東方忘却記   作:マツタケ

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注意。
・このお話は『外の世界』の物語となっているため基本的に東方の原作キャラがほとんど登場しません。
よって原作の奇縁譚を知らない方置いてけぼりな内容となっております。
・この物語の舞台は古河音が外の世界に戻ったまま幻想郷に戻らない『おしまい』後のお話となっております。
・古河音以外のキャラクターはすべて久遠天鈴というサイトの久櫛様の考えられたキャラクターとなっています。

以上を踏まえた上で「問題ないんだZE☆」という方のみお楽しみください。


短編「先生」<前編>

 

 

 

「…………寒っ!」

 

誰に言うでもなく、不意にそんな言葉が漏れた。

寒い。というよりは冷たいと言った方が適切な、肌に突き刺さるような外気温。

手袋にマフラーという装備がそれをなんとか緩和してはくれているものの、肌に当たる風はそのまま僕の体温を確実に奪ってゆく。

 

この状況下を脱する手がない訳ではない。

能力を、“自分だけの世界に引き籠る程度の能力”を使えばこの寒さからは難なく逃れられる。

だが、こんな言葉がある。 『辛いのは自分だけじゃない』

それは周りの者が辛いから自分も我慢しなくてはならない、という意ではなく。

この寒さの中なんともないような表情をしていればそれは不自然極まりない。

人は環境に適応しなければならない。

周りが能力者だらけなら何の問題のないような事も、周りが普通の人間なら僕もそれに対応しなけれなならないというのが道理だ。

 

つまり、長々と説明しておいて何が言いたいかというと―――…。

 

「寒っ…!」

 

という事だ。

 

「つっちー先生!」

 

「痛っ!」

 

朝に似合わぬ耳に響く声と共に背中に強烈な平手打ちが襲いかかってくる。

寒気と相まって肌にその痛みがジンジンと残る。

背後から突然襲いかかって来たその通り魔の名を藤崎。

僕が顧問を務める英文学部の部長をしている生徒だ。

この英文学部、その名称は名ばかりのオカルト部と化してしまっている。

僕が魔法使いだというのを良い事にその手の話をバンバンと広めようとする部長兼トラブルメーカーだ。

 

「……お前このクソ寒い早朝によくそのテンション保ってられるなぁー…」

 

「つっちー先生こそ、まだ若いんだから朝は元気よくいかないと一気に老けこんじゃうよ?」

 

「うっせ……」

 

幻想郷の喧噪から離れた外の世界でも彼女のせいでコチラもまた騒がしい日々が僕を取り囲む。

そうでなくても最近は別の要因で心休まらないというのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教師という職場の大変さを分かる方々が一体どれだけいる事だろう。

ましてや女子高の教師だ。

『ふざけんなテメー!』『リア充爆発しろ』などなど思われている方も少なくはないのではないだろうか。

実際僕が教職を選ばず別の道を選んだとして、知人に『お嬢様学校の先生になりましたー』なんて輩がいたら間違いなく嫉妬に狂っていただろう。

だが、現実はといえば。

スケジュールのバーゲンセールだ。

一教科毎にどこまで教えるのかにもノルマがあるし、だからといってペースを上げ過ぎればそれは授業ではなくただの早口自慢だ。

誰しも学生時代は苦い思い出のある課題やテストにしても、それをひとつひとつ作る側としては身を削る様な思いで作られるひとつの作品。

 

決して世の男性諸君が思われている様な甘い世界ではない。

 

そんなやり場のない愚痴を心の中で復唱したりなんかしながら、英文学部(という名のオカルト部)のドアノブに手をかける。

今は今朝会った藤崎が部長を務める、代々英文学部という名を借りて怪しげな資料を蒐集し続ける実は校内でも有名な部だ(決して良い意味ではなく)。

 

「……あ、こんにちは」

 

「…た、…まだ栞ちゃんだけか」

 

「………はい」

 

この部活、部員が3人というなんとも閑古鳥状態だ。

少ないながらも濃い部員の中でも唯一の良心。それがこの高宮栞ちゃんだ。

彼女とは学校の先生・生徒以前に出会った経緯がある。

 

彼女との初めての出会い。

それは彼女の祖父から依頼された栞ちゃんに掛けられた呪いを解いた事から始まった。

そこから始り教育実習時代には誘拐された彼女を助けたり、そうして教師になりこうやって今は彼女の所属する部活の顧問となりましたとさ。めでたし?

