「あははは……。なんか変な感じだよね。祥磨抜きでこうやって2人で歩くのって」
「だよな。俺達の場合デートっていうかいつものメンバーで祥磨がドタキャンしたっていう感じだもんな」
「で……っ!? デートとか言わないでよっ!!」
なんで? と切り返すが、返事は返ってこない。
ただのしかばねだからではなく、ぶつぶつと何かを呟きながら顔を赤くしてうつむいている。
双覇の隣を歩いているのは東方という作品をご存じの方ならばお馴染みの、清く正しい射命丸。
………ではなく、まるで生き写しのようにそっくりな。
双覇の幼馴染、夜神さつきだ。
幼い頃から密かな恋心を抱いて今日まで、未だ鈍感な彼は気づかないというよくある話である。
「……って双覇?目の下のクマ、すごいよ?眠れなかったの?」
「え…っ!?あぁ、まぁ………ちょっと」
顔を背けたまま、さつきの顔を見ようとしない。
こういう時は決まって何か隠し事をしている事をさつきは幼い頃から知っている。
そしてどんなに問い詰めようとも、決して口を割らないのだ。
ひょっとして、昨日の椛さんの事?
と言いかけたその言葉を、寸でのところで飲み込んだ。
もし当たっていたのだとしたら、それはきっと触れられてほしくない事なのだろう。
そしてそれは、さつきにとっても触れたくない事だった。
もし、自分が彼女の立場だったら…。
あの現場を見ていたさつきの頭に、そんな考えが過った。
なぜ彼女はあんな笑顔を浮かべられたのか。あの場に立っていたのが自分だったら。
それを考えると、さつき自身実はあまり眠れていない。
そんな考えがずっと、彼女の頭につきまとっていた。
ふと、双覇の歩みが止まった。
気づかずに数歩彼を追い越してしまって、ようやく彼の異変に気づく。
「ちょっと双覇? どうしたの急に止ま……」
振り返って視界に映った双覇の表情が、明らかに固まっていた。
何か一点を見つめたまま、瞳が全く動いていない。
何が彼をそうさせるのか。不思議に思いながらも彼の見つめる先を目で追って……。
「…………っ!?」
同じくさつきもまた、彼と同じような表情になる。
桜を思わせる薄く桃色のかかった白いドレス。
十字架模様の入ったスカートに背中から生えた天使の翼。
片目を隠す独特の仮面を被り荒ぶるポーズを決めた少女が彼らの行く先にいた。
「な……何をしてるんだ。古河音」
あまりに異様な光景に時を忘れる事数分間。
ようやく我に返った双覇の口から言葉が発せられた。
「古河音? ノー。 今の私は聖天使神猫!
闇の眷属から白き天使へと転生した存在なのですっ!!」
仮面を外しそう名乗り上げる彼女の瞳は、どういう訳かオッドアイ。
何故か視線が妙に見当違いの方に向けられている。
実は双覇、この古河音の珍妙な衣装に見覚えがあった。
そう、彼には前世の記憶がある。
その世界でライトノベルを原作としアニメ化もされた作品のひとつ『俺の妹がこんなに可愛い訳がない』という作品でとあるキャラクターが身に包んでいた衣装だ。
名乗りもたしか、こんな感じだったはずだ。
「ふふふふふ……。隠しても無駄ですよ結神様?
