その上また前後編
アイドル。
プロデューサー。
高校生。
杏の肩書が三つになってもうすぐ一か月。
滅茶苦茶忙しい事になるのでは、とビビってたけど意外にも前と大して変わらない。
高校が芸能活動に理解があって、
事務所からの連絡があれば通学しなくてもいいからなんだけどね。
代わりに課題出されて、どっかのタイミングで補習受けなきゃいけないから
完全な休みって訳にはいかないんだけど。
暮らしは結構変わったかも。
まず事務所でプロデューサー全体会議に呼び出されるようになった。
プロデューサー同士で互いに活動報告したり、
協力して欲しい事を話したり、合同で活動するイベントもあるし、
CDやDVD、写真集、本なんかの発売時期も考えないといけないしね。
同じ事務所で潰しあいなんてバカバカしいからしょうがない。
そういえば、この間この会議に出たら元菜々さんのプロデューサーに
お願いされちゃった。
自分では菜々さんを再び輝かせられなかったから頼むって。
勿論、下手打つつもりは無いから最善つくすだけだよ。
現役アイドルだからこそ、打てる手もあるしね。
それから周りに人が増えたって感じる。
菜々さんと乃々が杏の部屋に来るようになったし、
かな子も智絵里も相変わらず仕事無くても来るし、
マネージャーもいてきらりも遊びに来る。
菜々さんが来る事で菜々さんになついてる小学生の子も来るし、
菜々さん付きのマネージャーもいるから部屋の人口密度が高い。
仕事は順調。
杏達の写真集もかなり反響あって初版多めにお願いしたのにもう重版も決まった。
アイドル兼任プロデューサーっていう肩書はそれなりにインパクトあるみたい。
かな子の単独グラビアを解禁したらオファーが殺到してるし、
智絵里にはアイドル専門誌なんかの水着無しの仕事を振っている。
乃々ちゃんはまだレッスン漬けだけど、かなり素質はあるみたいで期待できる。
菜々さんの再ブレイクへの準備も整ってきている。
今も、菜々さん関連の仕事中。
この間、撮影した水着写真集用の写真のチェックを
杏と菜々さんとマネージャーでやってる所。
「あ、これ、いいね。
これは後ろの方に入れとこう」
「ええ~、これ菜々が油断してる時のじゃないですか、
よそ見してますし……」
杏が勧めたのは、菜々さんが教室での撮影の合間に休憩してる写真。
水着の上からコートを羽織ってて、紙コップの紅茶を飲んでいるの。
一息ついたって笑顔も、コートの隙間からチラッと見える谷間も完璧だ。
指示してない写真だけど、素晴らしい。
隙あらば休憩中も撮影して、とは言ってたけど
ここまでのを撮ってくれたのはカメラマンの腕だね。
「こういうのがファンは喜ぶんだよ。
カメラ目線でキメた笑顔を並べるより、こういうのも混ぜとく方がいいの」
「うぅ~、そうなんですかぁ?」
ほんとは菜々さん本人がNG出したらNGにしなきゃいけないんだろうけど
菜々さんに任せてたら全部「恥ずかしい」でNGになるから
ほとんど杏が決めてる。
菜々さんはビシッと決めてる時もいいけど、
こう……思い通りにいかなくておろおろしてる時がより可愛いと思う。
決して意地悪してる訳じゃないよ。
「よし、大体決まったね。
順番はこう。
宣材に使うのはこれ、表紙はこれね」
「これ、表紙……考え直しませんか?
いくらなんでもアップすぎますよ……」
「だからいいんだって。
肌の奇麗さを知らしめる為の布石としての写真集なんだから」
菜々さんがちょっと恥ずかしそうなのもしょうがない。
表紙に選んだのは菜々さんがドアップで少し涙目で上目遣いの写真なのだ。
すっごくあざとい上に、肌の質感まで見える写真だからね。
きっと「修正してるだろ」って思われる。
それぐらい肌は奇麗だし、顔は可愛い。
それで、この写真集の宣伝という体で色々メディアに出て貰って
どう泣きついても修正入れてくれなかったって話をしてもらうつもり。
ラジオやテレビで杏と共演する時に
「杏ちゃんが酷いんです」
と言ってくれれば、後は杏が話を転がすだけだ。
そこらで菜々さんいじりのテンプレを見せれれば
杏がいない所でも菜々さんを使い易くなる。
…………と思う。
そうなったらいいな、でしかないけど。
そうなるように祈って、人事を尽くすしかない。
「絶対、話題になるし売れるから大丈夫。
菜々さんはコンディション崩さない事を考えてて」
「はいっ、お肌が荒れてちゃ駄目ですもんね。
気を付けますっ」
まとめた写真データを菜々さんのマネージャーに渡して、
ぐぅっと背伸びする。
肩がパキッていってるよ。
疲れた。
「双葉さん、お疲れですか?
