プロデューサー杏、芸能界を生き抜く   作:アイスクリン

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土曜六時はキャンディラジオ

 

 

 九月になった。

 つまり、自動的に歳を取るって事で、杏は17歳になった。

 17歳になったからって何か変わる訳じゃないけどね。

 菜々さんと同じ歳? になったんだなぁと思うぐらいかな。

 誕生日イベントとかもやってないしね。

 しないって決まった訳じゃないけど、ちょっと最近忙しすぎたからさ。

 誕生日イベントなんて開催しても、来てくれるのはFC入ってるような

 重度のファンだから時期ずらしてもいいと思って。

 やるとしたら時間空きそうな時にやるよ。

 番組なんかの度に祝われるから、杏としてはもういいやって感じだけどね。

 

 更に、その誕生日に微妙に関連してP会議で統括から指令が下った。

 FC向けの新グッズを考案しろ、という事だ。

 ま、これは杏も何かやらなきゃ、とは思ってたからいいんだけどね。

 ちょっと時間の出来るまで待ってくれたのが有難いぐらいだよ。

 

「という事で新グッズを考えよう」

「という事でってどういう事? 」

「うん、それは考えるのはいいけど誕生日なんか関係あったっけ? 」

「メンバーの誕生月のグッズも新しいのも考えろって事らしい」

 

 アイドル事務所って色んな形の経営があって、儲ける為の考え方が違うんだ。

 デビューを餌にアイドル候補生を沢山かかえて、レッスン料を払わせて儲けたりする所とか

 ちょっと知名度上げたら、すぐ金になるライブばっかりやる所とか。

 

 杏達の事務所は稼げるトップクラスが全体を支える構造だね。

 レッスン料取るような所だったら最初から入らないし。

 それに公式ファンクラブ(FC)からの会費も重要な収入源。

 入会金1000円、年会費4000円とそこそこ強気な設定だよ。

 もちろん、これだけ貰うからにはメリットが無いといけない。

 分かりやすいのはライブチケット優先入手権かな。

 あとは会報が毎月あるのと専用アプリで最新情報をお知らせ、

 それとFC会員限定グッズ購入権。

 

 だけど、杏達CIはライブをほとんどやんないから優先チケット無いからね。

 そんな状況でFCに入って貰うためにはFC限定グッズは重要だよね。

 今あるのは、タオル、グラス、ポスター、シール、下敷き等々のよくある奴に、

 メンバーの声の目覚まし時計とか。

 童謡とか著作権の無い歌や安い曲をカバーしたCDも売ってる。

 あと写真集やDVD買った時についてるコードでおまけが見れるってのもあるか。

 それとメンバーの誕生月はそのメンバーに関する特別なグッズを出してるね。

 

 かな子はかな子の手作りお菓子。チョコとかクッキーとかね。

 本当にかな子が作るから一人一枚だけで限定五百枚だけど、即売り切れる。

 智絵里はゲームのネット対戦イベントとかやってたな。

 智絵里はリズムゲームが得意らしくてFC会員だけが入れるルームで半日戦ってた。

 これも好評でもっとやって欲しいって要望は多いね。

 杏も智絵里とは違う対戦型ゲームでやった事あるけど、

 意外にも結構大変だった。

 ゲームやってるだけで仕事になるなんて楽勝、なんて思ってたんだけどね。

 

 他にも杏は毎年、手形と足型を色紙につけて売ってる。

 お相撲さんの奴と一緒だね。

 あっちは手の大きさで「すげー」ってなるんだろうけど、

 杏は逆に手や足の小ささで「ちっせー」ってなる。

 杏の小ささは武器だからね、

 小ささアピール出来る手形は良いアイデアだったと自分でも思うね。

 一枚3000円と強気設定だけど、毎年完売するし。

 

「今までのも好評だったけど、数が限定されるのばっかりでしょ?

 かな子のクッキーもこれ以上作れないし、

 智絵里と一緒に遊べる権もサーバーの耐久力に限りあるし、

 杏もこれ以上手形押すの面倒だもん」

「そっかー……数かぁ……」

「おかげで順調に人気上がってるから、

 グッズが手に入らなかったって人が多くなってさ。

 FC入ってるのに限定グッズ買えないんじゃ、入ってる意味無いもんね」

「そうだよね……せっかくFC入ってくれてるのに、可哀想……」

 

 現状の解消も考えないといけないけどね。

 

「という事で、リスナーの皆もこういうのどう?

