プロデューサー杏、芸能界を生き抜く   作:アイスクリン

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時系列としては前回の掲示板回の前になります


八月の終わり

 

 

 八月の終わり。

 窓の外を見ればお日様がこれでもかと輝いていて、

 午後から外に出る用事が無い事に感謝したくなるね。

 これで、寝てていいならもっと良かったけど、

 残念ながら人生はそんなに都合良くはいかないらしい。

 悲しい事に仕事は終わってないのだった。

 

「どうしたの、杏ちゃん? 」

「外暑そうだなーって」

「確かに……」

「もし、今出ていくなら帽子と水は必須ですよ」

「ねっちゅーしょーってのに気を付けないといけないんだよっ」

「仁奈はあついのすきじゃねーです」

 

 今、杏の部屋は人口密度がえらい事になってる。

 どうもキッズアイドルのプロデューサールームのエアコンが壊れたらしい。

 熱中症なんてシャレにならないから、子供達がうちに避難して来たのだ。

 今日の午後はオフのはずの菜々さんも来て、

 杏とかな子と智絵里は仕事の為に部屋にいる。

 エアコンって偉大な発明品だってつくづく思うよ。

 七人が円卓を囲むように応接セットのテーブル周り、

 要するにソファーを占領して座ってるのに快適に過ごせてるんだからね。

 

「エアコンさん、ありがとうって曲どうかな?

 共感えられそうじゃない? 」

「その曲出る頃にはエアコン使ってないと思いますよ」

「そっかー……秋頃になるか……

 こたつさん、ありがとうはどう? 」

「メロディも歌詞も無いのにタイトルだけ決めても……」

 

 マネさんもかな子も真っ当なツッコミを入れてくるね。

 でも、方向性決めといてから発注ってやり方もあるんだよ。

 一応だけどね。

 

「仁奈ちゃんは歌うならどんな歌が好き? 」

「仁奈ですか?

 仁奈はみんなでうたうのが好きでごぜーます」

 

 仁奈ちゃんはまだ九歳だからね。

 好きなジャンルなんて無いよね。

 

「薫ちゃんは? 」

「薫はねー、げんきなのがいいーっ」

 

 飛び上がるようにして答えてくれる薫ちゃんは

 いつも元気で、その上元気な歌がいいらしい。

 薫ちゃんも九歳だからなー。

 参考になるような、ならないような……

 リアルな意見として参考になると思っとこう。

 

「みんなで元気な歌を歌えばいいね」

「お歌うたうですか? 」

「今はダメだよ?

 また今度ね」

 

 ダメって言ったら隣に座ってる仁奈ちゃんがしょんぼりしたので、

 頭を撫でてあげる。

 歌を歌いたかったのかな。

 いや、みんなで何かしたかったのかも。

 寂しがり屋な子ってみんなで一緒に何かするのが好きだしね。

 頭撫でてあげると凄く嬉しそうにえへへーって笑顔を向けてくれる。

 ちょろ可愛い。

 九歳なんてちょろくて当たり前か。

 

「子供向けを考えてるの? 」

「それも悪くないと思うけど、

 やるなら杏がやるべきだったね」

 

 杏のファンは割と年齢層が広いけど、

 かな子や智恵理は年頃の男子にファンが固まってる傾向にあるからね。

 杏の身体は色気やでっぱりと引き換えに、

 子供やお年寄りや女の子に受けるようになってるのだ。

 

「うん、杏ちゃんなら子供向けの曲でも売れたと思うな」

「いやいや、言っといてなんだけど子供向け舐めすぎだよ。

 ハマれば超大ヒット狙えるジャンルだから

 割と狙ってくる所あるけど、滅多にヒット出ないでしょ?

 子供の琴線に触れるの難しいんだよ」

 

 かな子と智絵里は納得したり、でも杏ならとか言ったりしてる。

 子供向けで大ヒットって片手で数えれるぐらいしかないもんね。

 轟け、たこ焼き君とかおもち海峡とか。

 

「仁奈は杏おねーさんの歌すきでごぜーます」

「薫もーっ」

「……森久保もー」

 

 珍しく乃々が冗談を言ってる。

 このメンバーだと打ち解けてるからかな?

