東方忘却記   作:マツタケ

75 / 100
今回の番外編はシャオルーンさんの描かれる「東方琴吹録」とのコラボ作品となっております。
ただでさえこの作品三次創作なのに更にややこしい事になっているので、ご注意ください。


番外編
コラボ回その1<前篇>


 

 

 

 

「ふふふ……ふふっ………くふふふふ……!!」

 

巨大な魔法陣の中央に1人の少女が立ち、不気味な笑い声を上げていた。

黒い衣装を身にまとい白い魔女帽子を深く被ったその少女の手には少々癖のある一本の毛髪が握られていた。

金色に輝くその髪をもう片方の手に持った小さなケースの中に納めて魔法陣の中央に安置する。

 

「何も薬なんてリスキーなものに頼らなくても、こうやって呪いをかければ良いじゃあぁ~りません…くぁ!!」

 

何か怪しいキャラを演じたいのであろう。

少女は奇妙なイントネーションを操り尚も口元を不気味につり上げていた。

この少女、名を古河音。

人里に住まい上白沢慧音の家で居候をする外来人にして魔法使い見習いだ。

ついでに記憶喪失ではあるが、これはもはや余談だろう。

 

 

 

「なんで気づかなかったかなぁ……。この幻想郷にいるハイスペック萌えな人達を男性化してしまえば………うひゅひゅひゅひゅっ………!!」

 

うふふ、と笑いたいらしい。

もはや気が高ぶり過ぎて完全に危ない笑い方になってきている。

 

そう、これが彼女の今回の目的だ。

彼女の萌えに対するストライクゾーンは変態的に幅広い。

薔薇でも百合でもロリでもおじ様でも、そこに萌えがあるのなら彼女はどこまでも探求の手を緩めない。

元々どういう訳かこの幻想郷には造形の整っている人物が多い。

だが、女性率が妙に偏っているというのも否定し難い事実。

女性相手にも萌えられるがそこは一応彼女も女として生を受けた身、たまには素直に美系男子に萌え転げたい。

 

彼女が今回手を出したのが、呪った対象の性別を反転させるというものだった。

 

「悪いけど魔理沙さぁ~ん…この不思議で素敵な呪いの実験台になってもらいますヨォ…♪

前に変なキノコの実験台にされたの忘れてませんからねぇぇ~~……!!」

 

どうやら今回、萌え半分私怨半分らしい。

加えて今回のターゲット霧雨魔理沙、彼女もまた外見だけをいうならかなりの美人の類に入る。

呪いが成功すればそれはそれで、一石二鳥だ。

 

 

左右の掌をぱんっと打ちつける。

その両の手でそのまま霊力を魔法陣へと注ぎ込んだ。

実際その動作に意味はなく霊力を注ぎ込むだけで呪いは発動する。

しかし、魔法使いにとってこういう一見意味のない行為も実際は重要な予備動作のひとつである。

例えば魔法を使う際の呪文がそれだ。

その呪文に実際の意味はなく、重要なのは魔法を扱う際の精神集中法だ。

動作であれ、呪文であれ、魔法にとって大切なのは術者の精神状態。

端的に言ってしまえば、術者が集中できるのであれば裸踊りであれ何であれ何でも良いのだ。

 

 

 

流し込んだ霊力に呼応するように魔法陣が稲妻の様な光を放ち、その光は止む事なくどんどんと輝きを増していった。

 

「ミ・ミ・ミラクル☆み~くルンルン♪ ミ・ミ・ミラクル☆みぃ~くルンルン♪」

 

どうやら精神集中をするため、これが彼女なりの呪文らしい。

ただ単にテンションが上がり過ぎて吠えているだけの様に聞こえなくもないが。

 

だがその冗談の様な呪文に反応して、魔法陣は更に光を増してゆく。

更に更に魔法陣は輝きを増してゆき――――……

 

 

 

 

 

 

大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!」

 

まるで目覚まし時計か何かに起こされたかのように、古河音の意識は覚醒した。

ゆっくりと全身に響く鈍い痛みを感じながら朦朧とした意識で身体を起こす。

 

「……ここはどこ?……私は誰?……………ってちがあぁ~~~うっ!!

私はもうとっくに記憶喪失キャラだってば!!これ以上スポスポ記憶抜けたら堪らんですたいっ!!」

 

なぜか九州弁でセルフツッコミ。完全にイタい子だ。

だが、大声をだした事により意識が覚醒したのか古河音の脳が現状を把握しようと働き出した。

どこか見覚えのある様なない様な鬱蒼とした薄暗い森の中。

先ほどまで、少なくとも意識のあった間は人里の納屋の中で怪しげな呪いに勤しんでいたはずだった。

明らかに意識を失っている間に場所が移動している。本当に、ここはどこ?である。

 

 

「いや~…しかし何かこの森見覚えのあるような………?」

 