 ってアイデアあったら、どんどんメール送ってね。

 今週は生放送だから出来る限り読んでくし、

 いいアイデアあったら採用させてもらうから」

 

 ラジオブースを区切る防音ガラスの向こうを見ると、スタッフが頷くのが見えた。

 杏の声が終わると同時にジングルが流れCMに入る。

 今は土曜六時、杏達CIのラジオの時間。

 緩い番組な事と今日が生放送の日だった事を利用してリスナーから

 アイデアを募集する事にしたの。

 ラジオのネタにもなるし、いいアイデア貰えるかもしれないし一石二鳥って訳。

 

「リスナーさん、アイデア送ってくれるかなぁ? 」

「大丈夫だって。

 何も良いの無くたって元々なんだから。

 もし、いいの来たら儲けものぐらいに思ってればいいんだよ」

「そ、そうだよね。

 ラジオのネタって言ってたもんね」

 

 ラジオブースの中は杏とかな子と智絵里だけ。

 ラジオだから私服だし、杏はノーメイクだけど、

 かな子と智絵里は一応軽くメイクしてるみたいだね。

 公開収録とかじゃないからいいと思うんだけど、

 アイドルの心構えとしては二人の方が正しい気がするね。

 誰に見られるか分かんない訳だし。

 恰好も杏は「天上天下唯我平穏」Tシャツに短パンなんだけど、

 かな子は緑のタンクトップの上に黄色い半袖のブラウス、薄ピンクのスカートと

 少しセクシーな可愛い感じの服着てるし、

 智絵里は黒い短パンに白いYシャツ、ズボン吊りなんてボーイッシュに可愛くしてる。

 いつもちゃんと可愛くしてるって偉いなぁ。

 あ、そっか、自撮りを呟いたりブログにあげたりするからか。

 ま、いっか。

 杏、別にすっぴんでも大丈夫だし。

 

「CMあけまーす」

 

 ガラスの向こうにボードが上げられ、ジングルが流れる。

 さあて、ラジオの時間だね。

 

「と、いう訳でさっきも言ったけど、何かアイデアあったら送ってね。

 希望でもいいよ?

 杏達にこういうのして欲しいとか。

 こういうの売って欲しいとか」

「みんなの希望を聞くっていいね。

 私達に出来る事で喜んでもらえるなら嬉しいもんね」

「うん、そうだね。

 私達で出来る事とか、作れるようなグッズとかだといいな」

 

 そうだね。

 原価が安くて簡単に大量生産出来てファンが喜んでくれて、

 飛ぶように売れるグッズのアイデアなんか来たらいいな。

 

「とりあえず、杏の手形はコピーにしよっか。

 生手形だから数も作れないし、争奪戦になるんでしょ。

 売れ行き悪くなるだろうけど、しょうがない」

「それ、杏ちゃんが楽したいだけじゃないの? 」

「いやいや、手に入らないで悲しむファンの方を見てらんないからだよ。

 楽する為じゃないって。

 ねえ、みんな、どっちがいいかな?

 お値段高くて手に入りにくい生手形と、

 ちゃーんと手に入るし安いコピー手形。

 良かったらメールで意見送ってね」

「杏ちゃん、言い方ずるいよぉ~」

「え、何の事?」

 

 印象操作ぐらいズルくないよね。

 ファンの皆なら杏の労力についても考えてくれるって思うし。

 

「メール来るまでハガキ読もうか」

「はい、じゃあ、PNウグイスはウグイス色じゃないさんから。

 お便りありがとうございます。

 杏ちゃん、九月二日誕生日おめでとうございまーす。

 17歳の杏ちゃんの活躍を期待してます。

 誕生日当日はどう過ごされましたか?

 かな子ちゃんや智絵里ちゃんと過ごしたんですか?

 良かったら教えて下さい、との事です」

「お便りありがとー。

 当日は忙しくてねー、誕生会なんてものはやってないよ。

 でも、かな子ちゃんからは手作りケーキを貰ったよ。

 レモンタルト。

 美味しかったなぁ~……

 それと智絵里ちゃんからは四つ葉のクローバー。

 それも歳の数って事で17本も。

 凄いよねー。

 あれ、どうやって探したの? 」

「あ、あれはですね……………―――――

 

 当日、忙しかったのは本当だけど本当は誕生会をしてない訳じゃない。

 北海道から両親が来たんだよね。

 だからしょうがなく一緒に誕生会したよ。

 晩ご飯食べてケーキ食べたくらいだけどね。

 かな子にケーキ貰ったのと智絵里にクローバー貰ったのは本当。

 翌日にだけどね。

 

 きらりからは自作の服貰った。

 これも大がかりで悪いなって思うよ。

 杏がきらりにあげたのなんか、買ってきたイヤリングだよ?

