Vivid Outlaw   作:勇忌煉

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第一章「復活からの就任」
第1話「ヤンキー始動」


 

 

 ――アタシはヤンキーだ。

 

 

 ムカつく奴はぶん殴る。頭はぜってぇ下げない。どんな時でも突っ張り通す。

 

 常に自分の拳で道を切り開き、己の信念を曲げずに貫く。

 

 例え世界中の全てを敵に回そうと、どれだけ裏切られようと関係ない。

 

 どんなに心が折れようと、孤独になろうと立ち止まることはない。

 

 

 それでもアタシは進んでいく。終わりのない道、その先を目指して――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと吸えたぜコノヤロー」

 

 お祝い感覚でボコりまくったゴロツキ共から奪い取ったタバコを一口吸い、煙を吐きながら空を見上げ、降り注ぐ雪を目に焼きつける。

 病院を出てから一時間ほど経ったと思うが、身体にこれといった支障は出ていない。どうやら普通に過ごせる――もといケンカができる程度には回復したようだ。

 しっかしあの人工呼吸器は本当に邪魔だったな。あまりにも邪魔だったんで病院から出る前にリンゴを握り潰す感覚で壊しちまったよ。

 

「後は服だけか……」

 

 ケンカができるという最高の収穫を得られたのはいいが、ここで次の問題として挙げられるのは今のアタシの服装である。

 寝ている間に着せられたであろうこの水色の病衣。意外と窮屈だ。ガキの頃に着た浴衣ほどじゃねえが、結構動きにくい。

 それに加え、靴を確保する時間もなかったから病院のスリッパをそのまま履いている。場違いな病衣と合わさってさらに動きにくい状態なのだ。

 ……とはいえ悩んだところでどうにもならない。考えるよりも身体を動かす方が先決だ。いつ警邏隊に見つかってもおかしくないしな。

 とりあえず人気の多い街中を避け、今いる路地裏の奥へと進んでいく。こんな格好で表に出ようものなら病院へ逆戻り確定だ。

 

「おっと。そういや忘れてたわ」

 

 その途中、服のポケットに手を突っ込みロケットペンダントを取り出す。安物だが病院から持ってきた唯一の品物だったりする。

 

「……チッ」

 

 一応ペンダントの中を確認しようと開け、アタシと金髪幼女のツーショット写真が目に入ったところで思わず舌打ちしてしまう。

 クソが、チラ見なら大丈夫だと思ったアタシがバカだった。わざわざ病院を抜け出してまで距離を置いたのに、これじゃアイツと離れたくないって言ってるようなもんじゃねえか。

 すぐさまペンダントをポケットに仕舞い、気を紛らわすべく左手に持っていたタバコを吸う。

 

「――おっ?」

 

 喫煙自体が久しぶりなのでじっくりと堪能し、ぶはぁーとだらしなく紫煙を吐いた瞬間、殴打によるものであろう鈍い音が耳に入ってきた。

 音の大きさからしてすぐ近くだな。しかも鈍い音に混じって聞き覚えのある声もしたし。アタシがまともな服を着るためにも、これは見に行く必要がありそうだ。

 堪能し終えたタバコを足下に投げ捨て、まだ火が付いているそれを軽く踏んづけてから音がした方へ視線を向ける。

 するとそこには三、四人ほどのゴロツキ共を相手に戯れる、ポニーテール少女の姿があった。

 

「よぉ~し……」

 

 もしかするとこれはチャンスかもしれない。

 そう思ったアタシは助走を付け、気づかれる前にクソガキを踏みつけるピアスの男目掛けてジャンプし――

 

 

「ごばぁっ!?」

 

 

 ――顔面に飛び蹴りをお見舞いした。

 

 

 

「えっ……えぇ?」

 

 ――フーカ・レヴェントンは困惑していた。

 

 自分を踏みつけていたピアスの男がいきなり吹っ飛ばされ、水色の病衣をその身に纏った女性が目の前に現れたことに。

 女性はフーカの存在に気づいていないかの如く、彼女が相手にしていたゴロツキ達を一掃していく。控えめに言ってもシュールである。

 フーカは割り込んできた女性を見て――自分の知っている人物だとすぐに気づいた。

 服の上からでもわかる、スポーツ選手の視点で見れば完璧に引き締められた体。一度見たら簡単には忘れられない、鋭い目付き――

 

