プロデューサー杏、芸能界を生き抜く   作:アイスクリン

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お泊り会(後)

 

 

『諸星きらりのキラキラ工場ー! 』

 

 画面の中のきらりが満面の笑みで手を振っている。

 その隣には小さな共演者、うさぎの着ぐるみを着た女の子。

 市原仁奈ちゃん9歳。

 

『よろしくおねげーします』

『きらりこそ、よろしくね。

 みんなも、これからよろしくねー、ピシぃ☆』

 

 仁奈ちゃんもちょっと喋り方に特徴のある子なんだけど、

 きらりといると個性的な喋り同士で逆に調和が取れてる。

 着ぐるみ着るの好きな仁菜ちゃんは、

 生きてる縫いぐるみみたいにも見える。

 カラフルでファンシーな服着てるきらりといると

 妖精の国に紛れ込んだような錯覚すら覚えるよ。

 年齢差があるから身長差があるのもしょうがないし、

 結構いいコンビになるんじゃないかな。

 

 こっちのコーナーの方ははリハをばっちりやった。

 というのも、仁奈ちゃんこそ菜々さんに懐いて杏の仕事部屋まで来てる子で、

 きらりが仲良くしたくて遠目で眺めてた子だからね。

 打ち解けて貰おうと思ってのリハ。

 仁奈ちゃんは最初こそ緊張気味だったけど、

 きらりが優しい事に気付いてすぐに仲良しになった。

 何回もやるはずだったリハは二回で終わり、本番。

 きらりは喋る時に仁奈ちゃんも映るように抱き上げてて、

 仁奈ちゃんは抱っこされるのが嬉しいらしくてはしゃいでいる。

 二人とも幸せそうで画面から平和が歩み寄って来るよ。

 

「仁奈ちゃん可愛かったにぃ……

 うぇへへ、明日も遊ぶ約束してるんだー」

「仁奈ちゃんもお姉さんが増えたって喜んでますよ」

「……二人とも可愛い……」

 

 画面の中ではきらりが透けてるブラウスぽい物を

 針無しで作る講座をやっている。

 正直、杏には暑そうって感想が先に来ちゃうけど

 なるほど、きらりが着こなしてるのを見るとお洒落だ。

 これを布を結んだり紐通すだけで作れるなら、凄くいいように思える。

 お洒落好きだけどお金無い女子中高生とか飛びつくんじゃないの?

 

『モデルになったみてーでごぜーます』

 

 うん、子供は笑顔がいいね。

 それも自然な笑顔でいて欲しい。

 

「仁奈ちゃん……」

 

 智絵里が無意識に零れたって感じで仁奈ちゃんの名前を呼んだ。

 智絵里も家族の事で寂しい思いをしてるし、

 仁奈ちゃんの事を凄く気にしてるんだよね。

 二人とも寂しがり屋だから、気持ちも分かるのかもしれない。

 

『また見てくだせー』

『まったねー』

 

 きらり達のコーナーVが終わり、スタジオに映像が帰って来る。

 とりあえず、メインとなるコーナーは今の三つと

 次回からはゲストを呼んで軽くトークする。

 今回は一回目だったから自己紹介とか企画趣旨の説明とか多かったからね。

 ここにゲストまで呼んでたら収集つかないと思って外したんだ。

 

 ちなみに次回放送の分は収録済みで、ゲストは高垣楓さん。

 歌姫と称されるタイプの人で、バラエティに忌避感無い人で、

 杏達とはファン層が違う人って人選だよ。

 自分がメインじゃなくても腹立てない有名女優や歌手って

 珍しいとまでは言わなくても少数派なのは間違いないし。

 驕らないトップ層は敵にすると恐ろしいけど、

 後輩に優しかったりもしてくれるから、有難い存在でもあるよね。

 

「うん、初回としていい出来だったんじゃないの。

 皆はどう思う?」

 

 あ、乃々がまた固まった。

 