 知らない子だと小学生相手でも人見知り発動する子だけど。

 ちなみに乃々がいるのは勉強の為って事で、杏が呼んだんだ。

 乃々のデビュー曲なんかはまだ考えてないけど、

 乃々自身が作詞作曲する可能性も無い訳じゃない。

 失敗しても挑戦する分には企画として成立するんだしね。

 

「うん、ありがと。

 菜々さん、薫ちゃん撫でてあげて」

 

 仁奈ちゃんは隣にいるから、杏が撫でてあげる。

 にしても頭が小さい。

 子供だから当たり前か。

 髪がしっとりさらさらで温かいのも子供だからだね。

 杏は子供の相手得意じゃないけど、

 仁奈ちゃんや薫ちゃんは良い子だから可愛がれるよ。

 

「あの……森久保も言いましたけど……」

 

 仁奈ちゃんの頭を撫でてたら、その隣にいた乃々がじっと杏を見つめてきた。

 三日前に特番の収録で、乃々は100人のファンの前で震えながらも見事に歌い切った。

 それは凄く頑張ってて良かったんだけど、

 歌いきって泣いてた乃々を抱きしめてやってから、なんか甘えん坊になった。

 にしても仁奈ちゃんに対抗してくるとは……

 まあ、撫でてあげるぐらいいいんだけどね。

 

「はいはい、じゃあ乃々は仁奈ちゃん抱っこして」

「抱っこでごぜーますか? 」

「うん……抱っこしていい……? 」

「えへへー、乃々おねーさんに乗るですよ」

 

 仁奈ちゃんは誰かに可愛がってもらったり、構って貰うのが大好きみたい。

 乃々が膝の上に乗せると、嬉しそうにはしゃいでる。

 

「はいはい、乃々もありがとね」

 

 乃々は杏よりおっきいから手が疲れるよ。

 杏の周りには甘やかされたい子が一杯だね。

 杏も甘やかされたいよ。

 何の見返りも無しに油田くれるとかさ。

 

 その後もぐだぐだとあんまり身にならない話し合いをしていると、

 コンコンとノックの音が響いた。

 

「お待たせ―。

 ごめんなー、遅くなって」

 

 入ってきたのは同僚の木村夏樹だった。

 シンガーソングライターでロックなアイドルを標榜している。

 今日も髪をリーゼント風に上げて、ジーンズ生地のホットパンツに

 薄いブルーのタンクトップと、服装からもロック感が漂っている。

 ……いや、そうでもないか。

 なつきちが着てるからロック感あるだけだね、これ。

 ギター一本だけ持ってくるのが、さすがって感じ。

 

「おおー、よく来てくれたね、なつきちー。

 さあ、座って座って」

 

 杏の座ってる三人掛けの斜め前。

 なつきち用に空けていた一人用のソファーを勧めて、皆に席替えを促す。

 こっからが本番だからね。

 なつきち、一人用。

 CIで三人掛けに座って、乃々も一人用。

 杏達とテーブル挟んで対面に菜々さんと仁奈ちゃん、薫ちゃん。

 と、こんな風に座りなおした。

 菜々さんは子供達のお世話係だね。

 

「どうぞ、木村さん。

 本日はよろしくお願いします」

「どうもありがとうございます。

 こちらこそよろしくお願いします」

 

 マネさんがアイスコーヒーを出して挨拶すると、なつきちも丁寧に返す。

 ちゃんとした挨拶もやれば出来るのが、クールだね。

 所かまわずロックを盾に、雑にやってるのとは違うなって思わせる。

 杏達も便乗して挨拶し、向き直った。

 乃々は人見知り発動してびくびくしてるけど、

 今日は勉強だから隅っこにいるだけでいいから。

 要するに見学だよ。

 

「じゃあ、早速聞かせて貰える? 」

「おう、前に言ってたのから弾こうか」

 

 ライブやロックフェスが終わってようやく時間が出来たなつきちに、

 提供できる曲を聞かせて貰うのが、今日の本題だからね。

 

 黒い三角の小さな板が張り詰めた弦を弾く。

 一つ一つは硬質な音が次々に折り重なって、柔らかい印象のメロディになる。

 軽やかで爽やかな、風の吹いてる夏の始まりを思わせる曲だ。

 

「いいね、これ。

 歌詞をよっぽど間違わない限り、売れると思うよ。

 本当に貰っていいの? 」

「ああ、ちょっとアタシが歌うにはアイドルしすぎだしな。

 アイドル嫌いな訳じゃないけど、キャラってもんもあるし。

 このまま寝かせとくぐらいなら、使って貰った方が嬉しいさ」

 

 苦笑しながらなつきちはグラスを口に運ぶ。

 杏には作曲する人の事が分からないけど、

 色んなタイプがいるらしいというのは分かる。

 なつきちは心のままに作ってみてから、自分の曲の評価をするらしい。

 作りながら修正して望む方向に変えていく人もいるみたいだし、ほんと色々だね。

 

「かな子と智絵里はどう思った? 」

 

 この曲が形になるなら、かな子と智絵里の曲としてだからね。

 二人の意見も聴いとかないと。

 

「すごく可愛いね。

 ぴったりな歌詞ついたら素敵な曲になりそう」

「わ、私にはテンポ早いかもって思いました……

 もし歌う事になるなら、いっぱい練習しないと」

「そう?