あなたは今、動揺していますね?」
突然珍妙なドレスと仮面を着込んで道のど真ん中で荒ぶるポーズを決めた光景を見れば、それは動揺するなという方が無理な話である。
双覇の沈黙を肯定ととったのか、彼女は喉を鳴らして笑い声をあげる。
「ですよねぇ。私は今まであなたの会話を聞いてきました。そこで私の勘がある答えを導き出したんですよ。そう……結神様、あなたは
ヲタクですねっ!!?」
ビシっと突き刺した指の先が微妙に双覇からずれている。
先ほどから焦点もどこかおかしい。
疑問に思った双覇は頭に浮かぶひとつの疑惑を口にしてみる。
「古河音……お前まさか、見えてない、のか?」
ズレる指先・合わない焦点、そこから導き出される答えはそれだった。
目の悪い人によく見られる症状のそれだったのだ。
「あ、分かります?この『オッドアイになる魔法』使ってる間視力がめっちゃ下がるんですよ……」
残念そうにする彼女の瞳が、元の瞳の色に変わる。
別に何か特別な力が宿る訳でもなく、本当にただ目の色が変わる。ただそれだけの魔法だ。
リスクの割にリターンが低すぎる中二病による中二病のための魔法だ。
「で、どうなんスか?」
「ま、まぁ、前世でかじる程度には……」
「えぇ~?かじる程度の人がこんなコアなネタに即反応できるとは思わないけどなぁ~~☆
まぁ、良いでしょう。そういう事にしといてあげます」
にやにやと、内心同士ができたとほくそ笑みながら双覇に向かって怪しげな笑みを浮かべる。
その背後で、双覇の前世での『ヲタク度』知るさつきが声を殺して笑っていた。
公表しないだけ彼女の優しさである。
「ていうかどうしたんだ?まだお前の願い事の最中だぞ?」
「そう、それですよ!!」
腰を捻って両の手を人差し指を突き出しゲッツのポーズ。
今やこの芸を知る者が何人いる事だろうか。
「私は気づいてしまったのです……今回の企画、私の出番が少ないと!」
「ちょ……メタ…っ!!」
「いいえ、言わせてもらいます!せっかくのコラボなのに私全然出番ないじゃないですか!!こんなんじゃ全国の1億5千万人の古河音ちゃんファンが泣きますよ!!?」
そもそもそんな物好きな方、いるかどうかも疑わしい。
今回の企画こちらの話が向こう側にも影響するのだから、あまり無責任な発言は控えてほしい。
「そ・こ・で、この衣装ですよ♪」
再び仮面をつけ直し、ほんの少しだけ肩の露出を強調する。
仮面のせいか本人の特質なのか、色気よりも怪しさの方が前面に押し出される。
「知っての通り、この衣装は黒猫が初デートの時に持ち出したものです。
そう、今回のデート!結神様には私とさつきさんのダブルデートをしてもらいますよっ!!?」
さつきの手をぐいっと寄せて、不敵な笑みを浮かべる。
この幸せ者め、とでも言いたげな顔だ。
「え…………
えええぇぇぇぇぇ~~~~っ!!!?」
声を上げたのは思わぬ発言に驚きを隠せない双覇………ではなく、今の今まで何も知らされていないさつきの方だった。
想いを寄せた幼馴染との2人きりの数少ない機会。そこに割り込む謎の新キャラ。
割とよくある話ではあるが、あくまでそれは二次元の話だ。
「ちょっと!!そんな話全然聞いてないよ!?」
「そりゃそうですよ。昨日の夜思いついたもん。だってこれ逃すと私マジで出番なさそうじゃないですか」
「だからメタ……!そうじゃなくて、なんでよりによって私の時に……」
双覇に聞こえないようひそひそと、聞かれたくない内容なのだろうと双覇自身も距離を置く。万が一にも聞こえないようにするためだ。
「ははぁ~…。そうですよねー?結神様が大好きなさつきさんは2人きりで、で・え・と、したいんですよねぇー?ふひひ」
いやらし気な目で口元を隠しながら、しかし明らかに目が笑いながら。
彼女のある特性を知る古河音は、さつきに対してこういえばどんな反応が返ってくるかあらかた想像できていた。
「べっ………!!! 別にそんな私は双覇の事なんて全然……なんとも思ってないんだからっ!!!今回の事だってあなたを帰すために仕方なくやってるだけ………だしっ!!?」
なぜか最後は疑問形。
『ツンデレ』を発動させ我を忘れて大声をあげてしまうその内容は、距離があるとはいえ流石に双覇の耳に入ってしまう。
疑う事なくその内容をそのまま受け取り、ほんの少し傷ついてしまう双覇だった。
「で、なんでこうなるんだよ?」
「~~~~~~~~~~~っ!!!!」
双覇が右手を、さつきが左手を差し出し互いに交差して手を繋いでいる。
世間でいう恋人繋ぎと呼ばれる手の繋ぎ方だ。
古河音はといえばその前方で、わん・つー・わん・つー♪ とリズムをとりながら後ろ歩き。何かのコーチ気取りである。
「オイ、これに一体何の意味があるんだ?」
『これ』と軽く挙手の形になる恋人繋ぎ。必然的にさつきの左手も挙げられる。
「なに言ってんですか。デートといえば手を繋ぐか繋がないかで進展度が測れると言っても過言じゃないんですよ?
