東方忘却記   作:マツタケ

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なんていうか……。お久しぶりです!
いえ、ずっとコラボの方は更新してたんですけど。こうやって本編に返り咲くのは本当になんだか久しぶりな気がします。
そんな訳で、更新そのものはそこまで穴が空いたわけじゃないんですが………。

ただいまv


その40

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむむむ………………新鮮さに欠ける……」

 

そこは天狗と河童の印刷場。

本来今の幻想郷の技術力では難しい新聞の発行。

それを可能にしているのが天狗の組織力と河童の技術力が統合して作られたこの印刷場である。

本来新聞に携わる天狗とメンテナンスのために立ち寄る河童しかいないはずのこの印刷場に、一人だけ人間の少女が混じっていた。

 

彼の射命丸文に特別に許可をもらい、天狗に混じり『銀鳥譚(ぎんちょうたん)』という新聞を発行している我らが主人公(??)古河音である。

 

 

 

 

「三妖精の悪戯に新婚さんのインタビュー………そろそろこの手のネタも使い古してきたなぁ~~……」

 

まだ熱の残る出来立ての新聞を客観的に見つめながら読み上げる。

 

…………つまらない。

 

自分が読者ならまず間違いなくそう思うだろう。

そして自分がそう思うという事は、読者も間違いなくそう思うだろうという事だ。

得てして人は、新しいものに新鮮さを求めるものだ。

肉・魚・野菜。どれも新鮮さなくしては価値は語れない。『ネタ』に関してもそれは同じことが言える。

 

だが『ネタ』の新鮮さに関しては食べ物の新鮮さとは違う点も出てくる。

例えそのネタが新しくても、『飽きられた』らそれはもはや新鮮なネタではなくなるのだ。

似たような話題は読者の関心から離れていき、自然と読む気もなくしてしまう。

それが人気へと直結していく訳である。

 

当初こそそのバイタリティから新聞も毎日のように発行していた古河音も、今ではすっかり射命丸や他の天狗同様に、すっかり発行が不定期になりつつある。

ネタが……ないのである。

正確にはネタはあるにはあるのだが、上記の通り新鮮さが失せてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら古河音さ~ん、お困りのようですねー。

まぁ?記者なら誰しも通る道ですよ。そんなに気にすることはありません。そういったスランプを乗り越えてこそ、記者の真価は問われるものなんです。勢いだけでは新聞は書けません」

 

「むっ………」

 

胸元のカメラにペンにメモ帳。新聞記者の三点セットを取り揃えて現れたのは鴉天狗の射命丸文。

 

結局、前回の異変の記事は彼女が紅魔館に幽閉されている間にすべて持っていかれた。

というかそもそも、実は古河音の行動すべて文は把握していた。

そう、つけられていたのである。

さすがに旧地獄に関しては鬼もいればさとり妖怪もいたため近づけなかったらしいが、おおよそ古河音の行動含め筒抜けだったという訳だ。

結果文の新聞は異変で賑わい、遅れた者は残飯のようなネタで勝負せざるを得ないという訳だ。

 

 

 

「そういう文さんも…。結局あの異変の記事以来ネタに困ってるんじゃないですか?

まぁ、仕方ないですよねー。異変以外のネタなんて文さんにはハードル高いですもんねー?」

 

新聞がうまくいかないという悶々に加えて、言われたままというのも癪なので反撃に出てみる。

こんな事をしても不毛なだけという自覚はあるのだが、散々やられてたのだ。これくらいお返ししても罰は当たらないのではないか。そんな気持ちで声のトーンに嫌味をねっとりと盛りつけて文へと送った。

 

 

「………言ってくれるじゃないですか。このド新人が」

 

あからさまに、彼女の顔が引きつる。

普段どんな敵の挑発も飄々と受け流す彼女ではあるが、新聞に関しては譲れない何かが彼女の中にあるのだろう。

珍しくドスの利いた声が、彼女の口から洩れる。

 

 

「あれー?私何か文さんの気に障る事言っちゃいました?それはサーセーン」

 

