プロデューサー杏、芸能界を生き抜く   作:アイスクリン

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新曲

 

 七月がもうすぐ終わる。

 学校は夏休みに入ったけど、忙しさは変わらない。

 元々あんまり行ってなかったし、休む連絡しないで済むって程度しか変化がない。

 学校に行きたいって訳では決して無いけど、

 この忙しさはどういう事なの、と元Pを問い詰めたい。

 大して変わらないとか言ってなかったっけ?

 どうせ嘘だと分かってたけどさ。

 もー愚痴りたくなっちゃうよ。

 

 時間は午前十時、場所は事務所の杏部屋。

 杏はソファーに寝転がりながら仕事中。

 寝てはいないよ?

 寝転がってはいるけどね。

 考えなきゃいけない事、決めないといけない事が多すぎるんだよ。

 マネさんがかな子のグラビア撮影について行ってるとはいえ、

 寝るわけにはいかないんだよね、辛い事に。

 

「どうしよっかなぁ……」

「何がです?」

「……お茶なら森久保が淹れますけど……」

 

 今、この部屋にいるのは智絵里と乃々の二人だけ。

 杏が寝転がってるソファーのテーブル挟んで反対側に仲良く並んでる。

 この子達真面目だから夏休みに入って、早速宿題やってるの。

 宿題くらい頭使わずに教えてあげられるし、

 気分転換になるから楽しかったりもするけどね。

 時々教えてあげるだけで、お茶淹れたりとか雑用してもらえるし。

 

「んーありがと。

 じゃあ、お願い。

 乃々の飲みたいのでいいから」

「あ、じゃあ、紅茶でいいですか……?」

「いいよー」

 

 立ち上がってお茶淹れに行ってくれる乃々は、

 今日もフリルのついた薄緑のキャミドレと可愛い服を着て来てる。

 レッスンする時は着替えるからいいんだけど、

 私服から可愛いの着てるとアイドルってすぐばれそうじゃない?

 この子、あんなに恥ずかしがり屋なのに自意識過剰でも無いんだよね。

 むしろ、自分がどれだけ人目を惹く容姿してるのか分かってないぐらい。

 帰りはマネさんに送って貰おう。

 

「杏ちゃん、悩みごと? 」

 

 可愛らしく首を傾げる智絵里はまた別の意味で無警戒だ。

 この子、意外に露出度高い服着るんだよね。

 上はそうでも無いけど、下が脚出てる事多いっていうか。

 今日も上は薄ピンクのTシャツだけど、下は青いショートパンツだからね。

 自分がエロい目で見られるなんて想像もつかないって感じだろうね。

 智絵里も送って貰うか、うちに泊めよう。

 

「悩みっていうか……そうだね、一応ね」

「良かったら聞くよ? 」

 

 悩みっていうのと何か違う気もするけど、

 単に新曲出さないといけない事になっちゃったんだよね。

 あの新番組のおかげで、というかせいでというか。

 

 ありがたい事に新番組の方は好調でさ、

 ようやく三回目の放送があった所だけど、

 同時間帯トップの視聴率と反響の多さに特番が決定しちゃったんだ。

 うん、特番組んでくれるのはありがたいよ。

 九月の改変期、特番の季節でもあるけど勿論全番組が特番になる訳じゃないし。

 それはいいんだけど

「それに合わせて新曲をテーマ曲として起用するからよろしく」

 って、急すぎるんだよ。

 企画案は全部の杏の意見通させてもらったから断りづらいし。

 

「ん、九時のテーマを頼まれてさ。

 あわよくば作詞作曲して印税ぼろ儲けって出来ないかなって」

「ああ、杏ちゃんの昔からの目標だもんね」

 

 寝てても印税でボロ儲け、って目標は捨ててないけど

 実はそれだけじゃないんだよね。

 普通に時間もあんまり無いしアイデアもまだ無い。

 CIで歌うには合わせたり練習したりする時間が全然足りないから

 今回ばかりは杏のソロ曲でいこうかと思ってるんだけど

 それにしたって、どういう曲でいくかだよ。

 

「なつきちに何か提供出来る曲無いか聞いてみたんだけど、

 今は夏のLIVEツアーの準備で滅茶苦茶忙しいらしくて。

 先生に頼むとお金かかるし、何より急ぎの仕事嫌がられるしね」

「そっかぁ……作詞作曲って難しそうだもんね。

 あ、菜々さんは?