 

ともあれその一件以来、なんやかんやあって彼女を『栞ちゃん』と呼ぶ様になった。

ただそれは、あくまで2人きり限定の話。

公衆の場でそんな真似をしたならば、ましてや年頃の女子高生の目の前でそんな事をしたならば、間違いなく『あらぬ噂』を立てられてしまうのは自明の理。

そのため僕は彼女の呼称を『高宮』と『栞ちゃん』の2つに使い分ける事にしている。

 

ただ、どういう訳か彼女を『高宮』と呼ぶと微妙に栞ちゃんの機嫌度が下がる。

数値で表すと『3.5』というなんとも言い様のない微妙で微妙な微妙かつ微妙な数値だ。

今のもつい校内だからという事で『高宮』と言いかけたのを勘付かれたのだろう。

『高宮』と呼べば栞ちゃんの機嫌が、『栞ちゃん』と呼べば世間体が、なんとも奇妙な両天秤状態である。

 

 

「にしても、藤崎はまだしも天海まで来てないのか?アイツ5分くらい前にすれ違ったはずなんだけどな……」

 

我が英文学部の期待のルーキー(?)天海。

ちょっとした火花を起こせるなんちゃって超能力者。

手品芸程度の能力とはいえ人とは違った特別な能力を授かってしまったが故に『自分は人とは違う』と言い張る哀れな重度の中二病患者だ。

その濃いキャラは藤崎に引けを取らない。

 

「えっと…その事なんですけど……」

 

何か言い難い事なのか読んでいた本を胸に抱えて次の言葉がなかなか出てこない。

こういう時は急かさず待つに限る。経験談だ。

 

「今日藤崎先輩は急用で出れないとかで……今日は中止にしてほしいとの事です」

 

「……アイツそういう事は顧問に一言……って、じゃあ栞ちゃんはどうしてここに?」

 

「その、先生に一言伝えないと」

 

「あ、ごめん…。書置きとかで良かったのに」

 

元々この高校はお嬢様学校。

きょう日珍しい律儀な子が多い。……うちの部員2名が例外中の例外なのであって。

ましてや幻想郷で自由奔放な連中に揉まれてるせいもあってか、こういう純粋な気遣いは素直に嬉しい。

 

「それで、あの……もし、よかったら―――――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘を、ついてしまった。

『部活が中止になる』というのは本当だ。

私が嘘をついてしまったのは、本当は藤崎先輩に急用なんてなかったという点。

 

今回の事は藤崎先輩の提案だった。

私の『気持ち』を知っている藤崎先輩は私と先生が2人きりになれるよう、天海さんとも話し合ったのだという。

いつの間に……。

だから部活が中止になるという件は当然天海さんにも伝わっているし、提案者の藤崎先輩は言わずもがな。

 

だから、私と先生が2人きりで放課後に下校するというこのシチュエーションは必然のものだった。

嬉しい…反面罪悪感もある。というより恐らくは“そっち”の方が強い。

藤崎先輩や天海さんにはもちろん、私欲のために先生を騙す様な真似をしている事。

何より、そんな状況を嬉しいと感じている自分。

 

自分は嫌な人間なのだと、つくづく思い知らされてしまう。

 

 

 

 

「栞ちゃん?」

 

「は…はいっ!?」

 

不意に先生から声をかけられてしまったため声が裏返ってしまう。

 

「いや、なんかえらく深刻な顔してたから」

 

「い…いえ、何でもありません」

 

咄嗟にそっけない態度をとってしまう。

これでは余計に悩み事を隠しているみたいに見えてしまう。悪循環だ。

 

………私には勇気がない。

『気持ち』を伝える勇気はもちろんの事、今の状況の真相を伝える勇気すら。

『気持ち』を伝えて、先生が困る事は分かっている。

私は学生、先生は先生(?)。

先生の立場からすればその想いも言葉も枷にしかならない。

そうして先生の性格上、断る事も受け取る事も出来ず、困ってしまう。

 

そこまで分かっていて、こうやって先生といる時間が心地よく感じている自分が…嫌になる。

 

 

 

 

 

「良也っさぁ~~んっ!」

 

そんな心の雑念をまとめて吹き飛ばしてしまう様な、大音量の声が駆け抜けた。

決して街中で出す様な音量ではない。

 

「いやーっ!こんな所で会うなんて奇遇ですねぇー♪

実はですね。ここ最近ちょーっと財布の中身が氷河期迎えてましてぇ~…

ちょっとそこのメイトで私の蒐集活動に協力してくれませんか?タダとは言いませんよ?