既視感に従って落ちついて周りの景色を観察する。

嫌に魔力の香りが強く、それでいて怪しげ、全体的に薄暗く統一感のない独特の雰囲気。

2~3同じ光景を吟味してようやく気づく。そう、彼女のよく知る魔法の森そっくりなのだ。

というか、魔法の森なのだろう。

 

 

「……はっ!って事は!?」

 

なぜ突然魔法の森などに移動したのか、そんな事は些細な問題だ。

どうせ呪いの副作用か何かでなんやかんやあったのだろう。と、割と重要な疑問を古河音は折って畳んで捨てた。

今の彼女にとって最も優先すべき事、それは呪いが成功したか否か。

魔理沙がちゃんと男性化したか否かである。

 

 

幸いにも自分の倒れていた場所に箒も落ちていた。

魔法の森は迷いやすい。だから一度空を飛んで地形を確認するのがセオリーだ。

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

 

「え……えぇと……」

 

地形の確認をすべ高く箒で上昇した先に、1人の少女が彼女と同じく空を飛んでいた。

双方ともに突然目の現れた存在に呆気にとられて言葉が出ないようだ。

 

ガラス玉の様に透き通り丸く大きな瞳。短くも繊細でさわり心地の良さそうな茶色の頭髪。

白く、それでいて健康的な艶のある肌。スラっと伸びたか細い四肢。

まさに天からの恵みと言わんばかりのその美貌、決して成熟した訳ではないその未発達さ特有の魅力が彼女には備わっていた。

 

更に古河音の目を引いたのがそんな彼女を包みこむメイド服。

萌え、そんな言葉をこの世に授けたまさに原点とも言えるその衣服を完璧に着こなしていた。

短すぎず膝下まで隠れたちょい長スカートもかなりの高ポイントだ。

 

 

 

「………なん………だと!?」

 

「…え?な、何が………?」

 

更に更に決して狙って出せる事のない子猫を思わせる愛らしい声。

怯えた様な被食者特有のそのイジメてオーラは危ない人達のハートに火をつけそのままガス爆発を起こしかねない。

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして。おつき合いを前提に結婚して下さい」

 

真顔だった。真顔で言いおったこの女。

相手の瞳をまっすぐ見つめ、決して揺らぐ事のない覚悟の決まった強い瞳がメイド服の少女をまっすぐと向けられていた。

 

「い…いやいや!何言ってるの!?なんか色々と逆だし……どこからツッコんで良いか分かんないよ!!」

 

突然の妄言に彼女も驚かざるを得ない。

というかこれが普通の反応だ。いや、むしろまだよくつき合ってくれている方だ。

真顔で出会い頭にこんなセリフを吐かれては侮蔑の目で見つめられながら逃げられても何ら不思議はない。

 

 

「冗談です。それで式の日取りはいつにしましょうか?あ、別に私ウエディングでも着物でも構わないですよ。貴女ならきっとどんな服も似合いますよ」

 

「顔もセリフも全部冗談に聞こえないんだけど………。しかも僕が着る側!!?」

 

「すみません、ご両親への挨拶が先でしたよね。じゃあさっそく……」

 

「いやいやいや……!!ちょ…ちょっと待って!落ちついて話をしよ!?」

 

肉食女子、そんな言葉など既に超越した古河音の勢いに少女は両の手を前へ差し出しストップのポーズ。

出会って数分、このままでは本当に籍を入れかねない状況をなんとか阻止しようとする。

ツッコミたい事は山ほどある。

しかし、古河音の勢いはそれを許していなかった。

一応女として生を受けた身? たまには素直に美系男子に萌え転げたい? そんなものは彼女を見た瞬間にかなぐり捨てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま…まずね?僕と君は出会ったばっかりで…「愛に時間は関係ありません」

 

もはや相手の言葉を最期まで言わせる気すらなかった。

ちなみに彼女を動かしているのは愛ではない、萌えだ。

 

「ていうか君女の子だよね…?なんでさっきからセリフが男目線…「性別なんてただの飾りです。偉い人にはそれが分からんのです」

 

ずいっと真顔で前のめり。相も変わらず相手の言葉を最期まで待たない。

表情と声色は真剣そのものだが、実際に言っている事は常人には理解し難いものだ。

 

「あと、勘違いしてない?僕は男だよ?「大丈夫。なぜなら君はこんなにも美し………

 

 

 

男?」

 

 

「そうそう、男……」

 

ここで少女……少年は初めて自らの正体を明かす。

なぜ目の前の少女が出会い頭に求婚してくるかは謎だが、彼女…彼は古河音のいやに男前な言動から自分の事を女と勘違いしているのでは?という考えに至っていた。

女が出会い頭に女に求婚する。

それもかなり少年には理解し難い事実だが、その誤解さえ解けばこの状況を脱せられるかもしれない。そう思い、自ら正体を明かした。

本当なら語らずとも男だと気づいてほしかったが、格好が格好だ。仕方ない。

 

 

 

 

 

「お……おとっ……おと……………おおぉぉ~~とおおぉぉ~~こおおおぉぉ~~~~

 のおおぉぉ~~~こはあぁっ!!?」

 