 誕生日が一日違いだから、毎年プレゼント交換するけど

 釣り合ってないような気がするな。

 

 乃々からは好きだっていう詩集貰ったよ。

 なんかメルヘンメルヘンした可愛い感じの詩集だった。

 乃々の誕生日は八月末だったから、

 杏はピアスとチョーカーをプレゼントした。

 本人は「出演拒否権が欲しい」と言ってたけど、それは無視したよ。

 

 菜々さんは「同じ歳」になったお祝いとして、

 手作りの化粧水とか美容グッズ貰っちゃった。

 菜々さんの誕生日ってどう扱っていいか分からなくて、

 杏は特に何もしなかったんだけど申し訳なくなるね。

 

「あ、早速メールが来たみたいだね」

 

 誕生日エピソードを適当に切って話してたら、手元のタブレットに通信が来た。

 杏達の手元にはタブレットが置いてある。

 番組宛てに来たメールをスタッフが受け取って選別して、

 このタブレットに転送するって仕組みになってるんだ。

 さすがに喋りながらメールの中身を審査なんて出来ないからね。

 

「はい、じゃあ今度は私が読みますね。

 PNいももちさんから。どうもありがとうございます。

 やって欲しい事はべたですけどライブです。

 もしやってくれるなら平日の昼間でも仕事休んで駆け付けます。

 皆の可愛い姿を生で見たい。

 だそうです」

「ライブか~。

 やりたいとは思ってるんだけど、調整とか難しくてね。

 でも、まあ、前向きに考えとくよ。                                         

 もうすぐ、杏も曲出すし、

 かな子ちゃんと智絵里ちゃんも新曲出してもらう予定だから、その後かな」

「新曲出したらライブでやるの?」

「出来れば、ね。

 まだ構想でしか無いから、約束出来ないけど」

 

 ライブは場所押さえて、ライブ用のスタッフ雇って

 練習もしないといけないし、

 当日だけじゃなくて練習時間もスケジュール調整して等々……

 やらなくちゃいけない事が多くて面倒なんだよね。

 杏達はテレビ出演なんかをメインでやってるからさ、

 ライブ中心の人達よりやろうとすると手間がかかるんだ。

 でもたまにはやらないといけないっていうのも理解してる。

 テレビの中の人ってだけじゃ、繋がりが薄れてくるし。

 熱狂的ファンを獲得、維持する為には必要だもんね。

 

「今月の17日に杏のソロ曲出るから、

 来月か、再来月にかな子ちゃんの、智絵里ちゃんのって続く予定だよ。

 皆、ちゃんとチェックしててね」

「じゃあ、話に出た所で杏ちゃんのソロ曲流しましょう」

「そうだね、じゃあ聞いてください。

 双葉杏で「アプリコット」」

 

 杏の声でばんばんばらばらと言ってるイントロが流れて、杏達の音声がオフになる。

 誕生日トークで尺は稼いだけど、まだ四分の一過ぎたぐらい。

 ペットボトルの珈琲で口を湿らせて一息吐く。

 

「この曲、いいね。

 凄く可愛い」

「うん、何回聞いても飽きないし、もっとずっと聴いてたいってなるよ」

「ちょっ、もう、二人ともお世辞いいから」

「お世辞じゃないよぅ」

 

 しまった。

 地雷踏んだ。

 二人とも杏の曲を褒めてくれるんだけど、

 特に智絵里はかなり気に入ってくれてるらしく

 謙遜してみせただけなのに、結構な剣幕で魅力を語られた。

 曲の間だけで止まらず、CMの間も語られ、

 こっちに放送が復帰してからもまだ語っていた。

 面白いからOKの判断を下すスタッフもどうかと思う。

 まあ、最初にラジオ始めた時の委縮してた頃よりはいっかな。

 