 テンポ自体は変えれるぜ」

 

 そう言ってなつきちは少しスローペースにさっきと同じ曲を弾く。

 自作の曲でヒット飛ばしてるだけあって、スキルは本当申し分ない。

 スタイルもいいし、美人だし、男前だしそりゃ人気も出るよ。

 

「こっちの方がいいかな……

 そんでサビのとこだけ、さっきぐらいのテンポで弾いてくれる? 」

「りょーかい」

 

 こっちの要求に簡単に答えてくれるけど、さすがだよね。

 それともこんくらい出来る人には簡単なのかな?

 

「わーっ、夏樹おねーさんかっけーですっ! 」

「すごーいっ!

 じょーずだねえーっ! 」

「そうかい?

 ありがとな」

 

 大人しくしてようとはしてた子供二人が声を上げちゃった。

 まあ、でも、我慢できなくなるの分かるよ。

 目の前でこんな演奏されたら、テンション上がっちゃうよね。

 なつきちも子供の素直な感想に嬉しそうだし、いっか。

 

「ほら、二人とも大人しくしないといけませんよ。

 みんなお仕事してるんですからね」

「「はーい、ごめんなさい」」

 

 菜々さんが注意もしてくれるし、邪魔になるほどじゃないしね。

 

「詞はつけてないんだね」

「ああ、思いついたメロディーは形にしないと気が済まないから

 曲は作ったけど、発表するつもりなかったからな。

 アタシの場合、詞は後からのパターンが多いんだ。

 出来れば、作詞はそっちでやってくれないかな」

 

 なつきちがいくら作詞作曲出来ると言っても、簡単にって訳じゃないのは分かる。

 杏も滅茶苦茶な曲とはいえ、自分で作詞作曲したからね、一応。

 こんな大変な事をいつもやってるのかと思うと、ほんと凄いよ。

 才能あるからって簡単な訳じゃないよね。

 

「なつきち作詞じゃないのは残念だけど、なんとかやってみるよ。

 急ぎじゃなければ作詞の先生も受けてくれるだろうし」

「杏が付けたらいいじゃん。

 聞かせて貰ったぜ、新曲。

 あれ、めっちゃロックじゃねえか」

「いやいや、あんなの作詞って言えないって」

 

 とにかく聞き心地、可愛さだけを考えた音の羅列だからね。

 意味を持たない文字列だもん。

 作詞したって言えないよ。

 そんなきらーんと目を光らせたって、杏には無理だよ。

 

「あの発想はアタシは出来なかったからな。

 ああいうのアリだと思うぜ。

 この曲だって無理に意味を持たせる必要ないしさ」

「詞の力より音の気持ちよさを優先しただけだよ」

「それが出来るからすげーんじゃん。

 アタシはマジに言ってるぜ。

 下手な歌詞つけるよりよっぽど感動するよ」

 

 ……正直に言うと凄く嬉しい。

 なつきちみたいな音楽の本物に認められる事は、

 思いつきと作品の間にいた絶望的な道のりを歩んだ苦労を癒してくれる。

 でも、もう一度ってのはごめんだよ。

 どうせなら、もっと楽な稼ぎ方を追求したいね。

 

「うーん、まあ、考えとくよ。

 買ってくれるのは嬉しいけど、大変だったからさぁ。

 他にも曲あるんでしょ?