 前の大ヒット曲って菜々さん自分で作ったって……」

 

 菜々さんは五年前に大ブレイクした事があるんだけど、

 その時のデビュー曲はなんと菜々さん自身が作詞作曲していたのだ。

 一曲だけとはいえ凄いよね。

 本人前にするとそう思えないけど、多才な人なんだよ。

 

「聞いてみたけど、あの一曲って子供の頃から

 ずーっと温めてきたものらしいよ。

 曲も詞も十年かけて作ったものらしくて、

 頼まれて作ったり出来ないって」

「そっかぁ……」

 

 しゅんと擬音が聞こえそうなくらい智絵里は項垂れてしまった。

 別に智絵里に解決する義務なんて無いんだから、

 落ち込む事なんて無いと思うんだけどね。

 

 あ、ちなみに「なつきち」って言うのは

 うちの事務所に所属してる木村夏樹ってアイドルのあだ名。

 年齢は18歳で杏よりちょっとだけ年上なんだけど

 自分で作詞作曲もするし、

 ジャンルはロックであんま可愛い恰好とかしなくて、

 むしろ男装とかしちゃう子で

 一般的に言うアイドルってイメージではないけど、一応はアイドルだと思う。

 だって、うちの事務所ってアイドル事務所だからね。

 

 で、まぁ、同じ事務所だし共演した事もあるし、

 知らない仲じゃないから曲提供をお願いしたんだけど断られたってわけ。

「もうちょっと時間ある時に言ってくれたら」って

 残念がってくれてたから、そのうち協力して貰えるとは思うけど

 問題は収録まで一か月ちょいしか無いのに新曲が必要って事だよ。

 

「お茶入りましたけど……」

「おーありがとー」

「あ、私の分までありがとう、乃々ちゃん」

 

 ほのかにオレンジめいた香気にくすぐられる。

 智絵里と乃々は互いに恐縮しあったり、遠慮しあったりしながらも

 割と仲良くなってるみたい。

 雰囲気の似た二人だから相性も悪くないのかな。

 どっちも相手を思いやれる性格してるからね。

 仲良く話してる姿は小動物同士、

 例えばリスとハムスターが仲良くしてるような感じでとても可愛い。

 小さな声でこしょこしょと会話してて、少女漫画の話なんかで盛り上がってる。

 平和だ。

 癒される光景だね。

 はぁーあ、そんな事言ってないで仕事しなきゃだね。

 片付く事から片付けるか……

 

 て、事で帰ってきたマネさんにやって貰う事をまとめたり、

 宿題教えてあげたり、

 もう一つの冠番組の方の企画を考えたりしてたら、珍客が来た。

 

「失礼します。

 こんにちはー。

 あ、杏さん、今いい? 」

「あれ、珍しいね。

 どうしたの?」

 

 ノックの後に入ってきたのは、多田李衣菜だった。

 今、16……じゃなくて17歳か。

 杏と同学年だけど誕生日の関係で一個上の同僚アイドル。

 前川みくって子とユニット「*」(アスタリスク)を組んでる。

 ロックに憧れている、でも憧れてるだけという特殊なキャラをしてる。

 いや、本人は真面目にロック好きなんだろうけどね。

 にわか+可愛い、で「にわかわいい」アイドルなんて呼ばれたりもする。

 

「ひぅ……」

「乃々、お茶淹れて来てくれる? 」

 

 乃々はまだ会った事無かったか。

 早速人見知り発動し始めたので、用事を作ってあげる。

 どうしていいか分かんないぐらいテンパっちゃうみたいだからね。

 宿題を机の隅に追いやって、乃々と智恵理が立ち上がる。

 手伝うのかな?

 乃々といると智恵理がお姉さんしてるね。

 

「いや、実は杏さんがなつきちに曲提供お願いしたって聞いてさ。

 これ、良かったら聞いてくれないかな」

 

 李衣菜は向かいのソファーに座ると、小型の音楽再生機を差し出してきた。

 なつきちから話聞いたのか。

 

「これって、曲入ってるの? 」

「うん、あたしが作った曲。

 アスタで歌おうと作ったんだけど、あんまあたしら向けにならなくてさ」

 

 へえ、なつきちに憧れてるのは知ってたけど、李衣菜もちゃんと曲とか作るんだ。

 にわかとか言って悪かったな。

 

「作曲出来るんだ?

 凄いじゃん。

 ギター弾けるようになったんだ」

「あ、いや、ギターはちょっと難しくて……ピアノで」

 

 杏が言うのもなんだけど、李衣菜って指ぷにぷになんだよね。

 ギター買ったとこまでは聞いたけど、弾けるようになったとは聞いてない。

 多分、練習もしてないんじゃないかな。

 みくと言い争いしてるとこ見るし。

 

「ピアノ……作曲するならギターかピアノって聞くね」

「でしょ?