珈琲淹れましょうか」
「お願い―」
ふぁ~っと欠伸をしてたら、菜々さんが隣に来て座った。
どうしたのかなと頭に疑問符浮かべてたら、
菜々さんはぽんぽんと自分の太ももを叩いた。
「杏ちゃん、ほら、膝枕してあげますよ」
菜々さんに優しく微笑まれてこんな事言われたら、
ちょっとご馳走になっとくかなって思っちゃうよね。
遠慮せずに横になって菜々さんの太ももに頭を乗せる。
薄手のスカート越しに伝わる柔らかさと温もりが心地いい。
「あ~、これはいいね。
すべすべ、ふわふわ……安らぐぅ」
「ふふ、杏ちゃん頑張ってくれてますからね」
「そうだよー。
指示してればいいかと思ったのにさー。
結構、実労働あるんだもん……」
杏は自分を寂しがり屋だとかマザコンだとか思った事無いけど、
これはなかなか堪らない感覚だよ。
ふにふにでぽかぽかで、香水かなぁ、なんかいい香りがする。
「あーやばい、これ……寝ちゃう……」
「いいですよ、寝ちゃって下さい」
微笑む菜々さんの手が頭を撫でてくれる。
菜々さんって甘えたくなる魅力もあるよね。
そりゃ、子供も懐くよ…
そういう……母性的な面の……とか…………も………
zzzzzzzzz
「ありゃっ?
杏ちゃん起きちゃった」
目を覚まして最初に視界に入ったのは、何故か同僚アイドルの諸星きらりだった。
身長180㎝越えで有名なモデル兼アイドルの諸星きらりだ。
杏とはデビュー時期がほぼ一緒で、仕事はほとんど一緒にやってないけど
プライベートでは仲良くしてるアイドルだ。
こうして時々、遊びに来る。
杏が寝てる間に来て、杏の寝顔でも見てたのかな。
ソファーの背もたれ側から、菜々さんと一緒に杏を見下ろしてる。
というか杏、いつのまにかすっかり寝てしまってたみたい。
「菜々さん、ごめん。
どれくらい寝てた?」
「大丈夫ですよ。
20分ぐらいですし、杏ちゃん軽いから」
身体を起こして謝ると菜々さんは笑って手を振った。
20分身動き出来ないってきつそうだけど、
菜々さんは笑ってくれてるから、いいかな。
迷惑かけた分は仕事で返そう。
「杏ちゃん、お疲れもーど?
ねむねむかにぃ?」
「んー、疲れてるけど寝ちゃったのは
菜々さんの膝枕が気持ち良すぎたからだね」
膝枕ってそんなしてもらった記憶ないけど、気持ち良いもんなんだね。
それとも菜々さんが特別上手とかなのかな。
「杏ちゃんが休めたなら良かったです。
菜々のせいで忙しくなってしまってますもんね」
「杏ちゃんっ、きらりも膝枕するっ」
なんでか、きらりが張り切って詰め寄って来るけど、
多分これ以上寝るのは許されないだろうな……はぁ……
「マネさん、あと何があったっけ?」
「今度始まる新番組関連の話ですね。
全体の流れの草案から個別コーナーの企画案、
出演者の希望等を次の打ち合わせまでにまとめないと」
きらりは空気の読める子だから、自分の希望を無理に押したりしない。
だから、隣に来て座ってもしょぼんとしてるだけだ。
まったく、そんな座り心地良さそうなクッションがあったら
座りたくなっちゃうじゃないか。
「あ、杏ちゃん?」
「ほら、ずり落ちないようにして」
そう言ってカップを手に取ってきらりの上に座ると、
きらりの手がしっかりと杏のお腹にまわる。
仕事あるって言っても頭脳労働だけだから、体勢なんかどうでもいいし。
あぁ、珈琲の香りがまだ寝ぼけてる頭に染み渡って、覚醒を促してくる。
……ような気がする。
通ぶってみたいけど、珈琲の違いなんてよく分かんないし。
美味しければ、それでいいよね。
「きらりは今日は仕事終わり?」
「うんっ、そうだゆ!
