雪山から戻ってきた双覇が次に向かうのは森の中。
相も変わらず監視の目を受けながら、彼は今ひとり森の中を歩いていた。
否、一人ではない。
双覇の頭二つ分ほど低い位置に『彼女』はいた。
その身長差からはまるで微笑ましい兄妹のようにも見えるがそうではない。
彼女の名前は八咫 陽葉(やた ふたば)。
その愛らしい姿とは裏腹に天魔の称号を持つ一族の長。
天狗の中でも頂点に立つ、今の妖怪の山に絶対的な規律を作り上げた張本人だ。
「こうして双覇殿と並んで歩くというのも、妙なものだな」
「『殿』はやめてくれ。お前が言ったんだぜ?二人の時は敬語禁止って」
「ふふ…そうだったな」
一族の長というだけあって外見にそぐわない威厳ある口調で喋る少女。
その反面、浮かべる笑みは幼さの残る愛らしいものだった。
「ところで、今向かっている場所が『そう』なのか?」
焔の一件もあってか、彼女相手にもデートについて説明した方がいいのかと思った双覇だったが、彼女の中にはすでに明確に目的が決まっているようだった。
というより、覗いていたおかげでデートについて知らない者もある程度の趣旨は理解できるようになっていた。
「あぁ。俺の知ってる限りじゃ
あそこ以上にお前が見たがってるものを存分に見せてくれるところは無い・・と
着いたぞ。ここだ。」
「ふわぁぁ………!!」
目の前に広がる光景に、威厳も忘れて思わず感嘆の声を上げる。
見渡す限り一面の向日葵畑。
その中には国産のものはもちろん外来種の花までもが節操なく並んでいる。
まるでそれは幻想郷だ。
どんな外来であろうともすべてを受け入れる。そこはまるで花々が健やかに共存するもうひとつの幻想郷のようだ。
「すごいです!!
噂には聞いていましたがここまでとは・・立場上なかなか山の外にも出れず。
部下の感想を聞いて、なおこの圧巻の光景!!!」
天狗の長という肩書も、天魔という鬼子母神にも負けない種族名もかなぐり捨てて。
まるで遊園地ではしゃがずにはいられない子供の様に、向日葵畑へと一直線に駆けていった。
デート相手である双覇を一人残して。
「あれ?置いてかれた??・・・・
仮とはいえ、デート中に置いてかれるのって結構キツイんだなぁ」
とは、言葉だけのものである。
肩書も立場も忘れて容姿相応にはしゃぐ彼女の姿を見て、悪い気はしない。
もちろん彼女が妖怪の山の頂点に立つ天魔という事実に変わりはない。
実際彼女にはそれだけの力と統率力がある。天狗たちにとって欠かせない存在だ。
だが、その責任が彼女の喋り方や仕草を威厳あるものに変えてしまったのだとしたらそれは少し悲しい。
幼いのは見た目だけで、もう齢何千と生きている事だろう。
偏見かもしれない。それでも見た目幼い彼女が色んなものに縛られるその姿はやはり心苦しいものがある。
だからこそ、花畑で無邪気に駆けまわる彼女の姿に逆に救われたような気分になるのだ。
「これじゃあまるで、デートというより遠足に来た親子ね」
走り回る陽葉見守りながら腰掛ける双覇の隣から女性の声が聞こえる。
この向日葵畑の所有者にして妖怪の中でも屈指の実力を誇る、風見幽香その人だ。
「そんなにヒマなら私が一緒に回ってあげてもいいのよ?」
「遠慮しておくよ。そりゃいくらなんでも陽葉に悪い。
それよりも今日は陽葉のためにここ(太陽の畑)解放してくれてありがとな?