今回は私が思い描く理想のデートにしてあげますから。安心してください!」
安心できねー。 そんな言葉が双覇の頭の中にエコーで響き渡る。
「なんていうか、アイツもアイツで明らかにデートをはき違えてるよな。さつき」
「えっ!!?なななななな…………何がっ!!!?」
その顔は日本国旗を思わせるほどに赤く、繋がれた手は携帯のバイブ機能の様に振動している。
動揺を通り越して何か危ない病気の発作のようだ。
まるで何かの台本通りに喋っているかのごとく。熱があるんじゃないのかと尋ねる双覇に、さすがの古河音も『うわぁー、リアルで言う人初めてみた…』と若干呆れた視線を送る。
「草原で昼寝だぁ…………???」
次の古河音の要求に疑問符を3つくらいつけざるを得ない。
デートというにはあまりに明後日の方向を向いた提案だが、古河音は後ろに手を組み説明する探偵のような足取りで双覇の疑問に答えていた。
「若い男女が草原で昼寝するのはデートの鉄板じゃないですかぁー!私からすればなんでそこに疑問を感じるのかが疑問です。さては結神様デート経験あんまりない人ですか?」
その言葉にもともとあった双覇の疑惑は確信に変わった。
彼女の言うデートとは、二次元の…アニメや漫画の情報から構成されているのだ。
故に彼女が求めるのは本来のデートで見られる展開ではなく、二次元で見られる現実的にはほぼあり得ない展開なのだ。
道理で…と、心の中で彼女の無茶ぶりが妙に納得できた。
「………どうする双覇?」
さつきも困ったように、中腰で足元の草むらを見つめる。
人工的に作られた芝生ではない。虫が潜んでいてもおかしくはない。
肌に悪い草が混じっているかもしれない。
「そうだな…。俺は野宿とかで割と慣れてるけど……… 「あ、手がスベッタ~☆」
オイ……!!?」
ステップ2。『草原で昼寝』からのステップ3『ラッキースケベ』。ここまでが古河音の目論見だった。
背後から突然背中を押された双覇はバランスを崩し、そのままさつきへ向かって倒れていく。
さぁ、そのまま押し倒して『なんだこれは?』とお胸を揉むのじゃ!とその光景をガッツポーズで見送る。
2人の距離がゼロになるその直前、反射的に…本当に反射的にさつきの手が双覇を更に突き飛ばした。
これが彼女の『観察する程度の能力』によるものなのか、はたまたツンデレの本能がそうさせたのかは、定かではない。
ともあれ突き飛ばされた双覇の行く先は……ラリーよろしく最初に突き飛ばした古河音の下へと戻ってゆく。
「うおっ!?」
「まそっぷ!!?」
………か
顔近えぇぇぇ~~~~~~っ!!!
最終的に古河音が双覇に押し倒されるという図が出来上がる訳である。
双覇の前髪が古河音の顔に当たる。息遣いも目の前だ。
突然の事故による吊り橋効果か、動悸がバクバクとうるさいくらいに鳴っている。。
「痛ぇ……大丈夫、か?」
「ダ、ダイジョウブデアリマス……」
………熱い。
とても熱かった。いや、今でも熱い。
熱い何かが古河音の中で込み上げてくる。
……いけない。 これはいけない。
鼻血が出るっ!!
鼻の奥がとても熱い。
手で抑えていないと今にもヤツは彼女の鼻の穴からその姿を現すだろう。
ダメよ古河音!鼻血はダメ!! この記念すべきコラボでまさかの鼻血なんて出したらコラボ先で見ている方々が幻滅してしまうわ!!
全神経を鼻のみに集中させる。
手で顔を覆ったその姿は、傍から見れば羞恥で顔をうずめかせているようにも見えなくもない。
だが、そうではない。
彼女は戦っているのだ。ひとりの女として、一応仮にも物語のヒロインとして。
もはや抗う術はない。技術でどうこうなるものではない。
根性だ! たとえこの命燃え尽きようとも、コラボ先で鼻血など出すわけにはいかないのだ。
「………古河音。本当に大丈夫?」
未だ顔を伏せたままの古河音にさつきが近寄る。
普段の彼女を知っているだけに、急に静かになった彼女が本気で心配だったのだ。
「だ……だいじょう……………ぼわぁぁぁぁっ!!?」
口から…目から……耳から………穴という穴から血が噴き出した。
涙やよだれのように垂れるのではない。文字通り噴水の様に、一気に血が噴き出しているのだ。
「きゃぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」
響き渡る悲鳴。血を噴き出しながら倒れる少女。
意地でも鼻から血を出さなかった彼女の表情は、心なしか何かを勝ち取ったかのように満足げな笑顔を浮かべていた。
…………ナニコレ?
ちがうんですよっ!ちょっと前回シリアス過ぎたので箸休めにギャグやっちゃっていいですよって白雲さんからのアドバイス頂いたので、そしたら私の中の熱きギャグ魂がこんがりいっちゃってこんな事に……。
さつきちゃんはぁ!!? ほとんどうちの子出張っちゃってますよ!馬鹿じゃないの!?
と、いう訳で。2日目第一デートでした。……パス(ひょろひょろ)