 なつきちもそう言ってたし、逆にロックかなってさ」

 

 逆にロック、李衣菜の得意のセリフだ。

 この子元々お金持ちのお嬢様だし、育ち良すぎてロックに向いてないんだよね。

 顔も可愛いし、声も奇麗だし、根本が上品で礼儀正しいしね。

 同い年の杏にさん付けするのも杏の方が先輩だからなんだよ。

 当然っちゃ当然なんだろうけど……

 ま、いいや。

 杏も語れるほどロック知らないし。

 

「じゃあ、聞かせて貰うね」

「うん」

 

 スイッチを入れると機械から音楽が流れ始める。

 ピアノの旋律が緩やかに穏やかに連なっていく。

 これは……なんだろう。

 すごく奇麗な音色なんだけど、ケルト音楽とかアイリッシュなんとかの系統かな?

 パイプオルガンとかハープとかが似合いそうな……

 

「奇麗なメロディですね。

 あ、こんにちは、李衣菜さん。

 お茶です」

「……こ、こんにちは……」

「ありがとう、智絵里ちゃんと森久保乃々ちゃんだよね。

 見てるよー、あの番組。

 デビューするまでを追うとか、マジロックだね。

 応援してるよ」

 

 狼狽する乃々可愛い。

 じゃなくて、音楽についてだった。

 

「確かにアスタ向けでは無いね。

 奇麗な曲だと思うけど」

「うーん、やっぱり?

 みくちゃんもそう言っててさ。

 歌詞どうすんのって言われて。

 確かにって」

 

 李衣菜はにひっと笑って、茶菓子のチョコクッキーを放り込んだ。

 これはまあ、みくの言う通りだろうね。

「*」はポップで軽快な曲調で、みくと李衣菜の元気さが人気のユニットだ。

 猫キャラを自認し、「にゃあにゃあ」言ってるみくと、

 ロック好きでロックなアイドルと言い張るロック? な李衣菜の

 掛け合いの面白さやズレた可愛さが売りともいえる。

 こういう声を楽器として歌い上げるようなのはちょっと方向性が違い過ぎるかな。

 

「他にもあるから聞いてみてよ。

 それでもし良かったら、ていうか使えそうなら使って!

 あたし、本気で作ったんだから眠らせたくないの」

 

 方向性は違うけど、クオリティは高い。

 偉そうに言えないけど、曲作りの才能あると思う。

 ロックじゃないだけでさ。

 ただ、杏向けかって言われると杏向けでも無いよね。

 杏も声の可愛さには自信あるんだけど、

 奇麗な歌い上げるようなのが似合う声では無いもん。

 それこそ声を楽器にって話でも、今の李衣菜の曲に合うのは

 管楽器とか弦楽器だよね。

 でも、杏の声は打楽器とかの方なの。

 ちょっとこのメロディに合わせられる気がしない。

 うーん、智絵里ならいけそうかな。

 智絵里は歌は上手だし、声も奇麗で透き通った雰囲気あるしね。

 

「じゃあ、次聞かせて貰うね」

 

 ケルト音楽のような旋律が終わると、今度はテクノが流れ始めた。

 

「これはDTMって奴に挑戦してみたんだ。

 ノリノリの奴をって思ってさ」

 

 うん、ノリノリはノリノリだね。

 ただ、さっきの以上に歌詞がつけられないだけで。

 踊る為の音だよね、これ。

 EDMとかいう奴だっけ?

 それも特にごちゃついてる感じで目まぐるしい。

 

「よく出来てるとは思う。

 でも、みくは怒ったんじゃない? 」

「怒ったっていうか、ジト目で見られた。

 歌いようが無いって。

 合いの手でにゃあにゃあ言ってるだけでいいならいいけどってさ」

 

 そりゃあ、言いたくもなるよね。

 にゃあにゃあ言ってる音楽も悪くないとは思うけど、

 みくがイメージしてるのは王道のアイドルソングなんだろう。

 

「じゃあ、次」

 

 次に流れてきたのは李衣菜の歌声だけだった。

 歌いだしからしばらく待ってみたけど、ずっと李衣菜の声だけ。

 

「アカペラなのこれ」

「そう。

 ロックじゃないにゃって言われるから、

 考えた末に出来たのがこれ。

 まぁ出来はあんまりなんだけど……」

 

 うん、李衣菜も声は可愛いけど、これはどうかなぁ?

