「あ………
「あっぶねえなっ!!!剣振ってんのが見えなかったのかよ!!
これ真剣だぞっ!?」
とりあえず。怒られた。
当然だ。真剣を振っている人物の足元へ突っ込むような真似をすればそれは自殺行為以外のなにものでもない。
その手に握られた二刀の剣は、とても切れ味がありそうだ。
「それはそれは失礼しましたっ!でもそれも全ては結神様への敬意を表すためっ!
こんな健気な私のお願い聞かない訳にはいきませんよね!?」
普通健気な人物は自分の事を健気などと言わない。
両手を組んで顔の横に寄せ、反省の『は』の字も見せない上目遣いは腹立たしい事この上ない。
上白沢。
その姓に彼は聞き覚えがあった。
前述の通り、彼には前世の記憶がある。
その記憶の中には『東方Project』と呼ばれる霊夢や魔理沙を主人公としたシューティングゲームを基盤としたストーリーが存在する。
その記憶の中に、上白沢慧音という登場人物も彼の記憶の中に存在した。
と同時に、上白沢古河音などという人物は彼の記憶の中には存在しない。
その瞬間に本能的に悟った。
彼女は彼の知る『東方』の世界とは別の世界からの来訪者なのだと。
というのも、彼は結びを司る結神だ。
そのためその効果は別世界であろうと効果を及ぼす。
もし別世界の誰かが双覇へと祈りを捧げれば、その祈りは世界の壁を通じて彼の下へと祈りを捧げた人物ごと届くシステムなのだそうな。
今のところ例はないが、彼女がその第一号なのだろう。
「まぁ・・・・なんだ。
神様のお仕事やりましょうか・・・とりあえず要件を聞きましょうか・・」
突然現れたどこの馬の骨とも知らない女の願いを聞く。
そんな彼の行動に文やさつきがブーイングを漏らすが、一応彼の役職上人の願いを聞き遂げるのが神の仕事だ。
「で、用件は?」
「……………………実は今、私の住んでいる人里では、酒蔵の息子、小次郎さんという人がいます。とてもまじめな好青年です。
もう一人、現役バリバリの大工の若頭、名前を平八さん。ちょっとお茶らけてるけど面倒見のいい人なんです。
ぜひ、この2人の縁を結んで、性別という壁を飛び越えお互いを引かれ合わせ、愛欲に溺れる関係にしていただけないでしょうか!?」
「いや、ダメだろ」
一言一言に感情を込め、まるで演劇のように舞いながらお願いしてみたのだが、返ってきた答えは即決だった。
「なんでですかっ!?困ったことは何でも解決・結神様でしょっ!!?」
「俺がいつそんなどこかの甘党万事屋みたいな宣伝したんだよっ!?
ていうかその2人男同士だろっ!?ケンカした2人の仲を取り持つとかなら分かるけど愛欲ってなんだよっ!?」
「ヤダそんな…。愛欲って言ったらアレですよ……///。気持ちだけでは収まらない感情の波を互いの身体を求め… 「みなまで言わなくていいっ!!!」
彼女の突拍子もない言動から双覇とさつきはある程度察しがついた。
彼らの元いた世界には男性同士の恋愛を創作物として好む『そういう趣味』が一部の間で盛んだという事は知識として知っている。もちろん双覇もさつきもその手の話題に興味の欠片もない。
だが、少なくとも目の前の少女は『そういう趣味』の持ち主なのだろうと、そう判断した。
「性別の壁がなんだっていうんですかっ!?男同士が恋愛したっていいじゃないですか!
だいたいねぇ!やれ『ホイホイチャーハン』だとか『やらないか』だのみんな男同士の恋愛をネタにしすぎなんですよ!!女同士の恋愛なら手放しで喜ぶくせにっ!!
私はそんな笑いを提供するようなのが見たいんじゃないんですよ!もっとセンチメンタルに!性別の壁に苦しみながらも心から溢れるその想いに真剣に悩む甘酸っぱい姿を物陰からニヤニヤと阿求ちゃんと楽しみたいんですよ!!なんのためにわざわざお賽銭まで払ったと思ってるんですか!!?」
双覇の言葉を待たずに瞬く間に吠える吠える。
というか前半はもはやまったく双覇関係なく、ただ単に普段溜まっている鬱憤を吐き出しているだけだ。
人に迷惑さえかけなければ、趣味・拘りを持つこと自体は決して悪い事ではない。
が、その主張を他人に押し付ける様な真似は断じて褒められた行為とはいえない。
ましてや妄想を現実に持ってくるなど以ての外だ。
「………あのな。お前の趣味の事はよく分かった。いや正直全く分からないけどそういう趣味をお前が持ってるっていう事は分かった。
けどな、俺の司っている『結い』っていうのはあくまで『縁』だ。
たとえばクラスに好きな奴がいるとして、でも『縁』がなくてなかなか近くの席になれなかったり話す機会もあんまりなかったとする。
俺の能力はそういう『縁』を取り持って隣の席に座れるようになれたり、お互い喋れるような機会が増えたりできるようにする。
つまり人の『心』自体はどうこう出来るもんじゃないんだよ」
なるべく…なるべく彼女の趣味の事は否定しない方向で。
且つ彼女が納得できるよう分かりやすく丁寧に、自身の能力を説明していく。
本来はもっと多岐に渡る能力の応用が存在するのだが、今ここでするような話ではない。
「つまり、接点のない2人に縁を持たせてお友達くらいには出来ると?」
「まぁ…。結局は相性とかもあるけどな」
「じゃ、それでお願いします」
あれだけ熱く力説しておいて、割とあっさりとした折衷案だった。
元々神社でお祈りして叶えばいいなー程度の期待しかしていなかった案件だ。
それでも具体的な効果があるというのだから、古河音からすれば十分なご利益だった。
「…………っていうか、文さんじゃないですかぁ!どうしたんです文さんまで!?