「さ、そろそろ次のメール行こう。

 ほら、智絵里ちゃん、話はまた後で聞くから」

「うぅ、杏ちゃんは杏ちゃん自身の魅力を分かってなさすぎるよ。

 もう、この曲は日本の音楽シーンを揺るがす曲だよ? 」

「じゃあ私がメール読むね。

 PNのののさんから。ありがとうございます。

 杏さん、かな子さん、智絵里さん、こんばんは。

 はい、こんばんは。

 グッズ案なんですが、腕とか脚の等身大模型はどうでしょうか。

 杏さんの小さくて細くて柔らかい腕や脚を再現して下さい。

 高額になっても構いませんし、FC限定特別受注生産にすればいいと思います。

 可愛いのに頼りになる杏さんの腕の中を再現できれば、安眠間違いなしですけど。

 との事ですが……」

 

 等身大の杏の腕や脚って、またぶっとんだ発想だね。

 変態としか思えないよ。

 

「凄い発想だね。

 でも、ちょっと難しいなぁ」

「ええ~、私も欲しいです、それ」

「智絵里ちゃん、こんなの買ってどうすんのさ……」

「え、えーと、腕枕とか踏んでもらうとか……」

 

 話題にはなるかもしんないけど、どうだろうねえ?

 手形の3D版とでも思えばいいのかもしれないけど、

 所持してる所を見られてもいいのかな、みんなは。

 それに変態的行為を容認してる、みたいな悪評がたちそうでもあるよね。

 売れるかも怪しいし、飛ぶように売れたらそれはそれで怖い。

 

「杏のだけじゃなくて、

 智絵里ちゃんやかな子ちゃんの腕や脚はどうなの?」

「やだやだ、私のはいらないよ~」

「そうだよ、私のだって需要ないです。

 杏ちゃんのだけ作りましょう」

 

 何故か妙に智絵里が食い下がって来るけど、無理なもんは無理。

 アイデアとしては斬新だったけどね。

 

「まあ、後ろ向きに検討しますって事で次行こう。

 かな子ちゃん」

「はーい、それでは次のメールですね。

 PNぴかぴかさん。

 みなさん、こんばんは。いつも楽しみにしています。

 いつも、ありがとうございます。

 FCグッズなんですが、杏ちゃんのTシャツのレプリカはどうでしょう?

 いつも着てる面白い字のシャツは自作との事ですが、

 そのレプリカを売ってくれるとファンとしては嬉しいです。

 僕でも着れるように3Lサイズまでお願いします。

 との事です」

「おー、それはいいかもね。

 そういえばいつかグッズにしようと思ってたのに、

 忘れちゃってたよ」

 

 あはは、と笑い声がブースの中に広がる。

 もちろん、忘れてなんかいないよ。

 ただグッズにするタイミングを伺ってただけ。

 こうしてファンから要望くるぐらいに認知されたんなら、頃合いかな。

 

「これはなかなかいいアイデアだね。

 これはかなり前向きに考えておこうっと」

「おおっ、これは杏ちゃんのお墨付きが出ました。

 良かったですねー、ぴかぴかさん」

 

 こういう要望や希望を聞くと、踏んでとか蹴ってって言う人が

 かなりの数来るんだけど、どういう事なんだろうね。

 今日はスタッフの所で止まってるだろうけど、

 後で確認したら絶対来てるよ。

 かな子に座って欲しいっていうのは、まだ分かる気もするけど。

 

「それじゃ、そろそろ一曲挟もうか」

「そうだねー、じゃあリクエスト」

「えーっと、PNロック54さんのリクエスト。

 木村夏樹でトゥルーエモーションです」

 

 ギターを掻き鳴らすイントロが響き、合わせて杏達の声が入らないようにする。

 曲の後はCMで残り時間はあと15分ぐらいかな。

 いつものフリートークより気を遣わないから、今日は楽だけどね。

 

「ネタにはなったから良かったけど、

 ガチで商品になるようなアイデアは無いなぁ……」

「あったよ、ほら、腕の模型っ! 」

「いや、無いから」

「智絵里ちゃん本気で言ってたんだ……」

 

 うーん、手形の代わりにしても気味悪いだろうし……

 

「やるとしたら手の平だけか、足の裏だけとかだろうね。

 それだって、ちょっとどうかと思うし……」

「あ、でも、それなら杏ちゃん手形頑張らなくていいね」

「そうですよっ。

 手形の代わりにいいんじゃないですかっ」

 

 なるかなー?