「菜々は良かったと思いますっ。

 千枝ちゃんと薫ちゃんとも仲良く出来てますし」

「きゃわいかったー」

「ひはひゃんほ……仁奈ちゃんも良かったよね。

 きらりちゃんと息もあってた」

「仁奈ちゃん、ほんと良い子なんだゆねー。

 きゃわいいよぉー?」

「乃々ちゃんの所のナレはあれで良かったんでしょうか……

 私、乃々ちゃんに迷惑かけてませんか……? 」

「そっ、そんなっ……森久保こそ智絵里さんのお手を煩わせて……」

 

 うーん、視聴者が全員きらりだったら楽だね。

 視聴率100%目指せるよ。

 まぁ、指摘とか改善案とか求めてる訳でもないし、

 感想としてはしょうがないか。

 荒探しなんかするメンバーじゃないからね。

 むしろ、良かった所探ししてくれるぐらい。

 世間がこういう子達ばかりでいてくれるなら、視聴率なんか気にする必要ないんだけどね。

 

「明日、番組の事で打ち合わせにいくけど、なんかある?

 放送後の反応をまとめて、修正案や改善案を話し合う予定だし、

 要望あるなら聞くよ」

 

 乃々を慰めるのも一段落したから、食事再開。

 この魚介のパスタ冷めてしまったけど美味しい。

 こう……一筋縄ではいかない……味が何層もあるような?

 うん、味の感想って難しいね。

 

「わぁっ、杏ちゃんっ、格好いいにぃ☆」

「本当、プロデューサーって感じですっ」

「あの……今からでも森久保のコーナーを凍結するというのは……」

 

 今度はきらりか。

 杏がPになってからしばらくは、かな子と智絵里がわいわい言ってたんだよね。

 プロデューサーだ、格好いいって五月蠅かった。

 からかったりとかじゃなくて純粋に言ってるから、余計に対処しようが無いし。

 ようやく収まってきたかと思ったら、今度はきらりか……

 菜々さんと乃々はそんな事言わないんだけどな。

 

「凍結なんて、まさか。

 むしろ、向こうが言って来たって杏が突っぱねるよ」

「あうぅぅ……杏さぁん…………」

 

 乃々が小さな反抗をしてくるが、これは甘えてるようなものだ。

 まあ、甘やかすんだけど、アイドルは辞めさせないよ。

 ただ、明日は祝日で休みだけど、明後日は学校がある。

 クラスメイトも多少は見た人いるだろうから、

 周りの反応を乃々がどう捉えるかは注意だね。

 

「ほら、ご飯食べよう?

 乃々もそんな食べてないでしょ」

 

 食べながらテレビ見るのは良くなかったな。

 乃々があんま食べてない。

 次からは上映会と食事会は別にしよう。

 

 

 デザートはプリンだった。

 仕事終わってからプリン作れるのって普通に凄いよね。

 しかも、顔可愛くて胸大きいんだから理想の女子って感じ。

 こんな子が杏次第で売れる事なく、

 今程度がキャリアハイで芸能界を去る可能性があると思うと責任重大だ。

 プロデューサーがプロデューサーを育てるのは大変だと言ってた事が分かるよ。

 でも、役得だなぁと思ったりもする。

 だってかな子の手作りプリンとかどれくらいの値が付くか分からないよ?

 十万出すって人がいてもおかしくないのに、

 杏は仲間特権でしょっちゅう食べられるんだからね。

 

 その後、順番にお風呂入りながら残った子でゲームした。

 CIでロケ行った時なんかは一緒に入るけど、

 家じゃさすがに別々だよ。

 杏は髪洗うの大変だからきらりと入って手伝ってもらったけどね。

 

 ゲームっていうのはトランプとかね。

 かな子や智絵里やきらりが泊まりに来てもそんな事しないんだけど、

 今日は乃々との距離をみんなが縮めるという裏テーマがあるからね。

 親睦を深めるって感じだよ。

 でも、こういう小さなとこで相手を知れる事ってあるよね。

 

