一話完結のお話って案外難しい。
「あぁ……ごめんなさい。よく聞こえなかったのだけれど、もう一度言ってくれないかしら?」
紫はズキズキと痛む頭を押さえながら、藁にもすがる想いでもう一度彼女の言葉を確認する。
聞き間違いだった…そんな一欠けらのわずかな望みにかけながら……。
『大丈夫ですの?あなたもいい加減歳なのですから定期的に治療は受ける事をお勧めしますわよ?一度永遠亭でしっかりと見てもらいなさいな……。仕方ないですわねぇ…。
神になる、そう申し上げましたのよ私?』
こちらの望みなど知る由もなく。
返ってきたのはいわれもない哀れみの言葉とセットで聞き間違いであって欲しかった妄言だった。
時間の逆行など紅魔館のメイドにも出来はしない。
けれども思わずにはいられない。 連れてくるんじゃなかった……と。
「えぇ……と、何?神になるんだっけ?あなたが?あの………意味分って言ってる?」
今度本当に永遠亭からストレス緩和の薬を処方してもらおう。
そんな事を考えながら話を進める。
一応。一応決して頭の方は悪くないはずなのだ。
発想があまりにも可哀そうなくらい残念なだけであって、魔法を理論で組み立て独自のものにする頭脳は今もたしかに彼女の中に存在するはずなのだ。
だからきっと根拠なしに言っているのではない……と、信じたい。
『この私が理論も知らずに神を語るとお思いで?
神とは信仰から成るものですわ。つまり崇められれば良いのです。
今の私を何とお心得で?レプリカといえど彼の草薙の剣ですのよ?
幻想郷には伝わっていない伝説を語り継げば、必ずその信仰は集まりますわ。本物がないなら尚の事……人とは形あるものに祈りを捧げるもの。どこの宗教も神を象った像を用意するのは祈りを捧げる「形あるもの」が必要だからですわ。
お分かりで?
その「形あるもの」とはそう……私こと「草薙の剣のレプリカ」の事を指しますの。
神話に信仰を捧げる。それすなわち私がその信仰を得るという仕組みですわ!
おーっほっほっほ!!』
要約すれば、『草薙の剣の伝説を利用して信仰を得る。そして神になる』と言っているのだ。
理屈としては全くの見当違いという訳でもない。
訳でもないのだが………それはつまり他者の獲物を横取りするハイエナ。
部下の功績を我が物顔で振りかざす上司。他人のふんどしで相撲を取る力士。
虎の威を借る狐………お世辞にも褒められた発想とはいえない。
『信仰さえ得られれば私は実体を持つ神へと昇華するでしょう。もはや残留思念ではなくなるという寸法ですわ。さぁ、あなた方もこれを機に私を崇めてもよろしくてよ?失礼…もしやもう既に崇めておりましたかしら?』
霊が信仰を得て神になるという話は割とよくある話だ。
草薙の剣の伝説云々を考慮すればたしかに全くあり得ない話という訳でもない。
「………………………………」
あまりに腹が立ったので、もはや無言のままスキマ送りの刑。
スキマの中から何をなさいますの~!? という声が響いているが、すぐさま閉じて聞いてないふり。
あり得ない話ではない。あり得ない話ではないのだが………あってはならない。
仮に彼女が神になり得たとして、それで出来上がるのは邪神以外の何物でもない。
『なぜですのっ!!?』
後日…金切り声が二日酔いの良也の頭に響き渡る。
昨夜は二日酔いの薬を永遠亭へと貰いに行ったはずが、なぜかそこで輝夜に絡まれ。
更にはそこに妹紅が登場。飲み対決となりなぜかそこで良也まで巻き込まれる始末。
二日酔いを治しに行ったはずなのに、なざかそこで更なる二日酔いになるという悪循環。
これが、幻想郷である。
「いや、なんで僕がお前の信仰集めに協力しないといけないんだよ?」
頭の中でエコーする鈴芽の声に悩まされながら、突然そんな『新世界の神になる』とでも言わんばかりのGOD発言をされてもむしろ同意する要因を探す方がはるかに困難だ。
信仰集めとはつまりアレだ。
身近なところでいえば東風谷早苗が里へ出向いて、一人一人に声をかけて守谷神社への信仰を即すアレだ。
つまりは“外”でいうところの選挙活動に近い。とても地道な作業だ。
その地道な作業の果てに何か得るものがあるなら別として。
地道に頑張って出来上がるのはこの世に災いをもたらす邪神の誕生だ。そんなものはゲームの中の魔族の下っ端なんかがやる仕事だ。
『私とあなたの仲でしょうっ!!?』
「……一方的に身体を乗っ取られて、そのあげく不便だなんだと文句言われるような仲だけどな?」
都合の良い時だけの『友達でしょ!?』発言は決してお勧めのできるものではない。
逆に交友関係に傷をつける要因になりかねないからだ。
『………勘違いしないで頂きたいものですわ。これは取引ですのよ?』
『お願い』が通じないと分かると、突然声のトーンを変えて出来る女風に取引発言。
二日酔いの粉薬を水で一気に流し込みながら、この話いつになったら終わるんだろう…と遠い目で空を眺める。ルーミアらしき球状の闇が飛んでいた。出かけるときは注意しよう。
『私が神になって自由の身になれば、それはすなわちあなたの自由を意味しますのよ?』
「お前、僕がお情けで連れて回ってる事忘れてない?その気になればまた倉庫送りにすればそれで全部済む話だし」
『ふふふ…そんな事をしてみなさい。私倉庫の中で毎日叫び続けますわよ?