おかげで何とか満足してくれたよ・・」
多種多様な花々を見つめ、匂いを楽しむ陽葉の姿を見て改めて彼女に感謝の言葉を贈る。
ここまで無邪気な彼女の笑顔を見る事ができたのは、きっと幽香のおかげだ。
「ふおおぉぉぉぉぉ………!!なんか私が意識失ってる間に凄いことになってるじゃないですか!!てかなんで私意識なかったんだっけ?」
ようやくここで、ある意味パパラッチ以上にパパラッチな事の元凶が目を覚ました。
気分は戦場カメラマン。目立つ大きな白い魔女帽子に枝付きの葉を大量につけて本人はカムフラージュのつもりである。
逆に目立つことこの上ない。
「あの……もう素直に帽子とったら?」
「何言ってるんですか!このカムフラージュがなかったら私から溢れるカリスマで一発で結神様たちにこっちの居場所バレちゃいますよ!?」
両手で大事そうに葉っぱつきの帽子を掴む。
彼女から溢れているのはカリスマではなくその落ち着きのなさから発せられる奇声の類だ。
葉っぱでモサモサとした帽子を頭につけたその姿は、シュール以外のなにものでもない。
本当に、変わった少女だと思う。
突然双覇の前に現れて、男性同士を恋人にしてくださいなどとお願いしたかと思えば、今回の件のそもそもの原因である爆弾発言。
想いにの届かない人たちを応援したいと少しはしおらしい発言をしたかと思えば、お祭り騒ぎで今では訳の分からない出で立ちに身を包む始末。
きっとその行動に意図などないのだ。
ただ本能の赴くままに。ただその時その時のテンションに身を任せて。
どこまでも自分勝手に行動している。ただ、それだけなのだ。
「………自分勝手に、か」
「ふんふんふ~~~んっ♪」
双覇の片腕をがっしりと掴み、鼻歌混じりにべったりとくっつくのは妖怪の山の白狼天狗。犬走椛である。
時刻はすっかり月の明かりが照らす夜中。デートとしてはやや不公平さが見え隠れするシチュエーションだ。
ただ2日というタイムリミットを考えると、これもやむを得ない。
彼女には今までの女性達とは明らかに違う点がある。
その積極性だ。おそらく今回の趣旨を一番理解しているのは彼女なのかもしれない。
自然と、覗きをしている者たちも表情から余裕がなくなる。
「椛……もう少しだけ離れて歩いてくれないか?お前も歩き辛いだろ?」
「ぜぇーんぜんそんな事ありませんよぉー♪私は大丈夫ですので、このまま一緒にいきましょう」
片時も双覇の腕を離さず、そのせいで故意か事故か柔らかい感触が双覇の腕に襲ってくる。
その姿はまるで牙を抜かれ飼い慣らされた獣のそれ。
躊躇など微塵もない。あわよくば彼を我が物にすら考えているのかもしれない。
「はいよ、秋限定月見団子だよ!」
景気のいいおっちゃんの声と共に真っ白な団子がピラミッド状に並べられて双覇達のもとへと運ばれる。
人里のとある甘味処。
正直焔の時も甘いものを食べたので若干精神的に厳しいものがあったのだが。
そこは山を登ったり森の中を歩いたりなどで腹の中が適度にカラになっていたため、思っていたよりすんなりと入る。
さすがにデート中に酒はご法度の事だ。あまりに公平さに欠けてしまう。
「美味しいですねここのお団子っ!」
はたして彼女が味わっているのは本当に団子の味なのか。
未だ椛は双覇にべったりとくっついて片時も離れようとはしない。
「あ………」
食べきれないと思われた山盛りの団子も、気づけば残り一個だった。
思いのほか山登りが利いたようだ。
とはいえさすがにこれ以上おかわり出来るほど彼らの胃に余裕はない。
つまりこれでラストなのだ。………団子も………デートも。
最後の一個をどちらが食べても、このデートはそこで終わってしまう。
「………………です」
「え…何か言った?もみ…「いやです!!」
「これでデートが終わりなんて嫌です!!私は、もっと双覇さんと一緒にいたいです!!」
懇願するように、はたまた子供が駄々をこねるように、椛は彼の手を握る。
最初に腕を組んで甘えていた時とは違う。
何かに怯えて手放したくなくて、震えながら双覇の手を必死に掴んでいた。
「………………………」
かける言葉が見つからない。
順番だから、と諭せばいいのか。また焔の時の様に頭を撫でて納得してもらうのか。
きっとどれも今の彼女には通じない。
彼女を納得させられるだけの何かを、双覇は持ち合わせてはいなかった。
「す…………
すみません。ルール違反でしたよね。こうやって双覇さんの2人きりになれるのって初めてで…………その、嬉しくて」
口元だけ笑って見せて、そっと握っていた手を放す。
慰められるなら今すぐ慰めたい。笑顔に戻せるなら今すぐ笑顔に戻したい。
けれどダメなのだ。
きっと彼女を納得させるには『本気』でないとダメなのだ。
彼女の求めるその『本気』を、双覇は心に決めた人以外に向ける訳にはいかなかった。
「双覇さん、改めて言います!
私はあなたが大好きです。だから、あなたの心を私が手に入れた時
またデートしてください!!」
涙の残ったその瞳で、けれど何かを決意したようなその目で。
犬走椛は、たしかに笑顔をまっすぐと彼へと向けていた。
ラブコメの時って私割と本気だす。 という事でデート編1日目終了ですよ~っ!
椛はたぶん白雲さんの作品の中でも屈指のデレデレキャラじゃないかなーと思って今回本気出してみました。そしてやっぱり私が書くと男側が口数少なくなるのねっ!!受け身系男子になっちまうだ! その辺は華麗な口説き文句を白雲さんに補完してもらいましょう♪ そんな訳でパス!(あらぬ方向へ)