「お、緒方さん……!?」

 

 

 ――緒方サツキその人だった。

 

 

 他の不良からは畏怖と尊敬の念を抱かれ、力ある者からは一目置かれ、この世界において最強のヤンキーと名高い“死戦女神”の正体である。

 そんなサツキが二ヶ月前、腹部に風穴を開けられるという重傷を負って入院したのを、フーカは一度たりとも忘れたことがない。

 なのにその入院中であるはずのサツキは今、目の前でスリッパを履いた足で小柄な男に前蹴りを入れ、先ほど飛び蹴りをお見舞いした男の顔面を鷲掴みにして後頭部から地面に叩きつけている。

 おそらく、というか間違いなく力技で病院から脱走したのだろう。どういう目的でそんな無茶をしたのかはわからないが。

 

「ははっ、もう終わりかよ」

 

 と、フーカが考え込んでいたところでゴロツキの集団を片付け終え、つまらなさそうに呟いて痰と一緒に唾を吐くサツキ。

 それにしても病衣とスリッパという、いかにも動きにくそうな格好で平然とケンカができるのはさすがと言ったところか。

 

「よぉレヴェントン。久しぶりだな」

「あっ、はい……」

「時間がねえから単刀直入に言うぞ――」

 

 未だに状況が把握できず、ポカンとした顔でサツキを見上げるフーカ。

 サツキはそんな彼女の頭を鷲掴みにし、強引に立たせる。どうやらフーカが自力で立ち上がるまで待つ気はないようだ。

 そして目が点になっているフーカの顔をジッと見つめ、どこからともなくタバコを取り出し、火の付いたそれを軽く吸って一言。

 

 

「――金、持ってる?」

 

 

 

「えーっと、ここをこうして、ここはこうで……」

「あ、あの……」

 

 十分後。レヴェントンに助けた礼として、彼女が持っていた金で裁縫セットを買ってもらったアタシは、町外れの廃墟で自分の服を縫っていた。

 というのも、アタシが入院する前に着ていた服は店に売っていない、いわゆる非売品だ。だから自力で、それも一から作らなければならない。

 しかし、今回は病院から抜け出して間もないため、素材や道具を買うお金なんて当然持っていないし、その時間も必要になる。

 そこでゴロツキにやられていたレヴェントンを見て、絶好のチャンスだと白羽の矢を立てることにした。全くの偶然だがな。

 

「あ? 今忙しいんだけど」

「な……なして病院から抜け出したんですか?」

 

 やはりそう来るか。絶対に聞かれるとは予想していたが。

 レヴェントンの質問にどう答えようか。アタシは一瞬迷ったが、コイツになら正直に話してもいいと思ったので嘘はつかないことにした。

 

「…………いろいろあったんだよ。いろいろな」

「いろいろ……ですか」

 

 とはいっても何をどう言えば、どこからどこまで言えばいいのかわからなかったので、やむを得ず省くことにした。嘘はつかないとか言っといてこのザマだよクソが。

 しんみりとした雰囲気になったところで服が完成し、一刻も早く着ようと汗で少しべたついている病衣をその場で脱ぎ捨てる。

 ここで露わになるのはアタシの下着姿。自分で言っちゃうのもアレだが、そこらの女よりかは整ったスタイルをしている。

 ――女性らしくない、無駄に引き締まった筋肉も含めて。いつの間に付いたんだか。

 

「わわ……っ!」

 

 当然、まともな感性(多分)のレヴェントンは男性のアレを見たかのように赤面し、両手で真っ赤になった顔を隠す。

 ……いや待て。これがまともな奴の反応なのか? 異性ならわからなくもないが、同性相手にその反応はどうかと思うぞ。

 それでも気になるのか指の隙間からこちらを見つめていたレヴェントンだったが、視線を腹部へ向けたところで驚きの声を上げた。

 

「お、緒方さん。その傷は……」

「傷? ……あぁ」

 

 何故そこまで驚く。そう思って彼女の視線を追うように自分の視線を腹部へ向け、納得した。

 視界に入ったのは傷痕。それも身体中に付いているしょぼいやつとは違う、大きくて生々しい、腰辺りまで届いている刺し傷の痕。

 ……右腕の引っ掻き傷の痕もそうだが、こういうのは魔法で治せないもんなのか? それとも治せないレベルに達しているとか?