 聞かせてよ」

 

 言い合いなんて不毛な事やりたくないからね。

 折れた振りぐらいしとこう。

 

「ああ、いいぜ。

 どうせだから、まだ詞をつけてないの全部聞かせてやるよ」

 

 そうして、なつきちがギターをじゃーんと鳴らす。

 ポップな曲を中心に豪華な独演会が始まった。

 楽器を弾けるっていいよね。

 モノにするまでの根気が杏にはないから、無理だけどさ。

 でも、そんな杏でも弾けるようになったら楽しそうだなって思うぐらい、

 なつきちのギターは嬉しそうだった。

 ポップな曲や、音だけでときめくような曲、ノリノリな激しい曲、

 どれもちゃんとした作詞さえ付けば、商品に十分な完成度のものを聴かせてくれた。

 これでもなつきちの中では寝かせておく程度なのかとビックリする。

 杏がこんな曲作れたら印税の事を思って笑みがこぼれちゃうけどなあ。

 

 

 しばらくして、なつきちの昼下がりのソロコンサートは終わった。

 いや、本当は提供してもいいって曲を聞かせてくれただけなんだけど、

 みんな聞いてるうちに盛り上がっちゃって、まるでコンサートみたいだったんだ。

 仁奈ちゃんも薫ちゃんもはしゃいじゃうし、

 智絵里もかな子もリズムを身体で取ってるし、

 乃々まで怯えるのを忘れてすごく控え目にだけどノッていた。

 なつきちも調子に乗っちゃって、自分のヒット曲までおまけに歌ってくれたからね。

 これ、もうコンサートでしょ。

 仕事です、って文句いいそうなマネさんも

 間近でなつきちの歌聞ける機会だったからか、何も言わなかったし。

 まあ、レベルの高い演奏は聞くだけで勉強になるし、

 為になった時間だと思うけどね。

 

「ふぅーっ……どうだい?

 どれかいけそうなのはあったかい? 」

 

 大きな息を吐いて、なつきちがガランガランと氷を鳴らしてグラスを傾ける。

 どこか挑戦的にも聞こえる言い方がいかにも、らしい。

 間違いなく一流の素材の曲を貰ったと思う。

 無駄には出来ないな。

 

「うん、ありがとう。

 正直、どれも詞を上手くつけれればいけるだろうね。

 きっとヒットすると思う」

「そうかい?

 そりゃ良かった」

「うん、それでね。

 みんな、作詞選手権やってみようか」

 

 杏がそう言うと、皆から戸惑う声が上がった。

 まあ、そうだろうね。

 

「遊びだよ、遊び。

 いきなり全部は難しいし、出来はこの際いいや。

 Aメロ部分だけとかで、皆それぞれ作詞してみて発表しあうの。

 もし、いいのがあれば採用するし、無くても練習になるでしょ?

 練習もしないで、いきなり完成品作れる訳ないんだからさ」

「わーっ、おもしろそーっ」

「仁奈もやるでごぜーますっ」

「なるほどー。

 遊びとしても面白そうですね」

「うーん、私自信無いなぁ」

「わ、私こそ無いですよっ」

「……作詞なんて……そんな…………むーりぃ……」

 

 悲喜こもごも色んな声が聞こえてくるけど、

 やるだけやったらいいじゃない。

 下手でも別に世間に出る訳じゃないんだしさ。

 

「へー、面白そうじゃん」

「なつきちも参加していいんだよ? 」

「いや、アタシは遠慮しとくよ。

 どんな詞が来るのか楽しみたい」

 

 杏の提案になつきちは嬉しそうにしてる。

 作曲した者からしたら嬉しいのかな?

 

「最初に弾いて貰った曲のAメロからやろうか。

 マネさーん、紙とペンって人数分ある?

 ありがと……マネさんもやる? 」

「いえ、私は結構です」

 

 真面目だねえ。

 参加してみて採用されたら印税が、とか思わないのかな。

 まあいいや。

 

「はーい、じゃあ曲流すからシンキングタイムスタート」

 

 あ、言っとくけど録音してたのを流すんだよ。

 さすがに毎回、なつきちに弾かせる訳にいかないしね。

 

 

「はい、皆出来た?

 じゃあ、順番に発表していこうか」

 

 五分程度のシンキングタイムを終えて、発表に移る。

 ワンフレーズだし、クオリティ求めてないからこんなもんでしょ。

 アイデア、閃きとしていいのがあればいいなって程度だから。

 

「じゃあ、杏から出すけど。

 いい?