 後でこのラジオ聞いたファンの反応をSNSで確かめてからだね。

 

「この話は後で検討するよ。

 ……というか、ふと思ったんだけど、

 乃々のグッズも考えていかないとだね」

「あ、もう、乃々ちゃんのグッズも作るの?」

「結構、反響あるみたいですよね」

 

 うん、一番組の一コーナーにしか出てないのに、

 結構な反響があるし知名度も上がってる。

 鉄は熱い内にって言うし、FCグッズも作っていこう。

 

「杏達のグッズに使えるかもだけど、

 乃々のグッズに出来るかも考えていこうか」

「うん」「はい」

 

「CMあけまーす」

 

「今日はじゃんじゃんメール読んでくよー。

 えーっと、PNバード麺さんから。

 グッズ考えました。

 それはアイドルカードバトルのカードを作る事です。

 もちろん、CIの三人は最強カードにしてです。

 ただのトレカと違ってゲームとして流行れば、凄い事になると思います。

 だって」

「カードバトル?

 カードで戦うの?」

「トランプみたいな? 」

「遠いけど間違っては無いかなぁ。

 カードに色々数字書いてあって、HPは百とか攻撃は八千とか

 そういうので戦うのだよ。

 種類によっては大流行してるのもあるからバード麺さんの発想はいいよね」

 

 他アイドル出すって部分で実現不可能だけどね。

 

「杏達だけじゃ弱いし、事務所の仲間なら何とかなるだろうけど

 他事務所のアイドルの許可は多分取れないと思うよ。

 すごく面白いアイデアだと思うけどね」

「そっかー、残念だね」

「出すとしたら最強はやっぱり杏ちゃんだよねっ」

 

 うーん、全アイドルという事なら厳しいよ、それは。

 杏以下のカードにされて黙ってる訳ない人達が何人も想像つくもん。

 本人はともかく、そのファンがね。

 

「バード麺さんのおかげで思いついたけど、

 トランプとかいいかもね。

 絵柄を杏達とか事務所の皆とかにしてさ」

「あっ、それいいね」

「うん、いいねっ」

「とりあえず、クラブは智絵里ちゃんだね」

 

 クローバーと言えば、だもんね。

 

「うん、嬉しい。

 だったら、ハートはかな子ちゃんでスペードは杏ちゃんかな?」

「杏はダイヤがいいな。

 財宝の象徴だしね」

 

 ちょっとがめついアピールでささやかな笑いを取っておく。

 ファンじゃないけど、ラジオをうっかり聞いちゃったって人向けにも

 キャラはアピールしとかないと。

 ひとしきりトランプの話題を広げて、次のメールにいく。

 

「PNシリウスさん。

 グッズですが、クッションはどうでしょうか。

 是非、杏ちゃん監修で

 かな子ちゃんの柔らかさを再現したクッションをお願いします。

 腰から下の膝枕できる形がベストですが、

 無理なら何でもいいです。

 とにかく柔らかさを再現して下さい。

 だそうです」

「ええーっ!? 」

「あー、これはいいかもねえ。

 かな子ちゃんががいない時にもいいし、

 これ作って貰って杏も使おうかな」

「もーっ、こんなの困るよぉー」

 

 本気で困惑してるかな子可愛い。

 でも、別にこれはいいんじゃないかな。

 実際の柔さと違ってたって確かめようないんだし、

 謳い文句としては十分だし。

 

「うん、これ採用の方向で」

「えーっ、杏ちゃん本気ぃ!? 」

「でも、私も欲しいかも……」

「智絵里ちゃんまで!? 」

 

 かな子がわちゃわちゃしてる間に、スタッフから提供読みの指示が出る。

 さあ、ラジオの時間はもうそろそろ終わるよ。

 終わったら紹介出来なかったのも含めて、

 ファンからのアイデアを参考にさせて貰おう。

 

「さあ、そろそろお時間となりました。

 キャンディラジオ、今週は生放送でお送りしました。

 いかがだったでしょうか」

「うぅ……皆さまからの温かいお葉書、メールありがとうございました」

「こ、この放送は皆さまの夢を応援する千川ドリンク、

 あなたの明日をくっきりと秋月ルーペ、

 西園寺工業、水瀬証券、村上組の提供でお送りしました」

「みんな、来週も聴いてねっ」

 

「「「まったねー」」」




ラジオは収録だったり生だったりの設定です

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