東方忘却記   作:マツタケ

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その8

 

 

 

 

 

 

「きゃっほーーーぅ!」

 

古河音は箒に跨り猛スピードで空を駆けていた。

顔に当たる風、バタバタとはためく衣服の音、変わりゆく景色、その全てが心地よかった。

 

多少速度を出し過ぎても、アリスからもらい受けた某死神隊長の着物が風圧から守ってくれる。

無茶をするな、というアリスの言葉はすでに彼女の頭からはすっかり抜けていた。

 

「おっ……」

 

前方に、空を飛ぶ人影が見える。

その服装が特徴的だったため、遠目でもすぐに判別できた。

この幻想郷では割と特徴のある服を着た連中は多いがその中でも“彼”の衣服はある意味目立つ。

口元を歪める。

彼女がいたずらを思いついた時に浮かべる特有の笑みだ。

 

箒に更に霊力を込め、加速する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土樹良也は魔法使い見習いだ。

人里のお菓子売りとして名の通っている彼だが、もちろんそれだけが日課という訳ではない。

彼の師匠であるパチュリーの元へ赴き、そこにある本を読んで魔法の勉強。

紅魔館の主であるレミリアの妹フランドールの遊び相手をしたり、そこで開かれるお茶会に参加したりしていた。

割と紅魔館の常連だったりする。

 

 

 

「へい、タクシー♪」

 

「どわっ!?」

 

背後、いや上空から人の声。

その声の主を確認する暇もなく、肩と背中を襲う衝撃。

何者かが彼の背中に突然乗りかかって来たのだ。

 

「おおおぉ~~~~……!」

 

「うわぁぁ~~~~!?」

 

急に増えた重力に良也はバランスを崩しアクロバティックな空中走行。

空を飛ぶのは実はそれなりにバランスが大切なのだ。

例えるなら自転車で走行中、突然何者かが後部に乗りかかってくれば、そのままバランスを保つのは至難の業となるだろう。

 

 

 

 

「あ~…びっくりしたぁ」

 

「こっちのセリフだ!」

 

彼を襲った犯人は、言うまでもなく古河音だった。

紅魔館へと向かって彼女を乗せるというシチュエーションは以前にもあったが、その時とはかなり勝手が違う。

 

 

 

「ダメじゃないですか、女の子1人くらい背負って満足に飛べるくらいの甲斐性持たないと」

 

良也がバランスを崩したのは急に空を飛ぶ際の重さが増えたため。

その重さにさえ慣れれば飛行は安定したものに変わる。

 

「急に乗られたら誰だってバランス崩すだろ……。ていうかお前飛べるんだから降りろよ」

 

「まぁまぁ、そう言わずに。慧音お姉ちゃんの補習脱獄というAランクミッションの武勇伝を聞かせてあげますから」

 

「……そのミッションの成功報酬に『慧音さんの頭突き』がもれなくついてくるって分かってるか?」

 

「分かってますよ。だからほとぼり冷めるまで魔導書でも読もうかなって」

 

早い話がこの女、慧音の補習から抜け出し制裁から逃れるために紅魔館へと向かう途中なのだ。

魔導書を読むと言ってはいるが、30分持てば奇跡だ。

一応教師の身としては彼女に言いたい事も色々あるが、そこは言わずとも慧音が全て言うだろうと黙っていた。説教の類は自分には合わないし、と心の中でつけ足して。

 

 

 

 

 

 

「そういえば良也さんって魔法に何か特殊な加工か何かしてます?」

 

結局降りる気配は見せず、良也の背中に乗ったまま話題を変える。

 

「してないけど、なんで?」

 

「だってこの前の弾幕ごっこの時、良也さんの魔法全然分からなかったから」

 

「あぁ、あの時の………」

 

良也が巫女に先生で、うらやまけしからんで、岩に向かってどーんと衝突した時の事だ。

正確には古河音が良也にケンカを売った時の事だった。

 

「そういう能力なんだよ。詳しい話は面倒くさいので以下略」

 

自身の能力についてはその特殊さ故に幻想郷のあらゆる人物(?)から尋ねられるのでいい加減説明が面倒になってきていた。

 

「へぇ~…プライベートを知られない程度の能力、とか?」

 

「そんな能力あったら僕はどこぞのパパラッチにネタになんかされないって………」

 

「デスヨネ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館近くまで到着すると、そろそろ飽きたのか良也から降りて自分で着地。

