東方忘却記   作:マツタケ

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随分と時間が空いてしまい、申し訳ありません。
今まで何してたって? ちがいますよっ!? べべ…別に動画なんて作ってませんし!!
東方の手書き動画なんて作ってませんし!! 一日中家にこもってペン入れなんてしてませんし!!! と、いう事でコラボ回もいよいよ終盤ですよー!


コラボ回その6パート漆

 

 

 

 

 

 

 

トントントン……。

 

煮込まれた味噌汁の香りと共に台所にリズミカルな音が鳴る。

胡瓜に人参・大根。それらが塩の味が染み込み易いように細かく綺麗に刻まれていく。

漬物は触感が命。鮮度の良い野菜を均一に切り分けていく事も美味しさの秘訣のひとつである。

コンロで火の調整など出来ないため、味噌汁の煮込み具合にも決して目を離さない。

料理は常に同時作業。いかに段取り良くするかで調理時間は大幅に変わってくる。

 

2日目の第二デート。

第一デートがあまりにひどい結末を迎えてしまったものの、やり直しているような時間はない。

柴髪の女性、博麗靈夢が望んだデートコースはこの台所。

双覇と2人で昼食を作りたいとの事だった。

 

「ほんとに良いのか?こっちに来てた時は大抵同じような事やってたろ…」

 

デートといえば『どこに』出かけるかというのがひとつの議題に上がる。

自宅デートというコースもあるにはあるが、それはデートコースを行き尽くした男女が選ぶようなコースだ。

ましてや双覇は博麗神社の神。彼女とこうして調理をするというのも経験済みだ。

 

 

 

 

 

「はい、構いません。もう伝えていたと思いますけど、

今回ちょっとお伝えしておきたいことがあるので此処のほうが気が楽なんです」

 

喋りながらも手元の作業は止まらない。

ちょうどいい味噌汁の火を消して、刻んだ野菜を目分量の塩にしっかりとつける。

目分量にも関わらず、この塩加減が毎度絶妙なのだ。

博麗の成せる業、『勘』である。

 

配膳や後片付けの段取りなんかを手伝いつつ、やや質素ながらも天性の味付けによる絶品料理の完成だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ~。うまい!

やっぱ靈夢の料理の味付けはすげえな~~!コレ本当に全部目分量の味付けかよ…。コレが勘じゃなかったら教わりたかった」

 

一口に勘といっても、天性によるものもあれば経験によって得るものもある。

普通は失敗を繰り返したり何度も経験を経て勘を磨いていくものなのだが……彼女の場合前者であるため『失敗』の経験がない。

失敗の経験値が0なため、人に教えられるものではないのだ。

 

 

「主が手伝って下さったおかげです。

それに、料理の腕ならば双覇さんも十分においしいではないですか」

 

褒められて悪い気はしない。心なしかご飯を口に運ぶペースが若干上がる。

照れ隠し…というより舞い上がったいるといった感じである。

 

「あれ?俺靈夢に料理を作ったことなんてあったっけ?」

 

「ふふっ…。実際に食べなくても味の想像くらい付きますよ。私が頼んだ食材の下処理全部私以上に丁寧に出来てましたから。あれほど食材に感謝出来るのなら、美味しくないわけないです」

 

実際、丁寧さは料理の大事な要素のひとつだ。

食材の切り方ひとつで食感はまるで変わるし、味付けに関しては本来最も調理に気を遣うところである。

同じ品を作るにしても丁寧に作るのとそうでないのとではやはり味も変わる。

 

「お~~たしかにこれは、うまいな…。

靈夢は良い嫁さんになるな。あれ、巫女って嫁入り出来ないんだっけ?」

 

「まぁ、大体はそうだな。確か祭り事の時、神楽奉納の指導を次の代にやる場合は

結婚しても巫女を続けるって事はあるらしいけどな」

 