 例えば、七並べって、杏は急所の数字をどう効果的に止めて

 対戦相手を潰すかってゲームだと思ってたんだけど、

 乃々なんか七並べが対戦だとも思ってなかったらしい。

 ただ皆で協力して数字を並べるゲームと思ってたとか。

 文化の違いというか、各家庭の空気が感じられるよね。

 

 ちなみに強さ的には杏がトップだね。

 大体のゲームで杏が一番だった。

 みんな、いい子で出し抜いたり陥れたり出来ない子ばっかりだからね。

 菜々さんがまだ多少戦えるってぐらい。

 弱いのはきらり。

 気性的にしょうがない。

 急所のカード止めて相手がカード出せないようにするって、

 意地悪するような行為でもあるからゲームと割り切れないと出来ない事だし。

 それか、乃々がビリにならないよう、気を遣ったのかも。

 

 時間は九時過ぎ。

 普段の感覚だとまだ早いけど(日によってはまだ仕事してるし)

 菜々さんの美容法に従ってカモミールティー飲んで寝る事にする。

 カモミールティーって知識としては知ってるし、

 飲んだ事無いわけじゃないけど本格的なのは初めてだ。

 菜々さんのメイドスキルが想像以上に凄い。

 いや、凄いのは女子スキルかな。

 

「いい匂い~はぴはぴすりゅ~」

「うん、美味しい。

 本物ってこんなに美味しい物なんだね」

「前に私が持ってきたのより全然美味しいですっ。

 淹れ方が違うんですか?」

「いえいえ、そんな大した事はしてませんって。

 多分、種が違ったんじゃないですか?

 菜々が使ったのは飲みやすいジャーマン種ですけど、

 ローマン種っていうのもあって、そっちは少し苦いんですよ」

「……美味しい…」

 

 乃々がうっすら微笑んでる。

 リラックス効果っていうのが早速出たのかな。

 

「沢山淹れて冷やしてますから、明日飲みましょう」

「おおー、さすが菜々さん、出来るメイドは違うね」

「明日は朝から仕事だよね?」

「マネさんが九時半に迎えに来るね。

 雑誌インタビューと写真撮影。

 夕方からクイズの収録。

 はぁ~……忙しいねぇ……」

 

 明日は世間は祝日だってのに、杏達はがっつり仕事。

 思わずぼやいちゃうよね。

 休み欲しいけど、収録に穴開けたら永遠の休みにつながるしなぁ。

 

「そうだ。

 乃々は明日なんかあるの?

 暇なら杏達の仕事見学してかない?」

「け、見学……ですか?」

「いきなりメインで撮影とか緊張しちゃうんでしょ?

 予習と思って、一緒にいなよ。

 もう逃げられないんだから、先にどんなもんか見といたら

 対策とか立てられるかも知れないしさ」

「は、はい、よろしくお願いします」

 

 お、予想よりいい返事。

 自分が撮影されないからかな?

 アイドルの仕事に興味はちゃんとあるんだよね、乃々は。

 

「わー、明日も乃々ちゃん一緒ですか?

 先輩として格好いいとこ見せなくちゃ」

「か、かな子ちゃんはいつも格好良いよ……

 私こそ、しっかりしなくちゃ……」

「えー、智絵里ちゃんはいつも可愛いじゃない。

 私は油断しちゃうし……」

 

 乃々の見学にかな子と智絵里がきゃっきゃっし始めた。

 この子達、隙あらばきゃっきゃっしてるよ。

 可愛くて微笑ましいけども。

 

「菜々さんは明日生放送だね」

「はい、おかげで「えっ、もう、昼休み!? 」に出れますっ。

 帯枠に出るなんていつぶりだろう……」

 

 菜々さん、また何か思い出し始めちゃったよ。

 今の所、菜々さん関連の戦略は完璧に上手くいってる。

 杏達の番組に出して、菜々さんの実年齢をほのめかした事で、

 世間で一気に話題になったのだ。

 そりゃそうだよね。

 ただの可愛い17歳のはずが、

 17歳で違和感感じないレベルの可愛い二十代後半とか驚くよ。

 そして、その若さや肌の奇麗さの秘密を語るとなれば、

 もう世の女性は菜々さんの言葉を聞きたくて仕方ないよね。

 