その際に、背中に乗られていては気づかない古河音の奇抜な衣服が良也の目に映った。

 

「お前……乗られてるから気づかなかったけど、なんつー格好を……」

 

古河音はその言葉に待ってましたと言わんばかりに胸に手を当てポーズを決める。

 

「良いでしょー?アリスさんが作ってくれたんだぁ!良也さんも頼んでみたらどうです?犬耳少年とか鍵剣少年とか!」

 

「遠慮しとく。もうコスプレって歳でもないし、………現時点でコレ割と作者もハラハラして書いてるからな?」

 

 

 

 

 

箒を担いで門まで走っていく。

良也はそんな古河音の後ろを歩きながら若いなーと心の中でつぶやき、そのオッサン臭い発言を慌てて撤回する。自分だってまだ若い。

 

「こんちはぁ美鈴さん!はい、これ差し入れ!」

 

「ありがと~!ちょうどお腹すいてたんだぁ」

 

紅魔館の門番の下まで駆けよると肩から提げていた包みを解いて彼女に手渡す。

図書館の主からは説教を受ける事が多い古河音だが、実はここの門番とは交流が深かったりする。

波長が合うのだろう。

 

 

「よ、美鈴」

 

「あ、良也さんもこんにちはー」

 

軽く挨拶を交わすと良也はそのまま奥へ。

普通に顔パスが通る様が彼の馴染み具合を表している。

 

「あ、まだ食べないでくださいよ?本借りたらこっちに戻ってきますから!」

 

図書館へ向かう良也について行きながら、美鈴に声をかける。

曰く、図書館の薄暗さは自分には合わないとの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古河音は良也と図書館に着くや否や未だ一冊も読破出来ていない初級魔導書を手に取り借りますねーと一言、紅魔館の門まで駆け足で戻っていった。

その後、美鈴と差し入れのおにぎりを食べたり、魔導書を読んだり、世間話をしたり、魔導書を読んだり、体操したり、魔導書を読んだり(以下繰り返し)。

 

 

 

「ふふふ………よおーーーっし!50ページ達成!!」

 

「おぉ~、おめでとう。がんばったね~!」

 

奇跡が起こった。

いつもなら数ページ読んだだけで読書を投げ出す古河音が1日で50ページ読破という新記録。

魔導書にしてついに半分まで。初級だが。

魔法使いとしては限りなく小さな半歩だが、古河音には大きな成果だった。

 

私の才能が開花した!?などとはしゃぐ古河音の隣で美鈴もぱちぱちと拍手。

へーい!と両の手を合わせてハイタッチ。

 

「やっぱり合間で身体動かしてたのが良かったのかな?古河音って長時間集中するの苦手だもんね」

 

「ですよね!めーりん体操、効果抜群だね」

 

 

 

 

きゃっきゃと騒ぐ中、遠方から何かが猛スピードでこちらに向かって飛来する。

そこは流石に門番か、その顔は一瞬で引き締まり上空を見上げる。

 

「来たな白黒め!」

 

白黒、文字通り白と黒が印象的な衣服を身にまとった霧雨魔理沙の事である。

彼女の目的は図書館にある本の盗難。

定期的に紅魔館に赴いては門番を蹴散らし本を盗むというのが魔理沙のライフワークの一部と化していた。

 

 

 

 

 

―――『彗星』

 

 

「やばっ…」

 

能力で把握するまでもなく古河音は彼女がこれから何をしようとしているのかを察した。

伊達に魔理沙と定期的に弾幕ごっこをやっていない。

 

 

「え?」

 

急いでスペルカードを取り出し美鈴の手を掴む。

 

 

―――『速符』

 

 

 

『ブレイジングスター』  『お前には速さが足りない』

 

一条の星となって突進する魔理沙を寸でのところで加速した箒で回避する。

前回、良也との弾幕ごっこの際に魔理沙同様に突進に使ったこのスペルカードだが、本来はこの様に回避に使うのが正しい用途だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しく避けられたと思ったら、古河音じゃないか」

 

「危なかったぁ~~……ってあれ!?何気に今の避けれたの初めてかも!」

 

距離が距離だったのもあるだろうが、初めての快挙に喜びの声を上げる。

 

 

 

 

 

 

「でいやあぁーーっ!」

 

「っと!」

 