 正直、前の曲と比べると出来は良くない。

 声可愛いなって感想しか出てこないよ。

 

「一回曲作って歌ってから曲を消したらどうかな」

「なるほどー、そういう手もあるんだ」

 

 次。

 

「これは……カントリー? 」

「分かんない。

 ロックを目指して作ってるんだけど、

 どうにもロックっぽくならないんだよね」

 

 カントリーって確かロックの源流の一つとか言われてるから

 近付いては来てるよ。

 バラードすぎるし、出来はいまいちだけど。

 

「演奏は上手いじゃん」

「なつきちが弾いてくれたんだ。

 アコースティックギターもロックなんだね。

 勉強になったよ」

 

 なるほど、なつきちか。

 あの子も李衣菜の事かなり気に入ってるっぽいからな。

 作曲したって聞いて応援したくなったのかな。

 

「まだあるの?

 結構作ってるんだね」

「へへ、アイデアは湧くんだ。

 まあ、出来はまだいまいちなのも多いけど」

 

 じゃあ、次……って行こうとした所でノックの音が聞こえてきた。

 お茶淹れた後、隣に座っていた乃々が、すかさず杏の腕に抱き着いてくる。

 ノックの音だけでこれは人見知りが悪化してない?

 

「失礼します。

 りーなちゃん来てま……あっ、りーなちゃん探したにゃ!

 ケータイわすれてったでしょっ」

 

 少し怒ったような口調で入ってきたのは前川みくちゃん。

 李衣菜の相方だね。

 杏の一個下の15歳。

 でもスタイルは今、この部屋にいる誰よりもいい。

 李衣菜も悪くないんだけど、みくは細さの割に胸が大きすぎる。

 黒髪の上に猫耳カチューシャつけてる猫キャラ娘だね。

 普段から「にゃ」語尾で喋るプロ意識高い子だから、

 猫耳つけてるのも仕事があるって訳じゃないんだろうと思う。

 ここまでキャラ貫けるって凄いよ、実際。

 

「あー、ごめーん」

「もう、しっかりしてにゃ。

 あ、杏ちゃんこんにちは。

 りーなちゃんが迷惑かけてない? 」

「なんであたしが迷惑かけてるって思うわけ!? 」

「定番の挨拶でしょ!?

 そこに引っかかるにゃんて、りーなちゃんは常識知らずだにゃ! 」

 

 入って来るなり喧嘩ごっこ始めるのも常識ではないと思うよ。

 ぎゅっと腕をつかんでくる力が強くなってきたから、しょうがなく仲裁する。

 

「ちょっと、ネタをよく分かってない乃々が普通にビビってるから

 コント辞めてよ」

「コントじゃにゃいにゃっ。

 でも、ごめんにゃ。

 乃々ちゃんも怖がらせてごめんにゃさい」

「ごめんね、みくちゃんが怖がらせちゃって」

「にゃっ!?

 みくだけのせいにするのずるいにゃ」

 

 この二人すんごい仲良しのくせによくケンカしてるんだよね。

 喧嘩芸というかじゃれついてるだけなんだろうけどさ。

 実際、この二人が喧嘩したって子猫同士の喧嘩というか

 子猫が必死に威嚇してる時のような可愛さがあるからね。

 もう「*」といえば喧嘩芸からの仲直りが代名詞みたいなとこあるし。

 

「はい、りーなちゃんのケータイ。

 今日はお仕事無いけど、明日は朝七時出発のロケあるんだから」

「うん、ありがとう。

 全然気づいて無かった。

 忘れていってたんだ……」

「にゃあ。

 テーブルの上に置きっぱなしだったにゃ。

 気を付けないと」

 

 自然に隣に座って二人だけで話し出す「*」

 乃々も何か感じたのか腕をつかむ力が弱まってきた。

 

「あの曲聞かせてたの? 」

「うん、客観的に評価して貰えるかなって思って」

 

 なるほど、評価して貰いたいってのが先にあったんだね。

 自分に好意的な人間ばかりが周りにいて、怖くなったのかな。

 だとすると、李衣菜は伸びしろあるね。

 

「みくさんにもお茶淹れますね」

 

 智絵里がそっと乃々を促し立ち上がる。

 いきなり他Pの部屋に来ていちゃつく不逞の輩にまで

 お茶を淹れてあげるとは、ほんとに優しい子達だよ。

 

「智絵里ちゃんありがとにゃ。

 それでどうだったにゃ? 」

「曲はいいって褒めてくれたよ」

「みくもそう言ったにゃ。

 ただロックじゃにゃいってだけで」

「ロックじゃないかも知れないけど、それがロックなの。

 ロックって魂なんだから」

「ロックじゃないのがロック?