あ、博麗神社に突如として現れた結神様の取材ですか!さっすがぁ、抜かりないんだからぁ~!」
このこのぉ~と肘で彼女をつつく。
と、そこでいつもの文と比べて違和感が古河音の頭によぎった。
カメラが、ないのだ。
もはや彼女のトレンドマークと言っても過言ではない片時も手放す事のないカメラが……彼女の首元に今はないのだ。
「ちょっと…何なんですかあなたは!?突然現れて双覇に訳の分からないお願いしたりなんかして!!」
「そうだよ!別に趣味の事は人それぞれだとは思うけど……それに双覇を巻き込まないでよっ!!」
よくよく見ればまるで分身でもしたかの様に、文そっくりの少女がもう一人。
服装も喋り方も声も違う。注意してみれば羽もない。
分身だとか生き別れの姉妹だとかそういう類のものではなさそうだ。
完全に別人なのだろう。
少なくとも古河音は彼女を知らない。そして文も自分を知らないような反応をとっている。
思えば突然魔理沙の姿が消え、それと入れ替わるように霊夢のようで霊夢でない靈夢のような巫女が突然現れた。
彼女もまた、『知らない』。
そう、双覇の事も含めてこの幻想郷には知らないものが多すぎる。
「あのぉ~~~……」
文たちに向けていた視線を再び双覇の方に向けて、くるっと振り返る。
「もしかしてここ……別の世界だったりします?」
「…………やっぱり、気づいてなかったのか」
何もこれが初めての体験ではない。
自分の知っている世界とは別の幻想郷。いわゆる平行世界へと行ったり、また別の世界の人間が来たりというのはこれまでも何度かあった。
とはいえ、未だに慣れるものではない。原因がとても曖昧だからだ。
「ちょっとコレどうするんですか!?私帰れるんですかっ!?」
「大丈夫。祈りでここまで来たのと同じ。
俺が参拝客の願いを叶えれば、その時点で自動的に元に戻れる…らしい」
らしいというのは、今回の事例が初の事だからだ。
そもそも本来参拝客の滅多いない博麗神社にましてやそこにはない『縁結び』のお願いをする者などそうはいない。
夢のお告げだかなんだかでソレを実行したこの酔狂な少女以外は。
帰れると聞いて安心した古河音はふと気づく。視線が……ひとつの下へと集まっている事に。
…………彼だ。白雲双覇。 古河音曰く結神様。
戦闘でも弾幕ごっこでも、相手の視線というのは実はとても重要な要素。
何度も繰り返せば自然と、そういう視線の先を読む能力というのはついてくる。
皆一様に、視線が何度も彼の方へと向けられている。
いつまでも見続けている訳にもいかないのか、時折視線を別の方向へと移して……また彼を見てる。
その表情は意識的な観察というよりももっと無意識が働きかけるような……『つい気になる』そんな様子だ。
「……………………ラブの匂いがする」
「え?なんだって?」
「いえいえ、なんでも」
口元が自然とニヤけてしまう。
とても面白い世界へと来てしまったのかもしれない。
彼女の悪癖が疼きだした。
その好奇心と行動力で、古河音はこれまで何度もトラブルを起こしてきたのだ。
「やっぱりさっきのお願い事中止です」
「………え?」
「結神様、今からデートしましょう♪」
「………っっ!!?」
「「はぁぁぁっ!!?」」
さつきと文はまるで本当の姉妹の様に声を揃えて、靈夢の方も無言ではあるものの明らかに動揺している。
………………決まりだ。
「デートと言っても、私とじゃないです。
文さんと、そこの文さんのそっくりさんと。えぇと…霊夢さんっぽい巫女さんと。
今日一日かけて『一人ずつ』とデートしてください。
それが、私のお願い事です」
…………どうしよう。思った以上に長くなりそうっ!!
サブタイトルの方もこれ自分でもどれくらいになるか分からないからちょっと変えましたっ!
しかもコレお互いに書き合うからちょっとしたリレー方式なんですよ!
私もしかしなくても最悪のパス回してしまったんじゃないだろうか……。 パス回し下手くそでごめんなさいっ!