上空から美鈴の足技を繰り出すも魔理沙は後ろに飛び退く。

弾幕を放つ事もできる彼女だが、接近戦の方が得意なため今回の様に近づいて攻撃を仕掛ける事も少なくない。

 

そんな光景を見ていると古河音はある考えに至る。

面白い事を思いついたかの様ににんまりと。

 

 

「せっかくの機会だし、ハンデくださいよ魔理沙さん♪」

 

「2対1って事か?」

 

答えはせずに、弾幕の用意。

何度か魔理沙と弾幕ごっこはしてきたが、未だ勝率は0。

実力差からすれば当然と本人も分かっているが、流石にそれでは面白くない。

やはり1度くらいは勝ってみたいし、単純に美鈴と組むのも面白そう。

という経緯の提案だった。

 

 

 

「いいぜ。ただし――――………」

 

「…………………は??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古河音はある勘違いをしていた。

最近では弾幕ごっこにスペルカードも使用するようになった魔理沙。

勝てないにしても、今の自分は彼女に本気を出させるまでに成長したのだと思っていた。

思っていた。

 

 

 

 

「そうなると、私も本気出さないとな!」

 

増大する彼女の魔力を前に今更気づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地雷踏んだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「速符切れたあぁ~~~~~~っ!!」

 

1発1発が尋常ではない威力の弾幕が、嵐の様に彼女達を襲う。

頼みの綱のスペルカードもついに尽きてしまう。

彼女の技術ではスペルカード1枚作るのにもかなり時間がかかる。

当分は弾幕ごっこにカードは使用できなさそうだ。

 

 

 

「美鈴さんそれフェイク!真上からきてます!!」

 

もはや弾幕を撃つ余裕すらない中で、辛うじて能力によって生き残りながら美鈴に助言。

 

 

「ふむ、師匠なんて柄じゃないけど弾幕ごっこの先輩としてアドバイスしてやるぜ」

 

能力によって弾幕の速度や軌道が『把握』できる。

それによって古河音は弾と弾の間にできる『隙間』を見つけてそこを潜り抜けてゆく。

 

「お前は少し能力に頼り過ぎ……」

 

 

 

 

 

 

やっとの思いで潜り抜けたと思ったその先に、どこから取りだしたのか魔力の込められたハリセンを持った魔理沙が待ち構えていた。

 

「だぜ☆」

 

「ぎゃふんっ!?」

 

文字通りぎゃふんと言わされた古河音は、箒を手放し落ちていく。

魔力のこもったハリセンはかなり痛かった。

 

落下しながら全身をクッション状の魔力で包んでいく。

満足に空を飛べるようになって真っ先に魔理沙から教わった魔法だった。

 

 

 

 

 

 

「痛ぁ~~……」

 

全身が痛みながらも目立った怪我はない事を確認すると、美鈴もかなり劣勢である事が伺える。

 

 

 

「そろそろ決着つけるぜ?それでは皆さんご一緒に♪」

 

「え……?ちょっ!?まさか魔理沙さ………」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

「『マスターアァーーーースパアァァーーーーーーークッ!!!』」

 

 

 

 

 

美鈴に向かって放たれたソレは、見事に古河音も巻き込んでいき――――………

 

 

 

魔法の勉強を終えた良也が図書館から戻って来た先には、死屍累々という言葉が相応しい悲惨な光景が待ち受けていた。

ちなみに、意識を取り戻した古河音は真っ先に着物がーーっ!とボロボロになった着物を見て絶叫していた。

アリスの施した魔法も魔理沙の魔法には耐えきれなかったらしい。

修理を依頼すれば、再び修理費という名の雑用が待っている事だろう。

 

更に彼女不幸は続く。

図書館から借りた魔導書は、マスタースパークによって見る影もなくなっていた。

魔理沙さんのせいなのに、という心中でパチュリーから長時間に渡る説教を受ける羽目となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁ~……」

 

帰宅する古河音はまさに満身創痍といった拙い足取りで上白沢宅の戸を体重に任せて開く。

今日の晩ご飯は何だろう?そんな事を考えつつ開いた扉の前で待っていたのは表情『だけ』笑顔な慧音の姿だった。

 

 

 

 

「あ………」

 

「おかえり、古河音♪」

 

顔を真っ青にして思い出した。

そもそも紅魔館に出向いたのは彼女の補習をサボったからだという経緯を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

本日の教訓。

不幸とは、得てして連鎖するものである。

 

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