「いえいえ、謝らなくてもいいんですよ?一体何に対して謝ってるんですかド新人さん」

 

古河音と文の間で火花が散る。女特有の粘着な言い回しが互いを罵り合う。

2人とも、普段はここまで相手に対して嫌悪の言葉を吐き出したりはしないのだが、新聞が停滞気味という苛立ちが二人を争いの場へと駆り立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……。やめましょう。こんな事してても虚しいだけです」

 

「そうですね…。喧嘩してネタが湧けば世話ないですよね……」

 

が、思いのほかそれは早くも鎮火した。

文自身が本来その明るい振る舞いの裏に冷静さを兼ね備えている事に加えて、古河音自身こういう口喧嘩は苦手としているというのが原因のようだ。

 

「「はぁ………」」

 

お互いに背中を預けて座り込んで、自身の発行したての新聞を見つめる。

すでに印刷したての熱はとっくに冷めていた。

 

「どうですか?読者が一発で目を引きそうなとっておきのネタとかないんですか?」

 

「そんなのあったらとっくに新聞発行してますって…。不景気ですよね。ネタの……」

 

女の険悪な罵り合いから一転。今度は酒場で愚痴るおっさん2人の図の出来上がりだ。

常に新しいものが望まれ、使い古されたものは見向きもされない。

読者・視聴者・顧客とは、時にとても残酷なものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば」

 

すっかり暗くなった二人の間に生まれた重苦しい空気の中、文がつぶやいた。

 

「結局例の本ってどうしたんですか?やっぱり封印か何かを?」

 

例の本とは、前回お騒がせの異変の際にその元凶となった古河音が鈴奈庵にて購入した真っ白な本の事である。

描いたものが実物となり書いた設定がそのまま描いた者に反映されるというおそろしい代物だった。

結局それが元を辿ると古河音が異変の犯人という扱いになり、幕を閉じたわけだが。

 

 

「いんえ?まだ家にありますよ?だってアレ結局また白紙に戻って封印するようなものあの本にないんですもん」

 

「え?それってけっこう大事な事じゃないんですか?そういえば最近命蓮寺に居候が増えたとかなんとか……」

 

「へぇー。命蓮寺に……居候が……」

 

「本の中身が『また』白紙に………………」

 

 

 

 

互いに背中を預けて座り込んでいた態勢からまるでクラウチングスタートのように。

立ち上がりダッと駆け抜け、互いの行動が分かると先に行動に出たのは古河音だった。

 

「ちょっと……離してください私ちょっと急用を思い出したんです!あなたなんかに構ってる暇はないんですよ!」

 

「させるかぁ!どうせ考えてる事は同じでしょうが!!元を正せばこれは私の手柄ですよ!?私をダシに一度はおいしい思いをしてるんですからここは私に譲るっていうのが筋ってもんでしょ!?」

 

醜い女の争い第二弾である。

互いに衣服を引っ張り髪を掴み、顔面を押さえつけ足をかける。

決闘のような殴り合いとは訳が違う。

手段など選ばず互いの足を引っ張り合う不毛で醜い取っ組み合いだ。

 

「人間のあなたが膂力で私に敵う訳…ないでしょう……………がっ!!!」

 

「ぴぎゃあぁぁーーーーーーーっ!!?」

 

まさに力技。

衣服や髪を掴まれないよう古河音の両の手首をつかんで、そのまま身体ごとぶん投げた。

その細腕のどこにそんな怪力が。そもそも妖怪と人間とではそもそもの身体能力が違う。

霊力や魔力で強化もできるが、それは相手も同じ事。

人間の霊力が妖怪のものより優っていれば強化によって単純な接近戦でも敵うし、逆もまた然りだ。

 

 

 

 

 

「こんのぉ!文さんめぇ…………ってしまったぁぁーーーっ!!」

 

投げ飛ばされはしたものの、ばっちりと受け身でその衝撃を受け流していた。

古河音の弾幕ごっこで墜落した数はもはや両手では数え切れない。

自然と受け身の技術は向上していく。

 

