卵焼き、たべりゅ? 私はよく、幼馴染の彼にそんなことを言っていた。別れ離れになるのが決まった時、これからは言うこともないな、と寂しく感じた。その時は深海棲艦の攻撃を受けたなんていう大事じゃなくて、よくあること。父親の仕事の関係での引越しだった。出立の時、彼がくれたのは卵焼き用のフライパン。私くらいの歳の女の子にあげるプレゼントなんかじゃないな、と思いながら、彼らしいわね、とも思った。おかしくて寂しさはなくなってしまっていた。
引越しして何年か経って深海棲艦が現れるようになった。もっとも、だいぶ前から現れるようになっていたらしいけど、政府は混乱を起こさないために発表を遅らせたらしい。海沿いの町が被害にあったというニュースがテレビに映っていた。私は都市の中心地に住んでいたから良かったけれど、引越し前の海沿いの、思い出の場所だったら危なかったかもしれない…。
気付けば、私はパソコンで被害を受けた場所を検索していた。彼が無事であって欲しいと思いながら…。アウト。あの場所も攻撃を受けたようだ…。生存者、ゼロ。私を絶望させる情報が、暗めのディスプレイに映っていた。時々、SNSでのやりとりをしていたんだけれど、引越しするなんてことは一言も言ってなかった。きっと、私に言わずに引越ししたんだ、なんて私自身信じられずに願った。
それから、私の世界はモノクロ写真みたいになってしまった。私は諦めが悪いから、楽しむこともできず、かといって悲しむこともできずに。
そんな私を見かねた両親が、仕事の合間で彼が今どうなっているか調べるのを手伝ってくれたんだけれど、得られた情報はひとつだけ。酷く破壊されすぎて、本当に生存者はいないのかは確認できていないと。希望的観測だけど、本当はどこかで生きていると考えることができて私の世界に少し色が戻った。
この少し後くらいから、深海棲艦に対する戦闘手段である艤装がテレビで紹介されるようになった。その艤装を持って戦う人を艦娘と言うんだって。私も深海棲艦には今苦しめられているから、艦娘になってみたいなんて思った。けど、それじゃ、彼の死を自分で認めるような気がして躊躇われた。
悩む私が偶然見かけたのは、街角の巨大スクリーンに映る軍人らしき人物が演説を行う姿。その姿を見て確信した。彼は生きていたんだって。何年も経って背がだいぶ変わってしまったけど、感じる雰囲気とあの頃の面影を残す童顔は彼以外にありえない!
「今、私たちは今まで通り過ごすことを脅かされています。それだけじゃない。私たちの大事な人たちが明日どうなっているかわからない。どうか、深海棲艦と戦うのに手を貸して欲しい。戦うのではなく、物資の支援でも大歓迎です。手を貸す意思のある方は、我が○○鎮守府へ来てください………」
私は両親と進路相談をするために、意気揚々と家に向かって走った。
どうも瑞鳳さんはご主人様のマブダチ、もしくはそれ以上だったみたいですねー。ま、漣はクールに去るぜ…。
提督、卵焼き、たべりゅ? ああーーー