良也さん好みのぉ…薄めの本をぉ……ベストチョイスしますヨォ~~?うひひひ……」

 

「お前……僕が教職だって事完全に忘れてるだろ…」

 

突然現れた少女。

あまりのインパクトにそのやりとりをただぼぉーっと眺めるしかなかった。

 

その制服には見覚えがある。

たしか、うちからそう遠くない中学の生徒が着ているのを何度か見たことがある。

 

藤崎先輩を思わせるそのハイテンション。

肩まで伸ばした髪をうなじ付近で一つ縛りにしたシンプルな髪型と小柄な背丈のせいか小学生のように見えてしまうその外見。

そして、何やら先生と妙に親しげだ。

 

 

 

「ほらほら、行きましょうよメイト!私一度制服姿でメイト行くの夢だったんですよ!

コスプレだと思った!?残念、公式でしたみたいな!!」

 

「誰がいくかっ!中学生連れてメイト入る高校教師とか一発でアウトだわ!!」

 

なんというかそのやりとりも、本当に藤崎先輩とのそれととても似ている。

そういえば先生は知り合いがとても幅広いと祖父から聞いた気がする。

少女の方も随分と先生に懐いている様に見える。

 

「あ、あの…先生。その子は?」

 

突然の少女の出現にしばらく眺めるしかなかったけれど、ようやく言葉を挟むことができた。

嫉妬……なのだろうか。 たぶん……嫉妬なのかもしれない。

 

「あらあらまあまあっ!私とした事が、失礼しましたお嬢さん!!

私、星神すずめと言いまして。すぐそこの中学に通う極々普通の魔法使いです」

 

「ま、まほ……」

 

何の意図があるのか、右手をブイサインのまま片目に当てて決めポーズ。

いや、それよりもさらっととんでもない単語が聞こえてきた気がする。

 

「わっ…悪い栞ちゃん!コイツちょ~っと夢見がちな性格で……」

 

「ちょっと!人を中二病邪気眼のイタイ子みたいに言うの止めてくれませんか!?」

 

「初対面相手に魔法使い宣言する様な奴、立派なイタイ子だろうが……」

 

再びぎゃーぎゃーと良い合いを始める2人。

魔法使い。普通なら冗談だと聞き流す様な単語だ。

面白い子だなーと、それだけで済まされる様な言葉。

けれど先生という存在を知っているうちの部員にとって、その言葉はただの冗談では済まされない。

 

「あの、魔法使いってまさか先生と同じ……?」

 

「いや、それは……」

 

言葉に詰まる。普通ならちがうと即答すれば済む様な質問に対して。

答えに詰まるその間が、そのまま答えを表していた。

 

「なんだ良也さんだってネタばれしてんじゃないですか…。

いぇーす!普段はごく普通の女子中学生、それは世を忍ぶ仮の姿!その実態は悪と戦う魔法少女だったのでーす♪」

 

突き立てる人差し指。

その動作に呼応するように辺りの空気が変わり、いくつもの水の塊がふわふわと浮かび上がる。

間違いない。先生が以前これと同じような球を火で作り出したのを今でも鮮明に覚えている。

 

「あ……っアホかっ!!」

 

慌てる様に先生が一枚の札を取り出し、それが光を放つ。

すると札はいつの間にか跡形もなく消え去り、同時に先程まで浮かんでいた水の玉も消え去っていた。

 

「街中で何考えてんだお前!?」

 

「わぁー、スペカ!懐かしい!最近作ってないなー」

 

突然いくつも現れた水の玉を作り出す女の子。

それを一枚の札で一瞬に消し去った先生。

どちらも『現実』とは一線を画する光景が目の前で繰り広げられた。

魔法という冗談の様な言葉が、一瞬で現実味を帯びたものへ変化していった。

 

「えっと、星神さん?」

 

「ヤダなーすずめちゃんと呼んでくださいな☆」

 

「じゃあ………すずめちゃんは先生とはどういう知り合いなの?」

 

嫉妬…は流石にない。最初はあったかもしれないが、なんとなくない方向に落ち着いた。

2人の雰囲気が藤崎さんとのやりとりに似ていたせいかもしれない。

だからこれは純粋な好奇心。

単純に目の前の子に、魔法という世界に少しだけ心引かれた。

 




……うん。 私はまず懲りるという言葉を覚えようか。
えっとですね。まずもう今のうちに保身のために白状しておきます。
前編とか言いつつこの先のストーリー全く考えてませんっ!!
とりあえず何だかラブコメっぽいものを書こうかなーと始めた今作。始めたは良いけどどんな風に話進めたら良いか分からず、とりあえず文章それなりに進んだからもうこの辺で区切っちゃおうと急遽『前編』というタイトルにした今作。
こっからどう展開進めたら良いのか私自身まったく分かんないですっ!!誰か……助けて!!(←知らんがな)
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