巫女は穢れてはならない。いわゆる仏教の教えである。

神に仕えるため常に巫女は清らかであり、結婚をする際には巫女を辞めなければならない。

反面血筋を絶やさないために結婚を許されるなど例外もあるが、基本的に巫女と結婚の間には大きな壁が存在するのもたしかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、お前は誰だ?」

 

双覇自身、最初はなんの違和感もなく『彼』と会話していた。

まるで最初からいたかの様に。

警戒という壁を潜り抜けその場の中に当然のように少年は溶けこんでいた。

 

「やぁ、久しぶり。

いや、また記憶にないだろうからはじめましてかな?めんどくさいね~~。

あんまり登場できない最強ってのは…」

 

双覇の手元の焼き鮭を箸で散らかし、口に運んでいた。

ふざけたような口調とお世辞にも綺麗とは言い難いその鮭の食べ方に双覇も苛立ちを隠せない。

何よりその得体の知れなさが、恐怖にも似た感情を彼に植え付けさせた。

 

 

「話は食事のあとだ。食事中はふざけないのは君の流儀だろ?食材に命に感謝するって」

 

そもそも人の食事を無断で盗み食いしている時点でふざけているのは明らかに少年の方なのだが……不思議と否定する気になれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、俺の目的だったっけか?大きく分けると二つ。まず一つ目、『結神』白雲双覇。お前に渡すものがある」

 

食事……というよりほぼつまみ食いに満足した少年はひとつの木箱を取り出した。

さきほどの双覇の流儀といい、さも当然のように彼は双覇の事を知っていた。

 

木箱の中に入っていたのは一本の短刀。

短刀一本を渡すためにわざわざ盗み食いまでして仮にも神に接触してきた。ますます深まる疑問を小脇において、その刀に触れた瞬間……違和感が彼を襲う。

 

質感・重量・形状。その全てがその一本の刀の中に凝縮されているような感覚。

重いのか軽いのか、長いのか短いのか、ひどく分かり辛い。

まるでこの短刀の中に幾千もの種類の武器が詰め込まれているようだ。

 

 

 

「ソレの名前は『結刀 輪廻』-むすびがたなりんね

お前の結いの力でのみ扱える武器でその形状、性質、個数、素材、全て自在に

変化するお前の『神器』だ。」

 

少年の言葉に双覇の疑念は深まる一方だった。

そもそも神器など人の手で造れるような代物ではない。稀に類稀なる天才が一生を費やして神の域達する代物を作ることもないではない。

が、そういう人物にはひとつのものに人生を捧げたそういう『雰囲気』が滲み出るものだ。

それが少年にはない。

まるで『作ってみました』とでも言わんばかりの表情だ。そんな軽いノリで神器など出来るはずはない。

 

 

 

 

「俺の名前は天白雲。

ただの普通の人間だよ?お前の前世含めたお前の世界の創造主ということ以外は。ね…。

まぁ、気軽にシロとでも呼んでくれ結神どの」

 

世界の創造主。それではまるで神ではないか。

旧約聖書にはただ一人の神が世界のすべてを作ったとされているが、自分がそうだとでも言いたいのか。

ふざけているのか、あるいは本気で言っているのか。

どちらにしろこれ以上詮索したところでまともな答えは返ってこないだろうと判断した。

 

「んで?二つ目の用事ってのは?」

 

「そこの、巫女さんのお願いを叶えてあげようと思ってね…。

ただし双覇、君が俺に勝てればの話だ。もちろんその神器は使っても構わない」

 

その言葉に双覇の視線も興味も靈夢の方へと移った。

目の前の得体の知れない少年はともあれ、靈夢と彼の接点。そして彼女の願いという事が気になった。

 

「…………………………」

 

まるで隠し事がバレた子供の様に。

視線をそらしうつむく彼女の姿があった。

しかしそれもつかの間。すぐに一呼吸おいて双覇の瞳をまっすぐに見つめ直す。

 

 

「私は、神になろうと考えています」

 

それは絶対的な意思。何があろうと引かずに何が邪魔しようとも貫き通す瞳だった。

『博麗霊夢』が異変に挑むときの目に、少しだけ似ているのかもしれない。

 

「な…!? 何を言っているのか分ってるのか!?

