を運んだ。

 

「あれー、古河音じゃない。どうしたの?」

 

「ヒマだから寄ってみた」

 

「あははー、さり気にひどいな」

 

お互いに、くだけた口調で喋り合う仲である。

小鈴自身も好奇心旺盛なその性格もあって、割と二人の気は合う。

実は解読が難解な紅魔館の本を借り、彼女に読んでもらうというのも一度や二度ではなかったりする。

小鈴にとっては今まで読んだ事のない本に触れる絶好の機会でもあるし、古河音にとっては苦労せず本の内容が分かる。

意外と、お互いの利益は大きい。

 

 

 

 

 

「んーー……なんか目ぼしいのってある?」

 

「目ぼしいってそんな曖昧な……あぁ~~、そういえば目ぼしいかどうかは分からないけど、最近読めない本はあるかな?」

 

その言葉に古河音の耳がぴくりと動く。

本来なら聞き逃しそうなさり気ない言葉も彼女がそれを言うなら話は別だ。

彼女の能力は妖魔本を読む程度の能力。いわば、普通には読めない本を読める程度の能力。

それは本人にも分からない言語であろうと文字であるなら彼女にかかれば読めてしまう。故に彼女に読めない本は存在しないと言っても過言ではない。

森近霖之助の道具の名前と用途が判る程度の能力に類する能力といってもいいかもしれない。

ちなみにお忘れかもしれないが、古河音自身も似た能力の持ち主である。

 

 

 

 

 

 

「……………って、えぇぇぇ~~~~……こういうオチ?」

 

「嘘は言ってない。嘘は」

 

読めないも何も、ないのだ。文字そのものが。

それどころか表紙にも中身も、すべてが真っ白だった。

文字を読む能力も、文字のない本など読みようがない。

 

「………………」

 

手に取った本が、なんとなく気になった。

鈴奈庵がふと気になった……その時の感覚に似ていた。

別にその本に魔法がかかっている訳ではない。彼女の能力は該当しない。

 

博麗霊夢ほどの勘でなくても『直感』とはなかなかに馬鹿にできないものである。

 

それは天性のものでもあるし、経験による後天的なものも作用する。

例えば運よく事故から助かったとする。

それは実は運ではなく、何かしらの直感で危険を感じ取っていたというのも珍しい話ではない。

 

 

「小鈴ちゃん、これ販売あり?」

 

「え…。そりゃまぁ構わないけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中身をよく見るとそれは、絵日記のようにも見えた。

絵を描くスペースの様な大きな空白。そして文字を書くための様な縦に並んだ線の羅列。

空白の絵本。そんな風にも見えなくもない。

そこでふと頭に浮かんだのが、古河音が昔やっていたオリジナル昔話。

赤ずきんや桃太郎、シンデレラなど。昔話の登場人物を使ってオリジナルのキャラクターや設定・お話を考えるというものだ。

 

少し昔を懐かしんで、あわよくばそれを阿求辺りに漫画化などしてもらって。

そんな事を考えながら昔話の設定を面白おかしく弄り倒してみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その昔話こそが、『西遊記』である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところがどっこいですよ。次の日阿求ちゃんに漫画化してもらおうと思ったら本に書いた内容が全部白紙になってたんですよ。

あー私これ夢見てたなーって思って、本の方も飽きちゃって家にずっと置きっぱだったんですよね……」

 

そうして現在に至る。

ここまで聞けばその場に居合わせた者は皆想像……というよりオチが見えていた。

つまりは、どういう仕掛けかはさて置きその『白紙に戻った西遊記の内容』こそが、今回の異変そのものだったのだ。

 

 

「いや、ていうか………」

 

長い長い沈黙が続く中、良也が控えめに挙手をする。

言いたいことがある。言いづらいことがある。

 

けれど、結局は行き着く結末である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前じゃん。    今回の異変の犯人」




ほんの少しでもまじめなお話が語られると思った?残念こういうオチでした♪
あっ!痛いっ!もの投げないでっ!!  あ、あともうちょっと続くんじゃよ?
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