「きらりは何かあるの?」

「んーお洋服の雑誌の撮影だゆ。

 でもでも、お昼からは仁奈ちゃんと遊ぶ約束なんだー☆」

 

 そういえばそんな事言ってたね。

 うんうん、嬉しそうで良かった。

 仁奈ちゃんもきっと喜ぶだろうし、悪くない。

 

「じゃあ、歯磨きして寝ようか。

 菜々さん、ご馳走様。

 本当に美味しかったよ」

 

 

 布団は四組。

 杏達は六人。

 どうしたって一緒に寝なきゃいけない人がいるなら、

 サイズ的に杏が適任だね。

 

「今度、菜々さん用と乃々用を買うけど、

 今日はしょうがないから一緒に寝よう。

 いい?」

「は、はい、でも、いいんですか。

 森久保となんて」

「なんて、なんて言わないの」

 

 乃々をぐいっと引っ張って、布団に引き倒す。

 四の五の言わずに杏の抱き枕になるがよい。

 

「ひゃ……」

「さぁ、寝るよー」

「はーい」

 

 わさわさと音がして、静まる。

 エアコンの音と、シャンプーの香りが暗闇に滲んでる。

 空気の音がうるさいくらい。

 この寝息は菜々さんかなぁ。

 寝つきいいな。

 きらりも寝つきいいんだよね。

 杏も普段はすぐ寝る方だけど、こんなに早い時間だとね。

 寝ないといけないんだけど……

 

 ……寝れない。

 十時前に寝る事なんてまずないからなぁ。

 仕事で疲れてるせいもあるのかな。

 寝てばっかだった一日の方がよく寝れたりするし。

 

 こしょこしょと話してるのはかな子と智絵里かな?

 まだ寝れてないの杏だけじゃないみたい。

 夜の静かさっていいよね。

 なんか落ち着く。

 こういうとこ、インドア派だからかな。

 

「あんずさん……」

 

 ちいさな、ちいさな声で乃々が杏を呼んだ。

 

「ん?」

「あ、起きてました……?」

「うん、寝れないなーて思ってた」

 

 目を開けて横を向くと、乃々も目を開けて杏の事を伺ってる。

 

「あの……さっき、森久保の布団を買うって……」

「うん」

「……森久保、また来ていいんですか……?

 こんなキラキラした人達の中に……森久保がいて……」

「そりゃ、そうだよ。

 乃々がもう来たくないって思ったなら別だけどさ」

「ち、違います……今日凄く楽しくて……

 嬉しかったんです……みんな優しくて、夢みたいでした」

 

 暗闇の中に浮かぶ乃々の端正な顔はかすかに微笑んでる。

 それにびくびくしてない。

 カモミールの恩恵かな、それとも夜だからなのか、

 一つの布団にいるからなのか、

 ……目が合ったの初めてだな。

 

「私、ずっと杏さん達をテレビで見てたし、ラジオ聞いてました。

 憧れてた人達に囲まれて……優しくしてもらって……」

「乃々……」

「……現実じゃないみたいなんです…………

 森久保がアイドルやる事もですけど……」

 

 左手を乃々の頬に添えてやる。

 すべすべして、ふにふにだ。

 

「もう、乃々は杏達の仲間だよ。

 布団代はもちろん杏が出すから、心配いらないよ。

 だから、乃々はいつ来てもいいから。

 また泊まりにおいで」

「……はい」

「さ、もう寝よう。

 手、握っててあげるから」

 

 布団を被って、中で乃々と手をつなぐ。

 初めはおずおずと握ってきた乃々の手が、

 しばらくするとふっと緩んだ。

 ようやく寝たかな。

 ふぅ……杏も眠くなってきた。

 明日も仕事か…………

 杏は乃々にとって、逃げ出さない理由になれるかな……

 




諸星きらりと小学生組は担当Pが違います
杏が仕事をまわしたというだけです
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