とはいえ、当然その間にも文は悠然と姿を消していた。

彼女の速さは何も飛ぶ時の速さに留まらない。行動の速さも随一だ。

負けじと古河音も箒に乗って駆け抜ける。どうせ遅れるならせめてその遅れを一秒でも縮めなければならない。

 

彼女たちが飛び去った後、印刷物だけがひらひらと舞っていた。

室内で空を飛ぶ行為は周りにとても迷惑がかかります。良い子も悪い子も真似してはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だぁ~~かぁ~~らぁ……そうじゃねえつってんだろっ!!!」

 

長く伸びたボサついた茶髪の目立つ少年が少女に向かって吠えていた。

見た目年端もいかない少女に向かってその倍以上ある背丈から怒鳴り声を上げるその姿は、あまり穏やかではない。

 

「いいか……?よく聞けよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

雑巾がけってのはこう!中心にムラのないよう手のひらを乗っけて!指先を広げて力を漏らさないようにすんだよ!!そんな腰の入ってない雑巾がけで廊下を綺麗にできると思うなっ!!!」

 

少年……彼の孫悟空は雑巾を握りしめ、力説する。

対する少女……ナズーリンはあからさまに目をそらし指先で耳を塞いでいる。

そこに温度差があるのは文字通り。火を見るよりも明らかだ。

 

「はいはい分かったから、君はもう口出ししないでくれるかな?

困るんだよ。掃除のたびにアレがこうだのコレがどうだのいちいち言われると……終わるものも終わりゃしない」

 

「あぁ!?そんなハンパな精神で汚れを駆除できると思ってんのか!?汚れ舐めんな!!」

 

信じられるだろうか。いかに古河音の創作物とは言えども。コレ、一応はあの孫悟空である。

どうにも、あの異変の一件以来その姿は人のまま安定している様子だ。

おそらくは異変の最中はまだ古河音のイメージそのものが曖昧だったという事と関係しているのかもしれない。

 

 

 

「はいはい、そこまで。あんまり女の子に大声をあげるものじゃないわ」

 

手をパンパンと叩きながら現れたのは黒髪の青年。沙悟浄。

穏やかに浮かべるその笑みからも、温和な性格がうかがい知れる。

 

「悟空?ここじゃ私たちは新参者の後輩よ?態度には気をつけないと」

 

悟空よりも高いその背丈を少し屈めて、その口に人差し指を当てる。

にこりと笑うその表情が、釘を刺しているようにみえなくもない。

当てられた指を跳ね除け、舌打ちをしながらもため息を吐いてその先は何も言わない。

一応、了解という意味なのだろう。

 

 

 

 

 

 

「つうか八戒どこ行った?あの野郎今日は俺と料理当番だろうが……」

 

「あの子なら、響子と一緒にひたすら『ヤッホー!』を繰り返し合ってたわよ?」

 

「どいつもこいつも………」

 

頭痛をおぼえたように頭を押さえながら眉間にシワをよせてまたひとつため息。

迷信が本当ならば、またひとつ幸せを逃した事になる。

早足で境内まで向かおうとする悟空だが、その腕を悟浄が掴みそれ以上先に進めない。

 

「そっとしておいてあげなさい。子供は遊べるうちに遊んでおかないと。微笑ましかったわよ?邪魔するものじゃないわ」

 

「お前がそうやって甘やかすから……あぁ、もう!ナズーリン、くれぐれも手ぇ抜くんじゃねえぞ!?」

 

廊下を荒い歩調でドタドタと音を立てながら、姿を消していった。

 

 

 

 

「ごめんね悟空が。あの子まじめ過ぎて融通が利かないところがあって……。

そうそう、雑巾がけをするならこれをつけておくことをお勧めするわ」

 

「彼の融通が利かないのは、ここ数日で分っている事だよ……」

 