そうすればあのものぐさな霊夢さんはすぐさまあなたに私を押しつけるでしょう…』
ひどい脅し文句もあったものだ。
言っている事はこれ以上ないくらいに情けない手段なのに、それを然も自分が優位に立っているかのように話しているのだから、ある意味彼女の図太さには驚かされる。
取引とは何だったのか?
「え…何?結局僕にどうしろって?」
ついには根負け。ここで折れずに戦うべきなのかもしれない。
が、我を通す。という事においてそれは鈴芽の方が圧倒的に有利だ。
つまりはこういう勝負、よりワガママな方の勝ちである。
『何も難しい事をしろとは申しません。ただ草薙の剣にまつわる伝説と共に、私がその剣…だとかなんだとか言われているなど……その辺は少々曖昧に表現して頂くだけで結構ですのよ?』
「一番肝心な部分誤魔化してるじゃんよ!!?」
レプリカ…やはりその表現は信仰に響く。
言ってしまえば偽物…贋作。偽物は本物には敵わない。
わざわざ偽物だと分っているものに、人は祈りを捧げるだろうか。答えは否である。
『あなただっていつも大して値も張らないお菓子を『美味しいですよ』などと口から出まかせ言ってるでしょうに!!?』
「本当に味の方は保証されてるから言ってんだよっ!お前の詐欺行為と一緒にすなっ!!
安くてもうまいお菓子だってたくさんあるんだよ」
「あぁ~~……もう止め止め。なんで僕が里の人達騙してお前の売名行為につき合わなきゃいけないんだよ……ていうか今気づいたけど、お前今回は僕の身体勝手使わないのな。あの異変以来好き勝手やってたくせに……」
不本意極まりないが……気になるところではあった。
いつもの彼女ならば断わりなど入れずに良也IN鈴芽の状態で里の人達にない事ない事を吹き込んで無理やりにでも信仰を集めようとしただろう。
正直に言えばそんな事を聞く事自体不本意だ。
まるで『使ってもいいんだぞ?』と言っているみたいで自分に対してとても不快な気持ちになる。
別に身体を勝手に使われないならそれに越したことはない。
けれども聞かなければ聞かないでなんとなく気持ち悪い。だから聞いてしまった。
きっとこういうのは聞いても聞かなくても気持ち悪いのだろう。
誰に語るでもなく、一人で自己完結。
『そんな事………。 出来る訳ありませんわ………。
私にきっちりメイクの自撮り写真をブログにアップして可愛さアピールする小娘の真似事をしろと仰りたいんですのっ!!?不愉快極まりないですわ!あんなの淑女のする事ではございませんっ!』
「ええぇぇぇ~~~~~~………??」
普段はこれでもかと言うほどに自己アピールをする癖をして、自分を対象にする信仰集めは彼女の中の何かが許さないらしい。
そのおかげで身体を使われないのだからむしろ助かるのだが、それでも思わずにはいられない。
めんどくせー! と……。
「分かった分かった! お前の要望通りにやってやるよ!」
『………………………………え??』
里の外れにある地蔵の列。
まるで昔話にある笠地蔵を思わせる並列で、5体の地蔵が仲良く並んでいた。
その隣に少し離れた位置にぽつりと、設置された刀掛け。
『刀掛け』。文字通り刀を掛けるための台のようなものだ。
和室の部屋などにたまに見られるもので、現在も模造刀を趣味とする人の部屋にはよく置かれているものである。
その隣には立札のようなものがある。
内容は主に草薙の剣に関すると、隣に置かれてある剣がそのレプリカである事を示したものだった。
そう、その刀掛けには草薙の剣のレプリカ(残留思念付き)が、地蔵と並んで設置されている。
「まぁ、地蔵ついでに興味の持った人が誰か信仰してくれるんじゃないか?」
『…ちょと!? 冗談でしょう!? 良也さん!? あの…冗談ですのよね!?』
「じゃ、ガンバレヨー」
『お…おほほほほっ。なるほどなるほど。なかなかにユニークな冗談ですわ。
こんな人通りの少ない外れ道で地蔵に並べて放置………えぇ、なかなかに面白いですわよ……
面白い………です……………わよ?
だ、だから…………………。
連れて帰りなさいよおぉぉ~~~~~~~っ!!!』
ちなみに、思いの外通りがかりの老人からの信仰を得た鈴芽は後に神まがいの存在として自由の身を得る事になる。
中途半端に信仰を得たせいか、異変後の少名針妙丸よりも更に小さな身体を…。