だぁからぁ、杏ちゃんはぐはぐして癒されに来たにぃ」
あんまりすりすりされるの困るけど、きらりは悪い子じゃないし
ハグされても減るもんじゃないからいいんだけどね。
抱えて移動してくれるから便利だしね。
「うふふ、杏ちゃんときらりちゃんは仲良いんですねぇ」
「えへへ」
きらりは菜々さんに任せて、仕事するかな。
考えなきゃいけないのは、日曜朝九時から一時間の杏MC番組の事。
この時間って他局は政治討論番組か、ワイドショーとかなんだよね。
それで子供から大人までそういうのに興味ない人をターゲットにした番組。
まだ、そこまでしか決まってない。
あとクイズ番組にしないというのも条件。
これは杏が有名になったきっかけがクイズ番組だったから。
新人アイドルとして出演して、空気読まずに優勝したんだよね。
だって、優勝賞金三百万だったんだよ?
アイドルとして売れる保証なんて無かったし、貰えるもんは貰っとこうと思って。
かな子と智恵理と分けても大きい額だし。
でも、空気読まずに完勝したおかげで
すぐリベンジ戦ってもう一回呼んで貰えたんだ。
結果?勿論、勝ったよ。
見た目小学生の杏が、学歴だの留学経験がだのというタレントを
ぐぬぬさせたのがウケたんだし、期待に応えちゃう女なんだよね、杏は。
幸いなことに視聴率も良かったみたい。
二回優勝した後、今度は迎え撃つ側でオファーが来たの。
レギュラー昇格ってわけ。
立ちふさがる番人という役目の知性派タレントと勝ち抜きクイズ勝負していって
最後に立ちふさがるクイズの王様を倒せば賞金ゲットって番組なんだけど、
その後ろに現れる裏ボス、クイズの王女様って役になったんだ。
絶対、杏と戦わなきゃいけない訳じゃないんだけど、
王様まで倒したら100万円、杏に挑戦して倒したら300万って構成になったの。
かな子と智絵里も番組アシスタントとして出れるから有難いよね。
出る度に三百万づつくれたら最高だったけど、
さすがにそれは高望みしすぎかな。
でも、話題になってるし視聴率もいいからレギュラーにって事だったんだろうと思う。
まぁ、これきっかけで番組プロデューサーとスポンサーに気に入られて
今あるテレビ番組も冠でやらせて貰えてるし、ほんとにありがたいよ。
脱線しちゃった。
とにかく朝の番組の事だ。
朝から見ようって思うもの。
子供が好きなもの、政治に興味無い人が興味持つもの。
すぐ思いつくのはアニメ・ゲームとか?
でも裏でアニメもやってるよね。
しかもかなり人気の「湾ピース」とかいう海の平和守るの。
あれより、こっち見たいと子供に思わせる番組……
「飴くれー」
「パインとソーダとマンゴーと全部混ぜたのがありますけど」
「全部混ぜたのー」
ほう、味覚島め、新境地にたどりついたね。
すっパインソーダマンゴーとは攻めた味だけど、不思議と調和が取れてる。
意外にも美味しい。
「ねえ、みんなは普段どんな番組見る?」
「んー、きらりはねぇ、手芸で涙とか、お前のレシピを寄越せとかかなー」
「私は最近はアイドルが出てる番組見るようにしてますね。
他事務所のアイドルとかも知ってないといけませんし」
「菜々は魔法少女ジミーとかアクマリオンとか冥王少女とか幅広く見てますよ。
あとバラエティとか芸人さんのネタ番組とかですね」
菜々さん、幅広くって言ったの全部アニメじゃん。
きらりはほんと女子力高い。
手芸に料理とは、え、なに、もう嫁ごうとしてんのって感じ。
マネージャーのは好みじゃなくて、勉強の為にって事だから参考にはならないなぁ。
「杏が出てるってだけで見てくれる人に期待する訳にいかないしな……」
「きらりんはぁ、杏ちゃんが出るなら絶対見るにぃ」
「菜々も見ますよ。
勉強になりますし」
「そうですね。
私も勉強させて貰ってます」
うーん、勉強になるかねぇ?
まぁ、それはいいか。
「じゃあ菜々さん、いつも見てるアニメの裏で何がやってたら見たくなる?」
「ええっ、いつも見てるのをやめて見る程の裏番組ですか?