 

「気にすんな。もう治ってる……ッ」

 

 アタシは元気だ、と言わんばかりに傷痕をグーで強めに叩いた途端、まるでバチが当たったかのようにズキッとした痛みが走った。

 大口叩いといて弱いところを見せるわけにはいかない。不安そうにこっちを見つめるレヴェントンをスルーし、作製した服を着る。

 

「ふむ……肌触りよし。サイズよし。柔軟性よし。強度よし」

 

 我ながら完璧な服に仕上がっているな。よしよし、こうでなくちゃ。

 続いてジーンズによく似た、それでいてジーンズとは違う素材で作ったズボンと靴を履き、蹴りの素振りでその心地良さを確かめる。

 

「よーしよし、上出来だ。じゃあなレヴェントン、助かったぜ」

「へっ!?」

 

 何を言っているんだこの人は。唖然としたレヴェントンの顔から、そんな感じのメッセージが伝わっている気がしてならない。

 さっきのゴロツキ共から略奪したタバコを一口吸い、とりあえずこの町を出ようと一歩踏み出したところで、

 

「ま、待ってください!」

 

 レヴェントンに声を掛けられた。それも待ったの声を。

 

「……もうお前に用はないんだが」

「緒方さんにはなくとも、わしにはあるんじゃ!」

 

 どこか一歩下がった感じの態度から一変、以前揉めたときに見せた度胸ある態度でこちらを睨みつけるレヴェントン。

 なんかムカついたので一発殴ろう。その答えへたどり着いたアタシが拳を握り込んだ瞬間、彼女の口から信じられない言葉が飛び出した。

 

 

「――お前についていってもよろしいじゃろーかッ!?」

 

 

 アタシについていく。地球でいう広島弁じみたレヴェントンのそれは、標準語で言うところの舎弟になりたい的なものを意味していた。

 真剣な表情のレヴェントンが馬鹿げた要件を言い終えると同時に、アタシは迷うことなく彼女の胸ぐらを両手で掴んだ。

 これにより、図らずともレヴェントンの身体を持ち上げることになったがどうでもいい。体格差あるからこうなるのは必然だしな。

 

「テメエ、それ本気で言ってんのか? アタシについてくるのがどういう意味か、わかって言ってんのかゴラァ!?」

「お……押忍……ッ!!」

 

 念を入れてドスの利いた低い声で確認していくと、レヴェントンは少し苦しそうに顔をしかめながらもしっかりと肯定の意を見せた。

 これ以上やると首を絞めかねないので雑ながらもレヴェントンを解放し、咥えていたタバコを吸って冷静に考え、ゆっくりと口を開く。

 

「……今までお前が積み重ねてきたもん、全部失うくらいの覚悟はいるぞ。それでも発言を撤回する気は?」

「ないです。あるなら最初から言ってません。それに――」

「あァ?」

 

「――これがわしのやり方じゃ。自分がどうすればええか。その答えを見つけたいんです」

 

 ここは譲れないと言わんばかりに拳を握り締め、まっすぐな瞳をアタシに向けるレヴェントン。この感じ、何を言っても無駄らしいな。

 ここまで覚悟決められちゃあ仕方がない。その覚悟が正しいかそうでないかはコイツ自身が一番知っているはずだし。

 

「………………一年だ」

「えっ?」

「一年我慢してやる。それと――」

 

 一旦言葉を句切り、ムカつきのあまり言いたくて堪らなかったことをはっきりと告げる。

 

「――人にモノを頼むときは態度と言葉遣いに気を付けろ」

 

 これでよし。タバコを吸い、彼女の嬉しそうな顔を一瞥して今度こそ町を出るべく歩き始める。

 その途中、最初の進路をミッドチルダ南部に決めたところで後ろを振り向いてみると、レヴェントンがちゃんとついてきていた。

 

 

 

 

 ――ヤンキーと孤児。似て非なる二人の関係はこうして始まった。

 

 

 

 

 

 




 当初は本編の方で投稿していましたが、これ以上話数が多くなるとキリがないのでこちらで投稿することにしました。

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