東方忘却記   作:マツタケ

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コラボ回その6パート肆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デートとはなんぞや。

まず課題はそこからだった。

 

そもそもデートという言葉自体が外来語でもあるのだし。

明治中期の日本文明で発展が止まっている幻想郷で、それも鬼という種族に通じなくても無理はない。

 

 

 

「う~ん・・そうだ。恋仲にある男女が連れ添って買い物やお互いのしたいことを

するのがデートだ・・焔、なんかやりたいこと無いか?」

 

デートと一言でいってもそれはその男女の組み合わせによっても変わってくる。

外に出る者出ない者。街へ足を運ぶ者もいればアウトドアな趣味を持つ男女だっている。

ともあれ、それはデートというものをしっているからこその選択肢であって

それを知らない彼女にはまずやりたい事を聞くのが一番の近道だ。

 

 

 

 

「けん… 「喧嘩とかじゃなくて!好きな人としたい事って無いか?」

 

熱い拳の語り合い。

彼女の気質からその言葉が出てくるであろう事は双覇は薄々感づいていた。

いくらデートがひとそれぞれとはいっても、どこの世界に殺し合いレベルの拳を繰り出すカップルがいようか。

双覇であればもしかしたらそのリクエストに応えられるかもしれないが、今後6人とのデートが待っている。まず身が持たない。

 

 

 

「なら、『接吻』がしたい」

 

「…………っ!!!?」

 

突然の予想斜め上・コマンド上上下下左右左右BA コナミコマンドもびっくりな発言に、双覇は声にならない驚きを覚えた。

意味が分かって言っているのだろうか。そんな疑問さえ沸いてくる。

 

 

「私は良く分からないが、あの古河音という少女が言うには恋仲の男女は昼夜も一目も気にせず接吻するらしい」

 

真実はいつもひとつ。犯人はお前だ!

これが推理ものの番組なら第一話で打ち切りになりそうなレベルで犯人が発覚した。

あまり表情に出しては焔に失礼なので、平静を装いつつ心の中で古河音への殺意を密かに燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………」

 

無言の殺意がここにもうひとつ。

彼女たちを覗いていたさつきの刺し殺さんばかりの視線が、古河音を貫いていた。

 

「あ……あははははは……う、嘘は言ってない!嘘は言ってないですよ!?

ちょちょちょ……ちょっとしたジョークじゃないですか!?スパニッシュジョークってやつですよ!?

 

ちなみにコレほんとにスペインでジョークとして使われるんですよ?知ってました?『私とキスしてください』的な。ヘタリアで覚えた。

 

え、関係ない?関係ないですよね~…。あは、あははははは……」

 

「…………………………」

 

パリパリに乾いた笑いを浮かべる古河音を見つめるさつきの目は、それはそれはドライアイスばりに冷え切ったものだった。

近づいていた距離は割とあっさり離れていくものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~~……」

 

マジでキスする5秒前。 まさにその唇は彼の唇へと近づいている。

こういう事に躊躇なくすぐに行動に移すその迷いのなさが、実に彼女らしい。

 

「まてまてまて!!!

それは一部のやつらだけでだれでもやるわけじゃない!それに、焔!!女の子のソレは男よりも大事なんだ。。こんな事で使うべきじゃない!後で本当に好きなやつに・・・」

 

国によっては挨拶にでも使われるが、生憎双覇は日本生まれの日本育ち。

キスひとつも重きを置く伝統ある国である。

昨今ではそれも和らいではいるものの、少なくとも彼は大切にするべきである…と考えているようだ。

 

 

 

 

「………だから、だよ」

 

「え……?」

 

 

 

一旦唇を止め、だが未だに双覇の肩に手を乗せながら。

気づけば焔の表情は元の白さを疑わせるほど、真っ赤になっていた。

それは断じて赤鬼などと呼ばれるものではなく……ただ一人の女の子。恥ずかしさに顔を赤めるどこにでもいる少女のそれだった。

 

「部下の鬼たちは自分より強い奴に従う。でもそれは誰も私の事を対等に見てくれないって事だ…。天魔くらいだよ。対等に話し合えるのなんて……。

 

でも、アンタは。双覇は私よりも強い。こうやって私を女として扱ってくれてる……!