悟浄とナズーリンが2人だけになったところで、人知れず悟空の代わりに謝罪を入れる。

基本彼が4人の中で中継役といったところなのだろう。

そんな彼がナズーリンに手渡したのは一組の薄い皮手袋だった。

特に何か特別な仕様がある訳でなく、つけると岩をも動かす力が湧いてくるでもない。

ごくごく普通の手袋だ。

 

 

 

「雑巾がけってけっこう手が荒れるのよ?それだけ薄ければ作業の邪魔にもならないでしょ?」

 

「………………そりゃご丁寧にどうも」

 

柔和に微笑む悟浄に、ナズーリンは唯々複雑な表情で手袋を受け取る。

 

ナズーリンに限った話ではないが、未だに彼のキャラクターがよく分からない。

本当に…本当に性別を除けば、気遣いの出来る優しいお姉さんである。

だからこそ、彼の一挙一動に違和感しか沸いてこない。

性別と振る舞いのギャップに、どう対応していいのか分からない。

ある意味ナズーリンにとって一番対処に困っているのが、悟浄だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんていうか……………

 

 

 

 

 

 

ふっつ~~~~~~に馴染んでますねぇ…」

 

「馴染み過ぎでしょう…。これだけ馴染まれると、記事にする際に困るんですが……」

 

そんな日常風景を裏で覗き込んでいたのが、カメラを構えた記者2人だった。

古河音に追いつかれまいと全速で命蓮寺まで忍び込み、音を察知されないよう数枚の写真を刻み込む文。

そんな文に遅れながらも、速さだけなら並みの妖怪に引けを取らないスピードで引き続き命蓮寺に侵入し、カメラを構えて……現在に至る訳である。

 

「仮にもあなたの創作物でしょう?いいんですか?あんなに平和で……」

 

「人を平和を脅かす災害みたいに言わないでくださいよ!……て、そういえば三蔵の姿が見えないですね……」

 

「言われてみれば……」

 

記者二名が期待しているのは、あくまで読者が食いつくような阿鼻叫喚。

 

里の信頼を得ている命蓮寺。そこに現れる異変の異端者達。対立し争い合う魑魅魍魎。脅かされる平穏。

 

そんな展開を期待していたのである。発想がまんまパパラッチだ。

こんな日常コメディのような平和な生活をされていては困るのだ。

だが、2人に共通して一人の人物が思い浮かんでいた。

 

三蔵法師である。

 

そもそも彼女がいなければ異変そのものが成り立っていなかったであろう人物。

人間の身でありながら妖怪以上に化物。妖怪退治のスペシャリスト。

人外相手にはまさに無敵の力を振るった髪のない性格破綻者だ。

 

彼女ならば、彼女たちの思い描くような展開を持ち出しても不思議ではない。

 

 

 

 

 

 

「ひょっとして参拝者の方々でしょうか?」

 

「あやっ!?」 「うおっ!?」

 

古河音はまだしも、文にすら一切気配を感じさせずに。

一人の女性が記者2人の背後に立っていた。

白に統一された袈裟を羽織り、対照的に長く伸びた黒髪の目立つ女性だ。

頭に王冠の様な飾り物がついた、特徴的な袈裟帽子をつけている。

 

 

「いや、私たちはその……そうそう!教えを説いてもらいに!!」

 

とっさに、そんな言葉が出た。

ちなみに姉の心妹知らず、彼女の義姉である上白沢慧音もまた稀にこの寺に通っているうちの一人だったりする。

 

「…………て、ちょっと待ってください。この人どこかで見覚えありませんか?」

 

「いや、どう見てもこんな新キャラ今まで………たしかにどこかで」

 

目を皿のようにして、足元から頭の先まで見渡すように。

見覚えがある。だが思い出せない。頭の中の情報が何かに反応している。だが同時に何かが阻害してその情報を邪魔している。

違和感というにはあまりに強烈な何かが、彼女たちの記憶に蓋をかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうそう思い出しました。

 

 

 

 

 

 

そちらの方は以前………紅魔館?で、お会いしましたよね?

古河音さん、でよろしかったでしょうか?」

 

 

「「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

2人揃って声を上げて、目の前の女性を指さしていた。

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