「ぎゃああぁぁ――――っ!!」

 

突如叫びながら口から吐血する古河音に少年の悲鳴が響き渡る。

手で口元を押さえるも、その手元からこぼれ落ちる赤い液体。ホラーだ。

 

少年は今すぐにでも逃げ出したい気分だった。

出会い頭にプロポーズ、どんなに振られてもめげないしょげない泣いちゃダメ。

挙句の果てに突然叫びながら吐血する。

この幻想郷では常識は通じないと分かっていながらも彼女は色々とアウトだ。

逃げたくとも仮にも女の子に目の前で吐血などされては、そこは少年も男の子。

心配しない訳にもいかない。

 

 

 

 

 

「だ…大丈夫?」

 

「だい……じょうぶ…です。これはアレです…。そう、ケフィアです!」

 

「そんな真っ赤なケフィア聞いた事ないよ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、私は古河音。人は私の事を尊敬の念を込めてこう呼びます。

萌えの探究者、と……」

 

吐血……当人曰くケフィアも収まる頃、2人は一旦森の中に着陸。

話し合いの場を設け古河音のテンションも少しは落ちついた様子で、少年もホッと胸を撫で下ろす。

おおよそ虚言だらけの自己紹介に少年のドン引きっぷりは尚も健在だ。

 

「ぼ…僕は琴吹未来(ことぶき みら)。えぇと……一応魔法使い見習いやってたり」

 

「わぉ♪奇遇ですねこれは運命を感じざるを得ない!私も魔法使い見習いなんですよ。お師匠は誰です?私我流だからそういう人いなくって」

 

魔法使い見習いで何故にメイド服のチョイス?という疑問が頭を過りながらもまずはそっちのけ。

思わぬ共通の話題に少しでもお近づきになろうとこれでもかと畳みかける。

男の娘という幻想郷ではあまり見ないタイプにテンションも上がるというものだ。

 

「えぇと……霧雨魔理沙っていう人に教えてもらってるかな…って言ってもほとんど実戦だけど」

 

「はぁ!?魔理沙さん!!? あの人ってばそういうの興味ないフリしてこんな若いツバメに……手取り足取り一体何の特訓してるんだか………夢が広がるその名はモフモフっ!!そりゃ薄い本も厚くなるって………………うん?」

 

霧雨魔理沙、ごくごく最近その言葉に覚えがある。

その名前はもちろん知っている。

そういう事ではなくその名前に関連する事が何か彼女の近辺で起こったはずなのだ。

 

 

「…………あっ」

 

記憶の糸を辿りその答えに思い至った。

美系男子に萌え転がりたい、不思議で素敵な実験台、みぃ~くルンルン♪ 大爆発。

 

そう、そもそも彼女が突然意識を失い魔法の森に迷い込み少年…琴吹未来と顔を合せたのも元を辿ればそれが原因だ。

つまりは霧雨魔理沙にかけた性別を反転させる呪いの事である。

もしそれが成功しているのなら今頃彼女は男性へとその姿を変えているはず。

それは一向に構わない。古河音的にはドン☆と来い!である。

 

問題は、その彼女が目の前の少年琴吹未来の師に当たるという事にある。

帰ったら師匠は男になっていました、びっくりドンキーも卒倒ものである。

 

 

 

 

「あぁ~~……未来さん?」

 

「え、どうしたの?」

 

「もし未来さんの身近な人に何かあっても、その時は静かに全てを受け入れることをお勧めします♪」

 

「何それ怖いんだけど!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、古河音も魔理沙と知り合いなんだ」

 

「そ…そうなんですよ。ははは………」

 

当初は楽しみで仕方なかった魔理沙の男性化も、今となっては罪悪感でしかない。

もし呪いが失敗していればよし。成功していれば流石に事情を説明する必要がある。

魔理沙の家に辿りつくまでの道中が珍しく気が気じゃない古河音だった。

 

 

 

 

 

「おー未来、どこ行ってたんだ?」

 

快活で、それでいて未成熟な少年を思わせる声が未来を呼んだ。

癖のある金色の髪、黒く大きな魔女帽子、対照的な純白のエプロン。

その声の主はまさしく霧雨魔理沙、その人だった。

 

その声も、背丈も、肌の白さから四肢の細さまで、文句なしに少女のそれである。

 

呪いは失敗に終わった。

古河音の中で結論が出たと同時に安心以上の落胆が彼女を襲った。

やはり例えどんなトラブルに見舞われようともあの男前な魔理沙の男性化姿は一目見たかった。

良識か欲望か、どちらを選んでも大なり小なり後悔とは必ずついてくるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

「もぉー魔理沙さんも人が悪いなぁ!こぉんな歩く萌え要素お弟子さんにしたなら一言あっても良いじゃないですか!!」

 

仮にも本人のいる前で指を突きつけ不名誉極まりない呼び方だ。

 

 

 

 

「………誰だお前?」

 

 

「………はい?」

 

 

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