 一個だけルールね。

 他の人の作った歌詞を笑っちゃダメだよ。

 それだけ気を付けてね」

 

 あくまで練習だし、自由な発想をして欲しいからね。

 みんな良い子ばっかりのメンバーだから大丈夫だろうけど、

 こんな遊びで委縮して欲しくないし、はっきり言っとくと安心もすると思うし。

 

「昼下がりの午後を 布団に包まってねーる

 気が付いたら夕方 もう一度目ーをーとーじーるー」

「寝て起きて寝たね……」

「笑っちゃダメって言った後に、これはズルいです……」

「杏おねーさんとお昼寝するの気持ちいーですよ」

「おひるね気持ちいいよねー」

「音には合ってるけど、これ先が続かない歌詞じゃねえか? 」

 

 いいじゃない。

 昼寝して起きてまた寝る。

 至福の時間の素晴らしさを啓蒙しようという歌だよ。

 

「仁奈はですねー、動物さんのお歌にしたですよ。

 にゃんにゃんにゃ にゃんにゃにゃん

 わんわわんわわん ぱんぱーぱんぱんぱーん」

「ぱんって何の動物なの? 」

「パンダでごぜーます」

「パンダかー、その発想無かったなー」

「可愛いね」

「……森久保は可愛くていいと思いますけど……」

「げんきでいいっておもうなっ」

「きらりが聴いてたら悶えてるね、きっと」

 

 次はかな子だね。

 

「小麦粉をふるって 卵を入れてかきまぜる

 はちみつをいれたら ミルクをいれてかきまぜる」

「お菓子作りソングですか? 」

「まぜまぜだいじだもんねー」

「なにをつくってるでごぜーますか? 」

「ちゃんと一曲で作れるならアリかもな」

 

 出来るのは何だろう、ケーキかな。

 手順守りすぎて音と合ってないのが残念だね。

 可愛さ振りまく事に特化したアイドルソングなら、

 こういう歌詞は全然アリだね。

 次は薫ちゃん。

 

「おはよーって言ったら こんにちわーって言われちゃった

 十時ってお昼? おはよーじゃ駄目なのかなぁ」

「確かに微妙な時間ですよね」

「午前中はおはようって意見もあるしね。

 薫ちゃん、可愛かったよ」

「薫ちゃんに挨拶して貰ったら、こっちが嬉しくなりますね」

「薫ちゃん、挨拶が上手だもんね」

 

 子供達は元気でいいね。

 体温高くて一緒にお昼寝するの気持ちいいしね。

 着眼点が子供らしくて可愛い。

 さあ、次は誰かな。智絵里か。

 

「部屋の隅の影に 怯えていたあの頃

 勇気出してみたら 世界は優しかった」

「おっ、いいじゃないの」

「奇麗だね」

「続きが気になりますね」

「素敵の気配がするんですけど……」

 

 上手に音に合わせてきたね。

 出だしとしては良いね。

 続きを聴きたい。

 次は菜々さん。

 

「白いエプロン着たら 鏡を見てにっこり笑顔

 元気をあげる前に  元気出してこう」

「元気をくれるメイドさんの歌かな? 」

「菜々お姉さんかわいい~」                                                           

「うん、出だしとして分かりやすいと思うぜ」

「菜々さん上手~」

 

 一曲だけとはいえ作詞作曲した人だし、さすがだね。

 普通にスペック高いよ。

 じゃあ、次でラスト。

 乃々だね。

 空気的にはやりやすくなってるけど、大丈夫かな。

 

「雨の匂いの風が 髪を撫でて目を閉じる

 小さな小さな声が 届いてたちすくむ」

「情景が浮かぶね。

 その分、この先が気になるけど」

「乃々ちゃん、上手~」

「素敵な歌になる予感がしますね」

 

 震えてるけど、乃々はちゃんと発表してみせた。

 杏達は打ち解けてるからまだしも、

 なつきちは初対面だったから乃々にとっては厳しかっただろうに。

 ファン100人の前で歌って、吹っ切れたのかな?

 強くなったのかも。

 とにかく頑張ったから、後で甘やかしてあげよう。

 それに内容も良かった。

 とりあえず一回目だけの評価だと、智絵里と乃々が特に良かったかな。

 

「これで全員一周したね。

 じゃあ続きやろうか」

「えっ、続くんですか」

「そりゃそうだよ、まだまだだよ」

 

 せっかくなんだもん、続き聞きたいじゃん。

 

「そのまま、次のパートに行くから。

 自分の歌詞の続きでもいいし、他人の作った歌詞の続きでもいいよ。

 続き考えてた人は続き書いて、

 考えてなかった人はこれ良いって思った歌詞の続きね」

「他人の歌詞の続き考えてもいいのか。

 それ、面白いな」

 

 なつきちにお褒めの言葉を頂いて、第二回の開催。

 もちろん、第三回、第四回と続いていくよ。

 とりあえず一曲作ってみたいからね。

 何も一人だけで作らないといけないなんてルールないし、

 これで名曲誕生したら儲けものだよ。




作詞選手権は句会のようなものとして読んでください

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