だいたい神になるってどうやって………」

 

「だから、俺が来たんだよ結神くん。

俺の能力は『妄想を具現する程度の能力』俺は妄想の中で描いた能力も力も武器も、

世界でさえも創造出来るんだよ。

 

その力によって靈夢さんに特別な術式を施し、

『博麗』という幻想の世界を守る者たちを守護する神になってもらう…」

 

もはや靈夢の意思に驚けばいいのか、彼の内容も名称もふざけた能力に驚けばいいのか分からない。

同時に少しショックだった。

幻想郷を誰よりも愛し守りたい彼女の意思はすでに知っている事だ。

だがそのために神になる…つまりは人間を捨てようとする彼女の意思に。そんな考えに至るまでまるで気づけなかった自分に。

 

 

 

「当然、デメリットもあるんだろ?」

 

本来、人が神になるというのは例外中の例外だ。

本当に偶然に偶然が重なるか、その命をすべて捧げてなれるかなれないか。

もはや現象に近い。

それをどんなふざけた能力があるとはいえ、故意に引き起こそうというのだ。

何のリスクもない訳がない。

 

 

「そうだねぇ~~。まず、人間の体をベースとするため

信仰を得ずまた必要ともしない特別な神になると言うことそして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一度、完全に彼女の存在がこの世界から抹消される」

 

「『契約解放』氷狐王 氷柱(ひょうこおうつらら)

『日本刀 輪廻』ッ!!!」

 

その瞬間、双覇の中でシロという少年は『敵』でしかなくなった。

靈夢の願いも彼の能力の有無も関係ない。こいつは靈夢に害する敵なのだ。

 

迸る冷気と斬撃が少年を襲う。

 

 

 

 

 

 

 

「もうへばったのか?」

 

「ハァ…!ハァ………!」

 

繰り出す攻撃も、すべて少年へと届かない。

拳も、斬撃も、ありとあらゆる攻撃の手段。そのすべてが少年に防ぎ弾かれ躱される。

まるで少年と双覇との間に本当に物理的な壁でもあるかのように、幾千と繰り出される攻撃がひとつたりとも彼に達しない。

 

 

 

はずだった。

 

「………ツっっ」

 

「誰が、へばったって!?

ちゃんと相手の様子を良く見たら良いんじゃねえか最強さん!」

 

シロの意識の外から、気づいた時にはクナイへと姿を変えた『輪廻』が彼の頬を掠めていた。

双覇の姿は、いつもと違っていた。

羽が生え、そこから発せられる力も神のものでも妖怪のものでもない…異質なものに変化しいた。

戦いの中で進化していく双覇の姿に、少年は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「俺に一発だけでも、掠らせたのはお前が初めてだよ双覇。

そんなお前に敬意を表して…………いや、こんなテンプレ必要ねえか?www

じゃ、儀式が終わるまで少し寝てな!!!

 

そのころにはもう、幻想郷最強の巫女は存在しないことになってるけどな!」

 

そう言って少年は手にしていた剣を上段に構え………そこから双覇の意識は断ち切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

夢……そう呼ぶにはあまりに暗く何もない。

身体も動かずただ意識があるだけだ。いや、双覇の身体は意識がないのだから意識があるというのもおかしな話だ。

 

…………負けた。それだけは覚えている。

あまりに別次元でかすり傷を負わせるのがやっと。そして意識を沈められたのだ。

 

 

……負けた? ちがう。守れなかったのだ。

今頃彼は儀式を通して博麗靈夢を幻想郷の神にしているはずだ。

彼女の存在をリセットして。

 

 

 

 

同じじゃないか。

これではまるで変わらない。

 