えーっと……うーん……」
菜々さんほどのアニメ好きに聞くべきじゃなかったかな。
見るのが習慣になってる人を振り向かせるのは難しいし。
いや、でも、最初から諦める事も無いか。
「うーん、あんまり他局の事考えない方がいいかな。
やりたい事を優先しようか」
どういう企画があったら面白いか。
どういう企画なら無理なく出来るか。
……かな子のお菓子作りコーナーはどうかな。
お菓子作りとかに興味出始める小中高生女子にはウケそう。
五分~十分で手順簡略化して、安全に作れる物だけを紹介するようにしたら
親ウケも狙えるかもしれない。
かな子に可愛い恰好させてれば男子の興味も引けるし。
ただ、シャワーの方でも何回か似た企画やってるんだよね。
目新しさは無いか。
智絵里のクローバー発見隊もやったな。
杏のTシャツ作成講座もやったし。
乃々を使うのはさすがにまだ早いよね。
きらりは共演NG、NGは言い過ぎだけど近いものがあるから無し。
菜々さん……?
菜々さんが家庭料理を作るとか、酒の肴作るとか。
短いワンコーナーならありかな。
ファンの人達が見たい物ってなんだろう?
四つ葉のクローバー発見隊のロケとか、ファン度高い人が喜んでたな。
だらだら三人で歩いてただけなのに。
むしろ、企画が無い方がいいのかも。
素を見せるというか。
でも、ファンはほぼ何しても喜んでくれるから、
ファン以外の人達をターゲットに考えた方がいいよね。
あと、出来れば他事務所の子を呼べる企画もあった方がいいかな。
顔を広くしとくと、メリットも多いし。
でも、呼んで何しよう。
一緒に歌ったり踊ったりは手間の割に興味引きづらいか。
許可とか色々めんどくさいし。
定番でいうとミニゲームで対決とかかな。
オリジナルなゲーム作って対決というか遊ぶというか……
設備がいらない方がいいな。
特殊な設備がいると真似して貰えないから、流行らないもん。
ゲストが番宣とかばっかする番組、杏は見たくないから宣伝無しにするか。
いや、勝負に勝ったら番宣できるって飴ぶら下げて
ガチで勝負して全然番宣させないとか……
「ふぅー……」
色々考えてたら煮詰まってきた。
ぐっと後ろに体重を預けると、きらりのおっぱいが丁度後頭部に当たって気持ちいい。
「あ、杏ちゃんっ!?」
「ふふ、気持ちいいー」
ぽんぽんと頭だけを後ろに弾ませて、きらりのおっぱいの感触を楽しむ。
わはは、セクハラだ、セクハラ。
ぽよんぽよんして楽しー。
「もぉ、あんずちゃんっ、だーめだよォ」
「うぐっ」
きらりが杏のお腹に回した手に力を入れて、抱きしめてきた。
ハグというより拘束だね。
動けやしない。
「あの、双葉さん。
時間もそうありませんし、真面目に考えて欲しいのですが……」
「はーい」
「杏ちゃん、怒られちゃったにぃ……」
怒られちゃったよ。
真面目に考えてるんだけどね。
そう見えないのも自覚してるから、文句は言えないけどさ。
「まぁ大体の流れは決まりかけてるんだけどね……
バシッと目玉が欲しいな。
録画を後で見ようとか、ネットで見ようとかで済まない、
リアルタイムで見なきゃって思うようなの」
「確かに今の子ってテレビの前で放送待たないですもんね。
あとでネットで見るからいいや、ですもん。
……いや、菜々も今の子ですけどね。
こう、自戒を込めて言ってみただけで何もおかしくないです、はい」
菜々さんが安定の自爆をして、おろおろしてるとコンコンとノックの音が響いた。
杏をホールドしてる腕がぴくっと震える。
「……し、失礼します」
入ってきたのは乃々だった。
もう通い始めて一か月近くなるのに、まだここに来るだけで緊張してる。
素質はあるんだけどねぇ。
と、思ったら今日はいつも以上にびくびくしてる。
人見知りだからな、この子。
「乃々、おいで。
紹介しとくよ。
この子は諸星きらり。
杏の同期で、モデルやってるアイドルだよ」
「にょわー、おっすおっすー。
きらりんは諸星きらりだよ☆
よろしくおにゃしゃーす」
うん、きらりのオリジナルな挨拶は驚くよね。
まあ、驚かす為にやってる面があるから、乃々の反応も当然ではあるんだけど。
「きらり、この子は森久保乃々。
杏がプロデュースする予定の期待の新人。
人見知りで、照れ屋だからよろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
乃々はやっぱり視線を合わせられないみたい。
杏を横に置いて立ち上がったきらりに頭を下げてるけど、
目は明後日の方向いてる。
器用だね。
「ののちゃんって言うのぉ?