 意味わかんないにゃ」

 

 また言い合い始めたよ。

 にゃーにゃーロックロックと本領発揮して、とても五月蠅い。

 

「杏ちゃんはどう思うにゃ?

 りーなちゃんの曲」

「うーん、ロックじゃないけどロックでもあると思うよ。

 同じ言葉を違う意味で使ってるから、訳わかんなくなるんだよ」

「「同じ言葉を違う意味で?」」

 

 二人がハモって顔を見合わせる。

 仲良いなぁ、ほんと。

 

「みくが言ってるロックは音楽ジャンルとしてのロック。

 だから、ロックじゃないってのは正しい。

 李衣菜の言うロックって、多分パンクロックが本来持ってた

 反骨とか反体制とか反逆とかの意味のロックなんだよ。

 だから、ロック音楽を作ろうとしてアイリッシュとか出来ちゃうのが

 ロックといえばロック。

 李衣菜の言う事もそういう意味で正しい」

「そう、そういう事言いたかったの」

「にゃるほどねー。

 りーなちゃんの説明じゃわかんにゃかったにゃ」

 

 じゃあ、そういう事でお茶も入ったし次行こうか。

 

「あっ、これ駄目っ。

 これは無しで、飛ばして」

 

 音が流れ出すと李衣菜が慌て出した。

 どうしたのって聞く前に流れてくるメロディで分かった。

 

「これは……」

「これはどういうジャンルですか? 」

「いや、これはロックはロックだよ。

 ただ……うん」

「りーなちゃん、これはにゃいにゃ」

「こ、これは初めて作った奴だから。

 練習なの、練習の奴」

 

 今流れた曲はジャンルは確かにロックだった。

 ただ、なつきちのヒット曲「花の見る夢」に酷似してただけで。

 

「うん、さすがにこれは恥ずい。

 これまで聞かせるつもり無かったんだよぉー」

「うんうん」

 

 項垂れる李衣菜と慰めるみく。

 喧嘩も可愛いけど、やっぱ仲良い姿の方がいいかな。

 犬とか猫とかウサギとか、毛玉動物同士が仲良いのほっこりするしね。

 

「ごめんな、杏さん。

 力になれなくて」

「いや、そんな事無いよ。

 おかげで新曲の目途がついたよ。

 一曲目と二曲目、こっちで使わせてもらっていい? 」

「えっ、本当に? 」

「りーなちゃんの曲を使うの!? 」

 

 みくや李衣菜だけでなく、智絵里も乃々も不思議そうに杏を見てる。

 ふふ、確かにこの曲をそのまま使ったんじゃ駄目だと思うよ。

 でも、一つ閃いたんだ。

 ロックを作ろうとしてEDMとかアイリッシュとか作っちゃう自由さ。

 そういうのを杏は忘れてたみたい。

 作詞作曲の先生が作るような曲は、杏じゃ作れない。

 でも、杏は杏にしか出来ない物を作れるはずだからね。

 

「この曲そのものは、うちの他の子に使わせてもらうよ。

 ただ、おかげで思いついた事があるんだ」

 

 完全に自慢だけど、杏の声は可愛い。

 歌詞無しで意味なんか無くたって、音として可愛いんだ。

 だったら、可愛い音として使えばいい。

 ボイスパーカッションなんてあるぐらいだし、

 管楽器じゃなくても弦楽器じゃなくても可愛い音出す楽器ならいいんだ。

 音だけのテクノの音を杏の声で置き換える。

 目指すのは電子ドラッグとかトランスとか呼ばれる音楽。

 あれを杏の声で出来たら、杏の声中毒者を生み出せる。

 ちょっとわくわくしちゃうね。

 顔も知らない人達が杏の声を聴きたくてたまらないようになるとか。

 もう印税生活待った無しじゃない?

 

 さあ、夢の印税生活への第一歩。

 作詞作曲:杏の杏だけの歌をつくるぞっ。




李衣菜の家が金持ちというのは中の人が言ってた情報です
後付けじゃなくて、どうもキャラの設定で
中の人だけに伝えてあるものがあるらしいです

杏が頭がいいとか、家が金持ちとか、努力を見せないようにしてるとかですね。
李衣菜は持ってるヘッドホンの値段や数からも金持ちぶりが伺えます
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