かつて幻想郷すべての人間と妖怪を愛し理想の幻想郷へと昇華するために彼女が異変を起こしたあの時と。

異変を起こす彼女を止められなかった。気づけなかった。異変を起こすまで思いつめた彼女の心に。

今回も同じだ。 幻想郷を守り愛し抜くために神になろうとした彼女に、何一つ気づく事が出来なかった。

 

勝ちとか負けとか、そうではない。

 

靈夢という少女の心に何一つ気づけず、何一つ守れず。何一つ癒す事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!!」

 

気づいた頃には博麗神社の中にいた。

なぜか食事の跡があり、食器が片づけられる事なくそのまま置かれている。

ちゃぶ台で向かい合う様に2人分の食事のあとが残されていた。

 

 

「な…………なんだよコレ……なんだよコレっ!!?」

 

ちゃぶ台に叩きつけられた拳が、その衝撃で食器が音を立てて落ちてしまう。

 

 

 

 

「は……はぁ………はぁ……………は、はぁ…!!

 

 

なんだよ……………なんなんだよコレはぁ………………!!?」

 

息ができない。 苦しい。 痛い。 耳鳴りがする。 気持ち悪い。

 

 

 

涙が、止まらない。

 

 

 

 

「なんなんだよ……………なんなんだよコレはぁぁ……………!!!」

 

何が苦しくて 何か悲しくて 何が痛いのか分からない。

どうしてこんなに苦しいのか分からない。分からないのが苦しい。

 

思い出したくても思い出せない。 思い出せないのがまた苦しい。

 

思い出さなくてはならないのに その度に頭がガンガンと痛む。

 

 

 

 

「ちくしょう…………………っ!!」

 

悔しい。 悲しい。 苦しい。色んな感情が一度に双覇の心を万力のように締め付ける。

 

「誰なんだよ………っ!俺は一体誰と昼飯を食べたんだよ!!?」

 

 

いたはずなのだ。 つい先ほどまで彼と昼食を共にした相手が。

なのにいないのだ。 頭の中でどれだけ思い出そうとしても、その相手がどこにもいないのだ。

 

 

 

 

 

「…………………」

 

泣く、とはとても体力を消耗する行為だ。

もはや叫ぶ気力すらなく、かつてどんな強敵相手にも倒れる事のなかった彼が、今までで最も重傷を負っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……双覇さん」

 

目の前に、一人の女性が立っていた。

ひどく薄く。今にも消えてしまいそうだった。

紫の髪をした、不思議な女性だった。

 

 

「あんた………は?」

 

双覇の言葉に少しだけ、悲し気な顔をして。

それでもすぐに笑顔を見せる。まるで慈悲が具現化したような。

子供をあやす母親の様な。

 

 

 

 

 

「そんな悲しい顔をしないでください。あなたには笑顔を向けなければいけない人がいるでしょう?」

 

双覇の頭をゆっくりと撫でながら、とても優しい笑顔を彼に向ける。

なぜかひどく安心できた。

 

「………あなたは覚えていないかもしれませんが、私はあなたに救われたんです。

だから、苦しまないでください。あなたが苦しむ必要なんてどこにもないんです」

 

双覇の額に自分の額を当てて、たしかに彼女の体温が彼へと伝わっていった。

枯れた声が。 乾いた瞳が再び潤いを取り戻し、再び涙があふれてくる。

今度はきっと、先ほどまでとは別の涙だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつかきっと…………またあなたに会い来ます」

 

そう言って消え入りそうだった彼女の姿は、本当に消えていった。




忘却記読者には何が起こってるのかまったく分からないって人もいらっしゃると思います。大丈夫、私も何が起こってるのか全然分ってないから!
という事で、いかがでしたでしょうか?今回戦闘を削って双覇くんと靈夢さんの方に視点を集めてみました。「こうじゃない」ってところがあれば遠慮なくおっしゃってください。でわでわ~(ノシ
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