きゃっわいいお名前だにぃ☆」
「あ、あの……あ、ありがとう……ございます……」
乃々はレッスンが楽しいとは思ってないみたいだけど、サボりもしない。
出来るだけレッスン前と後には時間を作って話すようにしているんだ。
デビュー前って不安になりがちだし。
「乃々ちゃん、こんにちは。
もう学校終わり?
早かったですね」
「あ、はい、今日からテスト前で……」
そう言われて時計を見ると、三時前。
おやつと言いたい所だけど、特に何も無い。
「乃々は勉強得意なの?」
「あ、いや、そんなに……です……」
「そうなの?
忙しい時だったら教えてあげるから言ってね」
「暇な時じゃなくて、忙しい時ですか?」
「だって忙しい時だったら休憩の理由になっていいじゃん。
暇な時は寝るのに忙しいし」
受け持ったアイドルの成績を落とさせるのはいけない事だし、
杏は休めるし完璧なプランだね。
「暇な時は忙しい……?」
「にょわー☆杏ちゃんらしいにぃ」
我ながら哲学者みたいな格好いい事言っちゃったね。
「暇な時は寝るのに忙しい」byニート。
あ、なんかこういう言葉集めて本にして売れないかな。
「ニートに腹立てる者はニートになりたい者である」とか
「寝る為にちょっと寝とく」「私の辞書にやる気は載ってない」とか。
ダメだ、思考が脱線してる。
疲れてるみたいだ。
「乃々、ちょっと休んでいきなよ」
「は、はい……」
乃々は杏達の座ってるソファーの反対側の隅っこにちょんと腰かけた。
こっち側にきらり、杏、菜々さんと座って、向かいの隅に乃々だけが座ってる。
なんか面接みたいな変な座り方になっちゃった。
しかも、乃々の態度があれだから圧迫面接的な感じに……
しょうがない、乃々の隣に行くか。
「はい、ちょっと詰めて。
ほら、乃々がこっち」
「あ、あぅ……」
乃々の隣に行って強引に手すりとの間に座った。
それでも乃々は真ん中には行きたがらなくて、杏のすぐ真横に座ったままだ。
この子はなんでこんなに可愛いのに、こんなに弱気で自信が無いんだろう。
「乃々って学校でモテないの?
絶対モテるでしょ」
「そ、そんな事でいですけど……モテたりなんて……」
「嘘だぁ」
「ですよねー。
乃々ちゃん絶対モテますってば」
「きらりもそう思うにぃ。
乃々ちゃんきゃわいいもんっ」
乃々は隙あらばうつむくので、杏は下から覗き込んで見る。
白い頬染めててもじもじしてるの可愛い。
あ、逃げ場なくて涙目になった。ごめんごめん。
「告白までいかなくても、無駄に話しかけてきたり
なんか関わってこようとする男子がいるでしょ?
そういうの乃々の事が好きでやってるんだよ。
これからアイドルするから付き合ったりして貰っちゃ困るんだけどさ」
「だ、男子とお話なんてしませんし……
友達が代わりに話してくれますし……」
なるほどね、頼りになる女の子の友達がいるのか。
その子が乃々の壁となってくれてるから、この容姿でこの態度で学校にいられるんだね。
ちょっと納得がいったよ。
あんまりモテすぎると学校で居辛いもんね。
男子の視線も女子の嫉妬もほんとにめんどくさいから。
「それはありがたいね。
友達大事にするんだよ」
「は、はい」
なんか乃々と話してるとお母さんみたいな事言っちゃうよ。
マネージャーや菜々さんも似たような事言ってるし、
この子は周りをお母さんにしちゃうね。
その友達っていう子も、こういう気持ちなのかもね。
「あ、きらりん用事あったの思い出しちゃった。
ごめんね、また来るね」
突然。
ほんとに突然、きらりが立ち上がったかと思うと、
両手をぶんぶん振りながら出て行った。
用事ねぇ……
「乃々、悪いけどちょっと待ってて」
なんか仕事が~って言ってるマネさんにトイレと告げて部屋を出る。
乃々は菜々さんには打ち解けてるし、大丈夫でしょ。
たぶんだけど行先は嘘じゃないし。