 

…………そんな……………アンタに、なら………」

 

最後の方は尻つぼみで、何を言っているのかよく分からない。

が、途中までの言葉を聞けば、彼女が言わんとしている事は自ずと分かる。

 

要約すると『あなたにならキスしても良い』

やや極端ではあるが、つまりはそういう事だ。

 

鬼……そんな言葉からは遠くかけ離れた献身的な言葉、そしてうつむいたまま赤くするその表情。

それを双覇は可愛い、と思ってしまった。

文という彼女がいながらと心の中で自分を責めながら、同時にそう思ってしまうほど

今の彼女は女の子として可愛かった。

正直、ここまで彼女に言わせるような事を自分はしたのだろうか。そんな風に思ってしまう。

しかし、少なくとも彼女は今キスをしても良い。そう思ってしまっている。

 

 

 

 

 

 

「いや、俺じゃなくても焔の事を可愛いって言う奴はたくさん・・・て

待て待て!!そうだ焔!甘いものでも食べよう!!なっ☆」

 

いっそこのまま、彼女の想いに応えて……そんな心の片隅に生まれた考えを一刀両断。

名目上デートというつき合いを今焔としてはいるが、双覇の想い人は未だただ一人。射命丸文だけだ。

何より彼らを囲う7つの殺気が言っている。『すれば殺す』……と。

ひとつだけ『イイゾ!もっとやれ!!』という視線が混じってはいるが、それはそれで双覇自身が殺意を覚えるものだった。

 

 

「……ふむ。私も甘いものは好きだからな!誰かと一緒に団子を食べてみたかったんだ。部下の鬼達はなぜか一緒に食べてくれないからなぁ……」

 

「ははは……そっかそっか」

 

残念…。そんな表情を一瞬見せながらもいつもの彼女の顔に戻る。

鬼というのはとにかく喧嘩っ早い。

甘味ひとつ食べるのにも最後には取り合いの殴り合いだ。そうすると誰も焔相手には敵わない。

結果、誰も彼女と食卓を一緒にしないという悪循環が生まれてしまう訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

団子を食べながら、合間にお茶を啜る際に漏れる吐息。

その姿だけ見て取れる。『キスしてみたかった…』と。

 

たしかに、今彼女と口づけをする訳にはいかない。

いつか彼女に見合う男が現れてくれる事を切に願う。

 

だが、今の彼女の姿を見てこのままにするというのも、やはり躊躇われる。

 

 

 

「なぁ、焔……」

 

「ん?どうし………っ!」

 

双覇の、剣士特有の硬い手のひらが焔の頭にぽんと置かれた。

髪型をくずさないように気をつけながら、触り心地の良い彼女の髪を左右に撫でる。

 

何が起こったのか焔には分からず、分かった途端に再び顔は真っ赤に染まっていった。

まさに赤鬼……可愛らしい赤鬼も世にはいたものだ。

 

 

 

 

「まぁ、接吻は無理だけど………これで許してもらえると、その……助かる」

 

不満そうな…それでいて恥ずかしそうな。

どこか嬉しそうにも見える……複雑な表情だった。

 

「こっ……………

 

 

 

 

 

子供扱いをするんじゃない」

 

そう言ってそのままうつむいてしまう。

自然と頭を差し出す形になっているので、もう少しだけ撫で続けた。

遠巻きに『NA・DE・PO!! ヘイ! NA・DE・PO!!』という奇声が聞こえてくるが、おそらくそれは幻聴である。

 

 

 

 

「NA・DE・PO!! イェイ! NA・DE……え、なんですかさつきさ………

 

 

 

ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

…………きっと、幻聴に違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………まったく。先ほどから見ていて思ったが、ご主人様は女性相手に気軽過ぎるっ!!」

 

そこにいたのは青白い髪に、頭部には獣特有の耳。

まるで白狼天狗を思わせるその容姿だが、同時にどこか雪女のような雰囲気をもった少女だった。

 

「それについては俺も思い当たる節がないとは言わんが、今普通に『見ていた』って言わなかったか?」

 

彼女の名は氷柱(つらら)。

元は彼が半妖として転生した際の彼の中の妖力から生まれた。ある意味彼の娘のようであり、それでいてまったく別個の存在ともいえる少女だ。

使い魔。 ある意味ではそれが一番近い表現かもしれない。

 

そんな彼女は今、随分とご立腹な様子。

頬を膨らませプリプリと怒るその様は、お世辞にも迫力があるとはいえない。

 

 

「だいたいご主人様は日頃から私をないがしろにし過ぎなのじゃ!私だってご主人様の事が……ともかくっ!

他の女に優しくするなとは言わんが、ご主人様は私をもっと大事にするべきなのじゃ!!」

 

ビシッとその細い指を双覇に向かって突き立てる。

そういえばここのところ構ってやれなかったなーと、気分的には拗ねた飼い犬の散歩に久々に出かけるような心境だった。

 

 

 

「だいたいご主人様はぁ……あの時だってあの時だってあの時だってぇぇ~~…!!

私がご主人様を手助けできる場面はいくらでもあったであろうに……さては素で忘れておったなっ!!?」

 

「いっ……いやいや!決してそんな事は!!」

 

涙が零れる……いや零れるというレベルではない。

普段から我慢していたものがここにきて爆発したのか、その涙はとどまるところをしらない。

涙は女の武器と古来よりいわれているが、今の彼女はまるで手持ちの手榴弾が爆発したかの様に涙腺が決壊していた。

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で!今日のデートでは私は一切我慢しない!

私のわがままをすべて聞いてもらうぞご主人様!?」

 

「まぁ、いいけど」

 

ようやく落ち着いたのか涙をぬぐい去り、再び立ち上がる。

今までないがしろにしてきたのは正直否定できないところはあるのだし、清算する良い機械なのかもしれない。

ちなみにここにきて当初八つあった視線のうち、ひとつが消えた。

心なしか外野の騒音が消えたようにも感じる。

 

 

 

「…………ッ!!!」

 

刹那、氷柱の身体から文字通り悪寒を感じるほどの妖力が迸る。

考えてみれば、ある意味双覇と氷柱は一心同体。神である彼が成長して、彼女が成長しない道理がない。

今まで対峙してきた妖怪の中でも間違いなく上位に入る存在感だった。

 

「オイ氷柱!?こんな妖気ダダ漏れにして一体……」

 

「言ったであろう!?今日はもう我慢しない…………とっ!!」

 

周囲が、極寒の冷気に包まれる。

その獣の様な容姿に反して、彼女の性質は雪女に近いものがある。

普段はそれを制御して人間の体温とほぼ同じにしているが、我慢しないとはこういう事らしい。

 

 

 

「なっ……!」

 

目の前の山が、雪山へと姿を変えていた。

ちなみに本日のデートコースはハイキング。

ただでさえ厳しい道のりが輪をかけて難易度が跳ね上がった。

 

 

 

「さぁ、ご主人様っ!雪山デートなのじゃ☆」

 

その道中、彼は何度も意識を失いかけた。しかし嬉々とする笑顔が辛うじて彼を支えていた。

数時間後、山から戻ってきた双覇は何かを成し遂げた男の風格に包まれていたとかいなかったとか。




なんかすみませんっ! 氷柱ちゃんの扱い超雑になった気がする!!
すみません正直姐さんパートで力を注ぎすぎました。 白雲さんのお力でなんとか補完して頂ければ嬉しいです。そんな訳でパート肆でしたv
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